『時を越えて』
緑の鳥を見た。 全身、キレイに緑だった。 私の目の前を通り過ぎて、緑の森に入って、見えなくなった。 そういえば…と、昔、聞いたことがあることを思い出す。 鳥や昆虫は、自分の色と周りを同化させて、自分の身を外敵から守るのだと。 そんなの…。 人間の方がよっぽど上手いのではないか。 自分を周りと上手く同化させて、傷つかないように身を守る…。 これは、ごく自然な事。 石崎 妃菜。 高校1年生。 ごく普通の、女子高生。 現在片思い中。 片思いの相手は、 同じクラスの、島井 健太。 静かで、優しい笑顔を見せたり、優しい言葉をかけてくれる彼は… 『皆の人気者』だ。 よくある話。 これもまた、よくある話だと思うのだが、 彼は、おモテになっており… クラスメイトの聡子も、島井が好きだ。 そして、凄いなぁと、思わされたのは… 彼女は、クラス女子全員にカミングアウトしたのだ。 つまり、 『私は、島井クンが好き』 と、言った。 だから… その裏に込められている言葉。 つまり、 『だから、島井クンには手を出さないでね?』 が、クラスには、浸透しきっていて… 当然の事ながら、誰も告白できないでいる。 私も例外では無い。 席が隣だったとか。 一言喋ったとか。 そんなことでも、一喜一憂。 そんな事でしか、接する機会が無い。 しかし、少しでも多く接して居ようものなら、聡子・そして、回りに、 『聡子が島井クンの事好きって知っててやってるの?』 っていう目で見られる。 島井クンと喋っただけで、何度か、嫌がらせだってされた。 そして… 私は、その時。 恋愛より… 人間関係を選んでしまった。 高校生活… 友達を無くしたくは無いだろう? こんなことでしか、友達なんて出来ない。 最近はそうなのだ。 何千分の1の親友を探すより、40分の何人かの『クラスメイト』…いうなる、『仲間』を探そうでは無いか。 私は、そういう気持ちだった。 誰だって、列からはみ出したくない。 はみ出すのは恐い。 制服だって。 鞄だって。 髪型だって。 化粧のし方だって。 携帯持ってるのだって。 皆一緒だから。 一緒で無いとだめ。 弱いなぁ…。 私。 きっと、私だけじゃない。 皆だってそうじゃないのかな? 私は、島井クンを諦めようと思った。 でも… 諦め切れない気持ちがあって…。 その気持ちはドンドン膨らんでいった。 もう、そろそろ1年生が終わろうとしていた。 2年で同じクラスになれるか分からない…。 告白するのは、今しかない。 もう… 緑の鳥のままじゃ、ダメだよ…。 私…。 さて。 そうやって、意を決して寝たのに… …何かおかしいことが起こっている。 さぁ。 この隣に寝ているのは誰でしょう? 島井クン…?の様に思えますが…。 島井クンにソックリな… どうみても、20代くらいの人。 「島井…くん??なわけないか…」 そう言いながら、そっと、触れてみる。 温かい感触。 夢では…ないような感触。 現実? んなわけはない。 だって、私は、今まで彼氏なんて居なかった。 つまり、こういう関係になるなんて覚えの無い。 それに、この人だって、まったく知らない人だ。 「ん…」 その男は、ノビをした。 そして、パチっと、目を覚ますと、 「おはよう」 と言って微笑んだ。 その微笑みが、島井クンにソックリなんですけど…? 「もしかして…島井クンのお兄さん?」 「はぁ?」 そう言いながら、その男は、口をポッカリとあける。 そして、楽しそうに苦笑すると、 「もしかして、寝ぼけてる?」 と、髪の毛を撫でられる。 「誰が?」 「妃菜が」 「なんでっっっ!?呼び捨てっ!?」 「はぁ…?」 「妃菜〜」 そういって、私より、一回り以上大きい巨体が抱きついてくる。 「うあぁぁぁぁああああ!!!!ちょっ、変態っ!何すんのよ!!?」 そう言うと、その男は、ニッコリ笑って、 「目覚めのキス♪」 と、言うと、顔を近づけてくる。 「いやぁあああああ!!」 グイっと、顔を、手で押す。 すると、男は、いかにも、つくりました〜ってな悲しい目で、こっちを見ると、 「酷い…。妃菜…。俺のこと、嫌いになったのか?」 と、聞いてきた。 「嫌いとか、そういう問題じゃなくて!誰ですか!!?」 「今日は、何の冗談?旦那様に向って」 「…旦那・・……?」 「そう」 「誰が?」 「俺が。島井 健太が」 「島井クン…が!!!???」 「だから、さっきから、なんだよ。『島井クン』って」 「ちょっと、待って…」 私は、そう呟いて、頭を掻くと、ベッドの脇にかけてあったカレンダ〜に目をやる。 『2010年 5月』 2010年〜〜〜〜〜〜〜!!!??? 8年後…? いや。 これは、夢? 夢でしょう? そうよね?? 「さ、今度は、ちゃんと、目覚めなきゃ」 そう言うと、私は、もう1度布団被る。 「おい。妃菜ぁ。朝飯」 と、島井クン。 無視します。 ごめんなさい。 夢の中の、将来の島井クン。 夢に見るほど、そんなに、好きだったのか…。私は。 やはりな…。 そんな事を思う。 「お〜〜い」 うるさいよ。 眠れないじゃない。 現実に戻って。 現実の世界に戻って。 顔洗って。 朝食ほうりこんで。 歯、磨いて。 学校行って。 クラスメイトにまみれながら、生活しなきゃならないのよ!! だから、幸せな夢なんて、見ている場合じゃないの。 「妃菜ってばぁ。仕事。遅刻しちゃうよ〜」 勝手に遅刻でもナンデモしてよっ! どうせ、夢なんだから。 「…………」 お?やっと、静かになった。 「起きないと…どうなるか、分かってるよねぇ?妃菜?」 脅しがかった声が聞こえる。 あぁ、この人。 本当に、島井クン? 少なくとも、私の記憶にある島井クンは、こんなセリフ吐いたりしない。 夢って、その人の脳が作り出してるのよね? 私の脳よ。 間違って記憶してんじゃないわよっ!! 「んっ!!?」 突然、口を塞がれる。 ってか… 思いっきりキスされてますけど…!? 「やぁっ!!ちょっっ…!!んんっ!」 手が、パジャマのズボンの中に入ってくる。 「起きた?」 島井クンは、ニッコリ笑う。 それでも、手は、足を撫でている。 「やだっ…!!」 「え?妃菜…?」 「やだっっ…て…言って…んのにぃい……うっ…くぅ…」 ハジメテなのに。 どうして、こんな展開なのよ!? 私は、ボロボロ、子供みたいに泣き出していた。 「ゴメン。ゴメンって。どうしたんだ?