番外編競作 禁じられた言葉 参加作品 / 注意事項なし

ドリーミングガール 番外編

言えない言葉

written by 宇蓮間ショージ
 窓から見える景色はきれいな青空だった。雲一つない。絶好のピクニック日和だろう。ピクニックに行く予定があるのならば、だけど。
 窓の外を眺めていたシルファーはのんびりと食後のお茶をすすった。昼食を食べ終えたばかりなので今は少し機嫌がいい。
 対して、隣に座る幼なじみのシードは少し不満そうな顔だった。食事中に彼のパスタを盗み食いしたことを怒っているらしい。シルファーは笑みを浮かべながらため息をついた。
「いつもはあたしのを横から奪って食べるんだからたまにはいいでしょ。自業自得じゃない」
 シードは無言のまま前を見つめている。聞こえなかったのだろうか。いや、少し頬が引きつっているから、どうやら聞こえないふりをしているらしい。ふてぶてしいったらありゃしない。
「ちょっとー、聞いてるの」
 横からイスをガシガシと足で揺らしていると、正面に座るミールがクスクスと笑った。
「なによお母さん」
 ミールはすぐには答えない。笑いが収まるのを待ってからゆっくりと口を開いた。
「そうね。シルファーはもう少しくらい素直になってもいいのにねと思って」
「……お母さんそれはどういう意味」
 ミールはフフフと笑うだけで答えない。
「私の口からは言わないでおくわ」
「まあ、あたしはいつでも素直に行動してるけど」
「食欲に関しては特にな」
 シードがげんなりと口をはさむ。
 ちなみに彼の家は隣である。色々事情があって、食事は三人でとることになっている。
「おっと、そろそろ仕事に行くか」
 飲みかけていたお茶を一気に飲み干してシードが立ち上がった。
 村では十五をこえた者は全員なんらかの仕事を任される。シードは警備隊の所属だ。
「まあ、適当にがんばってきてね」
 ひらひらと手を振る。
 シードは背後に立てかけてあった剣を取ると、片手を上げて答えながら出ていった。
 その背が消えたのを確認してミールが腰を上げる。
「さてと、邪魔者も消えたことだし、いい物を見せてあげようかしら。そろそろ出来てるころだろうし」
 そう言って台所に消えていく。いきなり一体なんだろう、とシルファーが内心首を傾げていると、ミールはすぐに戻ってきた。ナフキンをかぶせた小ぶりのカゴを抱えている。
「なにそれお母さん」
「それは見てのお楽しみよ。ほら」
 ナフキンを持ち上げてシルファーに見せる。ほのかな甘い香りがのぞきこもうとしたシルファーの鼻をくすぐった。
「クッキーだ」
 狐色の焦げ目がついた柔らかそうなお菓子が六つ、皿の上に並べられていた。
「たまにはこういうのを作ってみるのもいいかなと思って、ちょっと作ってみたのよ」
「へえー、お母さんこういう特技もあったんだ」
 シルファーはただただ感心する。
「一人三つね」
 ミールが一つをかじると、驚いたように手の中のお菓子を見つめた。
「……まあ、我ながらすごい美味しいわ」
「そこまで自画自賛をためらわないのも珍しいよね」
 しかし、つまりはそれだけ美味しいということでもある。シルファーもはやる気持ちを押さえられずに手を伸ばしたが、ふと用事があったのを思い出してしまった。
「やば、そういえば村長様に呼ばれてるんだった。早く行かないと怒られちゃう」
「あら、そう。……村長様になにか用事があるの」
「あ、うん。ちょっとその、野暮用が」
 曖昧にうなずきながらなるべく自然に部屋を出ようとしたのだが、すぐにその手をつかまれた。
「なにしに行くのかしら」
 にこやかな声なのに目が笑ってない。シルファーは思わずたじろぎ、嘘をつくのも忘れてしまった。
「うん、ちょっと、始末書を」
 言ってから、しまった、と思ったけどミールにそれほど怒った様子はなかった。もしかしたら、薄々は感付いていたのかもしれない。
「三枚目ね。……今度は何をしたの」
 どうやら呆れたらしい。でも、これなら助かるかもしれない。
「あ、始末書っていってもそんな大したことしたわけじゃないの」
 シルファーは努めて明るく笑った。祈るような気持ちをこめて。
「倉庫の備品を勝手に全部捨てちゃっただけだから」
 願いもむなしくミールの顔は引きつり、それから三十分あまり説教をくらうことになった。

