クロスレビュー企画  「もえたん 萌える探偵小説」

 第1回お題その1
   『戦う少女と残酷な少年』 深見真 (富士見ミステリー文庫)

2000年12月にライトノベル・ミステリの専門レーベルとして富士見ミステリー文庫が創刊され、同時に募集が始まったのが富士見ヤングミステリー大賞。 その栄えある第1回でいきなり<大賞>を受賞したのがこの作品。
主人公は格闘技と武術が大好きな女子高生。彼女が所属する空手部の合宿中に殺人事件が発生する。それは”完璧な密室での殺人”であった!?

   秋山真琴@雲上回廊

  『好奇心に殺されてきた猫は、殺意に敏感である』

 本書において格闘技はツールに過ぎないの一言で片付けられている。探偵役は平然 と、格闘知識を推理に持ちこみ、現実的な思考から飛躍し、密室トリックを看破し、 犯人に至る。それは従来の――トリックさえ思いつけば誰でも実現可能で、誰でも推 理可能な――ミステリには見られなかったものであり、ロジックを拳で矯正するよう な、荒技にして豪快な挑戦状である。
 正に、既存作品に対し挑発的な、ライトノベルというジャンルに相応しい――傑作。

『ゆえに、格闘家に殺されないためには猫といろ』

   NAO@エッグ・スタンド

どうなんだろうね、これ。散々期待させておいてあのトリックはないでしょう。 『私、1つだけ完全な密室殺人を知ってるの。 絶対に普通の人間には真似できない、小細工抜きの、この世にただ一つの密室殺人をね』 って、なんだそりゃって感じです。 無理にミステリーにすることなく、素直に格闘ものにすればよかったのではないと思います。 作者は格闘に関することについては造詣が深そうだし。
バカミスとして笑える人もいるかもしれませんが、私は無理でした。

   NITRO@ジェット機・リー

格闘技とミステリ、この二つを題材にして書くというチャレンジ精神は素晴らしいと思いますが、 如何せんどっちつかずになってしまってるのが残念。 個人的にはもう少しどっちかに偏らせた方が面白くなったと思います。 「完全な密室殺人」と大見得切ってますが、さすがにこれは反則っぽいかな。 確かに途中でヒントもちりばめられてるしアンフェアでもないんですけど…。 まあ、前代未聞ではあります。大技です。大技つーか、かめはめ波です。 個人的にはこのシリーズをしばらく追っかけてみようとは思いますが、あんましオススメはできないなー。

イラストは好みじゃないし、萌えキャラも特に。しいていうなら作中に出てくる猫くらいか。

   キセン@D4D

トリックを眼にした瞬間に腰が砕ける。粉砕。唐突な展開。強引。無茶。勘弁して下さい。 ああ、しかし、俺はしかし、嫌いになれない。虜。嘘。 そうだろうか。よくわからないああよくわからない俺は好きなのか嫌いなのかそれもわからない。 ごめんなさいぐだぐだで。ところで、殊能将之の某作とそっくりなシーンがあって笑える。

   近田鳶迩@ざ・ねば〜・えんでぃんぐ・みすてり〜

「肉体は最後の武器だ!」

本格ミステリ史上に燦然のと輝く仰天トリックが、またひとつ誕生しました。 空手部の合宿で起きた密室事件がメインとなるわけですが、これと同じことを普通のミステリでやったら袋叩き間違いなしです。 しかしながら、作者は富士見ミステリー文庫という土壌をしっかりと理解した上で、それを完璧に利用してみせました。 魅力に欠ける登場人物、どこかで聞いたことのある使い古された思想などマイナス点も多いんですが、 アイデア賞だけでこれくらいはあるでしょう。実は結構錬られた奇作。

   リッパー@Unlocked Room

ミステリ:7点、キャラクタ:4点、ストーリー:4点、イラスト:6点 レズビアンで-1点

わたしの勉強が足りないだけなら申し訳ないが、ミステリと格闘技が密接に結びついた作品など寡聞にして知らない。 完璧な密室? …え? ま、まさか、そんな。…それはいくらなんでも。 うーわー、まじか! マジデスカ。そのトリックを本格ミステリに仕立てるなんて、あーりーえーなーいー。
まさに前代未聞で衝撃のトリック。唖然、呆然、愕然。 やったもん勝ちなトンデモ・ミステリではあるのだけど、これは一読の価値はあるかもしれない。
しかしながら、ミステリ以外の部分がちっとも面白くないのじゃよ。 ヒロインの格闘技やってる動機もなんだかなあ…だし、眼鏡の男の子も結局あれでは感情移入のしようがないわけで、 ライトノベルとしては駄目駄目ちゃんな作品なのでありました。