ちょっと、変だぞ?熱でもあるのか?」 そう言って、おでこに手を当ててくる。 「やっ…。触らないで」 私は、その手を取り払った。 「少し熱っぽいかも…な?お前。今日は、ユックリ寝ておけ。 仕事のほうは今は考えるな」 そう言って、優しい笑顔を向けて、 島井クンが部屋(たぶん寝室)から出ていった。 私は、目を閉じる。 おかしい。 こんな夢。あり? 妙に、現実感を帯びた。 というか、人物がハッキリしすぎて。 夢とは思えない。 そして… …眠れやしねぇ…。 しょうがない、とため息をついて、ノソっと、体を起こす。 部屋は、6畳くらいで、さっき寝ていた大きなベッドと、小さなタンスと、鏡があるだけ。 …鏡? 私は、鏡の前まで移動。 「…!?」 なんてこった。 体型こそ、そんなに変わってはないが…。 顔は、高校生のものでは無い。 20代…前半と言ったところか…。 あのとき、2002年3月で16歳だった。 カレンダ〜は、2010年5月だったから。 ―――24歳。 そう言われれば、24歳に見えなくは無い。 「り…リアルすぎだってば…」 私は、小さく呟く。 そして、ふと、タンンスの上に目をやった。 写真立て? 見てみると、幸せそうに笑っている私と島井クン…。 どう見ても、結婚式の写真だ、 「未来…?まさか…」 そう言って、急に寒気がする。 言葉にすることで、急に現実味を帯びてくる。 未来…? おかしいよ。 そんなこと、あり? だって、昨日。 布団には、11時ごろ入って。 いつもみたいに、電気消して。 寝ただけだよ? そんな… テレビドラマやなんかみたいに、 ピカっと光っただの。 宇宙人が来ただの。 なかったわよ? 急に何がどうなって未来!? 私は、そう思うと、近くにあったカバンの中を詮索し出した。 手帳と財布が入っていた。 手帳は、太くて、どう見ても、仕事用って感じのものだった。 ゴクリと、唾を飲み、手帳を開ける。 もし… 本当の未来なら…。 将来、何になってるか分かるんじゃないか? という、小さな好奇心もあった。 『10時 編集部の堺くんに連絡』 「堺くん?」 堺って、島井クンと仲の良い男子と同じ名字だ…。 …まさかね。 また、ペラペラと、めくる。 『23日 〆切り』 と、赤字で書いてあった。 なにこれ? 何の仕事してんの? 特に、やりたいことも無かった私。 それが、24になって、何か仕事をしている。 それは、ただのOLとかでは、なさそうだ。 「編集者?…とかかなぁ…?」 私は頭をひねる。 パタンと、音がした。 ドアの閉まる音。 そして、鍵をかけている音。 たぶん… 島井クンが仕事に出かけたのだろう。 私は、そ〜っと、部屋の扉を開ける。 すると、2階建ての家だと言う事に気付く。 そして、ここは2階。 「へぇえ…。こんな、大きな家に住んでるんだ。凄いな…。私」 変なところに感心してみたり。 トントントンと、1階に下りる。 誰もいない。 静かな家。 1階の大きなリビング。 綺麗に掃除されていて。 高校時代の私の部屋とは、大違い。 テレビを点ける。 『今日の天気は、晴れ。 降水確率は、10%。 傘の心配はありません』 そう言って、ちょっとしたのち。 CMになる。 そのCMには、有名男優さんが出ていた。 それでも、やっぱり、少し老けていた。 「…本当に未来なの?」 自分の置かれている状況が恐くなってきて。 テレビを消す。 ここは、未来には変わりないようだ。 「とりあえず…情報、集めなきゃ」 こんな、未来で…。 と、不安になるより、とりあえず、動こうと決心する。 もしかしたら、何か分かるかもしれないし。 もし、この先、このまま暮らすことになったとして… 私が急に記憶喪失になったとか、言われたら、 病院などに連れて行かれそうだから…。 いや、これ、まじで。 意外と人間って、冷静だわ…。 ノートがあった。 ペンも発見。 とにかく、分かったことを書いて行こう。 「まず、島井クンと結婚してるのよね。私」 思いついて、2階の寝室に走る。 そして、写真の日付を確認。 『2010.2.3』 「結婚3ヶ月か。新婚だったのね…。そりゃ、家もきれいなはずだわ」 そして、2階の寝室の隣の部屋を開ける。 大きな部屋。 大きな本棚に本が詰まっている。 あと、木の机。 その上には、グチャグチャと丸めてある紙。 「なにだろ?」 丸めてある紙を開ける。 それは、原稿用紙だった。 書きかけの。 「?」 本棚に目をやる。 太い本。 そして、文庫本でギッシリ詰まっている。 その中に、 『緑の鳥  石崎 妃菜』 という本。 「…え?」 「な…んで…私の名前なの?」 私は、ビックリして、その本を取る。 ペラペラと、めくる。 字がしきつまっている。 本を閉じて、その本があった場所を見ると、その周りには、 『石崎 妃菜』 と、著者の名前が書いてある本が数冊。 「私…?が…?」 将来…小説家? いや、私は… 小説なんて書いたことも無かったし。 小説家になんてなりたいとも思って居なかった。 それがどうして…? 頭が痛い。 もうっ。 どうなってんの!? 私は、頭を抱えて、フラフラと寝室に戻ると、ベッドに入って眠りについた。 さっきとは、大違いで。 グッスリ眠りに入ってしまっていた。 「妃菜」 名前を呼ぶ声が聞こえる。 「妃菜!妃菜ってば」 眠いのよ! もう、少し寝かせてよぉ…。 「う…う〜〜〜。うるさぁ〜〜〜いぃぃぃ。もう少し」 「妃菜っ。おいっ。起きろよ?晩飯。買ってきたから、一緒に食おうぜ? ほら。もう、熱も無いみたいだし」 男の声? …男の…。 私は、目を開いて、ガバっと、起きあがった。 まさか… 「!?」 「どうした?」 目の前には、ビックリしている、島井クン(24歳)の顔。 はぁ…。 やっぱり、戻って無い。 私は、ガックリ肩を落とした。 「どうしたんだよ?」 「いや…。ちょっと…ね」 「大丈夫か?」 「ん」 私は、そう言うと、頷く。 すると、それを待っていたように、 ぐ〜〜〜〜〜〜〜〜〜 と、お腹の音が派手に鳴った。 「ぷっ」 「なっ!?島井クン!!笑った!?」 「ゴメンゴメン。それより、また、『島井クン』かよ。何の冗談?」 「あはは…。ご、ごめん。け…」 「ん?」 名前で呼ばなきゃ、変に思われる…よね。 私は、そう思うと、 「健太っ!」 と、顔を真っ赤にして叫ぶ。 「どうして、そんな気合入ってんだよ?おかしなヤツ。