 逃げるようにして出ていったシルファーを、ミールはため息混じりで見送った。
 親のひいき目を差し引いてもかわいくて、明るくて、たぶんいい子なのに、なぜああも茶目っ気が多いというか、色々騒ぎを起こすのだろうか。普通の女の子なら倉庫の備品を全部捨てたりとかそんなことはきっとしないのだろう。一体誰に似たんだか。ミールは二度目のため息をつく。
 それにしても、とミールは視線を落とした。
 もしかしたらこの状況はチャンスなのかもしれない。一時はごまかそうかとも思ったのだが、出来の悪い物はやはり見つかる前に処分するのが一番なのである。
 今ならおそらくバレない。どうとでもごまかす事が出来るだろう。
 思い立ったが吉日である。ミールは早速行動を開始した。


 シルファーは急いで村長家へ駆け込んだ。
 ミールに説教されたせいでだいぶ遅れてしまったが、村長のジルバムは特に怒っている様子ではなかった。もっとも、怒っていたとしても喜んでいたとしても同じ表情をするに違いないのだが。年の割にしわの多い顔をさらに渋面にして始末書のページをめくっていた。
「これで三度目か。反省文を読む限りでは懲りたように思えるのだが」
「はい、ずいぶんと慣れ……いえ、なんでもありません。もうしないと反省しています」
 しおらしい顔を作って頭を下げる。
「まあいい。どうせあの倉庫はもう使っていないからな。遅かれ早かれ処分しただろう。ラクネルに事前に許可を取っていなかっただけのことだ」
 そのためにずいぶんと怒られたのだが。
 ジルバムはめくったページを元に戻して始末書を置いた。
「ところで、資料を読んだ限りではとても一人で出来たとは思えないのだが」
 ギクリとした。
 なんとか感情を制して、そうですか?、などと首を傾げて見せる。
 ジルバムにはまったく通用しなかったが。
「ガルザスとレイアが一緒にいたようだな。どちらと組んでやったことだ? それとも三人でか」
 本当の事を言えばレイアとガルザスの二人がやったことであり、そのあいだシルファーは眠っていただけである。
「い、いいえ。私一人でです」
 ジルバムはもう一度始末書を手に取った。
「古びたシャベル十数本、穴の開いたバケツ十数個、泥にまみれた古着数十着、それに木製三段棚六個」
 すらすらと読み上げる。シルファーは内心冷や汗ダラダラだった。
「ずいぶんな量だな。これ全部をシルファー一人で片付けた、というのか」
 そんなの無理に決まっているけど、いまさらうなずくしかない。
「そうです。大変でした」
 ジルバムがじっとシルファーを見つめてきた。鋭い圧力に思わず視線をそらしてしまう。すぐ目線を元に戻したが、ジルバムの視線はすでに始末書に上に戻り、なにかを書き足していた。
「あ、あの」
 声をかけても反応しない。それでも黙ってしまうわけにはいかなかった。
「あの、本当なんです。一回で運ぶのは無理でも、何回かに分けて運んでみると意外といけるもんなんですよ」
 始末書に落とされていた視線がふと上がった。再び貫いてくる鋭い視線を、今度は真正面から受け止める。数十秒か、数十分か、しばらく見つめあったあと、不意に視線の圧力が和らいだ。思わず、どっとため息がもれる。ジルバムを見ると、先ほどと変わらぬ様子でなにかを書き続けていた。
 シルファーは不安になって声をかけようとしたが、その前にジルバムの手が止まった。
「先日、シルファーとレイアの両名は西南の倉庫の整理を命じられ、真面目に整理をするレイア、ガルザスとは対象的にシルファーはいたずら目的で備品を持ち出し、破棄した。そうだな」
 事務的な口調で告げる。
「はいっ」
 シルファーは強くうなずいた。ジルバムもかすかに笑った、そんなように見えた。気のせいだろうけど。
「あ、でも、別にいたずら目的とかじゃなくて、よかれと思ってやったというか悪気があったわけじゃないというか……やっぱりなんでもないです」
 また貫いてきた視線に首を振る。
「それでは失礼します」
 頭を下げて家を辞そうとしたところで、ジルバムが引きとめた。
「これは始末書の件とは関係ないことだが」
 そう前置きする。
「昨日シルファーの夢を見た。たわいもないものといえばそうだがな」
 シルファーは身を固くした。
 ――ジルバムがシルファーの夢を見た。
 もちろんただの夢であるはずがない。ジルバムは「予知夢」を見る。その力で何度も村の危機を予知し、防いできた。その夢にシルファーが現れたという。
 立ち上がった姿勢のまま動けなかった。ジルバムはかすかにうなずいて口を開く。
「今日の夕方、お前はだまされたと気付く」
 だまされる?
「だから注意しておけ。そうすればだまされないで済むかもしれん」
 予知夢は絶対だ。見た事は必ず起きる。だが、それはなんの対策も立てなかったらの話だ。彼の見る「未来」は変えることが出来る。
「夕方に気付くということは今日だまされるということですか」
「それは分からない。あるいは、すでにだまされているのかもしれん。そうなるともうどうしようもないがな」
「……そのときあたしの様子は、どんなでしたか」
「怒っていたな」
 そりゃだまされたと分かれば怒るだろう。
 いくつか過去の記憶をたどってみたが、だまされたと思える事はなにもなかった。
「それと、シードの夢も見た」
 シルファーは内心ビクリとする。自分の時よりも驚いてしまった。
「いつなのかは分からないか、遠くないうちに追いかけられ倒される事となる。胸に覚えがあるなら気をつけることだ」
「あ、はい」
 なんか自分に言われている気がしたのでついうなずいてしまう。
「それだけだ」
 そう告げるとさっさと背を向けて次の書類を取り出した。
 祭も近いこの時期の村長様は多忙である。それなのにシルファーのために時間を割いてくれたのだ。シルファーはその小柄な背に向かってもう一度頭を下げた。


