
episode8:「糾弾」
episode9:「開放」
episode10:「ラボ」
pisode11:「テスト機」
episode12:「チーム」
episode13:「銀翼」
pisode14:「暴発」
episode15:「シュガト」
episode16:「黒い野望」
episode17:「心の翼」
episode18:「開戦」
episode19:「絶望」
episode20:「ヨーコ・ヴァレンタイン」
episode21:「心」
episode22:「落下」
episode23:「ルウム戦役」
episode8:「糾弾」
「言いたい事はそれだけかね」
「…?」
ジャブロー。
『第215指令所 ランサム准将私室』
ニードルスの爆死後、ファルコニアは少年兵の遺体を寄せ集めTINコッドツインのトラベルポッドに詰め込んで(ただし、トラベルポッドもそんなに大きな物ではないので、全てを持ち帰れた訳ではないのだが…)、ジャブローに帰還していた。
デモ用のTINコッドツインで帰還する際は、なかなか入港が許されず、ファルコニアをイライラさせたが、ランサム准将の名を出すと、以外にすんなりと入港許可が降りた事はファルコニアを驚せた。(それだけ、ジャブロー内における准将の力が強いと言う事を暗示していた)
帰還後、ファルコニアはただちに警備兵に機から引きずり降ろされ、ランサム准将の私室へと連行された。
報告を求められたファルコニアはニードルスの爆死等の事実は伏せたままだったが、殆どは真実を報告したつもりだった。
が、報告を聞いたランサム准将の態度は冷淡であった。
「言いたい事はそれだけか?と聞いておるのだ」
「は?それはどういう意味でありますか?」
ゆったりとしたソファに足を組んで座るランサム准将に対し、ファルコニアは両腕を警備兵に掴まれたまま、直立不動で、既に1時間程が経過していた。
「ファルコニア少尉。君の報告はまるで、馬鹿馬鹿しいおとぎ話だよ。壊滅状態のヒューストン。「私の」フライマンタ隊は全機消息不明。
その全ての原因が君の言うところの『ジオンの人型強襲』だと言う…。しかしね、調査に行った部隊からの報告はこうだ。ジオンの人型らしき機影、残骸、部品などは一切確認できず。連邦のフライマンタ隊の機影も発見できず。なんら、君の報告を証言する物的証拠が無いのだよ。」
「しかし…それは…」
「何かね」
何か反論でもあるのかと、ランサムはファルコニアをねめつけた。
「私が推測するに、ジオンの回収部隊が全てを回収したのかと…」
ファルコニアの口から敵士官からの情報は絶対に明言できる状況では無かった。
ニードルスから聞いたと言えば、自分の立場は更に悪化するであろう。
「推測か…。君の勝手な推測に理解を示す程、軍は甘くは無いのだよ。」
「…」
「それに、だ。君はヒューストン基地で近々、公開予定だったFF6−X2Bに勝手に搭乗し、ジャブローまで飛行してきた。どういうつもりかね。軍の機密部類に入る新型戦闘機を派手に乗り回すとは!パイロットにでもなったつもりか?」
「それは、御報告申し上げました通り…」
「くくく。ジオンの人型と戦闘する為に、か?笑わせてくれるねぇ。」
ランサムは足を組み換えながら、続けた。
「私の直属部隊のフライマンタ小隊が仮にだ、仮にジオンの人型に墜とされたと仮定しよう。精鋭パイロットでさえ墜とされる兵器を相手に君は独りで3機撃墜と。エースパイロットとして、登録しておくか。くくくく。」
「…」
「ファルコニア少尉。君の与太話もこれまでだ。ジャブロー内で私はいい笑い物だよ。馬鹿な下士官の緊急無線を傍受して、与太話に付き合い、直属部隊を派遣したが、消息不明。馬鹿な下士官は機密扱いの新型機で私の名前を叫びながらジャブロー入りしてくる…。」
「…」
「君、新型機の設計担当だってね。もしかすると、自分の設計した機の性能試験のつもりで、私の部隊を撃墜したのではないのか?戦闘力に酔いしれた君は引き止めた仲間も諸共に射殺。そして、悠々とジャブローへこれ見よがしに凱旋してきた、と。」
「…!決して、決してそんな事はありません!」
ファルコニアの言葉にランサムは突然立ち上がり、テーブルを蹴り上げながら、立ち上がった。
「ふざけるな!ジオンの人型などというふざけた嘘までつきおって!貴様、本来ならば、ここで銃殺にしても良いのだ!私に恥をかかせた償いは十分にして貰うぞ!」
「…(くそっ!)」
ファルコニアはランサムの真意を伺う様に視線をぶつけた。
「何かね、その目は!私の推測に間違いは無いのだ!痴れ者が!」言うや否や、ランサムはファルコニアの横っ面を張り上げた。
(ばっしーん!)
部屋中に強烈な音が響きわたる。
しかし、ファルコニアは吹き飛ぶ事も倒れる事も許され無かった。
何故なら、後ろからはがっしりと警備兵に支えられていたからだ。
続いて、ランサムの強烈な膝蹴りがファルコニアの腹部を襲った。
(ぐへぇ)
思いっきり、胃が突き上げられ、胃の内容物が込み上げてくる…
(ちきしょうが!このまま、吐き掛けてやりてぇぜ!)
だが、ファルコニアはじっと耐えた。
ここで、奴の顔に汚物を吐き掛ければ、確実に命は無い。
何より「生き残れ」と少年兵に言った自分に対して情けない。
ぐっと堪えた。
「クズがっ!」更に膝を繰り出すランサム、そして…
右手にあった机の上の花瓶を手に取ったかと思うとランサムはファルコニアの頭に振り降ろした…。
「いちちち」
ズキズキとする頭部をさすりながら、ファルコニアは固い床の上で覚醒した。
ジャブロー内 独房
床に転がされた身をゆっくりと引き起こす。
「くそったれが!」
悪態をつきながら、ファルコニアは胸元のポケットをまさぐった。
(ちっ煙草まで取り上げやがって…)
ゆらりと立ち上がり、固いクッションのベッドに腰を降ろす。
頭部がズキズキと痛む。
再びファルコニアは頭部をさすった。
「いちちち。」
と、突然寄り掛かった壁からノックする音が響く。
(コンコン)
(あ?)
「よお!お隣さん、気がついたかい?」
薄暗い独房とは対象的な陽気な声が響いた。
「…?」
「よお!気がついてんだろ、返事くらいしたっていいじゃねぇか!同じムショ暮らしなんだしよ」
へへへ、と笑いながら隣の人物が話掛ける。
「アンタ、誰だい?」
ファルコニアが答える。
「へっへー。やっと話す気になったかい?俺は、シグ。シグ・アニェスってモンさ。」
「シグ?そのシグさんが何の用だい?」
「アンタ、ファルコニアってんだろ。ジャブロー内じゃ評判だぜ」
「…なんで?」
不機嫌にファルコニアが訊ねる。
「派手な新型機で乗り付けた、キ印の嘘つき野郎ってさ。」
「…そうか。」
「オマケにあの、陰険なランサムのオヤジに目を付けられたとあっちゃあ、アンタ、もう終わりだな。」
「…そうなのか?」
「しらねぇのかい?あのランサムってやつぁ、ある事、ねぇ事を吹聴してのし上がってきた奴さ。ヤツに掛かりゃあ、連邦のオエラ方だって、弱み握られて、あっと言う間に前線送りよ。ま、たいがいは奴の罠に掛かってるんだがな。」
「…そうなのか。で、アンタは?」
「俺かい?俺はある事、ある事でぶち込まれたんだけどな。わはは。」
「…?」
「俺はパイロットなんだが、飛行訓練中に奴の乗ってたビッグ・トレーにペイント弾、撃ち込んじまってな。」
「…」
「いや、わざとじゃあ、ねぇんだぜ。たまたま、空中で3回ひねって、降下から引き起しかけたら、指がトリガーに掛かっちまって…
運悪く、奴のトレーがその先にいたってだけで…」
「くくく。」
ファルコニアは思わず笑い声を漏らしてしまった。
「ははは。面白れぇだろ。あっははは。」
二人は壁を挟んで笑いあった。
「なあ、アンタ、悪い奴じゃなさそうだ。これでも、俺は人を見る目はあるんだ。まだ、アンタの姿、格好は拝んじゃいねぇが。はは。」
シグが一息つきながら話掛ける。
「よぉ!本当の事を話してみなよ。俺はアンタを信用すると決めたぜ」
シグは暇無く訊ねてくる。
ファルコニアはシグがランサムのスパイかと疑ったが、徐々に真実を打ち明けた。
ニードルスの事、ザクの事。そして、ランサムには全てを話してはいない事。
「…なるほどな。ジオンの人型か。俺も噂じゃあ、聞いていたが本当にあるとはな。」
「…」
「連邦も噂じゃ、モビルスーツって奴の研究は進めているらしいぜ」
「…そうなのか?」
「ああ。噂じゃ試作段階にあるらしいんだが、まだ、かなりの危険なシロモノなんで、テストパイロットもはっきりしてねぇらしい…」
「ま、俺みたいなヤサグレパイロットが人身御供として、実験台にされるらしいがな。」
ふぅーとシグは溜息をついた。
「モビルスーツは危険じゃ無いさ。」
呟くファルコニア。
「ああ?」
「ジオンのザクを見る限り、マシーンとしてのモビルスーツは危険じゃ無い。」
「そうなのかい?」
「ああ、俺もいろんな機械を見て来たが、アレは確立された技術さ。少なくともジオンにおいては。」
「ふーん…もし、俺がモビルスーツのテストパイロットをやらされるなら、アンタに整備して貰いたいモンだな。」
「…」
「俺は、アンタを信用するって言っただろ」
「ありがとうよ。シグ…」
向かい合わせた壁から、二人は徐々に相手の体温を感じる様な錯覚を覚えていた…
それから…3日
「ふむ。ランサム准将。今回の人事計画は以上かね。」
「はっ、左様でございます。レビル将軍」
ジャブロー 第1上級士官室
「シグ少尉については、軍事裁判の履歴報告が無い様だが?」
手元の書類をパラパラとめくり、レビルはランサムに訊ねた。
「は、それはそのう…」
「書類の不備かね。管理職としては不十分の様だが?」
レビルにとってランサムはあまり好きな士官では無かった。
彼には常に不透明な影が付きまとい、軍幹部にもあまり受けが良くなかった。
何より、レビルが気に入らなかったのはランサムの上目使いとニヤけた口元だった。
「それに、だ。このファルコニア少尉についても、なんら詳細が報告されず、独房入り後、銃殺刑とされているが?」
「は、その人物は先般のヒューストンの天災時に軍機密であるFF6−X2Bに無許可で搭乗し、我がフライマンタ隊を撃墜、更には同胞をも射殺せしめた人物であり…」
「君の独断で、銃殺刑にしたのか?」
「はい、あ、いえ、しかしながら、奴はジオンの人型強襲などと…」
「誰にでも、裁判を受ける権利はあるのだよ。ランサム准将。どうも、君の判断には私情が多い様だ。」
「…はっ」
頭を垂れるランサム。
「それにね。ジオンに人型は存在するのだよ。」
「…は?」
「ジオンに人型は存在するのだよ。君は諜報部の報告にも目を通していないのか?まあ、いい。この、ファルコニア少尉なる人物がジオンの人型と遭遇しているとすれば…。都合が良い事に技術士官の様だ。彼の経験が例の計画に役立つかもしれん。ランサム准将。」
「…はっ」
「ファルコニア少尉については、RX計画のテム・レイ大尉の元に。シグ少尉もパイロットとしての経歴はなかなかのモノだ。彼はファルコニア少尉と共にRX計画のテストパイロットとして、転属としなさい。」
「…はっ?」
「同じ事は2度言わんよ」
「はっ、はい!」
「私はこの後、宇宙に上がる。どうにもジオンの動きが活発だ。例のモビルスーツの威力は凄いものらしい。現地視察もかねてな。」
「は。」
ランサムは下げた頭の下でギリギリと口元を吊り上げていた。
つづく。
episode9:「開放」
ファルコニアとシグが開放されたのは、レビルの命が降りてから、即日であった。
独房にはランサムは一切、顔を出さなかった。
独房に監房官がやってきた時にファルコニアは覚悟を決めていた。
シグは相変わらずの悪態をついていた。
「へっ!とうとう来やがったな!ランサムめ!銃殺か?縛り首か?それとも…」
「出ろ」
「ちきしょう!テスト機に載せて、モルモットかよ!ちきしょう!」
「シグ・アニェス少尉、出ろ」
「俺には可愛い息子がいるんだよ〜まだ、死ぬ訳にはいかねぇっての!」
「シグ、落ち着け!」
ファルコニアは隣人が妻子持ちだった事に少々驚きはしたが、もとより声しか知らぬ隣人である。
そんな事もあるか、と思いなおした。
「シグ・アニェス少尉、釈放だ。貴様に新しい転属先を伝える。」
「へ?」
シグは監房官の言葉にすっとんきょうな声を上げた。
「レビル将軍の命により、貴様は本日18:00をもって、RX計画のテストパイロットに任命された。」
「なんだよ!やっぱり、死刑じゃねーか!」
「18:00にジャブロー、第13ブロックのテム・レイ大尉の研究室に出頭せよ。時間厳守で出頭しない場合は逃亡罪として、銃殺となる」
「…なんだよ、ソレ。結局、死刑か…」
がっくりと肩を落すシグ。
「続いて、ファルコニア・フォーエバーロング少尉」
俺こそ銃殺刑か、とファルコニアは肩をすくめる。
「あいよ」
「ファルコニア・フォーエバーロング少尉は同じくRX計画研究所所属とする。シグ少尉と同じくして18:00にテム・レイラボに出頭する様に。出頭せぬ場合はシグ少尉と同じくして、逃亡罪で銃殺とする。以上だ。」
「…」
監房官は更に1枚の書類がある事に気がついた。
「と、両者2名は本日付けを持って、RX計画に携わる者として機密保持厳守の任が与えられる。高レベル機密の為、両者2名はレビル将軍の特命をもって、特別昇進。中尉に命ずる、以上だ。」
「…!?」ファルコニアは一瞬理解出来なかった。
囚人から一転して、中尉昇進とは?