ほら、行くぞ」 と、島井クンが言うと、島井クンは、私を抱っこした。 「ひゃっ!!?や〜!!降ろして〜」 「い〜じゃん。たまには、こういうのも」 「いや〜〜〜!!」 「こらっ。妃菜っ。暴れんなっ」 「だって…」 「困った奥さんだなぁ」 島井クンが、嬉しそうに苦笑する。 その顔に、ドキドキする。 「なに赤くなってんだよ?熱、上がったか?」 「いえ…」 「そっか?」 「ん」 よく、考えたら、好きな人に愛されてる状態…なんだぁ…。 リビングに行くと、色々、テ〜ブルの上に並んでいる。 そのうち1つを手に取ると、 「あ!武井のシュ〜クリ〜ムもある。どうして、島井ク… 健太、私の好物知ってんの?」 と、言った。 「妃菜…。これでも、7年間。お前とつきあいあるんだぜ? 知ってるの、当たり前だろ?」 「あ、あぁ!!そ、そっか…」 「変なヤツ」 島井クンは苦笑する。 「…ん?7年?8年じゃないの?」 「7年だろ。知り合ったのが、高校2年ときからだから。 まぁ、つきあったのは、高3だったけど」 「え…?」 「どうした?」 「う?ううん…なんでもない」 高校1年の時。 同じクラスだったじゃん。 とも、言えず。 島井クンは、私が1年の時同じクラスだったって、気付いても無かったのか? って、 それも、変じゃない? 高校2年で付き合ってたとして。 島井クンが、1年の時同じクラスだった私の事気付いてなかったとして。 それでも、私は、付き合い出した時に、 『1年の時同じクラスだったじゃん』 とか、言うと思うんですけど? 絶対言うよね? 私は…。 ―――しかし、今、変な事いうと、病院にでも連れて行かれそう。 だって、島井クン。 私のこと、不思議そうな目で見てる。 変な発言しすぎた!? 私…。 普通の事いわなきゃ。 えっと、夫婦の会話…ねぇ。 ドラマとかで…。 やってたの思い出せ。 「ね、ねぇ。健太」 「ん?」 「今日、仕事、どうだった?」 「はぁ?どうだったって、普通。いつも通りだよ。新作の撮影あって」 「え?撮影?」 「言っただろ〜?もう、どうしたんだ? 新作のほら、今度のドラマの撮りがあってさ」 「ドラマぁ?」 「お〜〜〜い?妃菜ぁ?」 島井クンが、手を私の前でヒラヒラさせている。 そして、島井クンは、テレビのチャンネルを変えた。 今…島井クンが…。 テレビの中で、見えたような…。 「あぁ…これ、前撮ったCM。これ、いい感じだろ?」 「え…?あ、あぁ!うん!!」 「おい…。妃菜」 「ん!?」 「シュ〜クリ〜ム押しつぶすなよ…」 「え!?あぁ!!!?私のシュ〜クリ〜ム!!!!」 見ると、手の中で、シュ〜クリ〜ムが無残な姿をさらしている。 こんな時でも。 食べ物のことで、こんなに、悲しくなる自分が、又、悲しい…。 「ぷっ」 「なに、笑ってんのよぉ!!」 「面白すぎ。妃菜」 「う…」 「ほら、飯も食うぞ」 「はい」 「お腹いっぱい〜」 私は、そう言うと、ソファ〜に腰かけた。 分かったこと。 旦那様は、島井クン。 職業は、どうやら、タレントみたいだ。 そして、私。 私は、小説家。 これは、ちょっとくらい休業できそう…。 本気で書けなかったら、やめてもい〜んじゃないかな? 『こっちの世界』 は、楽しい。 不謹慎かもしれないけど。 何もかもが新鮮で。 しかも、島井クンの奥様だなんて。 このまま、こっちで、いるのも、悪く無い。 そんなことを考えていると、島井クンがいつしか隣に越しかけていた。 「ん?どうしたの?」 横を向いた瞬間。 また キスされる。 「んっ…!?」 手が… 手が… 胸等…を触っているんですけど!? 「ちょ!!!け、健太ぁ…!やめて…!?」 わ、忘れてた! 「い・や♪妃菜、締め切りで追われてて、全然、できなかったろ?」 そう言うと、島井クンは、ニヤっと笑う。 …忘れてたよ。 大事なこと。 『夫婦』って、簡単に思ってたけど…。 それって、夜のH…とかもあるんだよね!? しかも… 新婚ですかい…。 「今日は、ちょっと、調子が…」 「もう、悪く無いだろ?もう。それとも、俺とするの、イヤか?」 「そうゆう、訳じゃなくて…」 「じゃぁ、い〜だろ?」 「う…」 先延ばしにしても、同じ? それなら…。 「さぁ、寝室行くかぁ」 「うぁ!?」 また、抱きかかえられてるよ。 私。 島井クンの、 逞しい腕に…。 って… 私、初めてでしょ!? どうやってするの? そりゃ、一応の知識くらいはあるけど。 でも… でもぉおお〜〜〜!? ドサっと、ベッドに降ろされる。 その瞬間、心臓の音が脳みそまで響いてくる。 「ちょ、ちょっと…待ったぁ!」 「ここまで来て何を言う」 「だって、島井クン!」 「だから、『島井クン』ってなんだよ?」 「健太っ…。今日は、やっぱ。ちょっと……んっ!」 また、キス。 頭がおかしくなりそう…。 「無理だって。もう。妃菜、かわいすぎだって。 何もしないで居られるわけ無いだろ?」 島井クンが耳元でささやく。 手が胸を触る。 「んっ!…やぁっっ」 全部が、脳まで一直線に伝わってきて。 心臓が爆発しそうなくらい、早く動いている。 「すっげ〜、ドキドキ言ってる。ここ」 「やっ…。し……健太っ…・」 「妃菜。愛してる…」 卑怯だよ…。 力が抜ける。 ふにゃっと。 その瞬間、見計らった様に、服を脱がされた。 「ちょっ…」 「やぁっ…んっ…」 下着の上を指が動く。 「あっ…んっ!!!やだっ…。だめっ…」 「どうして?気持ちよさそうじゃん」 「あぁっ…!くぅっ……」 変な感覚。 指が入ってる。 わかる。 クチュクチュという水音が余計にそれを実感させた。 凄い…異物感。 でも、嫌じゃない…。 「どうしたの?今日は?」 「んっ…」 「もっと、声だしていいよ?俺しか居ないんだから」 そう言うと、またキスされる。 舌で、口を無理矢理開けられた。 「んふぁ…」 「あっ…んっ!!やあっ……!やんっ…・あっ…!」 声が勝手に出る。 恥ずかしい。 こんなの、私じゃない。 「入れるよ?」 「やっ…ちょっと…」 島井クンが、ぐっと押し入ってくる。 「いたぁっ…!!!」 「うくっ…」 「んっ!!」 「キツ…全部、一気にいくよ?」 「え…?んっくっ!!!くっぁぁあああん!!」 「んっ!!」 いたいし…。 もう、ボロボロ泣けてきて。 私は、顔を手で覆った。 「妃菜…」 「やっ…見ないで…」 「どうして?」 