 村長様の家を出てしばらくは告げられた夢のことが頭を離れなかったのだが、それも時間の問題だった。
 自分の家に近づくたびにそんなものは頭から消え去り、代わりに自分を待つ焼きたてのクッキーが膨れ上がった。甘く美味しいクッキーに頬も緩んでいく。
 自然と足取りも軽くなる。
「たっだいまー」
 元気よくリビングに入ると遠くから、おかえりー、と声がした。どうやらミールは台所にいるらしい。
「クッキーはテーブルの上に残してあるわよ」
 言われた通りテーブルの上にはハンカチをかぶせたままの皿が置かれている。シルファーは期待に胸が躍るのを抑えきれずに手を伸ばした。
 待ちわびたせいか胸が高鳴る。ドキドキと緊張している自分に気付いて苦笑した。
 なにをクッキーごときで。
 でも、やっぱりされどクッキーなのだ。待つのももどかしくナフキンを取り払う。
「さあおまたせあたしのクッキ――」
 喜びは二秒と保たなかった。
 振り上げた腕が途中で止まる。
 ナフキンを取り上げ、視界に飛び込んできたのは、なんにも乗っていない憎らしいほどに真っ白なお皿だった。
 それ以上にシルファーの頭が真っ白になった。
 取りあえずナフキンを元通りにかぶせてみる。
「えーと、ちょっと待ってよ。これはどういうことなの」
 少し考えて、かぶせたナフキンを少しめくって見て、もう一度考えて、それからやっと理解できた。
「ちょっとおかーさんクッキーないよ!」
「えー、そんなことないわよ。わたしはちゃんと三つ残したわよ」
「じゃあなんでないのよ」
「さあ……。わたしはここでずっと夕食の準備をしていたから」
「……まさか、その隙に誰かが」
「わざわざ忍び込んで食べる人なんて――」
 そこでミールが、あ、と声を上げた。
「そういえば、少し前にシードが帰ってきたわよ。シルファーいないかって聞くから、今はいないけどもうすぐ帰ってくるって答えたら、ありがとうって言ってどっか行っちゃったけど。何の用か聞くのを忘れてたわ――」
 ミールの言葉もそれ以上入ってこなかった。頭の中では今の言葉を繰り返している。
 シルファーの目は自然と空の皿に移った。
 すべてのことが一つに結びつく。
 ――復讐。昼飯を食べられた腹いせに奪ったのだ。
 今ごろ彼はこの村のどこかに隠れて美味しい美味しいクッキーを独り占めしているに違いない。勝利の味を噛みしめているに違いない。絶対。
 無性に腹が立ってきた。
「絶対とっ捕まえてやる!」
「ほんと、仲がいいわねえ」
 叫んだのが聞こえたのかミールが台所で笑い声を上げる。そんなのは無視してシルファーは一目散に家を飛び出した。


