喜多嶋作品に登場する釣りといえばトロウリングかルアーフィッシングに止めを刺します
コマセ釣などもってのほかです。
氏の趣味がトロウリングということもあってスポーツフィッシングという観点から取り上げられることが多いようです。

日本においてトロウリングはまだまだ一般的ではなく一部のアングラー、熱狂者
(本当はそんな次元ではこの釣には手が出せない)に限られます。
しかし大物釣り(カジキ)という点ではこの釣法の右に出るものはないでしょう。

おらおらマーリンだぞ!!


 トロウリング ―窯猫の悲しきカジキ物語― 

釣りに関して節操のない窯猫、実はトロウリングでマーリンを釣ったことがあります。
某京都の某外大生だったころオーストラリアでチャンスがありました。

(本当はハワイというのがここでは理想なのですが。。。)

学科は違ったんですがとてつもない金持ちの先輩がいて
その親父がチャーターしたボートに同乗させてもらいました。(たぶんみんなも知ってる会社の社長だぞ)
しかしもともとこの親父は釣り好きでもなんでもなくとりあえずオーストラリアに行くんだから
「いっちょトロウリングでもやってみっか!」
という程度で舟をチャーターしてしまった気まぐれ親父です。
まあその気まぐれを実行に移せるというのが金持ちなんですね。
そして金持ちと言うのはたいてい気まぐれです。

窯猫も「ビル・ゲイツ」の耳垢くらいの財があればちょちょいと気まぐれを。。。


息子(先輩)も当然乗り気ではなく親父と2人きりはいやだということで窯猫を誘ったんですね。
ちなみに この時窯猫は悪名高き「ワーホリ」でフラフラしていました。

そんな調子だから

「もし魚は掛かったらお前が上げてくれよ」と先輩。

「そうか、窯猫くんは釣りをやるのか。うんうん、それは頼もしいな」と親父。

おいおい!ただのルアー好きの素人にそれはないだろ!!。



こんなバカチン日本人たちが客にもかかわらず、クルーの機敏さ、真剣さ、真摯な態度には頭が下がりました。
何が何でも釣らせようという気迫が凄いんですね。
舟に乗り込む前にガップリと握手、キャプテンがメンバーの紹介をします。
その間はクルーはにこやかな笑顔ですが直立不動
キャプテン以外と口をきいたのは出航してかなりたってからです。
全員きさくでフレンドリーですがやはり上下関係はあるようでそれぞれの動きがあります。
キャプテン以外に4人のクルーがいてあれこれ忙しそうです。
しかしこんなボート二日チャーターしていくら掛かったんだろう、恐るるべし金持ち。
(しかも二日目、支払い済にもかかわらずキャンセルしやがった。金持ちときた日にゃあ)

「まずファイトするのは誰か?」

先輩と親父が同時に答えます。

「彼だ!!」

やっぱりそうなんですね。

しかしこの時窯猫はひそかに燃えていました。  

今後の己の人生の中でトロウリングをやれるなんてチャンスはそうないだろう。というより今後まずない。
まぐれだろうが何だろうがもしもマーリンを上げることが出来たらこの釣人生に燦然と光り輝く一頁が残せるであろうと。


はっきり言ってやる気マンマンです。

そこでクルーから一通りの説明を受けます。

「ベストを尽くすがまだシーズン初めでそうデカイのは釣れない」

「OK!」

「もし魚がヒットしてもファイトまではすべて俺たちに任せろ」

「OK」

「ファイトに入る時には指示を出すからそれに従え」

「OK?」

「最も重要なのはランディング(取り込み)の時だ。すべて俺たちがやる、お前はいらん事をしてはいけない」

「OK???」

なぁぁんだ。トロウリングでファイトするというのは掛かった魚を寄せてくることなんですね。
窯猫は最初、ヒットしたら己の力で「オルァァァ」とあわせてフッキングし
「オラオラオラ」とやり取りしてアングラーの指示で「ドルァァ」とギャフを打ったりするものと思っていたんですね。
しかし冷静に考えて素人がこれを生業にしているプロ中のプロに指示など出せるはずがありません。

今回、親父が奮発したのか完璧に本気モード(しつこいようだが金持ち)

丸一日かけて最初はリーフの外、そして潮の様子を見ながらリーフの中もやってみようという計画。
もっと本気モードだと船中泊もあるとの事。

トロウリングというのは完全に待ちの釣り、クルー達は結構忙しそうですが我々ははっきり言ってヒマです。
先輩はビール全開、親父は爆睡。。。
これで普通なら釣れませんでしたチャンチャンなんでしょうが
クルーが優秀だったのか(事実後で聞いた話だと地元でも有数のチャーターボートだとのこと)
それとも窯猫に神が舞い降りたのか。

釣れちゃったんですね、しかもマーリンが!