「やだっ…」 「カワイイ…」 島井クンは、そう言うと、涙を舐めとっていく。 そのうち、痛みと共に、違う感情が混ざってきて。 頭の中が、グチャグチャになってくる。 「やぁんっ…。なんか…変…っ健太ぁ…」 「妃菜…。ほら、イっていいよ?」 島井クンはそう言うと、ぐっと突き上げてきた。 「いやぁ…んっ…・。あっ…。んっ!ぁあああっっ!!!」 それから、私は、なにも考えられなくなって。 もう、目の前は、ブラックアウト。 ―――朝。 私は、ベッドから這い出る。 床に立った瞬間、下腹部が痛んだ。 「んっ…つうっ…!!」 と、背後から、ふわっと抱きしめられる。 「おはよ、妃菜」 「う…おはよ」 私は、顔を真っ赤にさせてうつむいた。 「ゴメン。昨日は。無理させて…。 妃菜が、かわいくて、かわいくて…さ」 「う…」 「ハジメテみたいな気持ちになったよ。どうしてだろ?」 …そりゃ、私が始めてだからですよぉ… そう思ったけど。 そうとも言えず…。 「今日も、俺が朝食作ってやっから、もうちょっとしたら、リビングに降りてこいよ」 島井クンは、ソレだけ言うと、 私の頭をポンポンと優しく叩いて、部屋を出ていった。 少し歩くたびに、痛い。 どうしてなの? だって…身体的には Hしてるはずなのに…・。 「いたっ…」 痛むのをこらえて、リビングまで行く。 リビングでは、島井クンが、朝食の準備をしていた。 「あぁ…もう、ダメ…。恥かしすぎて、死にそう…」 顔が合わせられねぇ…。 そうは、思うけど、そんなわけにもいかず…。 私は、下を向いて、リビングに入って椅子に座る。 「ほら、メシ。食えよ」 「い…ただきます」 「どうぞ」 カタンと、音がする。 島井クンは、私の正面に座った…ようだ。 私は、ひたすら、顔を下に下げたまま食べる。 「なぁ、妃菜」 「ん?」 「こっち、向け」 やっぱ、ばれてました? 「…う…」 「妃〜菜〜」 「だって…」 「今更、恥かしがるなよ」 今更って…。 もう!! なんか… すっごい恥かしいこと、平然と言ってません? この人…。 「まぁ、そんなところも、カワイイんだけど…」 と、島井クンは、平然と言ってのける。 私は、また、どんどん、顔が熱くなってくるのを感じていた。 あとは、玄関まで見送り。 本物の、夫婦みたい。 本物だけどね…。 「行ってきます」 「い、行ってらっしゃい」 私は、そう言うと、顔をやっと上げる。 その瞬間、 「んっ!?」 軽いキス。 「じゃ、な。今日も早く帰ってくるから。新作、頑張れよ」 と、島井クンは、手を上げて、行ってしまった…。 「も〜…。どんな新婚生活送ってたのよ…。私は…」 私は、赤くなる顔を押さえて呟く。 プルルルル、プルルル 家の中に電子音が響いた。 「うひゃぁっ!!って、電話…か。これは、とるべき?…よね」 私は、受話器を取って、もしもし、と言おうとしたのに、 『あ〜〜!!妃菜ちゃん!遅い!!今、何時だと思ってるの!?』 と、大声が受話器から聞こえる。 私は、時計を確認すると、 「え…?あ??11時?」 と、言った。 『10時に電話してって言ったのに…。もう…』 「ご…ごめんなさい」 そういえば… すっかり忘れてた…。 『もしかして、できてない?』 「な…なにがですか?」 『次は、とぼけるわけか…。分かった!今から行くからなっ! 鍵開けて待ってろよ!!!』 そう言われたかと思うと、ガシャンと、大きな音が耳を通りぬける。 「ちょ、ちょっとぉ?なに?なんなの?…そして、誰よ?」 それから、10分位して、客は訪れた。 ピンポ〜ン。 「妃菜ぁ!居るのは、分かってんだぞ!おい!」 ドンドンと、扉を叩く音。 「うあっ。ちょっと、大声出さないでよ」 私は、そう言いながら、鍵を開ける。 「開けとけつっただろ?」 そう言って、見覚えの有る顔の人が入ってくる。 「さ…堺クン…?」 「…?堺だよ。当たり前だろ。もう」 まぎれもなく…。 島井クンの友達の堺クンだ。 やはり、こちらも、24歳らしい顔つきをしている。 「…ったく。で?」 「はい?」 「で?どうなんですか!?原稿はっ!」 「原稿…って、あれ…か」 「はい?」 「ちょっと、待っててね」 2階の(たぶん、)仕事部屋に入る。 そして、机の上の原稿を手に取る。 って、これ。 昨日は良く見てなかったけど… 「おいおいおいおいおいおい…。未来の私…。何やってたんだよ」 2行ほど書いてあるだけで…。 あとは、真っ白だ。 …こうなりゃ、謝るしか無いじゃんよ。 私は、1階に降りると、 「ゴメンなさい!まだ、できてなかった…!」 と、手を合わせて下を向く。 「…」 あれ? 何も言ってこない…。 そ〜っと、顔を上げる。 すると、そこには、顔を引きつらせた堺クンが居た。 「…まだ、だって〜〜〜〜!!??」 「ゴメンナサイ」 「ゴメンナサイ、じゃないっ!」 こえ〜よ。 堺クン…。 「大体予想はしてたけど…。で、どれくらい進んでるの?」 「に…2行ほど」 「2行〜〜〜〜!?なめとんのかっ!!」 「ゴメン」 「ゴメンって…。もう、妃菜ちゃん…。いくら、知り合いだからって、仕事とは別だよ。 俺だって、編集部に妃菜ちゃんの原稿持っていかなきゃ…クビになるんだから」 「…クビ!?」 「そう」 うそ…。 そんな…。 私だけの問題じゃ、なかったの? 休むなんて… とんでもない、考えだったのかな…? 「まぁ、うちとしても、妃菜ちゃんが、うちの編集社から本出してくれるから、 助かってるんだけどね…」 「え…?」 「まぁ…もう、あれこれ言ってもしょうがない…」 ふぅ、とため息をつく堺クン。 本当…悪いと思ってる。 だけどね… 「あの…ね?」 「ん?」 「ちょっと…最近、調子悪いの。だから、ちょっと、お休み…したいんだけど…」 「…は?」 あ、堺クンの目が点になってる。 「なに?」 「あの…だから、ちょっと、お休みを…」 「1日とか?」 「いや…1ヶ月ほど…」 「おい…」 「だめ?」 「ダメに決まってるだろっ!!」 「でも…」 「スランプってことだろ?そんなこと、皆あるよ。 ただ、これを職業にしている以上、ちゃんと、書いてもらわないと…」 正論。 だなぁ…。 「妃菜ちゃぁん…。頼むよ…」 と、次は、情けない声を出す。 「う…」 だって。 しょうがないじゃない。 私に何ができるってのよ? バカみたい。 情けないなぁ…。 私。 