 村の北側半分には、端から端まで埋め尽くす結構広い果樹の森が広がっていて、その中に一本だけ突き抜けるように高い樹がある。「神木」と呼ばれるそれは村のシンボルの一つで人もよく集まるのだが、シルファーはそことは反対側へ、北西へと進んだ。
 たぶんそこにシードはいないだろうと思ったのだ。自分がすぐに追われることは当然予想しているはずだから、追跡の手がかりとなる目撃者の多いところは避けるだろう。
 と思っていたのに道ゆく人に片っ端からシードを見ないかたずねていくと、意外とみんなシードのことを目撃していて、逆にシルファーの方がビックリしてしまった。
 だけどまあ好都合。ついさっきそこの角を曲がったよ、という有力情報を聞いてシルファーは駆け出した。
 言われた角を曲がる。あっけなく見つかった。
「シード!」
 叫ぶ。シードは警戒心のない動作で振り返り、シルファーと目が合うとギョッと顔を引きつらせた。
 即座に回れ右をして逃げ出す。
「やっぱりシードだったのね!」
 負けじと追いかけた。
「待て、おれの仕業ってなんの話だ!」
「とぼけても無駄よ! クッキーを食べたのがシードなのは分かってるのよ!」
「クッキー? なんの話だ!」
 逃げながら叫び返してくる。まだシラを切るつもりらしい。
「嘘ついても無駄よ。逃げているのがなによりの証拠じゃない!」
「いきなりすごい形相で追いかけてくるからだろ!」
「シードが逃げるからでしょ! やめればやめるわよ!」
 いつまでも怒鳴りあっていてもラチがあかない、と思ったのかシードが立ち止まって振り返った。
「分かった。逃げるのはやめよう」
 敵に身をさらすとは愚かな。シルファーはここぞとばかりに跳んだ。
「まず話を、っておい話が違うだろやめ――!」
 繰り出したシルファーの蹴りが、きれいな弧を描いてシードの顔面に突き刺さった。