「お、おいおい!待って来れよ!中尉に?俺がか?どういう事なんだ?そんなにヤバイって事か?あ、テストパイロットで死んでも、2階級特進はねぇってんじゃあ、ねぇんだろうな!恩給はよこせよ!可愛い息子の将来は面倒見てくれんだろうな!おい!」
独房の覗き穴から、シグは口だけ出して、がなった。
「シグ中尉、落ち着け。今、出すから。」
やれやれといった感じで監房官はシグの扉のキーを解除する。
バタン!という、大音響がコンクリートで塗り固められた廊下に響き渡る。
「ふぅ〜やっと出られたぜ!やっぱ、娑婆の空気はうめ〜な〜、って、同じか、はは。おい!看守、早くファルコニアも出してやれよ!」
外に出たとたん、シグは元気を取り戻した。
さらにせっつく様に監房官の尻を蹴り上げる。
「き、貴様〜」
「お、何?やろうっての?看守、俺は中尉様だぜ!お前はまだ、少尉。ははは。上官の命は絶対だろ?」
「…」
監房官は先程、自分が読み上げた命令書を思い出し、黙り込んだ。
「へっへっへ〜いい子ちゃん。」
シグが更に調子に乗る。
監房官はガチガチと怒りに身体を震わせながら、ファルコニアの独房のキーロックを解除した。
ガチャリと扉が空き、ファルコニアの独房に廊下の光が差し込む。
「ファルコニア中尉、どうぞ。」
監房官はシグを背中に卑屈な態度で扉を開けた。
少々、監房官を気の毒に思いながら、ファルコニアはのそりと部屋を出た。
「いよぉ!やっと会えたな!ファルコニア!俺が、シグ、シグ・アニェス中尉だ」
がっしりとした身体に日焼けした浅黒い肌、そして、何よりも人懐っこい笑顔がファルコニアを出迎えた。
コニりとしながら、シグはその太い右腕を差し出した。
「俺ぁ、武器を持つ右手は絶対に他人には預けないんだぜ!」と、シグ。
ファルコニアは差し出されたシグの右手をガッチリと握った。
握手を交わす二人。
そんな、二人の間で、監房官は恐る恐る呟いた。
「あの、中尉。早く行ってください。」
ジロリと監房官を睨み付けるシグ。
と、突然、ニコリと悪戯っぽい笑みを監房官に向けた。
「ご苦労さん!アンタもテストパイロットになるかい?中尉昇進だぜ?」
そういうと、ファルコニアの肩をポンと叩きいた。
「じゃあ、ファルコニア中尉、地獄の扉を開けにいきますか。」
シグとファルコニアは肩を並べて歩き出した。
「シグ、頼みがあるんだが。」
「ん?なんだい?言ってみなよ。」
二人を乗せたエレカがジャブロー内の施設を疾駆していた。
3日振りに感じる風を肺一杯に吸込みながら、二人は娑婆の空気を満喫していた。
「そのぉ…煙草が欲しいんだが…」
「ああ?煙草か?俺も取り上げられちまった。あいにく、小銭もねぇが…」
「そうか…」
ファルコニアは我ながら、よく3日も禁煙出来たものだと思った。
しかし、外の空気をすうと、一層、紫煙が懐かしく、いとおしく思えるのだった。
「おっ、そうだ、ここからだったら、俺の官舎が近い。寄っていくかい?息子の煙草があるかも…」
「…?息子の煙草?おい、アンタの息子って?」
「あれ、言ってなかったか?俺には可愛い息子がいるんだぜ!名前はトニーって言うんだ。」
「トニー…はいいが、息子って一体、幾つなんだ?」
「ええとな…俺が、32だから、15か?」
「32で、15って…おい!」
「ははは。何事も早い方がいいだろ。トニーも最近は生意気でな。親に隠れて煙草に、酒もやってやがる。ま、俺は何でもお見通しだがね。そこが又、可愛いんだよな。ファルコニア、子供はいいぜ!何よりの生き甲斐だ。アンタ、結婚は?」
「あ、いや、俺はソッチは全然、疎くて…」
「だろうな、アンタ、女には全く興味無いって顔してるよ。ハハハ。」
「ここだぜ」
二人がエレカを降りて立ったのは一般士官用の官舎だった。
集合住宅型の小綺麗な建物だった。
「うちのかみさんの手料理も結構、イケるんだぜ」
まあ、入れよといったジェスチャーでシグはファルコニアを促した。
「よぉ!御亭主様が晴れて御帰還だぜ!」
扉を開けたフロアーで、シグが家人を呼び出す。
しかし、返事は返って来なかった。
「…?買物でもいっちまったか?」
シグは別段、気にした様子でも無く、ファルコニアを居間のソファに案内すると、ゴソゴソと奥の部屋を探索していた。
「お!あったぜ」
どうやら、奥の部屋は息子の部屋だったらしい。
シグは封の切ってある煙草をもって、ファルコニアの前にたった。
「アンタの好きな銘柄かはしらんが…」
煙草の箱を差し出すと、シグは自分のくわえた煙草に火を付けた。
ファルコニアは煙草なら何でも、と良いながら、一本取り出すと、シグの差し出す火を付けた。
「かぁ〜やっぱ、うめ〜」
カカカと笑いながら、シグは紫煙を吐き出した。
「18:00出頭だと、酒は飲めねぇが…」
そういいながら、シグはキッチンへ行き、冷蔵庫から、缶の炭酸飲料を2本持って戻ってきた。
「よお、ファルコニア、アンタ今度の一件はどう見るよ?」
声をひそめ、身体を乗り出して囁くシグ。
「謎の昇進とRX計画とやらかい?」
「それだ」
「RX計画ってのが、何なのかは判らなんが、最重要機密事項だろうな。携わる人間は中尉以上のクラスに置かれ、全て管理される」
「そして、リスクもデカイ、か。」
ふぅーとソファに身体を投げ出すシグ。
二人の間に紫煙が漂う。
「アンタは技術士官、俺はパイロット。ま、宜しく頼むわ。」
「シグ、テスト機は死亡率が高いって言ってたよな。」
「あ、ああ。これは俺のパイロット仲間の噂だがな。まだ、連邦のモビルスーツの小型核エンジンは完成していねぇらしい。結局、運用試験中に暴走して、ボンッ!て事故が多発しているそうだ。」
「…小型核エンジン…か。」
そこで、ファルコニアは自身の行っていたFF6−X2型の研究の意味に気がついた。
まさにFF6−X2は従来のジェットエンジンから小型核エンジンの換装機種だったのである。
(道理で…)
ランサムを初めとした軍上層がFF6−X2でジャブローに現れた自分に対して騒ぐはずである。
初めて小型核エンジン搭載に成功した戦闘機は軍の最高機密であり、同時に核融合炉を搭載したリスクの高い機体である。
ジャブロー近郊で、墜落でもすれば、その被害は甚大だ。
しかも、ランサムはその事実を知っていた。だから、FF6−X2の姿を見た時にすんなりとジャブローへの入港を許可させたのだ。
大袈裟すぎる防護設備を動員した上で。
「とにかく、18:00に出頭すれば、全ての謎がとけるって訳だ。」
卓上の灰皿に煙草をもみ消し、シグは再び、キッチンにたった。
「ちょいと、腹が減ったな。」
ごそごそと冷蔵庫を漁るシグ。
「お!俺の好きなチキンのサンドだ…さすが、愛する女房殿だぜ!亭主の好きなモノを用意して待ってるとは!」
モゴモゴとチキンのサンドイッチをくわえながらシグはキッチンのテーブルに目をやった。
「お?書き置きだな。何々?『トニーへ。母さんは父さんの着替えを届けてきます、と。冷蔵庫にチキンのサンドイッチがあるから、食べなさい、』か。」
「おいおい…」
笑いながらファルコニアがシグの方を振り返った。
シグも苦笑いしながら、ファルコニアにウインクを返した。
ファルコニアはちょっぴりシグを羨ましく思った。
その時だった。
キッチンに備えつけられた軍司令部直通の指令書伝送機のアラームが鳴った。
(この設備はスクランブル要員のパイロット官舎には絶対に備えつけられている設備なのだ。)
カタカタと打ち出される指令書。
何事かと、ファルコニアが立ち上がる。
しかし、シグは座っていろというジェスチャーをファルコニアに送る。
指令書に素早く目を通すシグ。
そして…
「なんだこりゃぁ!」
シグは叫んだ。
つづく。
episode:10「ラボ」
シグの驚いた声にファルコニアは素早くソファを立った。
「どうした?シグ」
シグは何も言わず、命令書を差し出した。
「見ても、いいのか? 」
「ああ、構わなねぇさ。ファルコニア、アンタの所にも同じ文書が届いているはずだ」
「…?」
差し出された命令書を受け取るとファルコニアは黙って文面に目を通した。
-----命令書-----
本日18:00をもって、「シグ・アニェス中尉」をRX計画テストパイロットに任命とする。
本計画は連邦軍最高機密に属する。
機密レベル:AAA
従って、シグ・アニェス中尉及びその家族はただちに連邦軍高級官僚住宅ブロックへ移動。
尚、本人はテム・レイラボへ出頭後は機密保持の為、全ての外部の人間との接触を禁ずる。
この、接触禁止の命においては、家人等も例外ではない。
本人居住区はラボ出頭時に口頭にて、連絡とする。
以上。
「これは、つまり…」
「下手すりゃ、かみさんにも、息子にももう、一生会えねぇ…」
「機密レベルAAAか…」
「連邦の切り札ってわけだ。」
「ああ…」
シグの言葉にファルニアは頷いた。
「なあ、シグ。連邦のMSって…」
「おおっと、俺に聞かれても細かくはしらねぇさ。テストパイロットは人目のつかねぇ所へ隔離されて、いつの間にか居なくなっちまってる…ただな…」
「うん?」
「とりあえず、タンクのバケモンみたいなのは完成されてるって話だ。ジオンの人型には遠くおよばねぇ。」
「タンク型か…」
「なあ、ファルコニア、俺たちゃ、一体、どうなっちまうのかなぁ…」
シグは再びくわえ煙草でドサリとソファに身体を投げ出した。
18:00
ジャブロー特別研究ブロック「テム・レイラボ」
真っ白な建物の前に二人が到着したのは17:50であった。
厳重な警備を敷かれた建造物の入口で二人は警備の兵にIDカードを提示する。
入念なチェック。
建物に立入を許可された後も二人は全ての荷物、衣類を取り上げられ、全裸で全身を磁気スキャンされた挙げ句、与えられた研究所用のスーツに着替えさせられた。
ファルコニアは白を基調としたつなぎにシルバーのラインが肩口に入っていた。
そして、シグはブルーのつなぎに同じくシルバーのラインであった。
これは、研究員とパイロットを区別する為のものと思われた。
無論、逃亡時等は一目で判る様な連邦のバイロットスーツなどとは異なる様相であった。
18:30
第1ラボ
案内の研究助手らしき女性研究員を先頭にファルコニア、シグが肩を並べて歩き、後ろからは銃を構えた警備兵が2人、ついて来ていた。
「こちらです。」
機械的な口調で研究助手が、二人を大きな扉の前に立たせる。
「そちらでID照合と網膜、指紋照合を行ってください。」
二人は言われた通り、ドア横の照合機の前に立つ。
マシーンのスリットにIDカードを滑らせ、続いて網膜、指紋照合を同時に行う。
ドアロック表示が赤色から黄色に変わった。
「おいおい!一々…」
「! シグ中尉!!」
助手が鋭くシグを牽制する。
「な、なんだよ!恐い声出して…」
ふぅ、と助手は溜息をつきながらシグを見据えた。
「シグ中尉、このセキュリティは網膜、指紋チェックを済ませた後は声紋照合登録となっております。声紋登録には個人の声紋照合の意味もありますが、その言葉の内容は個人暗号となっております。つまり、シグ中尉の登録暗号は先程の第一声となります。」
「な、何?じゃあ、俺は…さっき、なんて言った?」
「個人暗号ですので、お答えできません。」
「おいおい!もう一度やり直そうぜ。」
「一度登録された個人データーの書き換えができません。」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。それじゃあ、俺は?…なぁ、ファルコニア…なんて言ったっけ」
「…おいおい!一々…」
「ファルコニア中尉!あなたもです!」
助手が再び叫んだ。
「あ!」
シグとファルコニアは一緒に頭を抱えた。
「では、個人暗号を照合機の前で、どうぞ。それから、今後は声紋照合と個人暗号のみで、施設内のドアロックは開閉が可能となります。」
「…カッコわりぃなぁ」
「…」
「せめて、『オープン・セサミ』位にしときゃ良かったぜ」
シグがぶつぶつと呟く。
「いや、『ランサム・アス・ホール』だろ」
「くくっ!言うねぇ、ファルコニア。好きだぜ。そういうの。」
「ファルコニア中尉。当施設内での会話等は全て集音マイクで記録しております。また、全施設内は監視用モニターでカバーされておりますので、筆談等も記録されます。お忘れなき様。」
「おいおい、まさか…トイレもかい?」
「はい。」
「冗談じゃねぇぞ。そいつぁ、尋常じゃねえな。プライベートなんて全く無いのかよ。」
驚愕の顔で、ファルコニアはシグをみた。
シグはニヤニヤしている。