「俺がイジめてるみたいじゃないかぁっ!泣かないでくれよっ!!」 と、堺クンが、急に慌て出した。 「泣いてませんっ!!」 「泣いてるだろ?…も〜…一体、どうしたんだ?」 そう言うと、服の袖で、ゴシゴシと、涙を拭われる。 「なんでも…ない」 「妃菜ちゃん…。どうした?また…何かあったのか?」 「…また?」 私が聞き返すと、堺君は、口に手を当てて、 「いや…。なんでもない」 と、言った。 とても…気まずそうに…。 「また!?またってなに!?」 私は、堺クンの服を掴む。 「妃菜ちゃん…?」 堺君は、ビックリしたような目で私を見ている。 いけない… あんまり、変な事言っちゃ、だめだ。 私は、そう思うと、パッと、服を離した。 「いや…ゴメン。…とにかく、頑張ってみるよ。 期待には添えられない気がするけど。頑張って書いてみる」 「え…あぁ…」 「でも…それが、良くなかったら、この仕事…やめる」 「えぇ!!??だめだっ!何、考えてるんだよ!!やめるなんて、言うなっ!!」 そう言われて… 肩を持って、ガクガクゆすられる。 「とにかく、今日は、もう、帰る。妃菜ちゃん、調子悪いみたいだし。 編集長には、こっちから、言っておくから」 「え…」 「じゃ、ね」 そう言うと、堺クンは、帰っていった。 「もしもし?あぁ、敏生か。今、撮影中なんだよ。手早くな」 『なぁ。妃菜ちゃん。なにかあったのか?』 「妃菜が…どうかしたのか?」 『急に…これが、書けなかったら、書くのやめるとか言い出して』 「え!?」 『聞いてないのか?』 「え…あぁ…」 『それに、俺のこと、『堺くん』だなんて、言うんだぜ?』 「俺も…急に…昨日の朝かな?『島井くん』とか、言われた」 『なぁ…。そういう風に俺らのこと、呼んだことあったか?妃菜ちゃん』 「……………あったよ…」 『高校一年の時…か』 「あぁ…悪い事しちゃった…。堺くん…大丈夫なのかな?」 私は、仕事部屋にあった、私の本を取り出す。 表紙をめくったところに… 著者のプロフィ〜ルが、載っていた。 『石崎 妃菜 18歳の時『緑の鳥』で、デビュ〜 ベストセラ〜作家として有名』 「18の時?えっらい、若いわね…」 私は、そう言うと、その本を読み始めた。 何冊目の時だろう。 「妃菜っ!!」 と、声がした。 「え?」 部屋を出ると、島井クンが、息を切らして玄関に立っていた。 「どうしたの?島井ク……健太。仕事は…?」 「妃菜っ!ちょっと、話がある」 そう言って、凄い早さで2階まで駆けあがってくる島井くん。 私は、ビックリして、咄嗟に身体を引いた。 「な…なんでょうか?」 「妃菜…」 顔が、真剣なんですけど…。 「はい?」 「…俺のこと、『島井クン』って、高校時代呼んでたか?」 「え…?そりゃ、そうでしょ?」 「やっぱり…」 「え?な、なにが?」 「お前な…俺のこと、『健太』としか呼んでなかった」 「え?」 「ただし、…高校2年からだ」 そう言うと、島井クンは、私の目を見る。 「もしかして…、高校1年のときのこと…思い出した…のか?」 「え…?」 なに? どうゆう…こと…? 「何言ってるの?わ、私…わからないよ…」 「妃菜…。正直に言って。今、記憶しているのは、どんなことだ?どこまで、記憶にある?」 「え…?」 「『島井クン』って、呼んでたのは、高校1年のときだろ」 「…」 「それが、どうして…」 島井クンは、困った顔をして…私を見ている。 私だって… 「わ、私だって分からないなんだもん!!!!」 私は、叫んでいた。 「え?」 「いつもみたいにベッドに入って…寝て。そしたら、ここに居て」 「妃菜?」 「だって、3日前まで、毎日、1年4組の教室に通ってたのに…!!」 あぁ。 もう、なんなの? 「泣くな」 島井クンのやさしい声が聞こえる。 「…え?」 私は、自分がいつのまにか泣いていたことにようやく気付いた。 「…で、落ち着いた?」 「…う、うん」 何か知らんが…。 あのあと、思いっきり… 泣いてしまった…。 「私さぁ…もしかして、タイムスリップして来ちゃったんじゃぁって…思うの」 私は、そう言った。 だって、その可能性が高いって思ってたもん。 私は、真剣にそう思ってたのよ? それなのに… それなのに… 「…ぷっ」 と、島井クンは、笑った。 「な、なんで笑うのよ!?」 「んなわけないだろ?SFかなんかの読みすぎ。今居るのは、正真正銘、本当の妃菜だよ」 「じゃぁ、何…?」 「あのな…、妃菜」 「はい?」 「お前は…高校1年までの一切の記憶をなくして居たんだよ」 「…はぁ?」 「それから、ずっと、高校1年までの記憶がないまま生活していたんだ。 つまり、高校2年から今にいたるまでの記憶でね。3日前までの妃菜はな…」 「…」 「…でも、何故か、今の妃菜は、高校1年までの記憶しかない」 「だから…。次は、高校1年までの記憶のほうがよみがえってきた。 そして、それ以降の記憶が消えた。 こう、思うのが自然じゃないか?」 「そりゃ…そうだけど。それも、信じられない」 「まぁな…」 「ねぇ?島井クンなら知ってるんでしょ?どうして、私は、高校1年までの記憶がなくなってたの?」 「それは…」 島井クンは、ソレだけ言うと、手を口元に持っていった。 「?」 「…俺にも分からない」 「…そ…っか」 本当に? …と、聞きたい気分にかられた。 だけど、聞いてはいけない様に…思えた。 「本当に、1年の記憶までしかないのか?」 「…うん。毎日学校に通ってて。 明日も学校だぁって、普通に夜寝て。 起きたら、横に、大人になった島井クンが寝てるんだもん。 ビックリ」 「お前…。どうして、早く言わないんだよっっっ!!!」 「だって!!!始めは、ただの夢だと思ったの!! それに…未来にタイムスリップしてきてると思ってたから…。 変なこと言うと、病院か何かに連れて行かれると思って…」 「はぁ…。もう…」 島井クンはそう言うと、頭を抱える。 「ご…ごめん」 「謝るのは、こっちだよ。 …SEX…したくなかったろ?すまん…」 「いや…あの…」 …嫌じゃなかったんだけど…。 言ったら、軽蔑する? ねぇ…島井クン…。 「これから、ど〜する?っつても、妃菜…実家ないしな…」 「ん。ここに…居て…いい?」 「ここに居たいなら、居ろ」 島井クンは続けた。 「俺…どっか、他に泊まるとこ探すわ」 「…え?」 「だって、その記憶のままで、一緒に暮らすわけにも行かないだろ? 