file 26 運命の三女神

 ギリシャには、人間の個々人すべての運命を管理している『運命の3女神』、モイライが存在すると考えられていた。

 それぞれ女神には名前と役割がある。
 クロト(紡ぐ者)は、人間の生命の糸を紡ぎだす女神だ。生命の糸とは、いわば寿命の糸である。老衰だけでなく、非業の死、事故死などで生命を失う場合の『寿命』も計算に入れられている。
 ラケシス(割り当てる者)は、生命の糸の長さをはかりで測る女神である。この長さは、そのままその人間の寿命となる。
 アトロポス(不可避の者)は、ラケシスが測った長さに糸を切断する女神である。この女神が糸を切断したときから、人間の始まりと終わりが決まってしまう、というわけだ。

 残念ながらギリシャ神話では、この女神に関する特別なエピソードはない。人格を有した神というより、一種の概念と考えられていたのだろう。それに本当にギリシャ人すべてに対しこの生命の糸の作業をしているとしたら、神々の饗宴に参加する暇もあるまい。

 ちなみに、このような『運命の三女神』に近いものとして、北欧神話の『ノルン』を思い浮かべる方もおられるのではないだろうか。年老いた老女のウルドは『運命』を、若いヴェルダンディは『現在』を、今だ解き放たれない巻物を持つスクルドは『未来』の象徴とされている。
 北欧の運命の三女神の方が有名かもしれないが、彼女たちはギリシャのモイライのように人の運命を細かく裁断したりはしていない。だが、『運命の網』と呼ばれる道具を用いて人間と神、その両方の運命を司っていたらしい。彼女たちの存在により、オーディンたちは『死すべき』神となってしまったのかもしれない。


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