「って、事は、アンタもかい?」
シグはニヤつきながら、助手に訊ねた。
すると、無表情だった女性助手は微かに頬を赤らめて「ハイ。」と返事した。
「アンタ、可愛いぜ」
シグが助手の耳元で囁く。
「中尉!」
更に顔を紅く染めて助手が叫ぶ。
「早く、中へ!」
「おいおい!一々…」
二人はそれぞれの機械の前で、声を揃えて怒鳴った。
黄色のランプがグリーンに変わる。
大きな重厚な扉は音も無く、静かに開いた。
扉の向こうはかなり広い空間であった。
無数の作業台が置かれ、それぞれの作業台の上には様々なマシーンが置かれていた。
マシーンは一見して、航空機の部品が主であったが、隅の方ではマニュピレーターらしきものも置かれている。
そして、各機器を組み立てているのはグリーンのスーツを着た技術員だった。
グリーンのスーツの中にポツポツと白の研究員も混じっている。
二人は助手に促される様に奥の一室へと連れていかれた。
「こちらへ」
助手が木製のドアをノックする。
「テム・レイ大尉。ファルコニア・フォーエバーロング中尉とシグ・アニェス中尉をお連れしました。」
「…」
返事は無い。
「テム・レイ大尉…?」
「うん、ああ…入りたまえ!」
イライラとした声が部屋の中から聞こえた。
どうぞ、といって助手がドアを開けた。
二人はのっそりと「設計室」へ入った。
どちらというと清潔なクリーンルームの様なイメージであった組み立て作業場とは対象的に設計室は非常に乱雑な雰囲気であった。
山と積まれた資料、設計図の原図、コピーが散乱し、壁際に並んだ設計用CADもモニターの前に人一人が座るのがやっとの程度であった。
壁には検討用の図面が何枚も張り出され、改訂図面がその上に張り出されていた。
ドラフティングボード脇の巨大とも言えるゴミ箱は山の様な廃棄図面が詰め込まれている。
呆然と立っている二人を残して助手はさっさと部屋を出て行ってしまった。
残された二人はそのまま、立ちすくんでいた。
目の前の技術士官「テム・レイ」は二人の存在に気づいていないかの様に、あちらの図面、こちらの文献とイライラした様子で部屋の中を動き回っていた。
その状態が数十分続き…
いよいよ、シグに我慢の限界がきた。
「あの、大尉?大尉?テム・レイ大尉殿!」
シグが大声を張り上げる。
その声にテムは何事かと顔を上げる。
「何事かね?全く、騒々しい…。ん?何かね?君達?」
「な、何かね…って。シグ・アニェス中尉、ファルコニア・フォーエバーロング中尉、両者、レビル将軍勅命により、出頭致しました!」
二人はピシリと敬礼をする。
「あ、ああ…話は聞いてるよ。全く…この忙しい時に…」
ブツブツと良いながら、テムは顔を上げようともしなかった。
「とにかく、そちらのソファにでも座っていてくれたまえ。私は忙しい。全く、このマニュアルときたら…」
「はっ!」
シグは取り敢えず返事を返す。
しかし、部屋のどこにもソファは見当たらない。
延々と部屋を埋めつくすのは乱雑な書類とファイル、文献だけだ。
あるいは部屋のどこかに、ソファが埋もれているのもしれないが…。
仕方無く二人は部屋の隅に移動する事にした。
「なぁ、ファルコニア。俺達、どうなんのかな?」
「…参ったな。」
「ああ…」
それからどの位、時間が経ったのか…
「腹減ったな」
「ああ」
シグの呟きにファルコニアが相槌を打つ。
突然、テムが手にした技術書を放り投げた。
「そうか!判ったぞ!そうか!そうか!」
そう、叫んだかと思うと、テムはおもむろにドラフティングボードに向かって図面を書き出した。
「核エンジンを小型分割化させ…各駆動系を…独立…」
しかし、再びテムは頭を抱え込んだ。
ファルコニアはテムの描くラフな図面に釘付けとなった。
(テム大尉、この人は…ホンモノだ…)
その図面に吸いよせられる様にファルコニアはテムの隣に立った。
「大尉、ここのアクチュエーターとパワーケーブルに対してセンサー系のケーブルは近すぎます。これではマシンノイズとパワーノイズを拾ってしまいますよ」
ファルコニアはボソリと呟く。
「あ、ああ、それは判っているのだ。だが…」
テムが頭を抱えながら返事を返す。
「ジオンのザクはノイズ対策として、ケーブルを機外に出しておりましたが…」
ファルコニアの言葉にテムが突然立ち上がった。
「何!?」
「き、君はジオンのMSを見たのかね?どこで?いつ?で、核エンジンの配置は?推進機構は?マニュピレーターの様子は?何よりも2足歩行のシステムだ。自重を支えて歩行できる機構システムを説明してくれ。それと…ショクアブソーバーだ。この際、パイロットの乗り心地は無視して構わん。歩行出来れば良い!」
テムの最期の方の言葉にシグはおいおいという表情をしていた。
無論、ファルコニアは知る由も無かったが。
「は、自分も装甲の下を知る術はありませんでしたが、推測するには…」
ファルコニアは自分の推論を一通り、テムに話した。
「そうか!そうだったのか!ジオンめらが、巧い事を考える…」
退屈そうなシグを尻目にテムとファルコニアは延々と議論しあった。
画を書き、電気系統、機器制御、ウェポンシステム、ビーム兵器等々…
シグがウトウトとしはじめた頃、二人の話も徐々に意見の統一がなされ始めていた。
「そうか、そうか!なるほど、君の意見はもっともかもしれん…。ところで、君は誰だ?」
テムの言葉にファルコニアは苦笑しながら、自らの官、姓名を名乗り、後方で壁にもたれて船を漕いでいる同僚を紹介した。
「そうか、話は聞いていたのだが、すまんな。技術屋とはこういうものだろう?」
テムの言葉にファルコニアは大きくうなづき、笑顔を浮かべた。
「判ります。テム・レイ大尉。技術屋とはそういうものです。」
ファルコニアの言葉にテムは嬉しそうな表情を浮かべて時計を見た。
「おお!もう、こんな時間か。息子に電話を入れなければ…」
「テム大尉も、お子さまが…?」
「ああ、サイド7に置いている。もう、13だ。ん?14だったか?まあ、留守番は独りでできる歳だ。お隣さんも面倒見てくれている。」
「はあ…」
「ジャブローは片手間で降りて来るつもりだったのだが…予想以上に難航していてね。子供を残して地球に降りて来た。もっとも、RX開発の目処がつけば、直ぐにでもサイド7に帰るつもりだ。」
「失礼ですが、大尉はスペース・ノイドで…?」
「いや、私は『地球人』だよ。もっとも、宇宙へは自らの意志で出たが…妻は宇宙暮らしを嫌がってね…」
「申し訳ありません、大尉。余計な事を…」
「いや、気にせんでいい。息子は、アムロは、私を理解してくれている…。」
最後の方は自らに言い聞かす様に呟いていた。
「ともかく、技術検討は明日の朝にしよう…ん、もう、今日か。ハハハ。飯にしよう。」
そう言って、テムは立ち上がった。
ファルコニアは完全に眠りこけたシグの肩を揺すった。
「ふぁ、お、おお、トニーか?遅かったな…」
寝ぼけてやがる、ファルコニアは苦笑しながらシグを揺り起こした。
25:30
ラボ内食堂
食堂内は深夜の為か完全セルフサービスになっていた。
食事は人数分が用意されていた。
テム、ファルコニア、シグの分を除いてもまだ、数名分がある為、深夜にも関わらず、まだ動き回っているSTAFFが居るらしい。
食事のトレーを取りながら、テムとファルコニアは再びMS構造論を展開していた。
シグは「ヒ゛ール…」
などと呟きながら、2人の後を付いてきていた。
テーブルに付くと、テムはおもむろに手帳を広げた。
「これが、私の考える『RX計画』の草案だよ…」
「これは…!」
ファルコニアは思わず声を上げた。
シグも何気に手帳を覗き込み、ヒュ〜と口笛を吹いた。
「大尉、良いですね。コレ、パイロットを大事にして頂いている…」
シグはテムの顔をじっと見つめる。
「パイロットの生存確立の高さが戦争の勝ち負けを決めるのだと私は思っているのだよ。」
「まして、技術レベルとしてはまだまだ未発展であり、黎明期のMS分野においては、パイロットは貴重だよ」
「何より、パイロット養成には手間も掛かり、金も掛かる…まあ、私のRXシリーズはそこをカバーする事をアピールポイントとして、高額な研究費用を割いてもらっているがね。このRXシリーズが実用化されれば、パイロット養成費などはあっと言う間に元がとれるよ。」
テムは自信に溢れた様子で胸を張った。
「大尉。連邦にはタンク型のMSが既に存在すると…?」
ファルコニアが恐る恐る訊ねる。
「中尉!何処でその話を!?まあ、人の口に戸は立てられん、というがな…。滅多な事はいえんが、RX−75は存在するよ。プロトタイプだがな。私の計画の一端である、コアブロックシステムが確立しておらん。アレはまだ、MSというよりは重戦車の派生モノだよ。」
「自分は…そのタンクタイプのテストパイロットでありますか?」
シグが食事をモゴモゴさせながら、訊ねる。
「そういう事になるかな。タンクは現在の所、小型核融合炉の実機テストを実施させている…。この核融合炉が問題なのだが…」
「ブヘッ」シグはテムの言葉にむせ返った。
「自分の安全は…?」
「ううむ…」考え込むテム。
シグは悲痛な表情を浮かべ、ファルコニアに囁いた。
「くそっ!ランサム・アス・ホールだぜ!全く!」
つづく。
episode11:「テスト機」
「じゃあな、行って来るぜ!」
「ああ、ヤバそうだったら、緊急停止ボタンを…」
「判ってるさ、大体、核融合炉のヤバそうっていうのはどう、感じ取りゃいいんだ?アァン!?」
ジャブロー内 研究ブロック 第2試験場
「そう、噛みつくなよ、シグ」
「お前はいいさ!ファルコニア、クーラーの効いたデーター取り用の完全防備車両だからな!」
「それを言うなって、シグ!お前の乗ってるプロトタイプは冷却方法を変えてある。今迄では、一番安全な試験機だ。」
「うっ、うぅぅ。泣けてくるぜ」
「シグ、お前にもしもの事があったら…」
「な、なんだよ。」
「今日の晩飯は俺が喰ってやるよ!行って来い!」
ファルコニアは重戦車型MSの起動用外部操作スイッチを捻った。
核融合炉の出力ゲージがガンガン上がり、MSのタービンがブン回った!
「チキショー!ファルコニア!呪ってやる!」
シグは沸き上がるMSの核エンジンのパワーを全身に感じながら、必死に制動ペダルを踏み込んでいた。
「だいたいよ!最近、お前、キャラ変わったぞ!」
「いいや!俺は元々、こうなの!」
「お前、もっとシリアスキャラだったじゃねーか!ファルコニア!」
「お前が明るすぎたの!俺は元々、こういうキャラなんだ!」
二人の会話を聞いていたデーター採取の助手がファルコニアの耳元でがなった!
「中尉!いい加減にしてください!先程から、テム・レイ大尉から、早く出せって無線がガンガン入ってますよ!」
「お!おお!すまん。ヨーコ君。」
ファルコニアは傍らに立つ、MS研究班の一員、ヨーコ・ヴァレンタインの黒い瞳を見つめた。
「って、事でな!シグ!さっさと行け!」
「チッキショー!おぼえてろぉぉぉー」
シグが制動ペダルから足を外す。
重戦車の核エンジンの生み出すトルクがその巨大なボディを震わせる。
続いて、加速用のスロットルレバーをゆっくりと押し倒す。
ぐわっとMSはその無限軌道式の車輪を回転させた。
広大な試験場の中央に置かれたコンテナから、1台の連邦製MSが今、発進する。
「RX−75P−3:プロトタイプガンタンク」
巨大な無限軌道型の重戦車型MSである。
FF6−X2の小型核融合炉を2基搭載し、タービン発電機4基、試験用120mmガンランチャーを2基搭載。
その外観はジオン製MSとは似て非なる物であったが、連邦としてのMS研究の草分けであった。
モスグリーンとハイライトグレーに塗られた機体は61式戦車のシルエットを強く意識した物だった。
「大丈夫でしょうか?」
ファルコニアの隣にたたずむヨーコが心配そうに呟く。
「大丈夫さ。」
ファルコニアは試験場に備えつけられた監視用モニターと出力ゲージのデジタル計器を交互に見やりながら、返事を返す。
「中尉、シグ中尉のお友達なのでしょう?心配じゃ無いんですか?」
「あ、ああ。お友達さ。だから、俺の考案した試作機のパイロットを頼んだ。」
「中尉って、自信過剰なんですね。冷たくないですか?それって。」
「…いいか。ヨーコくん。ヨーコ・ヴァレンタイン少尉!シグは俺の設計だから、乗ってくれたんだ。アイツは俺を信頼してくれている。だから俺も奴の信頼に応えられるMSを造った。そうでなければ、シグは最初っから乗ってはくれまい。奴は俺に命を預けたんだ!