妃菜、高1ん時、俺のこと、名前くらいは、 知ってるって程度だったんじゃないか?」 「ううん!!そんなことっないっっ!!」 私は、思いっきり首を振っていた。 「知ってた…。よ?…その…好き…だった………から……」 真っ赤になってそう言う。 「うっそ!?」 島井クンは、目を見開いて驚いている。 「ホント…」 次は、手を口元にやる。 「マジで?」 「うん」 私は、頷いた。 「嬉しい〜!!まじで!?」 島井クンが叫ぶ。 本当に嬉しそうな声で…。 「え?」 「俺が、先に好きになって…。はじめて見たときからかな? それで、高2の時から、押しまくって…高3の時に、やっと、OKもらったんだよ。 だから、俺ばっかり好きなんだと…」 そう言った島井クンは、カワイク見えた。 うん。 かわいかったんだ。 私は、つい笑ってしまった。 「あははっ」 「なに笑ってんだよ?」 「えへへ。『時を越えた告白』…だぁ。嬉しい。私も、ずっと、島井くんが好きだったもん」 「妃菜…」 一息おいて…。 私は、 「ねぇ。始まりは、ちょっと、おかしいけど…さ。ここから、もう1回始めていいかな?」 と、言った。 「妃菜さえ良ければ」 島井クンは、そう言って、笑って、手を出す。 私は、島井クンの手を握ると、 「…ヨロシクお願いします」 と、言った。 「くわぁ!!お前、かわいすぎ!まじで!!」 クシャクシャっと、撫でられる。 「もうっ…」 そう言ってみたものの、嬉しくて。 どう、表現していいのか…。 ただ、嬉しくて。 私は、ギュっと、島井クンに抱きついた。 「…ゴメン」 急に島井クンが謝る。 「ん?なに?」 「俺、最低」 「だから、なに?」 私が、島井クンの顔を見上げた瞬間、グイっと、離される。 「え!?」 「だめだ…。俺にひっつくなよ。その…したくなるから!!!」 「私も…」 「え?」 「私も…したい。島井クンと」 「妃菜………いいのか?」 私は、コクンと、頷く。 「く〜〜〜〜!!ほんっと、カワイイっ!」 と、言って、島井クンから、私を抱きしめてきた。 嬉しい。 心地いい。 「もう、止められないからなっ」 そう言うと、島井クンは私を抱き上げた。 「ひゃっ!!」 「…ここから、はじめようね」 私は、ベッドの中でそう呟いた。 「妃菜…。仕事、どうするんだ?」 「あ〜〜…。分からない。でも、書いてみたい気がした。今」 「そっか?」 「うん。書いてみて…。ダメだったら…。やめるよ」 「ま、俺の収入だけで、十分やって行けるから、心配すんな」 「ごめんね?」 「いいって。『夫婦』…だろ?」 「そ…だね。えへへ。ありがと」 私は、そう言うと、笑った。 「妃菜ぁ」 ギュっと、抱きしめられる。 「え!?ちょっと…」 「だから、反則だって。その顔は…キスしたくなる」 「私も、今、すっごく、島井クンとキスしたい」 私が、そう言うと、二人で顔を見合わせて 「んっ」 自然と、キスをしていた。 ―――朝。 「島井クン!朝ご飯っ」 「『健太』って、呼べよ」 「あ、ごめ。け、健太。朝ご飯。食べるよね?下手だけど、構わない?」 「全然、OK」 そう言うと、島井クンは笑う。 私もつられて笑った。 「おいしい」 「そう?良かったぁ」 「ちょっと、これは、こげてるけどな」 そう言って、ちょっと、こげたパンをもつ。 「も〜!しょうがないでしょ!!食べないなら、私が食べるっっっ!!!」 「怒るなよ。これでも、十分美味しいです」 「よし!」 楽しい。 幸せ。 「いってらっしゃい」 「いってきます」 「キス…していい?」 島井クンが、そう聞いてくる。 私は、返事代わりにキスをした。 「いってらっしゃい」 私は、島井クンを見送った後、2階まで階段を上る。 「一気に幸せだぁ〜〜。私。…う〜ん…我ながら、単純!!」 過去に残した未練なんてない。 両親だって、もともといなかったし。 この生活が目の前にあって。 島井クンと一緒に居れて。 凄く幸せ。 だから、私は… 幸せを形にしたい。 文章にしたい。 そう思った。 ―――書こう。 出版に関して… だめだったとしても。 仕事がなくなったとしても。 とりあえず… 書こう。 何かしてないと 毎日がもったいない気がして。 私は、仕事部屋に向った。 何時間かすると、堺くんが部屋に入ってきた。 肩を叩かれるまで気付かなかった私は、相当集中していたのだろう。 「妃菜ちゃん」 「あれ?堺クン。どうやって、入ったの?」 「健太から、鍵借りた。…聞いたよ。妃菜ちゃん…。健太から」 「あ、あぁ…。ごめんね?変なことになって」 「ううん。良かったよ。元気そうだし」 「私ね…とりあえず、書いてみるよ。でも、ダメだと思うの。私には、知識がないから。 でも、書きたくなった。だから、見てみて、ダメだったら、さっと、仕事、きっちゃっていいよ」 「サラっと言うなぁ…。もう」 「えへへ。ゴメン」 「まぁ…今回ばかりはね。でも、妃菜ちゃんの書く話しは何か力があるんだ。 だから、人を引きつけるんだと思う。今の妃菜ちゃんにだって絶対できるよ」 「ありがと。でも、プレッシャ〜かけないでぇ」 「ははっ。これ。ケ〜キ。食べる?」 そう言うと、堺クンは、持って来て居たケ〜キの箱をちらつかせる。 「やった。食べるっっ!!」 「本当に、高校生…だなぁ」 と、苦笑される。 リビングに行き。 ケ〜キと紅茶が並ぶ。 紅茶のいい香りが、部屋全体に漂っている。 「ねぇ。堺くん?」 「ん?」 「あのさ…。未来の…高校2年から23歳までの、私は、どんなだった?」 「ん〜〜〜。おとなしかったよ?うん」 「へぇ?」 「全然、違うね」 「失礼っ」 「ははっ。まぁ、健太はさ、高校1年の時から、『妃菜ちゃん、妃菜ちゃん』うるさかった」 「うそ〜」 「本当。いつも、聞かされてた俺の身にもなってよ〜〜〜」 「あはは」 「『隣の席にカワイイ子が居るんだ!』から、始まって、『妃菜っていう名前なんだって。カワイイなぁ…』とか、 『委員会、妃菜ちゃんと、同じのにしようかな?』とか、『昨日妃菜ちゃんがさぁ〜』の、毎日」 胸がキュ〜っとなる。 そんなに、思っててくれたの? 16歳の私のことも…。 「そっか。嬉しい…。でも、私はさ…。ハジメは、回りの…人間関係に勝てなかった…なぁ」 「へぇ?」 「女子の間でね。『島井クンには、告白してはいけない』って、雰囲気あってさ。 