file 14 貪欲なるスコルとハティ

 『北欧の狼』といえば真っ先に名前が挙がるのは「フェンリル」であることは間違いないだろう。100人中100人が答えると言ってもおそらく外れてはいないはずだ。しかし、北欧は狼がうようよいる。おそらく偏見ではない。絶滅したのは日本の狼くらいだろう。
 当然、神話の中では身近なものが神あるいは怪物のモチーフになりやすい。オーディンはヴァイキングと嵐、戦争の象徴。他の神々も、海賊さながらかなり男臭い性格をしている。だが、狼がうようよいる(はずの)北欧において、狼がモチーフとなった怪物はフェンリルしか有名でない。他に狼の神はいないのだろうか。

 いる。スコル、ハティという二頭の狼が。名前こそ有名ではないが、その役割から北欧世界にとっては注意すべき存在となっていた。

 スコルは太陽を食べることを宿命づけられていた。太陽が世界を照らす間、常にスコルは陽を喰らわんと太陽を追い続けている。太陽は食べられるわけにはいかないので、スコルが追ってこないところまで逃げる。そうして日が暮れる、というわけだ。
 日が暮れてから代わりに登場するのがハティである。こちらは月を好んでいる。太陽が昇るまでの夜中、ひたすら月を追い続けているのだ。

 ここで終われば、現代の子供にもおとぎ話として通用するかもしれない。しかし、なんとスコルは太陽を喰らうことに成功しているのだ。時はラグナロク。ほとんどの神々が息絶え、大地が焼き尽くされたあと、スコルが太陽を飲み込んだことにより、世界は始原の闇へと還った。だが、太陽は最期の瞬間娘を産み落としていた。それが現在の太陽。ラグナロク後に登場する新しい大地を照らし、暖める役割にあったという。こういうことで北欧神話はつじつまをあわせているようだ。

 しかし、つじつまを合わせるなら大事な事がまだ一つだけある。
 なぜ太陽は動くのか?
 蓋し、北欧神話世界ではスコルとハティはまだ生きているのではないだろうか。そして、まだ太陽と月を交互に追い掛け回しているのだ。そう考えればつじつまは会う。屍竜ニードホッグの他にまたラグナロクを生き延びた怪物を登場させることになってしまうが。


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