誰が造ったか判らん様な、いい加減な機体に大事な友人を乗せられると思うか?奴に何かあれば…」
『よせよ!照れるじゃねーか。』
突如、無線からシグの声が届く。
『ま、そういう事だ。ヨーコちゃん。コイツのコクピットは尻に馴染む。そう感じたから、俺は乗ってるのさ。パイロットの感、って奴かね…
安全な機体、整備が完璧な機体ってのは、ケツが馴染むモンだぜ』
「…すみません。私…」
ヨーコが黒い瞳を潤ませる。
「あ、いや、すまん。言い過ぎた…」
ファルコニアは視線を泳がせる。こういう雰囲気は苦手なファルコニアである。
『あ〜あ、ファルコニア!俺のヨーコちゃんを泣かせるなよ!』
「俺のヨーコちゃん?そうなのか?」
ファルコニアがヨーコを振り返る。
「えっ?そんな…知りません!シグ中尉!いい加減な事、言わないでください!ファルコニア中尉もデリカシーって、無いんですか?」
「あ、いや、その、馴れて無くてな…」
『君達!何をさっきからくだらん事を!データーは取れているのかね!?』
突如、テム・レイ大尉の声が響く。
「はっ、テム大尉!失礼しました。」慌てて、返事を返すファルコニア。
ヨーコは首をすくめて、キャップに瞳を埋めた。
「ふう〜参ったぜ。もうちょっと冷房とか、何とかなんないもんかね。」
一通りのテストメニューをこなし、シグがガンタンクから、降りて来る。
ジャブローの熱帯雨林の気候もあって、彼は全身ズブ濡れだった。
「お疲れさん。シグ。エア・コンはちょっとな。発生電力が全て動力に取られているから、そっちまでは廻らん。ま、その内、核エンジンの冷却装置から電力を廻してやるよ。」
「へぇ、そんな事、出来るのかい?そいつぁ、ありがたい」
「ただ、冷却能力が落ちるから、熱暴走の可能性も高くなるが…」
「お、おいおい!そいつは勘弁だぜ。なら、熱いままで良い。エンジンを零下まで、冷却してやってくれ。」
「冗談だよ。」
「…」
「シグ?怒ったか?」
「なあ、ファルコニア、お前…」
「うん?」
「ちょっと、ブラック過ぎないか?今の。」
「?そうか?」
「そうか?って…」
シグはハァと溜息をつきながら、パイロット控室の椅子に腰を降ろした。
「シグ中尉!お疲れ様!」
明るい声でヨーコ・ヴァレンタインが控え室に飛び込んで来る。
「お!おお!ヨーコちゃん!」
ヨーコは持参したドリンクチューブをシグに差し出す。
「ファルコニア中尉、データーは全てラボに提出してきました。」
「おぅ!ありがとう」
ヨーコとファルコニアの会話の背後で、シグは受け取ったチューブを口元に持っていく。
「うげぇ」
突如チューブの中身を吐き出すシグ。
「!どうした!?シグ?」
シグがヨーコをまじまじと見つめる。
「ヨーコちゃん、これ…」
「は?」
「これ、マシンオイルなんですけど?」
「え?あ、アレ?」
ヨーコがシグの差し出すチューブを受け取る。
「…いやん!間違えちゃった。」
「…」
「シグ…大丈夫か?」
「全く…うぇっ…参ったな…」
「…ったく。」
シグがシャワールームからぶつぶつ言いながら出てくる。
「シグ、彼女も悪気があった訳じゃない。」
「あ、いや、ヨーコちゃんの事じゃないさ。」
シグは先程のヨーコの失敗は全然気にしていないらしい。
懐の大きい男だ、とファルコニアは感心した。
「…?何?」
「いや、俺はさ、パイロットな訳。パイロットってのはさ、空を飛ぶモンだと相場が決まってるの。なんだって、地べたを這いずりまわんなきゃいけのーかと…」
「ああ…そういう事ね。」
「なあ、ファルコニア、話は変わるけど…」
「?」
「何故、ヨーコちゃんは少尉なんだ?ここのラボって、中尉以上じゃ無かったのか?」
「随分と彼女に感心があるみたいじゃないか。」
「いや、その、なんだ。へへ。コミュニケーションって奴だ。」
「ふうん。そんなモンかね。彼女はどうやら、学生からの志願入隊らしい。後、親父さんがどうのとかって…」
「つまり、生粋の連邦兵…」
「プラス、この施設に卒配されて、一歩も外には出して貰って無いんだろうな。」
「なるほど。機密漏洩の心配が無い、特務兵か…」
「そんなトコだろうな。おい、シグ、彼女もいいが、お前にゃ…」
「ファルコニア、ヤボは無しだぜ!」
「…」
その時だった。
ドアを元気良く開けて、ヨーコが飛び込んで来る。
「シグ中尉!コクピットシートのお掃除をしておきました。」
「お!おお!ヨーコちゃん。ありがとう!気が効くねぇ!」
「で、コンソールに挟んであったピンナップなんですけど…」
「え?」
ドキリとした表情をシグが浮かべる。
大方、愛する息子と妻の写真だったのだろう、ヤボなファルコニアでも、瞬時に察し、ニヤリとした。
(シグめ、もう、バレたか。)
「お母さま、お若いんですね。シグ中尉のお若い時と変わらないし…」
「へっ?」
「へっ?」
シグとファルコニアが同時にすっとんきょうな声を上げて、顔を見合わせる。
(こいつぁ…どうなの?ファルコニア?)
(いやぁ、シグ…。今日び、ここまで、素直な子はいないぞ…)
二人のアイコンタクトに独りヨーコはニコニコと愛想を振りまいていた。
つづく。
episode12:「チーム」
時が移った…
ファルコニアとシグが「テム・レイラボ」に配属されてからほぼ、一年の歳月が流れようとしていた…
幸いにもタンクタイプの試作機は大きな事故も無く、「RX計画」は順調とは言えないが進歩はしていた。
そして、いよいよ2足歩行式のプロトタイプがロールアウト目前であった。
この時点で、2足歩行のシステム、オートバランサー、マニュピレーター等々の連邦が最大課題としていた、ジオンの「人型」との基本技術の落差は埋まりつつあった。
個々の技術は最終試験を通過し、統合された基本フレームに装甲が取り付けられる。
そして、銃火気の装備…
現時点で連邦の装備は戦闘機による攻撃戦略がメインであったため、運用MSの目的は中・長距離支援が主となる。
無論、量産化されていない高額機器の為、そのコストパフォーマンスの悪さが前線には当面出せないというのが、最大の理由ではあったが。
又、連邦上層のMS運用についての現実認識の無さが仇でもあり、とにかく2足歩行式MSは「大砲担ぎ」と呼ばれる中距離支援型MSであった。
ブロトタイプMS PRX−76−C3「キャノンボーイ」
前作「RX−75」のシリーズ型式を受け継ぎ、「大砲担ぎ」の愛称から、名付けられた「仮名称」であった。
(但、本機は連邦の様々な研究所にて行われ始めたMS研究の中での「テム・レイラボ」のオリジナル試作機であった為、連邦の財産登録、研究機体としての正式認可は受けてはいない。後のGPシリーズは「登録抹消」されたが、本機は登録さえされていないのである。)
キャノン・ボーイはテム・レイラボのMSハンガーにおいて、組み立てがなされ、いよいよ初動試験が行われようとしていた…
「なあ、ファルコニア…」
「ん?何?」
ラボの屋上に上がり、プカリと煙草をふかす男が二人。
ファルコニアとシグである。
半年ほど前から、二人は屋上には監視カメラも集音マイクも無い事に気付き、テストの合間を見ては屋上でくつろいでいた。
「今度のヤツなんだけど…」
「あ?ああ。アレか…」
「俺、乗るのヤダな…」
「何故?」
「初の2足歩行とはいうが…車輪と違って、こう…縦揺れが、な。」
「ショックアブソーバーはかなり効いているがな…」
「乗り心地もアレなんだが、こう、なんていうか、視界がさ…縦揺れというか…」
「うん?ああ、シュミュレーションはしたのか?」
「操作系はいいよ。良好だ。だが、モニターが縦に揺れると俺は…どうも、酔っちまう…。戦闘機や戦車には無い動きだからな…」
「そうか…。ジオンの連中はどうしてるのかな?」
「俺が思うに、モニターの画像はデジタル処理して、ブレ補正をしているんじゃないか?」
「…だが、人間は裸眼で歩いても、縦ブレはせんぞ…?」
「いや、人間はさ、頸椎というか、首の骨がショックを吸収していて…」
「そうなのか?」
「いや、多分…だけど。」
「凄いぞ!シグ!そうか!そうだよな!」
「なあ、ファルコニア?お前、本当に設計屋か?」
「?。そうだよ。だが、そのアイデアは凄いぞ!シグ!お前の発想は素晴らしい!」
「…お前、本当は人間に興味ないだろ?ファルコニア。ヨーコちゃんにしても…」
「ヨーコ?ヴァレンタイン少尉がどうかしたか?」
「いや、もういい…」
シグは左手を枕にゴロリと横を向いた…
(トニーの奴、元気にしてっかな…。オヤジが突然消えて驚いただろうな…トニー…)
シグの想いを知るはずも無く、ファルコニアも又、別の事を考えていた。
(そうか、頭部支柱にスプリングを…しかし、まてよ?それじゃあ、不安定だし…)
その時だった。
屋上に出る扉がバタン!と開き、ヨーコ・ヴァレンタイン少尉が顔を覗かせた。
「あ、いたいた!お二人さん、オサボリですか?」
両手を後ろに組み、ヨーコが二人に近づく。
「おお!ヨーコちゃん、今日も可愛いね。」
シグがガバリと起き上がり、ヨーコに手を振る。
漆黒の艶やかな髪に同じ深い茶系の瞳、東洋人独特のアーモンド・アイ。
この、大きな丸い目をクリクリとさせながら、ヨーコは可愛らしい口元に微小を浮かべた。
「うふっ。ありがとうございます。シグ中尉!」
「ん?何か?ヴァレンタイン少尉?」
ファルコニアはさして、興味もなさそうに訊ねる。
「ファルコニア中尉、その、ヴァレンタイン少尉っての、止めません?ヨーコでいいですよ。」
「ん?そうか、ヴァレンタイン少尉…」
「ん、もう!」
ヨーコはその可愛らしい頬をプーッと膨らませる。
「ははっ。怒った顔も可愛いぜ。っか?」
シグが横からチャチャを入れる。
「ファルコニア中尉ってホント…」
「ホントっ、鈍感なのよね〜」
ニヤニヤしながら、シグがヨーコを振り返る。
「そ、そんなんじゃ、ありませんっ!!」
シグがカカカっと笑って、再びゴロリと転がった。
「そんな事より、お二人をテム大尉がお探しですよ。」
「?テム大尉が?」
顔を見合わせる二人。
「なんだ?」
「おい、シグ、まさか…」
「えっ?あ、まさか?」
「何かお心当たりでも?」
ヨーコがくすりと笑って、悪戯っぽい瞳で二人の表情を覗き込む。
「あ、いや、その、な。ファルコニア」
「ああ、そうだよな。アレはテストの一貫だからな。」
「??何をしたんです?」
「なあ、ヨーコちゃん、テム大尉は大分怒ってたか?」
「?さあ、私も人から訊ねられただけですから、詳しくは…」
「ねえ、ファルコニア中尉、何をしたんですか?教えてくださいよ〜」
ヨーコはファルコニアの腕を取り、駄々っ子の様にブンブンと振る。
「あ、ああ、ガンタンクのエンジンをちょっと乗せ変えてみたんだ。」
「はあ?」
「いや、だからさ、シグの発案でな、61式のエンジンを計6基程…」
「ろ、6基ぃ?そんなに乗せてどうするんですか?」
「いや、そのシグがさ、テスト場の最高速記録作るっていうから…」
「おいおい、ファルコニア、俺はただ…」
「ただ、なんです?シグ中尉?」
「いや、ただ、ファルコニアには、最高速300km/h出せたらビール奢るって…」
「あ、あきれたぁ〜ファルコニア中尉、ビール一杯で、超軍事機密をチューンナップしたんですかぁ?」
「え、あ、まあ、ビールで乗った訳でもないんだが…」
「で、結果はどうだったんです?」
「結果は俺の負け」
シグががっくりと肩を落す。
「こいつさぁ、リモート操作のロケットブースター積込んでやがって、俺がスロットル全開にしてないのに気づいたら容赦無く噴射しやがった。」
「お陰で、最高時速は700km/h、俺の背骨はま〜だギシギシいってやがる…」
そういいながら、シグは首を左右に振り、コキコキという音をさせた。
「時速700km/hって、航空機なみじゃないですか!しかも、キャタピラで?」
「いや、プースター点火後にキャタピラはぶちきれて吹っ飛んでいったよ…残った車輪でゴロゴロと…」
「はぁ。」
ヨーコは全身の力が抜けた様に唖然としていた。
「男の人って…。」
「男の人って、そんな無茶、よく出来ますね?私なら…」
「…?」
「ねぇ、ファルコニア中尉!その61式エンジンはまだ使えるんでしょ?どこにあるんです?」
「?ん?ああ、エンジンなら俺の試験場だが…?」
「そのエンジン、私にください!」
「はあ?まあ、旧ガンタンク用のモノだから、もう要らないが…」
「えへっ!やたっ!」
「おいおい、随分嬉しそうだな?ヨーコちゃん?そんなエンジン貰ってどうするんだ?」
「へへっー、それは、ひ・み・つ・よ!お二人さん」
「ふーん。ひ・み・つ・か!えへっ。って、教えろよぉ!」
シグが笑いながらヨーコに迫る。
ヨーコはヒラリと身をかわし、ドアの方へ向かって走り出した。
「ファルコニア中尉!エンジンは後で受領しにいきます!それと、テム大尉の方は早く行った方がいいですよ!」
駆け出しながら、ヨーコが振り返って叫ぶ。
それを聞いた二人は顔を見合せ、「ヤベッ」といいながら、ヨーコの後を追ってドアへ駆け出した。
「ご苦労」
テム・レイの普段と変わらない表情に二人は安堵した。
ただ、いつもと違っていたのは、二人が知らない人間をテムが同席させていた事であった。
初めてみるメンバーは2名。
一人は、パイロット用スーツ、もう一人はヨーコと同じ整備用スーツであった。
「紹介しよう」
テムが口を開く。
「テストパイロットのシュガト・グレーフィールド少尉とデーター解析員のシルフィティナス・アリス・コーデリアル中尉だ。君達にはこれから、チームを組んでもらう。」
「シュガト・グレーフィールド少尉であります!」
パイロットスーツの男性が二人に敬礼をする。髪を短髪にした背の高い青年であった。
ファルコニアとシグがやや見上げる様に敬礼を返す。
更に、
「シルフィティナス・アリス・コーデリアル中尉であります。今後とも宜しくお願いします。」
女性研究員が敬礼を送る。セミロングのプラチナプロンドの髪を後ろで束ね、濃紺色のリボンでまとめている。
アングロサクソン系の透き通る様な白い肌に欧米人特有の見事なボディラインはまだ幼い面影を残す顔とは対照的に女性としての、完成度を物語っていた。
二人が(ほっほ〜)という、表情と共に敬礼を返す。
そこへ、資料を山積みに抱えたヨーコが入室してきた。
「遅くなりました。PRX−76の資料をお持ちしました。」
ふぅー、と言いながら、ヨーコがデスクの上に資料を置く。
「ご苦労さん。ヨーコ・ヴァレンタイン少尉。紹介しよう。シュガト少尉とシルフィティナス中尉だ。君達とチームを組んでもらう」
テムの説明に、ヨーコが慌てて、敬礼をする。
「ヨーコ・ヴァレンタイン少尉であります。専門は航空力学及び計装機器シーケンスであります。現在は雑用に明け暮れる毎日でありますが、ゆくゆくは…」
「ヨーコ君、余計な事は言わんでよろしい。」
テムがゴホリと咳払いをする。
「はっ!御丁寧な自己紹介有り難うございます。自分はシュガト・グレーフィールド少尉であります。」
シュガト少尉がピシリと背筋を改めて伸ばし、敬礼を返す。
「シルフィティナス・アリス・コーデリアル中尉であります。ヨーコ・ヴァレンタイン少尉、今後はシルフィと呼んでくださって結構ですわ。」
「あ、はい!私もヨーコで結構です。シルフィ中尉」
ヨーコが嬉しそうに言葉を返す。
「では、自己紹介も終わった所で…」
(え?)
シグとファルコニアが顔を見合わす。
(俺達は?)