ロッドは3本出していたのですがその1本にヒットしました。
その時のクルー達の冷静できびきびした動きとはうらはらに 日本人3人はただ「大変だぁ」と大騒ぎしていました。
ロッドを支え、窯猫をチェアに座らせハーネスをつけます。
ロッドをセットして

「GO!!!イージィー!!!」

はっきり言ってマーリンの引きは暴力的です
ラインの先にバイクをくくり付けて走り回らせた感じといったら近いかもしれません。
100ポンド近いライン(これは窯猫が普段バス釣りで使っている物の10倍)
これをリールからやすやすと引き出します。。
リールの悲鳴というのをこの時初めて聞きました。
ドラグ調整が完璧なのでラインブレイクは考えませんでしたがアセりました。
ポンピングで「オラオラオラ」と巻き取ったかと思うと次の瞬間、とてつもない勢いでラインが出て行きます。
今までの釣りでこれほど長時間魚とやり取りしたことはありませんでしたというものの
それはあとで分かったことでファイトしている間は時間の感覚なんかないんですね。
気がついたら

「取らせてくれよ、この魚だけは獲らせてくれよ!」

と 呪文のように唱えていました。
これだけの魚になると力と力の綱引き状態になるか思っていたのですが全く違います。
やり取りがギリギリまで続き緊張の連続です。

しかし最後の最後はやはり出る幕はなくクルーがラインを取り、ギャフを打ち船上に引き上げました。
横たわる魚体。

おぉぉぉ!夢にまで見たブルーマーリン!!!

まさかこの手で釣り上げようとは。。。

感動です、全身の毛穴が開ききって力が入りません。

我が人生のまさに珠玉の一滴となりうるブルーマーリン!!!



「ブラックマーリン」



「へっ?」

「ブラックマーリン」クルーが握手を求めてきました。

ちょっと待て。これは「ブルーマーリン」じゃないのか?

「釣りキチ三平」の影響でマーリンといえば=「ブルーマーリン」という公式しか頭になかった窯猫、これにはビックリです。

あとで色々聞いたのですがこの時期釣れるのはブラックマーリンが主でブルーマーリンのシーズンはもう少しあととのこと。
またこの時リーフの中で釣れたのですがリーフ内ではブルーマーリンは釣れないとの事。
それでもマーリンであることに違いはなく計量では150ポンドありました。

実はこのあともう一匹ヒットし、窯猫のファイトを見て沸騰した親父が釣り上げました。


「おおお。わしにもマーリンがぁぁ!」


「セイルフィッシュ」


「へっ?」

「セイルフィッシュ」

おいおいまたかよ、これは「マーリン」ですらないのか。

「セイルフィッシュ!!」きっぱり断言しやがった。

なんかこれはいわゆる「バショウカジキ」のことでけっこうこの時期に釣れるらしい。しかし親父は納得しません。

親父「マーリンだろ!これ?」

「セイルフィッシュ」

あのうせめて「セイルマーリン」という名にしていただけませんか。
それでもクルーは握手を求めます。納得できない顔でどんよりしている親父。。。



「これは暫定マーリンだっ!!」 先輩がおやじを労わりました。



「暫定マーリン」なんとやさしさあふれる言葉、先輩アンタはいい人だっ。

この後港に戻りお約束の記念撮影。

親父も竿に触りもしなかった先輩も窯猫の上げたマーリンと一緒にニッコリ。

「みんなに見せてやるんだ」


しかも後日帰国した窯猫が大学に行くと仲間内であのマーリンは先輩が釣ったことになっていたんですね。

窯猫グウの音も出ません。
親父は親父で写真を引き伸ばしパネルにして社長室の壁にかけ自慢しているらしい。


てめーら!アングラーの風上にも置けねぇ!!!

しかし窯猫写真をもらってないんですよ。だから証拠はありません。

先輩、釣ったのは誰でもいいですから写真をいただけませんか。



男前を目指す窯猫、今あえてこう言います。

あの旅は成就した、完成した、円は完全に閉じた。

しかも珠玉の一匹はこの胸にある。





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