それでも、やっぱ、好きだったなぁ…。 だからね、告白しようと思ったの。1年の最後に。 もう、会えなくなると思って」 「そっか。まぁ、もう、昔のことだよ!!ね?食べよう」 「…うん」 ―――夜。 島井クンが帰ってくる。 私は、島井クンの帰ってきた気配がすると、玄関まで走っていた。 二人の夕食。 「今日ね、堺クンが来たよ?ケ〜キもってきてくれて、一緒に食べたの!」 「なんか、言ってた?」 「とりあえず、待ってくれるって。原稿」 「そっか。良かった」 そう言って、島井クンは笑った。 「ありがと」 「え?」 「島井ク…じゃないや。健太…が言ってくれたんでしょ?」 「あはは。まぁ」 「あと、色々、聞いちゃった♪」 「え…?色々…って?」 そう言うと、島井クンは、表情を変える。 「どうしたの?深刻なカオしちゃって」 「いや」 「健太が、私のこと、ずっと好きだってうるさかったって」 「ははっ…。アイツ」 「嬉しかった」 「そ?」 「うん」 夕食後。 食器を洗いながら、私は、 「あ、そうだ。お風呂入る?わいてるよ」 と、言う。 すると、後から、島井クンが抱きしめてきて、耳元で、 「一緒に入ろっか」 と、言った。 「んえ!!!?」 「嫌…?」 島井クンが、悲しそうな目でこっちを見てくる。 「え…。だって…。えっと…」 「一緒に入りたいなぁ」 と、言うと、笑う。 「う…」 卑怯だよぉ…。 言葉に詰まっていると、 「さ、行こう♪」 と、ズルズル風呂場まで引きずられていった。 「おいで、妃菜」 お風呂の中で島井クンが呼んでいる。 彼には、先に入ってもらった。 「みないでね?」 そう言いながら、入る。 「見るって」 「も〜〜!!!!」 「お邪魔します」 「どうぞ」 チャポンと、浴槽に浸かる。 狭いから、肌が密着する。 後から、島井クンに抱きしめられてる状態。 なんか… すごくHぃかも…。 「綺麗だよ」 そう言いながら、島井クンは、嬉しそうに笑った。 「うぁ…?そうかな?高校のときから、全然変わってないよ…。身体…。胸だって小さいし」 「そんなところも好きなのっ!!」 と、言って、胸を触ってくる。 「ひゃぁっ!!ちょっ…」 「胸だって、小さくないし」 「もぉ…。お風呂ちゃんと入ろうよぉ…」 あとは、背中の流しあいなんてしちゃって。 その時… ふと、 自分の足に目がいく。 「あ…れ?」 「ん?」 「今まで、全然、気付かなかった…。私、こんな所に、傷なんてあった?」 足に、数センチの傷。 高校1年の私は、こんなものなかった。 「え…?あ、あぁ…。20ぐらいの時に、すっ転んでついた傷じゃないか?」 「え〜〜〜!!?そんな、へんな理由で、傷作ったの!?私!?恥かしいぃ!!」 「それより、もう、あがるか」 そう言うと、シャワ〜で、泡を綺麗に落とした。 「ん」 お風呂から上がると、島井クンが、全身をフカフカのバスタオルで拭いてくれる。 髪の毛も、子供みたいに、クシャクシャっと、拭いてくれた。 それだけで、もう、幸せな気分な私は、相当、扱いやすい女だろう。 ベッドの中では、思いっきり、島井クンに寄りそう。 「あったかぁい…。健太」 島井クンは、私を抱き寄せると、 「明日…休みとった。どっか行くか?」 と、言った。 「え!?いいの!!!???」 「そんな、喜ぶなよ」 「え?だってさ。1日中一緒でしょ?」 「あぁ」 「嬉しいなぁ。健太と一緒♪健太と一緒♪」 「あぁ!もう、カワイイやつっ!!」 と、島井クンが痛いくらい抱きしめてくる。 「いたぁい!!」 「…離さない」 「離さないでね」 次の日の朝。 「おはよう」 「おはよ。健太♪」 「ご機嫌だな」 「そりゃ…ね?」 「えへへ。健太、かっこいい。サングラスなんてしちゃって」 「そりゃ、俺だってばれちゃ困るからな」 「そっか。芸能人だもんね…」 「妃菜、どこ行きたい?」 「遊園地!!あのね、初デ〜トは、遊園地って決めてたの」 「そっか。じゃぁ、行くか」 「もう?」 「そうだよ。開園から、閉園まで、遊び倒すぞっ!」 「やった〜!!」 遊園地につくと、まず、定番のジェットコ〜スタ〜に乗る。 そして、次々に絶叫系ばかりを選んで乗っていく。 「次はアレ」 私は、ベンチに座りこんでしまった島井クンの腕を引っ張った。 「ちょい待ち…。どうして、そんな元気なわけ?」 「ん〜?精神年齢は、16だから、かな」 「冗談にならねぇ…」 「あははっ!飲み物でも買ってくるね」 「ありがと」 楽しいな。 遊園地。 きっと、島井クンとだから。 ジュ〜スのコップを持って、走る。 早く、島井クンに届けて。 あの、笑顔を見て。 もっと、いっぱい遊ぶんだ。 「…妃菜ちゃん?」 呼ばれて、反射的に振りかえる。 目の前には、診たことない男の人が立っていた。 「え…?あ、はい」 「楽しそうだね」 「誰…ですか?」 「覚えてない?」 そう言って、笑ったその男の顔を見て。 「や…」 私は、ジュ〜スを落として。 …走っていた。 「やぁっ!!やだっ!!!!!!」 途中でしゃがみこんでしまう。 「妃菜っ!?」 島井クンが走ってくる。 「…っく…。ひっく……」 泣いてるの…? 私…。 「どうした?妃菜!?」 「やだっ!やだっ!!!!」 「妃菜っ!俺だよ!!俺だっ!!」 そう言って、抱きしめられる。 強く。 「島井…クン…?」 顔を上げる。 すると、島井クンが心配そうな顔で私を見ている。 「そうだよ」 「ゴメ…」 「何か…あったのか?」 「…ううん。なんでもない」 私は首を振った。 「どうした?」 島井クンはソレでも、優しい声で聞いてくる。 感情のコントロ〜ルがきかなくなってきたみたい。 急に、足が震える。 「恐い…」 「妃菜…?」 「恐い…よぉ…」 そして、ボロボロと、泣いていた。 それから、島井クンは、私を抱きしめて。 家まで、一緒に帰ってきた。 そして、私をベッドに寝かすと、 「ゆっくり、寝てろ」 と、言った。 「ん…。ごめんね?」 「気にすんな。何か飲むもの持ってくる…」 「ありがと…」 どうしたんだろ? どうして? なにか… 身体が… 脳が… 拒絶反応を起こしたみたいなの。 触れてはいけないもの。 恐い。 ただ、その感情だけが、私の中を支配した。 触れてしまったら… この生活は…終わる。 どうしてか… そう思った…。 考えてもいなかった…。 