だが、その事には当人達意外はさして気にした様子も無く、話は進められていった。
「と、言う訳で、PRX−76−C3にはシュミレーション経験が多いシュガト少尉に乗ってもらうつもりだが、何か?」
テムの説明の一同がうんうんと頷く。
「いや〜もう、大賛成です。テム大尉。」
取り分け、シグは大袈裟とも言えるリアクションで頷いた。
「シグ中尉にはシルフィティナス中尉と共に上空よりデーター取りをしてもらう。いいな?」
「は、了解であります。」シグが嬉しそうに敬礼をする。
「よろしくな、シルフィ。」
「シルフィティナス・アリス・コーデリアル中尉であります。シグ・アニェス中尉」
ピシャリとシルフィ中尉が言い放った。
「あ?いや、シルフィでいいんだろ?」
「貴官に愛称で呼ばれる程、親しくありません。」
「いや、でも、俺達はチームなんだし…」
「チームであっても節度は守って頂きます。今後は一切、略称ではなく、正式な名前で呼んで頂きたい。」
呆気に取られたシグをよそにシルフィは更に続ける。
「それと、この際なので、はっきりさせておきます。連邦軍における女性士官及び兵士の待遇につきましては、私感を述べさせて頂きますが、決して男性と平等には扱われておりません。私は男性と比較される事自体が非常に遺憾でありますが、決して優劣を付けられ、待遇面で差別される事は納得しておりません。従って名前につきましても、私が認めない限りは決して略称、愛称で呼ばれる事を拒否致します。よろしいか?」
「ふぅ〜やれやれだぜ!了解したよ、中尉。御高説ごもっともだ。だがな、そこまで、言うんだったら、現場へでても、泣き言は許さんぞ」
シグが右手の人指し指を立てて、シルフィに迫る。
「望むところですわ。シグ中尉。」
ニヤリと挑戦的な笑みを口元に浮かべ、シルフィがブルーの瞳でシグを射抜く。
「おい、その辺にしておけ。」
テムもヤレヤレといった表情で二人を諫める。
「テム大尉。質問があります。」
「何かね?ファルコニア中尉」
航空機によるデーター取りですが、当研究所にある航空機は全てジェット推進、若しくは「コアブロック」用軽戦闘機タイプですが、2足歩行のMSのデーター取りには速度的に同調しにくいのでは?」
「ああ、それについては、手は打ってあるよ。ヨーコ・ヴァレンタイン少尉、後程、彼らに例のモノを見せてやってくれ。」
「了解しました。テム大尉。」
ヨーコがキビキビと返事を返す。
シグは自分が操縦する予定の機がいかなるモノなのか気になるらしく、ヨーコの耳元で囁いた。
「おい、どんな機体なんだよ?ヘリか?教えろよ。」
「シグ中尉、ブリーフィング中ですよ。それは、ヒ・ミ・ツです」
「ああ、例のヒ・ミ・ツか?何か、嫌な予感がしてきたぞ。」
シグの言葉にヨーコがクスリと笑う。
「というわけで、ファルコニア中尉以下4名は本日付けを持って、PRX−76−C3タイプのテストチームとして、特務扱いとする。以上だ。」
「ハッ!」全員がテムの敬礼に礼を返した。
「シルフィティナス・アリス・コーデリアル中尉、頑張ってくれたまえ。」テムが彼女の肩をポンと叩く。
「シルフィで結構ですわ。テム・レイ大尉。」
ニコリとシルフィが微笑んだ。
背後で、シグのこめかみがピクピクしていた事を知っていたのはヨーコだけであった。
つづく
episode:13「銀翼」
ブリーフィング終了後、シグとシルフィは試験場の隅のハンガーへと向かっていた。
先頭を歩くのはヨーコである。
「こっちですよ!シグ中尉!」
飛び跳ねる様にヨーコがはしゃぐ。
「今、スッゴイモノを見せますからね。」
「へえ、スッゴイモノか!そいつぁ、楽しみだぜ」
3名が建物の扉の前に立つ。
ドアのキーロックを解除するヨーコ。
ガチャン。
重い音を立てて、ロックが解除される。
「随分、モノモノしいな。よっぽどの機密品かい?」
「えへ。それは見てのお楽しみですよ!」
ヨーコがドアを開ける。
3人はその薄暗い建物の中に進んだ。
「なんだか、薄暗くて判んねぇな…おっと。」
シグが足元に引かれたケーブルにつまづく。
「今、照明を点けますね。ええっと…」
ヨーコが壁に取取り付けられた配電盤のブレーカーを引き上げる。
ガチャ。
瞬間、ハンガー内に明かりが灯った。
「おお!こいつぁ…」
「ヨーコ中尉!これは…?」
さすがのシルフィも感嘆の声を上げた。
「えへへ。凄いでしょ。」
ヨーコが誇らしげに胸を張る。
「私のオリジナルなんです。名付けて『銀隼号』」
「へえ!どういう意味だい?」
「私のお母さんの故国の言葉で、『シルバーファルコン』って意味らしいの。古い神話に出てくるらしいわ。」
「ふーん。で、これ、ヨーコちゃんのオリジナル?」
「うふ。お父さんの趣味で、こういうの集めてるの。で、私も子供の頃から飛行機が大好きで、いつか自分の手で作ってみたくて。」
ヨーコがにっこりと笑う。
「だけど、こいつぁ、たいしたモンだぜ。」
シグは非常に感動している。
『銀隼号』はレシプロエンジン搭載型の航空機であった。
乗員は2名。
胴体直下に取り付けられた長い翼が先端で30度程度の角度がつけられた逆ガルウィングタイプの、流麗な機体であった。
後部座席は広いスペースが取られ、データー取り用の器材が搭載されている。
合金製の翼は銀色に塗られ、フロントノーズには隼の鋭い目とくちばしが書き込まれていた。
エンジンカウルが開かれ、中には61式改戦車のエンジンが顔を覗かせている。
これが、「ひ・み・つ」のモノだったに違いない。
「しかし…ヨーコちゃん、こいつぁ、未だ飛行試験はしていないんだろ?」
「あ、それなら大丈夫です。エンジンはファルコニア中尉から譲って頂いた61式改ですが、飛行試験はノーマルの61式で済ませていますから。」
「あ、そう。」
「それに、61式改エンジンとプロペラの同期ピッチはデーター通りに変更していますし、エンジンフード内の防振対策改善してありますので、試験器材への影響はジェットタイプに比べて極小です。それと電気系統が最小限なので、マシンノイズ、電気系ノイズも極小なんですよ。」
「ふ、ふーん。」
突然、饒舌になったヨーコにシグは意外な驚きを覚えた。
「し、しかし、こんなモノ、よくもまあ…」
「うふ、お父さんが色々と。」
「? ヨーコちゃんのオヤジさんって?」
「それは、まだ秘密です。」
「ふーん。秘密が多いんだな。ま、いいさ。久しぶりに空を飛べるんだ。ゴキゲンだぜ!」
何か、引っかかるな、とも思いつつシグの心はすでに蒼空にあった。
「シグ・アニエス中尉、失礼ですが、飛行経験は?」
シルフィが訊ねる。
突然、現実に引き戻されてシグはいささかムッとした。
「ああ、失礼だね。仮にも俺は連邦のエースさ。エースパイロットに飛行経験を聞くのか?それにな、アンタは許可だなんだと言っているが、俺を呼ぶ時はシグでいい!いいな。」
「了解しました。シグ中尉。しかしながら、中尉の飛行経験は連邦採用の戦闘機のみと思われますが、この様なレシプロタイプは?」
「ふっ、入隊時に55時間乗ってるよ。」
「それは何年前?」
「あ?えっと…10年、いや、11年か?」
「…では、私の方がこのタイプの訓練には馴れている様ですね。」
「何?アンタ、パイロット候補生か?」
「アンタ、ではありません。シルフィティナス・アリス…」
「判ったよ!で、どうなんだ。」
「軍の入隊時より航空隊、地上機動隊、医療隊、宇宙機動艦隊所属特務隊を歴任していますが?」
「?なんじゃ、そりゃ。随分タライ廻しにされたんだな。」
シグがニヤニヤする。
シグの言葉に今度はシルフィがムッとした。
「へへっ!図星かい?じゃあ、今回の任務はアンタに操縦して貰うか?」
「それは構いませんが、私が操縦するとシグ中尉がデーター要員となりますが、お出来になりますの?」
「いっ?そ、それは…」
言葉に詰まるシグ。
そんなシグをシルフィが勝ち誇った様に見つめる。
「ああん!もう、二人ともケンカは止めてください!」
ヨーコが慌てて割って入る。
「シグ中尉は最高のパイロットですよ!シルフィ中尉!お願いですから、信頼してください」
「…そうね。ごめんなさい。ヨーコ少尉。私も大人げ無かったわ。シグ中尉、貴官の腕を信用します。」
「お、おお!任せておけって!よし!じゃあ、フライト前の機体チェックといくか!ヨーコちゃん!チェックリストはどこだ!?」
シグの機嫌がたちまち直る。
「はい!」
満面の笑みを浮かべてヨーコがシルフィを振り返る。
シルフィはヨーコにパチンとウインクを送った。
「シュガト少尉、感度はどうか?」
『良好であります。ファルコニア中尉。』
「了解!こちらも良好だ。ヴァージンの彼女に乗った気分はどうか?」
『は?ヴァ、ヴァージンですか…』
「ははっ!若いね!シュガト少尉!ソッチの経験は?」
『い、いえ、まだ、自分は…』
「OK!じゃあ、今回はいい勉強だ!初めての時はリラックスして、優しく扱ってやんな!」
『ハイ!リラックスして、優しく…』
コクピット直通のスピーカーからシュガトが復唱する声が流れる。
(はは、素直な奴だぜ。)
ファルコニアは独りニヤニヤする。
「そろそろ、シグ達も出てくるはずだ…おっと」
ファルコニアのインコムに軽いノイズが入る。
『こちら、シグ。ファルコニア、感度どうだ?』
「こちらファルコニア。シグ、感度良好だ。ところで、お前はどこにいる?」
『へへ、今、お前の頭の上を通過するぜ!ゴキゲンだよ!こいつは!おい、シュガト少尉!ヴァージンの彼女の具合はどうだ』
『…こ、こちらシュガト。ヴァ、ヴァージンは…』
ファルコニアがクックッと笑う。
『シグ中尉、任務中です。それに、女性蔑視とも取れる発言は…』
『へいへい!了解だよ。コーデリアル中尉!』
61式改の爆音を轟かせ、銀翼が煌きながら、ファルコニアの頭上を通過する。
(へぇ、こいつぁ、また…)
ファルコニアも眩しそうに目を細め、蒼空に溶け込む機体をみつめた。
『ファルコニア、シグだ。現在、予定地点に到着。さっさと『大砲担ぎ』の試験をおっぱじめようぜ!』
「了解した。シュガト少尉、聞こえるか?核エンジンの出力と機体震度センサーゲージを確認しながら、前進してくれ。」
『こちらシュガト。了解であります。PRX−76−C3試験開始。前進します。』
ファルコニアの目の前のモニターに映りだした『キャノンボーイ』がゆっくりと歩みだす。
その向こうにはキャノンボーイの歩調に合わせたレシプロ機が優雅に翼を振っている。
「OK、今の処、各間接のセンサーに異常は見られない様だ。シュガト少尉、徐々に歩行速度を上げてくれ。」
『了解』
『コクピットでの振動の具合はどうか?』
シグが割って入る。
『振動はかなりキツいですが、何とか我慢できます。』
徐々に速度を上げるMS。
人間の様に手の振りも大きくなっていくのが滑稽でもあった。
やがて、全力疾走とも思える姿勢で駆け出す。
『ううう。』
「どうした?シュガト少尉」
『…』
「おい?」
突然、キャノンボーイの動きが止まる。
「どうした?シュガト少尉?」
『は、申し訳ありません。振動が…それに、『走行中』に喋ると舌を噛みそうで…』
「了解した。振動はかなり酷いか?」
『はっ!突き上げるカンジがどうも…』
(そうか…壁はまだ厚いな…)
「シルフィティナス・アリス・コーデリアル中尉。データーはどうか?」
『はい。各部アクチュエーターのストレスは相当ですが、限界には達していません。』
「了解。現状、予測できるアクチュエーターの負荷耐久時間は?」
『現状、約5分の走行で、65%程度。予測としては、7分25秒』
「了解だ。戦場で7分のマラソンの機会があるかどうかはわからんが、今のままではパイロットがもたんな。」
『はい、シュガト少尉の身体データーは心肺機能に大きな変動は見られませんが、血圧の上昇と前頭葉の脳圧の上昇が見られます。極度の震動に対する眼底ストレスが原因と思われます。』
「了解した。シュガト少尉。走行試験は一度、終了。5分の休憩の後、射撃テストに入る。」
『こちら、シュガト。了解であります。休憩後、射爆試験場へ向かいます。』
(ふぅー。ヤレヤレだぜ!)
