クロスレビュー企画  「もえたん 萌える探偵小説」

 番外編・第1回
   『青の炎』 貴志祐介 (角川文庫)

 母と妹と秀一、三人の平穏な暮らしは一人の男によって崩れ去りつつあった。 無断で家に居座り、金を無心し、酒びたりの日々をおくる、かつての母の再婚相手・曾根。 力ではかなわない。法律も、世間の誰をも助けてはくれないことを悟った秀一は、家族を守るために殺人を決意する。  「mix deepest」との合同課題本。

   NAO@エッグ・スタンド

 『青の炎』は間違いなく傑作である。 私が長編の倒叙推理小説というものを読んだのはこれがはじめてだが、その魅力を十分に堪能できた。 ……恐らくこれを完成させるために作者は相当苦労したことだろう。 緻密な構成で土台をしっかりさせ、主人公の苦悩などの心情を丁寧に描写し、 殺害方法、またそれに至るまでの仮定を丹念に描き、小説として完成度の高いものにしている。 『青の炎』は某文学賞の候補作にあがりながらも数人の選考委員にボロクソに言われて落選した。 だが、私は十分に受賞に値する作品だと確信している。
 さて、テーマの「萌えとミステリの融合と乖離」であるが、この作品とどう結びつけていいのかわからない。 しかし、これだけは言える。 『青の炎』は「萌え」と「ミステリ」を反発を起こさぬように、巧く「物語」の中に潜り込ませている、と。
 ところで、私はDVDで映画の方も見たのだが、なかなか出来がよかったし、二宮和也の演技も上手だった。 彼は確かに「一人で世界と闘っている少年」を演じきっていた。

   菊地@SNOW ILLUSION

 典型的な倒叙ミステリ。 私欲のためじゃなく、家族のために殺人を決意するという、ある種の切なさがある作品。 主人公が殺人を犯すまでの葛藤や感情の揺れ動き、計画の過程が丁寧に描かれている点には好感が持てる。 ただ、主人公の近視眼的な傾向が鼻に付く。 人を殺す決意や最後の決断など「もうこれしかない」「きっとこうなる」という思い込みが激し過ぎる気がした。 特に自分から破滅に邁進するような、後半の投げやりな感じは好きになれない。 変に達観しないで、情けないぐらい必死になって「日常」にしがみつく方が人間臭くて好きになれる。 そういった主人公の造形面でディテールに不満があるものの、まあ優等生的な作品には仕上がってると思う。 ただし、展開が素直過ぎるくらい素直で、描写もかなり淡々としてるので全体的に盛り上がりに欠ける。 山場という山場が無い。
この作品の、儚く消えてゆくような夏のイメージは好きなんですけどね。 

   リッパー@鍵の壊れた部屋で見る夢

 とても読みやすいし、多くの人に良い評価を得られるであろう作品だとは思うものの、わたしには合わなかった。 主人公を殺人という行為にかりたてる悪意。若さゆえの過ち。 取り返しのつかない焦燥感と喪失感。じわじわと追いつめられていく状況。 倒叙ミステリという形式のゆえ、破滅的なラストが最後に待っていることを確信できるだけに、読んでる間いたたまれなくてしょうがない。 そういうのが楽しさに転化する作品もあったりするんだけど、「青の炎」は気が重くなるだけでした。 ヒロインの健気さなんかもやけにうざったい。 もし、クロスレビューの課題本じゃなければ、勘弁してくださいと途中で本を投げ出したかも。
 用意周到な殺人計画についてはそれなりに読みごたえあり。 普通にミステリ短篇のトリックとして使ってもよいのではないかいう緻密さ。 本格好きとしてはそのへんを前面に押し出した作品作りをしてくれた方が嬉しいんだけど、 貴志祐介ファンからみた作品の魅力ってそこにはないんだろうなあ。
 それから、女性キャラの作り方に某エロゲーの影響が見てとれるという点について。 確かに一部それっぽい記号はあると超納得。 「うぐぅ、最悪よう」という台詞には一瞬目を疑いましたよ。どうせなら、たいやき(略。母に「了承」と言わ(略。 でも、これだけで「青の炎」を萌えミステリとして語るにはちょっと無理があるんじゃないかなあと思った次第。

平均 6.7




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