高校2年から23歳までの私の記憶が、16歳までの私の記憶が出てきたことによって、消えたとしたら…。 その反対も有り得るんじゃないかって…。 このまま、この生活は続くと思ってた。 でも… 違う。 もしかしたら… そのうち…ううん。 明日にでも… 急に、高校2年から23歳までの記憶が戻って、今の私の意識なんて消えてしまうんじゃないかって。 ドクン と、身体の中で、大きな心臓の音。 やだっ…。 消さないで。 私と島井クンの今の記憶。 恐い。 いつか、この記憶が消えてしまうのが。 島井クンといられなくなるのが。 島井クンは、どっちの私が良かった? 高校2年生から、23歳までの私? だって… その期間の私が、一番長く、島井クンと一緒にいたのだから…。 涙が流れる。 私はソレを拭おうとせずに、ただ、流しつづけた。 「妃菜っ!?」 島井クンが、寝室に入ってきて、ビックリした顔でこっちを見ている。 「え…?」 「どうしたんだ…?」 「あ、はは。目にゴ…ミが…さ」 私は、そう言うと、袖で、涙を拭う。 島井クンは、私を痛いくらい抱きしめると、 「もう、嫌だ。苦しんでいる妃菜を見るのは…。嫌だよ」 と、言った。 「…え…?」 「し、島井クン…?」 「妃菜…。ゴメン」 「なに…が?」 「俺が…俺が…あのとき…」 「…島井…クン…?」 それから、島井クンは、何も言わなかった。 私も… 聞いてはいけない気がして…。 聞けなかった…。 ―――書こう。 今ある記憶のうちに。 書こう。 書いて…。 私の記憶がここにあったことを… 残そう。 きっと、18歳の私も、そう思って、書き始めたのではないだろうか…。 ただの、推測だけど…。 でも、何故か、そうだと、強く思った。 私は、次の日から、1日の3分の2以上、デスクに向った。 深夜になっても… 「妃菜?」 「あぁ…健太…」 「どうした?まだ、書いてるのか?」 「うん」 「そっか…。でも、もう、寝ろよ?」 「ごめ…。もうちょっと、書く」 「そっか。身体…壊すなよ。一段落したら、早く寝ろよ?」 「ん。ありがと」 そんな時、島井クンは、ホットミルクなんかを持ってきてくれた。 そんな気使いがたまらなく嬉しかったりした。 「おはよ」 「おはよう」 「健太。ご飯。今日は、和食に挑戦♪」 「ん。おいし」 「そ、良かったぁ」 「今日も、お仕事頑張ってね」 「お前もな」 拳を合わす。 「今日も、頑張っていこ〜!」 私達は笑いあう。 島井クンは、私にキスして、 「栄養補給♪」 と、言うと笑って、仕事に向う。 幸せ。 凄く幸せだよ。 ―――――そうやって、何日かが過ぎ…。 ついに、 「できたぁ…!!!」 原稿が書きあがった。 プルルル…プルルル… 電話が鳴る。 いい具合に電話が。 きっと、堺クンだ。 私は、急いで電話をとる。 「もしもし!!」 『妃菜ちゃんだよね?』 「え…?誰…ですか?」 『遊園地でも会っただろ?俺だよ。俺…』 頭が痛い。 「や…」 気持ち悪い。 『近くまで来てるんだ。また、さ…』 「いやっ!!やぁ!!!」 思い出した。 思い出した。 あの時。 あの日。 私は、島井クンのことが、好きだという気持ちがおさえられなくて…。 緑の鳥のままじゃ…だめだな…と思って。 島井クンを公園に呼んだ。 だけど… 島井クンは、委員会か何かがあって…。 遅くて…。 来たと思ったら、島井クンじゃなくて… …あの男。 待ち合わせが、6時だったこともあって。 公園は真っ暗に近くて。 誰もいなくて…。 男は、刃物を持っていて…。 だから… 無理矢理…。
「妃菜ちゃん…!?」 電話の前で倒れている妃菜を発見したのは、原稿を取りに来た敏生だった。 ―――どうして、あの時俺は遅くなってしまったのだろう。 キミに呼ばれて。 嬉しくて。 1秒でも早く行きたかった。 それなのに…委員会なんかで少し遅れて。 もし、あのとき俺が早く…。 もう少し、早く、行っていれば…。 キミは、苦しむことなんてなかったのに…。 病院のベッドの上で、 彼女は目を覚ました。 「あれ…?健太?どうしたの?ここ、どこ?」 「妃菜…」 「どうしたの?泣いてるの?泣かないで…健太ぁ…」 「妃菜…。妃菜…」 「妃菜…。ゴメンな」 「健太?泣かないでってば…」 「俺があの時…」 「健太…もう、自分を苦しめないで…」 「同情じゃないでしょ?」 「…え?」 「私と結婚したの」 「当たり前」 「だったら、泣かないで…」 「妃菜…?…お前…」 「ん?」 「お前…高校のとき、俺のこと、何て呼んでた?」 「何、言ってんの?出会った時から、ずっと、『健太』って呼んでるじゃん」 「…妃菜は……?」 「私?」 「高校1年までの妃菜は…」 「え?なに??覚えてないよ?私…。高校1年までの記憶は…」 「…え?」 ―――それから、何日かして、妃菜は退院した。 あの男は、再逮捕された。 1度。8年前、逮捕されたのだが…仮釈放になっていたのだ。 仮釈放の身での事件だったので、警察も動いてくれた。 仮釈放で、刑務所から出た後、妃菜のあとを、ずっと追いかけていたらしい。 妃菜に近づき、記憶をもどる前の妃菜は苦しんでいたのだ。 だから、また、記憶が飛んだのではないだろうか…。 妃菜が仕事部屋に入るなり、原稿用紙を手にとって、 「あれ?原稿できてる??私…書いた覚えない…」 と、言った。 「見せてくれる?」 「はい」 その原稿は、 『時を越えて』 と、題されていた。 紛れもなく…16歳の妃菜が書いたもの。 最後のペ〜ジが一番上にきていた。 『彼女は、時空を超えた。 時を越えた告白をしに。 もし、その存在が消えても。 記憶が消えても。 きっと、後悔なんてしない。 時を越えて… 思いは届く』 勝手に涙が出てきた。 「どうしたの?泣いてるの!?」 「ごめ…妃菜」 「大丈夫。私は、ここに居るよ」 抱きしめられる。 その体温に安心する。 ―――数ヶ月後。 『時を越えて』 と題された本が店頭に並んだ。 「あ〜。コレ。石崎 妃菜の新作じゃん」 「もう、読んだよ。私」 「どうだった?」 「ん〜〜。なんかねぇ。読んでて…幸せな気分が伝わってきた」 「なんだ、そりゃ…」 「ほんと、そうなのよ〜!書いてる人が、幸せじゃなかったら、あの文章は書けないよ。まぁ、読んでみな」 「じゃぁ、貸して♪」 「も〜!しょうがないなぁ………」 「やった。ありがと。やっぱ、幸せは分け合わなきゃなぁ」 「調子いいヤツ…」 おわり