ファルコニアはドサリとシートに腰を降ろした。
つづく。
episode:14「暴発」
試験は射爆試験へと移行した。
PRX−76−C3は右肩に61式戦車の150mm砲2門が装備され、砲塔後部には自動給弾システムが取り付けられていた。
更に左右のバランスを図る為に左の肩には有線式ミサイルポッドが装備されている。
頭部にはモニターカメラには砲塔の発熱から守る為に、大袈裟とも言える遮蔽板が取り付けられており、頭部そのものは正面から見ればモニター用のカメラと集音用マイクがほぼ剥き出しに取り付けられ、色とりどりのケーブル類が見えているという、外観からすれば、かなり不格好な機体であった。
『射爆場到着しました。』
「了解。シュガト少尉、機体を反動センサー付きのベッドへ固定後、150mmを単射、引き続き3連射発だ。」
『了解であります。ターゲットは正面射爆幕でよろしいですか?』
「そうだ、出来れば狙って撃ってくれ。」
『了解しました。機体固定完了。光学スコープ展開…。発射します』
『ヴァージンに乗って早速、発射か!たまんねぇな。ケケケ。』
「シグ、うるさいぞ。お前は撃ち落とされない様に運転してろ!」
『シグ中尉!全く…』
シルフィの呆れ果てた声も入ってくる。
『ケケケ。了解だよ。俺が撃墜される様なヘマするかよ。』
ドォォーン
キャノンボーイの放つ150mm砲塔の爆音が射爆場にこだまする。
『単射完了。引き続き3射』
『おいおい、シュガト少尉、弾ぁ、届いてねえぞ?』
『は?そうでありますか?』
『もうちっと仰角つけろい!』
『了解であります。仰角3度修正…発射!』
ドォォーン
ドォォーン
ドォォーン
150mm砲が3発立て続けに発射される。
『射撃終了。機体異常無し…砲塔2度ズレです。』
「了解。シルフィティナス・アリス・コーデリアル中尉、そちらはどうか?」
『センサーベッドからのデーター転送完了。解析中…。予測反動よりも15%反動大』
「機体固定無しで、行けそうか?」
『直立形態ではどうかしら。反動で、機体がのけぞらなければいいのですが…』
『ケケケ。シュガト少尉。四つん這いになれや』
『は?四つん這い、ですか?』
「いい、いい。シュガト少尉。ならんでいい!」
『は、はい…』
「どう、思う?シグ」
『そうさな。上空から見てる限りじゃ、もうちっと足ぃ、踏ん張りゃいけそうだがな。』
「だ、そうだ。やってみるか?シュガト少尉?」
『了解しました。』
『あ、待て待て、シュガト少尉、片膝姿勢でどうだ?』
『片膝ですか?可能とは思われますが…』
『突っ立ってるよりは安定いいんじゃないか?どうだ?ファルコニア?』
「そうだな。片膝立てて、上体25度前傾姿勢。準備完了後、単射で行こう。」
『了解…えっと…』
キャノンボーイがぎこちない動きで前傾気味の片膝姿勢を取る。
『おお!巧いもんだ!シュガト少尉』
『姿勢固定、単射します』
ズドォォーン
再び発射される150mm砲。
『機体異常無し』
「了解。引き続き、3射」
『了解。3射』
ズドォーン
ズドォーン
と、突然、
『あ!うわぁ』
「?どうしたっ?」
『大変だ、ファルコニア。MSの膝が折れちまったらしい!あっ!』
『あぁ〜』
シュガトの悲鳴が響く。
「おい!どうした?シグ!?」
『ミサイルポッドが暴発した!有線ミサイルが真上に発射された!このままじゃミサイルの垂直落下で直撃するぞ!』
「な。なにぃ!?」
『おい、ヨーコちゃん、聞いてるか?コイツにゃ兵装はついてねえのか?』
慌てた様子でヨーコがインコムに飛びついて来る。
『は、はい、シグ中尉!バルカン50発のみ実弾入ってます!』
『上等!シュガト少尉!今、ミサイル落してやっからな!』
「シュガト少尉!コアブロック射出しろ!」
ファルコニアが叫ぶ。
『そ、それが…センサーベッドに上半身が当たって射出出来ません!』
「くそ!シグ!ミサイルは計24発だ!持ち数、50発だとキツイぞ!キャノンボーイの上空ミサイルのみ狙えるか?」
『任せときな!俺はエースだ!」
シグの操る「銀隼号」がタタン!タタン!と、機種右舷に取り付けられた機銃から2発ずつ弾丸を発射する。
空中で次々と命中し、爆発していくミサイル群。
『お願い!シグ中尉!シュガト少尉を助けて!』
ヨーコの悲鳴にも近い声がスピーカーから響く。
『シグ中尉!3時方向に4発!』
シルフィの声も叫びに近い。
『チキショウ!間にあわねぇ!おい、シュガト少尉!射出レバーを引いてろよ!』
『は、はいっ』
『シルフィ中尉!貴様の命を俺に預けろ!』
『シグ中尉!な、何を!?』
シグは銀隼号をバンクさせるとミサイルの真下に向かって突撃させた。
『ば、馬鹿な!シグ中尉!気は確かですか!』
シルフィが叫ぶ。ミサイルは既に落下体制に入っており、自分の頭上だった。
『だぁーてろっ!』
いうやいなや、シグはクンッと機体を再びバンクさせ、ミサイルワイヤーをその翼に引っかけた。
『南無三っ!』
シグはヤイヤーを引っかけたまま、キャノンボーイの上半身側へ機をバンクさせる。
有線ミサイルのワイヤーがビンッ!と張られ、続いて、ミサイルの軌道が変わる。
『よしっ!後は天に祈って、射出レバー引いてろよ!』
シグが叫ぶ。
『はいっ!』
シュガトはそのコクピットの中で、目を見開き、モニターに映るミサイル群を凝視していた。
そう、彼は生きる為の機会を逃しはしまいとしていた。
軌道を変えられたミサイルが着弾する。
1発目と2発目はキャノンボーイの射出を妨げていたセンサーベッドに着弾し、ベッドを粉々に粉砕した。
3発目がキャノンボーイの上半身を直撃する!
ミサイルの爆発によって粉砕される上半身。
『今だ!シュガト少尉!生きてたら、射出レバーを思いっきり引け!』
上空からシグが叫ぶ。
『うおおおおぉぉぉぉぉっー』
野獣の様な咆哮とともにシュガトは渾身の力で射出レバーを引いた!
ボロクズの様な上半身がセンサーベッドの残骸を押し退け、射出される。
更にシュガト少尉の乗るコクピットパーツがジェット噴射と共に射出された!
<コアブロックシステム>だった。
そして、4発目のミサイルが数秒前迄、シュガトがいたスペースへ着弾した…
つづく
episode:15「シュガト」
『俺は…何処にいる?』
『ここは…どこだ?』
(暗い…)
(寒い…)
シュガトは今、自分が何処にいるのか、理解出来なかった。
全ては闇に閉ざされ、何のいらえも無い。
『うっ…』
再び意識が闇に飲まれた…
再び彼が自我とおぼしき意識を取り戻した時、彼の眼には懐かしい風景が広がっていた…
風のたなびく草原。頭上には巨大な天窓と星々の海…
大地のはるか彼方に大きな宮殿が見える…
『ここは…?まさか?故郷…』
『馬鹿な、俺は地球に降りたのだ。己の過去を消し去り、己の信ずる道を生きる為に…』
『そうだ…俺は奴らに復讐する為に…友と両親の仇を討つ為に…』
『俺は…死ぬのか?このまま…何も出来ずに…』
『大丈夫』
『?』
突然の声にシュガトは驚いた。
と、自分に一筋の光が差し込まれるのを感じた。
やがて、一筋の光は徐々に明るさと大きさを増し、シュガトの体を包み込む。
『誰だ?』
天よりそそぐ光の中に一人の青年がたたずんでいる。
『お前は?…ニードルス!』
そう、逆光の中で顔こそはっきりとは見えなかったが、それは紛れもなくシュガトがかつて親友として青春を分かち合った男。
レイニス・ニードルスであった。
『お前なのか?お前は死んだんじゃ…』
『そう、肉体はもう無いんだ。シュガト。でもね、君とはこうして、いつでも会えるよ』
『何故?』
『僕は母なる惑星(ほし)に帰ってきたのさ。僕の魂は安らぎの中にある。そして…』
『そして…?』
『判ったのさ』
『判った?何が?』
『僕は君の存在している世界で肉体を失う寸前に気がついたのさ、(人は判りあえる)って事に。』
『…?』
『今に判るよ。シュガト。こうして僕と会えていると言う事がそういうことなのさ』
『ニードルス!お前は何故死んだ!?俺の捨てた故郷では、お前は地球侵攻の先発隊として、地上運用試験中に死亡とされていた!だが俺は知ったんだ!俺の両親はジオン・ダイクンの側近だった為に、ザビ家に暗殺され、そしてお前の地球侵攻作戦そのものも、ダイクン家に近い家柄の為に仕組まれた罠だった事を!』
『シュガト…復讐は何も生みはしない。新しい息吹がもう、地球でも、宇宙でも萌えいでようとしているんだ。もうすぐ、新しい風が吹くんだよ…』
光の中のニードルスが悲しそうな表情を浮かべる。
『俺は、俺の信念の為に闘う!教えてくれ!ニードルス!お前は何故死んだっ!?』
『シュガト、憎しみは捨てて。一つだけ教えておくよ。僕は肉体を失った事に未練は無いんだ…。だけどね、シュガトが知りたいというのなら、教えてあげる。僕の死は…君のそばに居る人が知っている。翼を持った人さ…』
『!?…誰だ!?誰なんだ?教えてくれ!』
『それは…君が判りあう事さ…さあ、君の天使が迎えに来たよ。シュガト、もう戻らなくては。君を心配する人々の温もりを感じるだろう?』『それは生命の息吹なんだ…』
そういうと、ニードルスは光の中へ溶け込んでいった。
『ま、待ってくれ!ニードルス!』
シュガトの身体を包んでいた光がやがて細くなり、消えていった。
そして、シュガトの意識も光が消え去る様に闇の中に埋没していった…
23:00 ジャブロー医療センター ICU室
「よお!ファルコニア!奴の容体は?」
「シグか、報告は済んだのか?」
センターの通路にしつらえられたベンチに座るファルコニアにシグが近づく。
「ああ、今、シルフィ中尉が報告を行っている。テム大尉の憔悴振りは見てて気の毒だぜ」
「テム大尉か。このショックはデカイだろうな。」
ファルコニアもシグも知っていた、テムが力を落しているのは、シュガトの負傷よりも試作MSを失った事が大きい事を。
だが、誰もテムを非難するつもりは無かった。
誰よりもMSに固執する、執念とも情熱とも呼べるテムの姿は鬼気迫るものがあったからだ。
テムは誰よりもMSを愛していた。
「で、どうなんだ?」
「あ、ああ。生命に別状は無いそうだ。ただ、意識が戻らん…。射出時に頭を打ったらしい。」
「そうか、油断はできんのか…」
厳しい表情を浮かべるシグ。
そして、声のトーンを変えて、続けた。
「そういや、ヨーコちゃんを見掛けないんだが…?」
「ん?」
そういうと、ファルコニアは無言でICU室のドアを顎でしゃくった。
「え?」
慌てて、シグがドアのガラス越しに病室を覗き込む。
「ゲッ!」
横たわったシュガトの側に寄り添う様にヨーコがその手を握りしめ、ジッとシュガトを見つめている。
「おい。ファルコニア、これは、どういう事?」
「ん?俺に聞くな。ヨーコ少尉はああいう子なんだろ。優しいのさ。」
「…は、はは。そうだよな、な、な。」
「俺に聞くな。」
しばし、二人の間に沈黙が訪れる。
「ちっ!後は若い二人に…か。」
「俺達にゃ、何もできんよ。」
「…だな。」
二人は何気なく胸ポケットから煙草を取り出し、互いに火を点けあった。
「ふぅ〜」
紫煙を吐き出す二人。
と、
「何をされてるんですか!ここは病院ですよ!」
シルフィの声が響き渡る。
「あ。」
「あ。」
慌てて煙草の火を揉み消す二人。
ツカツカと二人の元に歩みより、シルフィはそのしなやかな腰に手を当ててまくし立てる。
「中尉!貴方達には常識というものがないんですか!」
「あ、いや、はは。な、ゴメン。」
「うん。ゴメン。」
「ったく、飛行技術も目茶苦茶だと思ったら、日常行動も目茶苦茶ですのね。」
シルフィがキツイ台詞を放つ。
「ンだとぉー、俺の鮮やかなフライトテクのどこがっ!」
「シグ中尉、ここは病院です。大きな声は出さないで頂きたい」
「くっ。」
「それにあの状況での行動としては、見習うべき点はありません。むしろ、冷静に考えれば状況回避のパターンは他にもあったはずです。」
「回避?それは、どういう意味だ?」
「シグ中尉はエースパイロットでいらっしゃるのでは?そのくらい、御自分の頭とシミュレーターでも使って解析頂きたいですわ。」
「状況回避とは、どんなパターンを想定しているのだ!?」
だが、シルフィにはシグの言葉は届いていない様だった。
じっとシグを見つめるシルフィ。
「しかし…」
シルフィの薔薇色の唇が僅かに動く。
「ん?」
「結果的に全員が無事という、事実は私も認めます。」
「んん?」
「シュガト少尉は私の同期パイロット、そして友人です。助けてくださってありがとうございます。」
そういうと、シルフィは深々と頭を下げた。
この意外な展開にたじろいだのはシグであった。
「あ、いや、まあ、俺もな。悪かったよ。恐い思いをさせて…シルフィティナス・アリス…」
シグがしどろもどろと答える。
すると、シルフィがにっこりと微笑みながら、答えた。
「シルフィと呼んでくださって結構ですわ。シグ中尉。」
再び意識が戻った。
「ん?」
シュガトはぼんやりと眼に映る白い天井を眺めていた。
「ニードルス…?天使…?」
ふと、自分の右手に温もりを感じる。
(ここは…あったかいな…)
何気なくシュガトは想った。
そして、視線を右手の方向に向ける。
そこには、大きな瞳に涙を一杯に溜めた天使が微笑んでいた。
ヨーコ・ヴァレンタイン少尉であった。
「天使…」
何気なく呟くシュガト。
「え?」
大きな瞳が一層見開かれる。
そこで、シュガトはハッと我に返った。
「え?今、自分は何と…?」
みるみる真赤に染まるヨーコの頬。
同時にシュガトも自分の顔が火照って行く事を自覚した。
「や、ヤダーッ!もう!!」
ヨーコはシュガトの手を振り払い、その耳まで染まった顔を隠そうと、シュガトの横たわるベッドのシーツを引っ張った。
「うはぁ」
突然シーツが引っ張られ、シュガトはゴロンと転がされ、ベッドからズリ落ちた…
ズドン…
シュガトの意識は再び深い闇に落ちていった…
つづく。
episode16:「黒い野望」