「さーて、どういうつもりなのか説明してもらうわよ」
「それはこっちが聞きたい」
 イスに座らされた格好でシードはふてくされていた。全身を縄でしばりつけ身動きが出来ないようにしてある。
「昼食を奪われた腹いせにあたしのクッキーを食べた。そうでしょ」
「いやこっちがビックリするぐらいにまったく身に覚えがない」
「じゃあこれをどう説明するのよ!」
 だん、と真っ白な皿をテーブルに叩き付けると、シードは困ったような顔をした。
「いや何もない皿を説明しろと言われてもなあ」
「ふうん。あくまでも隠しとおす気なのね」
「隠すとかじゃなくて……取りあえずこの縄を解いてくれないか」
 シードは縛り付けられたイスごとガタガタと体を揺らした。
「どうしてもっていうんなら、そうね――白状したら許してあげる」
「なんだ今の間は! 明らかに許す気ないだろ!」
 わめくシードにシルファーはムッとした。
「なによせっかく優しくしてるのに」
「いやいや優しさの欠片も感じられないだろこの待遇!」
 またイスごと体をガタガタ揺らし始めた。
「大体こっちには目撃者がいるのに、それでも自白を待ってるだけありがたいと思ってほしいわ」
「も、目撃者?」
 シードが不安そうに声をかすらせる。
「そうよ。ちょっとおかーさん!」
 台所に向かって叫ぶと、やや遅れてミールの声が返ってきた。
「ごめーん今手が離せないの。これ食べてから行くから」
 緊張感ゼロの答えにシルファーはやる気をそがれてしまった。大体手が離せないのにこれ食べてからってなんだそりゃ。
「ま、まあちょうどいいタイムリミットね。お母さんが来るまでに白状しちゃいなさい」
「そんなこと言われても、おれ別に甘いもの好きじゃないんだけどなあ。クッキーなんて頼まれないと食べないし」
「往生際が悪いわね。さっさと認めればこんな事もしなくて済むし、そもそも逃げ出すはめにも――」
 言いかけてハッとなった。
 ――追いかけられ、倒されるだろう。
 村長様の予言はこれだったのだ。思い至ると同時に自分に対しての予言を思い出した。
 ――だまされたと気付くだろう。
 シルファーは自分でも驚くほど勢いよく振り返った。さっきお母さんはなんて言った?
 ――これ食べてから行くから。
 シルファーは走った。台所までは三秒とかからない。勢いよく飛び込んで、信じられないものを見た。
「あーっ!」
「あ」
 シルファーとミールが同時に声を上げる。
 ミールが口を開け、今まさにクッキーを食べる直前だった。
 ひったくろうと腕を伸ばすと、ミールは抵抗することなく手を離す。
 幸いにもテーブルの上に他の二つも残っていた。どうやらこれから食べるつもりだったらしい。
「ちょっとなにやってるのよお母さん!」
「いや、捨てるのもなんかもったいなくて」
「一人でこっそりと食べるならまだしも、捨てるつもりだったの!?」
 怒ったシルファーはテーブルの上の二つもつかみ、三ついっぺんに持ち上げた。
「ああそんな一度に食べたら」
 ミールが悲痛な声を上げる。シルファーはニヤリと視線を投げかけて、一気に口の中に放り込んだ。
 サックリとした感触の中に柔らかい甘味が宿っていて、ただ甘いだけではないそれは、溶けて広がるようにさまざまな味を膨らませ、直後に来た激烈な――
「まずー!」
 吐き出した。
 甘味と苦味と酸味とすっぱさと、とにかく思い描いていた幻想はすべて吹っ飛んでしまうくらいに強烈な味だった。
「なによこれ!」
「ごめんなさいね」
 ミールがうなだれる。
「久しぶりだったから作るのに失敗しちゃったみたいなの。最初一口食べたときにすぐ分かったんだけど、でもなんか、失敗しちゃったみたい、って言いにくかったのよ。だからつい、美味しい、なんて言っちゃったの。分かるわよね」
 分かるような、分からないような。
「でもすぐに本当の事を言うつもりだったよ。美味しいって言った後に、なーんて嘘、失敗しちゃったみたい。ってつなげれば笑ってごまかせるかなって思ったの」
 その気持ちなら理解出来る。シルファーでも同じ事を考えるだろう。そのへんはやはり親子なのだ。
「でもね、その前にシルファーが村長様に用事があるって言い出して、言い出しにくくなっちゃって。それに始末書のこともあったし。だからしょうがないの。わたしは悪くないの。シルファーのせいなの!」
「なに堂々とあたしの責任にしてるのよ!」
「許してくれるわよね。――ううん、そんな言い方はよくないわね。つべこべ言わずに許しなさい!」
「感じ悪っ!」
 シルファーが叫ぶと、ミールは大げさに天を仰いだ。
「もうああ言えばこう言う。じゃあ一体どうしろというのよ!」
「普通に謝ればいいのよ!」
「そんなこと言えるわけないでしょ!」
「言い切ったしこの母親!」
 その後も二人の言い争いは三十分以上続いた。
 夜はすっかり更けているのに、今日も親娘二人の家からは元気な声が響くのであった。


「いやー感動的なオチなのはいいんだけど」
 シードはしみじみとつぶやく。ため息に近い。
「そろそろこれ解いてくれないかなあ」
 イスをガタガタと揺らしてみたが、騒ぐ二人には全然気付いてもらえそうになかった。
本編情報
作品名 ドリーミングガール
作者名 宇蓮間ショージ
掲載サイト Arkivo
注意事項 年齢制限なし / 性別制限なし / 表現制限なし / 連載中
紹介  神が死に、命を持たない魔族が勝ち残った世界。人類はいつ襲われるか分からない不安と戦いながらも、案外のんびりと暮らしている。笑ったり、泣いたり、些細なことで怒ってみたり。
 でも、運命はいつだってそんな事には構わない。「望まれた未来」に向かって、ゆっくりと日常を作り変えていく。
 ほのぼのダークファンタジー長編。
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