平均 5.2


 第1回お題その2
   『平井骸惚此中ニ有リ』 田代裕彦 (富士見ミステリー文庫)

第1回の『戦う少女と残酷な少年』に続き、第3回富士見ヤングミステリー大賞にて<大賞>受賞作となった時代ミステリ。
舞台は大正の世。探偵小説に惚れこんだ河上太一は平井骸惚先生の押しかけ弟子になる。 平井家の娘たちとの仲などにてんやわんやの川上君であったが、自殺したと思われていた知り合いの死を骸惚先生が殺人だなどと言い始めてしまい…

   秋山真琴@雲上回廊

『いやはや、ご苦労なことだねぇ』

 驚いて顔を上げる秋山君。振り向けばそこに立っていたのは、探偵作家の骸惚先生。 いったい、何処より現れたのか。目を丸くしている秋山君の手前、骸惚先生は飄々と座り込むと、 懐からヒョイと煙草を取り出しまして、一服し始めたのでございます。
 それを見た秋山君もつられて一本、煙草を出して、
「これは先生、いらっしゃい。ちょうど今、先生のご活躍をしたためていたところなンです。 良かったら一言、お願いしますよ」
 紫煙を吐く秋山君をしり目に、骸惚先生は嫌そうに目を細めまして、静かにこう言いなさった。

『平井骸惚此中ニ有リ』

   NITRO@ジェット機・リー

僕はリズムよくサクサクと読めたのですが、地の文体が講談調なのが読み手を選びそう。 トリックは分からなくても犯人がモロバレなのはミステリとして致命的な気もしますが、 動機についての記述は面白かった。 事件を閉じてからの物語の閉じ方が後味よく纏められているのは、 ライトノベル・ミステリらしくて好感が持てますね。 驚きもなく全体的こじんまりとはしてますが、良作。あっさり醤油味ですね。

イラストはわりと好きなタッチでした。香月緋音に87萌え。

   キセン@D4D

物足りない感もあるけれど、基本的に面白く読めた。 講談調――つか物集高音風の文章にこじんまりとしているけれど きちんとした本格としてのフレームを乗せて、濃すぎないライトノベル風味を足した佳作。 うむ。良い。ただ物語の導入にやや頁数がかかっているので、事件が起こってから解決までがあっけなく終わる印象。 退屈でないから良いのだけど。もうちょっと長いのが読みたいと思う。 次作に期待、とお決まりの台詞を。

   近田鳶迩@ざ・ねば〜・えんでぃんぐ・みすてり〜

「はいはいはい♪ はいからさんが通る〜」

三人称の地の文に講談調を持ってきた珍しい作品。 明治や大正を舞台にしたミステリというと、言い回しやら何やらにどうしても古びたところがあって、 どうにも読みにくいという印象があったのですが、本書は例外。 「読む」というよりも「聞く」という感覚で、とにかく内容がサクサクと頭に入ってくる。 登場人物たちも配置バランスも絶妙で、ヒロイン・涼嬢の我の強さと愛らしいには思わずニヤけてしまいました。 ミステリとしては比較的オーソドックスですが、光るポイントもそれなりにあり。良作です。

   リッパー@Unlocked Room

ミステリ:4点、キャラクタ:7点、ストーリー:6点、イラスト:7点 講談調の文体で+3点

ミステリとしての謎解き部分はちょっと小粒にすぎるけども、大正浪漫の雰囲気作りや探偵小説としての形式はそれなりに整っていて良し。 講談調の文体も軽妙でリズムよく楽しく読める。 主人公・河上君のお調子者ぶりも好感がもてるし、平井家の姉妹はかわいいし、キャラクタの魅力はなかなかのもの。 イラストも結構好きかも。骸惚先生カコイイ。
ライトノベル・ミステリでこういう雰囲気の作品が出てきたというところは高く買いたい。

平均 7.0


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