テムの元に一通の極秘通信文が届いたのは、試作MSの事故から更に3カ月後だった。
***********************************************
宛 テム・レイ大尉 (S−AAA指定)
ワレ ゲツメンサイセキコウブツノ セイセイニセイコウセリ。
サラニ ゲツメンニオイテ シンソザイヲカイハツセリ。
「ルナチタニウム」ト ナヅク。
ドウソザイハ ジュウライゴウキンニクラベテ ケイリョウ デアリ キョウドハ スウバイ。
ヨッテ モビルスーツカイハツニユウコウトカクシンス。
タダシ ドウゴウキンノセイサンハ「トクシュジョウケンカ」ニオイテノミ セイセイガカノウ。
ゲンザイノセイセイコウテイジョウノセイコウリツハ35%イカ。
キカンノ ケンキュウニ キエ デキルコトヲ セツボウス。
発 ベルリン新素材研究開発センター長 レイドニック・イルヒシュターゼン
***********************************************
この通信文を読み、後から送られて来た小包の中身を見て、テムは飛び上がった。
そして、それから1週間、テムは設計室から出て来なかったのである。
事故から3ヶ月。
ファルコニア達はそれぞれの任務に明け暮れていた。
シグとシュガトはMSシミュレーターに張り付きとなり、訓練を重ねていた。
ヨーコとシルフィは彼らの生体データーを取り続ける。
そして、ファルコニア…
彼も又、設計室に籠もっていた。
「ルナ・チタニウム」の開発成功の報を受け、テムが中・遠距離支援機では無い、近距離格闘用のMS構想をブチ上げたからである。
テムはファルコニアを自室に呼んだ。
「ファルコニア中尉。これを見たまえ!新しい素材だ。頑強にして軽量。これほどMSの装甲に向いた金属があるかね?素晴らしい。
全く素晴らしいよ!私はこの金属を「ガンダリウム」と名付けた。新しいMS「ガンダム」の為にね…」
「は、はあ。『ガンダム』…ですか??」
「そうだ!ガンダムだ!はははは。ゾクゾクしてきたぞ!ガンダムはがジオンの人型を遥かに凌駕するのだ!」
「…ところで、テム大尉。自分を呼ばれた理由は?」
「おう!そうだった。ファルコニア中尉。君はジオンの人型をその目で見たね。」
「はい。」
「その経験を生かして、兵装と情報収集システムの基本概念を構築してほしいのだ。無論、基本設計は私がする。」
「は、はあ。」
「ガンダムは接近格闘用のMSだ。それなりの兵装は必要だろう。…そうだ。君には特別に連邦の機密技術へのアクセス許可をやろう。充分に検討してくれたまえ。」
「は、はあ。了解しました。」
「なんだね?返事が明快でないな。何か疑問か?」
「いえ、そういう訳ではありませんが…。私の好きな様にしてよろしいのですか?」
「君、モノを生み出す力とは自由な発想からだよ。民間出身の君は軍専属の連中より遥かに考え方が柔軟だ。」
「…ありがとうごさいます」
「ブースター付きのタンクとか、ね。」
「いぃ?大尉!御存知でしたか!?」
「はは、ここは私のラボだ。情報はいくらでも入るよ。」
「はっ!失礼しました。」
「いい、いい。技術屋とはそうで無ければ、な。」
「はい!有り難うございます!大尉。では、失礼します。」
「ああ。あ、それからな、中尉」
「は!」
「当分、私の部屋には誰も入らん様に通達しておいてくれ。」
「は!了解であります。」
敬礼して、ファルコニアはテムの部屋を出た。
通路に出たファルコニアはスキップを踏みながら、自室へ戻っていった。
新しいコンセプトの近接戦闘用MS。
ファルコニアは心が踊った。
そして、様々なアイデアを書き出していく…
更に特別許可を貰ったデーターベースへのアクセス権を行使し、様々な技術の検討を重ねていく。
そして、何点かに絞ったアイデア。
・モニターセンサー類の複数化。
・学習機能型コンピューターの採用。
・エネルギーCAPシステムの採用による携行型ビーム兵器の開発案。
・近接戦闘用武装の開発案。
これらは全てジオンの人型をその目で見、そして実際に戦闘を行った彼ならではのアイデアであった。
ジオンのザクは単一型モノセンサータイプだ。
つまりは「目」を潰されれば、行動が不可能になる。
だからこそ、ファルコニアは新しいMSに一対のデュアルセンサーを与えた。更にサブカメラ。
複数独立化しておれば、例え、接近戦で「目」を片方潰されても、戦闘は継続できる。
結果、新しいMS「ガンダム」は非常に人間に近い風貌となった。
さらには学習能力型コンピューター。
ジオンと比べて、MS技術に遅れを取る連邦にとって、パイロットの養成は急務であろう。
しかし、連邦の上層部にとっては、「人型兵器」は未だ「未知の兵器」であり、その実用性についての認識は皆無に近い。
テムは戦闘用の兵器を想定しているが、連邦上層部にとっては、せいぜい「貨物輸送」だとか、「重作業用」のパワードスーツのイメージ程度であろう。
だからこそ、試作機のデーターを即座にフィードバックし、リアルタイムにデーターを蓄積、解析、学習、応用できる高機能コンピューターの開発をファルコニアは発注した。
(彼は決してマルチではなく、専門分野以外は殆ど、無知に近い)
このコンピューターの搭載により、連邦のMSはデーターを蓄積するにつれ、高性能化していき、パイロットの技術不足、経験不足を補ってくれるはずだ。
又、搭載コンピューターが学習していく事で、パイロットは自分の癖を機体を教え込む。
パイロットの動きが予測できれば、コンピューターが機動補助してくれる。
そうすれば、パイロットは徐々に余計な操縦負担を課されなくて良くなる、という理屈だった。
エネルギーCAP技術は連邦のデーターベース、宇宙艦隊所属の研究開発部署にその概要が記されていた。
従来、宇宙用巡洋艦、駆逐艦等に使用されている艦砲ビーム兵器を小型化しようという、技術理論であった。
ザクのマシンガン、バズーカー,ナパーム等の兵装を目の当たりにしていたファルコニアは、宇宙戦闘は無論、地上戦闘での兵器に関する影響を念頭に置いていた。
つまり、空気摩擦、重力下において、実弾兵器は決して直進はしない。よほどの大型標的か、熟練者でなければ、「狙って」「当てる」という事は難しいのだ。
それに比べてビーム兵器は限りなく直進性が認められる。無論、大気内においては、大気中のプリズム効果や、粉塵等において、若干の歪み等は認められるが、大容量のエネルギーであれば、充分にビームの分散化、湾曲化は抑えられる。
また、直進性を重視する事は「狙って」「当てる」事、そして、敵MSの「核エンジン」への直撃、破壊を意図的に避けられる、と言う事も示唆できた。
様々な検討を重ね、ファルコニアはCAPシステムの研究部署へ連絡をとった。
通信に出た担当管はMSの開発説明をした時に、相手にせず、通信を切ろうとしたが、たまたまその場に居合わせた、技術将校はファルコニアの話に興味を持った。
そして、テムの名を出すと、技術将校は言い放った。
『何?テム・レイ大尉の特命か!?ははは。私はてっきり、連邦の小咄慰安かと…。すまなかったな。早速、検討会議に掛けよう。安心しろ。私はこの技術に絶対の自信を持っているよ』
通信を切り、ファルコニアが呟く。
「ヤレヤレだぜ」
そして…
「御苦労。首尾はどうかね。」
歪んだ口元がニヤリと笑う。
「は。テム・レイ大尉が新しいMS開発に着手した様です。」
「…そうか。」
「何やら、新素材の開発が完了したとかで…」
「新素材?その様な情報は入っておらんが?」
「は、何でもベルリンよりテム大尉の元に私信に近い情報としてもたらされた様であります。」
「そのサンプルは?」
「は、申し訳ありません。警備が思った以上に厳重な上、データーにもアクセスできません。」
「くっ、役立たずめ。」
「…」
「まあ、いい。それより連中はどうか?」
「は?連中とは?」
「私をコケにしてくれたファルコニアとシグだよ…」
「…はっ。ファルコニア中尉は新MSの設計。シグ中尉はシミュレーターと試作機のテストの繰り返しで独自のMS運用理論を展開しつつあります。」
「くっ、レビルめが。私にいちいちと意見しおって…。そうでなければ、今頃はとっくに始末していたものを。」
「あ、あの…准将。」
「何か?」
「私はいつまで、この任務を…」
「…?何だ、貴様、もう、嫌になったというのか?まさか、連中に情が移った訳でもあるまい?」
「…」
「ふざけるなっ!貴様は私の飼い犬なのだ。飼い犬はおとなしく言う事を聞いていれば良いのだっ!」
「…はっ。」
「ふふふ。それで良いのだよ。貴様が家族の生命を大事に思うならば、な。」
「…」
「貴様はこのまま、情報収集に努めろ。そして、早急に新素材とやらのサンプルを入手するのだ。」
「はっ…」
「くくく。レビルのMS計画など、この私がヒネリ潰してやる。そして、奴を将軍の座から引きずり降ろし…」
准将−ランサム−は、報告に来た士官の耳元で囁いた。
「良い事を教えてやろう。ジオンはもうすぐ動くよ。そして、コロニー郡を制圧し、地球総攻撃を開始する。くくく。私は現在、建造中のペガサス級を手土産にジオンへ赴く。そして、ジオンの地球制圧後は私が統括官として、地球に君臨するのだ。ククククク。」
「その為にも、貴様には働いて貰わねばならん。連邦のMS開発を少しでも遅らせ、ジオンへの抵抗力は削らねばな。」
「…!」
「いいな。貴様はテム、ファルコニアに近づき、MS情報を盗み出せ。『女の武器』を使って、でもな…クククク」
「…准将、一つだけ、お聞かせください…。父と妹は無事なのでありますか…?」
「飼い犬がっ!ふん、まぁいいだろう。ここまでの貴様の働きへの褒美として教えてやる。貴様の父はオーストラリアに駐留中だ。そこで、私の特使として、ジオンとの密約を取り付けに行っている。無論、君の父は何も知らんがね。書面のサインは全て君の父上の名で署名されている。いざとなれば、売国奴として、処分はいつでも可能だ。ククク。」
「…」
「何かね?その目は?最近の飼い犬は礼儀を知らんらしい。御褒美を頂いたら、「ありがとう」というのが、礼儀だろうっ!」
と、ランサムは突然、下士官を蹴り上げた。
「うっ…グフッ。ゴホッゴホ…」
腹を抑え、うずくまる下士官。
「いいか!貴様は「影」なのだ。それをわきまえろっ!貴様の替わりなぞはいくらでもいると言う事を忘れるなっ!」
「…失礼しました。」
「影」と呼ばれた下士官は血が滲み出るほどに、下唇を噛みしめていた。
圧倒的な屈辱に耐えてでも、守らねばならないものがあった。
父と妹。
大事な肉親をランサムの巧妙な搦手で人質に取られた今、自分はランサムの言いなりになるしか無かった。
彼女は光の見えない、暗闇の迷宮を永遠に彷徨い続ける感覚に襲われていた。
つづく。
episode17:「心の翼」
「よお!ファルコニア!久しぶりだな!」
シグが笑顔で彼を迎えた。
−食堂−
ファルコニアは自分の食事を受け取ると、シグとシュガトの座るテーブルに近づいた。
「よお!シグ。相変わらず、元気そうだな。」
「あたりめぇよ!聞いてくれよ!戦闘シミュレーターでやっとシュガトに勝てたんだぜ!」
「ほお?シュガト少尉はそんなに達者なのか?」
ファルコニアがシュガト少尉の方を見る。
「おうよ!シュガトのカンはスゲーぞ。まるで、MS搭乗の経験があるみたいだ!」
シグがすかさず答える。
すると、シグの台詞を聞いていたシュガトは突然むせ返った。
「ブッ!ゲホッ!ゲホッ!な、何を言い出すんですか!シグ中尉!自分は…」
「あはは。いいよ!いいよ!謙遜しなくても、案外、堅い様に見えて、ゲームオタクなんだろ?」
「は?はぁ…」
シュガトが所在なさげにキョロキョロとする。
ファルコニアはハハハ、と笑いながら席についた。
「ところでよぉ…」
シグが神妙な面持ちでシュガトに訊ねる。
「シュガトは彼女の事、どう、思ってるんだ?」
「は?か、彼女と言いますと?」
「決まってんだろ!ヨーコちゃんだよ!大砲担ぎの事故からこっち、随分と仲がいいじゃねぇか。」
「ち、違いますよ!じ、自分は…」
「おい、シグ、止めとけ。」
ファルコニアが割って入ろうとすると、シグはパチンとウィンクを返した。
「じゃあ、何か?シュガト少尉はヨーコちゃんを何とも思ってないのかい?」
「あ、いや、その…ヨーコ少尉は…その…とても可愛らしい方だと思います…」
シュガトが耳まで真赤にしてモジモジと答える。
そんな様子をみていたシグは上機嫌そうに笑った。
「かはっ!参ったね。こりゃ!若いってのはいいなあ。よぉ!どうだい?ヨーコちゃんをモノにしちゃあ?シュガト少尉だったら、俺は譲ってもいいぜ!?」
「そ、そんな…譲るとか…モノにとか…」
「カカカッ!おいおい!パイロットってのは、いつ死ぬかワカンねぇんだ!この世に未練を残すと、いざって時に、成仏できねぇぜ!な〜に、俺の方は構わねぇ。ちょっと、スカした所もあるが、シルフィ中尉も中々の上玉だ。向こうっ気がつええのも、ジャジャ馬慣らしだと思えば、又オツってもんだぜ!な。ファルコニア?」
「お、おい…シグ、よせ。」
「なんだよ!ホントの事だろ?それとも何か?ファルコニア、お前、シルフィの肩もって、取り入ろうってのか?お前にゃ、無理だよ。アノ、ジャジャ馬はな。」
「シグ…」
ファルコニアはシグに目配せをする。
そう、シグの後ろにはシルフィが鬼の形相で立っていた。
「うお!シルフィ中尉…あは。あのぅ…どの辺から…」
「向こうっ気がつよいのも、ジャジャ馬慣らし、辺りからですわ。シグ・アニェス中尉。」
「いや、何、その…。言葉のアヤって奴さ。怒るなよ。な。元々はシュガトが…」
「シグ中尉!自分は…!」
シュガトが慌てて飛び上がる。
「シグ中尉。初めてシュガト少尉に勝てたからって、あまりのぼせ上がらないでください。」
「お、俺は…別に…」
「それに、私は男性には興味ありません。ガサツで、自分本位で。特にパイロットにはその傾向が強い様です。」
「自分もパイロットだろうに。」
シグもすかさずやり返そうとしたが、シルフィは取り合わなかった。
「まあ、その辺にしとけよ。二人とも。ところで…」
ファルコニアはまあ、座れよ、とシルフィを促す。
「ヨーコ少尉の姿がみえんが?」
「ヨーコ少尉なら、テム大尉の元へ行っております。」
「テム大尉の所?何か報告事項でもあったか?」
「さぁ?ただ、テム大尉に確認したい事がある、とは言っておりましたが…」
「ふぅ〜ん」
ファルコニアは無関心を装いながらも、何か引っかかるものを感じた。
テムの御籠りは日常茶飯事ではあったが、籠もった状態のテム訪問はよほどの覚悟がいる。
全く相手にされないか、何時間も待たされるか、怒鳴り散らされるかの何れかであったからである。
だから、よっぽどの緊急事態が無い限りは誰も近づきたがらなかったからだ。
「ところで…あの、みなさん。」
突然シュガトが口を開く。
「翼を持った人、とはどういう事だと思われますか?」
「?」
突然のシュガトの言葉にその場にいた全員が首を傾げた。
「なんだい?突然。哲学か?」
シグが言う。
「あ、いえ、自分の古い友人が夢枕に立ちまして…」
「おいおい、怪談じゃねぇだろうな?」
「あら、シグ中尉は怪談がお嫌いですの?」
「別、好き、とか嫌いとかじゃ、ねぇが…」
その表情を見て、シルフィがニヤニヤする。
「翼を持った人物を探せ…と。」
「ふう〜ん。で、翼を持ってると、何があるんだよ?」
「あ、いえ…その…」
シュガトは言葉を濁らせる。
「翼…どういう意味でしょうか?」
シルフィが呟く。
「そりゃぁ、パイロットだろう!パイロットは翼の上に立ち、心はいつも蒼空にある。心にも翼を持っているのさ」
シグが誇らしげに言った。
「シグ中尉の場合は女性では無くて?でも、案外、詩人でいらっしゃるのですね。」
シルフィが言う。
「ケッ!心と身体は別モンだよ!」
シグがやり返す。
しかし、シルフィは何も聞いていないかの様に言葉を繰り出した。
「心と翼…翼を持った…。何にも捕らわれない、自由な発想の持ち主、って意味にもとれません?」
「…」
シュガトは深く考え込んでいる。
「…ヨーコ少尉の様に、空を純粋に愛する心かもしれんな。」
ファルコニアが何気なく呟く。
すると、シグがガタッと椅子から立ち上がった。
「それだよ!シュガト少尉!やっぱり、ヨーコちゃんをモノにしろ、って友達も言っているんだよ!そうだ!そうだ!それで、納得できるじゃねーか!」
「…え?そ、そうでしょうか?」
「はは!何を照れてんだよ!そうに決まってるって!いい友達をもったな。うん、友達はいい!」
シグは再び腰をおろすと、一人、物思いに耽った。
「あら?シグ中尉、中尉はヨーコ少尉に御執心だったのでは?」
「ああん?いいんだよ。シルフィ中尉、シュガト少尉さえ、その気になってくれりゃ、俺はいつでも、諦められるの。」
「…そういうものなんですか?」
「シルフィ中尉にゃ、恋の経験が無いな?恋はいいぞぉ。心が豊かになる。」
「…。そういうモノですか?私は恋なんてしなくても、いつでも心豊かですわ。」
そういいながら、はいはい、といった感じで、シルフィが席を立つ。
「おーい!シルフィちゃん。俺と恋をしよ〜ぜ〜」
シグがすかさずシルフィの背中に声を投げる。
シルフィは背を向けたまま、右手だけを振って、遠ざかっていった。
「ふ〜ん。」
「?なんだよ。ファルコニア」
「彼女も随分と丸くなったな。」
「ん?そういや、そうだな。ちょっと前なら、トレイが飛んで来てたぞ。これも、俺の魅力の成せる技かね。」
シグがそういうと、ファルコニアとシュガトは一斉に席を立った。
「な、なんだよ。おい、ファルコニア、シュガト!」
立ち去る二人の背にシグが声をかける。
すると二人はシルフィ同様、右手だけをヒラヒラとさせて立ち去っていった。
「ファルコニア中〜尉」
ヨーコがファルコニアの元を訪れたのは、夕刻になってからだった。
「おう!ヨーコ・ヴァレンタイン少尉!今、御帰還か。」
「はい。」
「テム大尉に噛みつかれなかったか?」
「あは。御存知でしたか。」
「ああ、飯の時にちょっとな…ところで…」
「?はい?」
「臨戦体制のテム大尉に何の用事だったんだい?」
「…。それは…。軍事機密ですよ!」
「…機密か。まあ、いいや。所で何の様だい?」
「えへへ。ファルコニア中尉、『ルナチタニウム』って、何ですか?」
「…どこでそれを?」
「え?テム大尉から…」
「ふぅーん。それこそ、超軍事機密なんだが…?」
「だって、テム大尉のお部屋はいろんな資料が散乱してますから…」
「はは。確かに。それで、ソイツが何か?」
「え、いえ、どんな金属かな?って思って。新しい飛行機の素材にとか…」
「あはは。なるほど。でも、そいつは無理だ。」
「無理?」
「ああ、アレは月面でしか鉱物採取出来ない上に、宇宙空間でしか精製出来ない。コストがバカ高いから趣味の材料には向かないな。」
「そうなんですか…。」
ヨーコは後ろ手に腕を組、足をブランブランさせた。
「…」
黙り込むファルコニア。
「ねぇ、ファルコニア中尉?」
「ん?」
「その金属サンプルって、見られません?」
「サンプルはあるが、テム大尉の所だぞ。随分と御執心だな。」
「え、いや、まぁ…。開発付としては…」
「なるほど、勉強熱心なんだな。」
ヨーコが頬を薔薇色に染めて俯いた。
「いやぁ、それほどでも…」
えへへ、といいながら、頭を掻くヨーコ。
「ま、アレの事は諦めた方がいい。機密ランクがスーパーAだ。」
ファルコニアは必死に話題を変えようとしていた。
機密漏洩を防ぐには、同じチームのメンバーであっても、隠し通さねば事もある。
「なあ、ヨーコ・ヴァレンタイン少尉…」
「はい?」
俯いたヨーコがニッコリと微笑みながら、顔を上げる。
その無邪気な瞳にはファルコニアが赤面する番だった。
「そのぉ、何だ。シュ、シュガト少尉の事…なんだが…」
「?はい?シュガト少尉が何か?」
「あ、いや、こんな事を言うのも何だが…。彼はいい男だ。」
「?何です?急に?」
「えっ?あっ、いや、シュガト少尉とは会っていないのか?」
「はい。今日はまだ…」
「ん!そうか!なら、いいんだ。今のは忘れてくれ。」
「…??はい。変ですね、ファルコニア中尉。ふふっ。顔が真赤ですよ。」
「えっ?いや、そのぉ、はは。エアコンが熱いのかな。はは。」
壁際のコントローラーに歩み寄るファルコニア。
「はは。エアコン、入ってないや。」
「??変な中尉。では、失礼します。」
「あ、ああ。」
ヨーコが部屋から出ていく。
「…結局、何だったんだ????」
ファルコニアは一人首を傾げた。
つづく。
episode:18「開戦」
UC0079 01 03
突如として、ジオンは地球連邦に対し、宣戦を布告した。
後に一週間戦争と呼ばれる戦闘はジオンが宇宙に浮かぶスペースコロニー群、サイド1,2,4を電撃的に制圧した。
この際、ジオンは密かに量産化し、溜め込んでいた人型兵器「モビルスーツ」を展開し、BC兵器と呼ばれる有毒ガス兵器までをも使用して、迅速且つ、圧倒的に戦略を進めていった。
そして…
UC0079 01 08
ジャブローは蜂の巣をつついた様に大騒ぎになっていた。
なんと、ジオンがコロニーの一基を地球に向けて降下させはじめたという情報が入ったからである。
狙いは連邦本部が設置されているジャブローであることは明白であった。
宇宙軌道艦隊より報告を受けた連邦上層部は我先にとジャブロー脱出プランを練りはじめた。
コロニー落としの情報は連邦上層部のみがの知る所とであり、殆どの兵には知らされては居なかった。
表向きは混乱防止の為の箝口令とされていたが、結局の所、連邦上層部にとっては、「自分さえ」生き残れれば、良かったのである。
そんな中でも、逃げ出そうとはせずに、宇宙艦隊のコロニー落下阻止を信じて疑わない者達もいた。
彼らは決して浮足立たずに、逐一入って来る情報解析に努めていた。
そして…
『こちら、地球連邦軍 第41宇宙機動艦隊 旗艦『イズモ』 連邦本部に報告』
「こちら、ジャブロー本部 宇宙方面隊 指令室。報告を頼む」
『は、ジオンに奪取されたコロニーの画像を捉えましたので、送ります。』
「了解した。戦況はどうか?」
『ジオンは巨大な人型兵器を展開。その機動性において、わが軍の空間戦闘攻撃機の攻撃成功率は25%以下。絶対的物量においては、連邦優勢は間違いありませんが、艦隊戦に持ち込まない以上は攻撃効果が認められません。』
「映像廻せ。」
『はっ。』
指揮官の立つ床に設置された巨大なモニターに映像が映し出される。
「こ、これは?」
指揮官は驚愕した。
はるか遠方には地球に向かって落下されようとするコロニーを取り囲む様にジオンの艦隊が陣形を組んでいる。
そして…
宇宙の暗闇に浮かぶ無数の紅い光点。
「これが…人型…」
『は。ジオンの人型兵器の防衛ラインによりセイバーフィッシュ隊、パプワ隊等の対艦ミサイル攻撃は無力化されております。』
「データーは取れているのか?」
『…いえ。ベースとなるデーターが無い為、概略データーのみであります。』
「…ジオンめ。こんなモノを用意していたとは…」
『宇宙艦隊としては今後の展開を御指示願いたいのですが?』
「上層はこぞって逃げ出したよ」
『え?』
「コロニーの標的は間違い無く、このジャブローだ。連邦上層はすでにここには居ない。一番早かったのは、ランサム准将だがな。」
『我々は…?』
「とにかく、宇宙艦隊は全力でコロニーの破壊に当たれ。敵部隊の補給のタイミングを図って、全艦全速で防衛ラインを突破、艦隊戦に持ち込め。突破に成功したら、全ての戦力を展開、コロニーの推進能力の破壊に努めよ。」
『…はっ。』
「心配するな。上層はおらんでも、私は君達と運命を共にするよ。」
『…は。ありがとうございます。』
その時であった。
モニターに映る『イズモ』の艦長の後方でオペレーターが叫ぶ。
『艦長!敵、人型。急速に接近。艦砲間に合いません!』
『なに?』
次の瞬間、『イズモ』のブリッジを覗き込むかの様に紅い光点が輝いた。
『うわー!こいつ!防衛ラインを突破してきたのか!?』
『早過ぎる!』
ジオンの人型(ザク)は一度、ブリッジから身を引いた。
その上半身が映し出される。
「血塗られた…色だと…」
ジャブローの指揮官はその姿に激しい程の悪寒を覚えた。
『赤い奴です!艦長!例の赤い奴が!』
『判っている!わかっ…うおおおおお!』
赤く染められた人型がその拳を振り上げる。
次の瞬間。『イズモ』のクルーの絶叫と共に、モニターはかき消された。
砂嵐と化したモニターを呆然と見つめながら、指揮官は溜息を一つ、ついた。
「なんて事だ…我が連邦が無力だというのか…?ふっ。腰抜け共が率いる軍ではこの程度か…」
UC0079 01 09
「おい、ファルコニア…」
「ん?」
「なんだか、基地内が慌ただしくねえか?」
「そうか?ラボ内は、何も変わらなんが…?」
「こう、なんていうかな、外から出入りがいつになく、多い様な…」
−テム・レイラボ内、食堂−
午前中のMS試験を終了し、ファルコニアとシグ、そしてシュガトがたむろっていた。
「大変ですよ!中尉!」
シルフィが慌てた様子で飛び込んでくる。
「どうしたい?シルフィ中尉、珍しく慌てて?」
シグが声を掛ける。
「ジオンが、ジオンが地球連邦軍に対して宣戦布告した模様です!」
「何?」
「今、テム大尉がこっそり教えてくれたんです。」
「ついに、始めやがったか!」
「で?戦況は?」
「…さぁ?そこまでは…」
「だろうな。取り敢えず戦場は宇宙…のハズだが…。どうした?ファルコニア」
一人考えこむファルコニアにシグが問いかける。
「…おかしい…。」
「ん?何が?」
「ジオンの人型の戦闘力は連邦の戦力を遥かに上回っているんだ。ジオンは数年前に地球降下を実施しているんだ。現在ではその汎用性も格段に向上していると考えられる…。だと、したら…。」
「だとしたら?」
「何故、ジオンはジャブローを目指さない?」
「…なるほど。しかしな、ファルコニア、ジャブローだって広いんだ。それに、完全にジャングルに偽装された一大地下基地だぜ。おいそれとジオンが攻め込める様な基地じゃねぇさ。」
「ううむ。確かにそれも一理あるが、もし、地球降下部隊が既に存在するとして、宇宙と地上の両面攻撃はあり得るんじゃないか?」
「…確かにな。」
「…シルフィティナス・アリス・コーデリアル中尉…」
「…はい?」
「ジオンの宣戦布告は何時?」
「はい、1月3日だそうです。」
「ふむ。だとすればだ。シグ、やはり、おかしいよ。」
「何故?」
「宣戦布告からもうすぐ一週間だ。宇宙空間での戦闘に連邦の戦力を引き付けておくつもりなら、すでにジャブローは地上部隊の攻撃が開始されていても不思議では無い、と思わないか?」
今度はシグが考え込む番であった。
「いや、やはり、ファルコニア、俺はこう考えるね。ジオンの地上降下部隊はまだ居ない。そして、ジオンはジャブローを狙うほど戦力が整っていないのさ。」
「うん。確かにそうかもしれない。…ただな、もう一つある。」
「…?」
「ジオンにはジャブローを一挙殲滅する切り札がある…」
「!!核か?」
と、それまで、ジッと会話を聞いていたシュガトが口を開いた。
「それは…無いと思います!」
「ん?どうしてだい?何故そう、思う?シュガト。」
「ジオンは地球圏に住む一握りの人々がスペースコロニーを含めた人類の管理をしようという体制からスペース・ノイドの自治権を認めさせようという主義です。ジオンは決して、地球を核で汚染させようと考えている訳ではありません!ただ、母なる惑星に依存するだけの人々から独立しようとしているのです。それは、決して、『地球』に対しての恨みではありません!」
「こいつ…ジオンみたいな事をいう…」
シグが少々、驚き顔でシュガトを見つめる。
「シュガト少尉、それは君の持論か?それとも…」
ファルコニアがシュガトに訊ねる。
「あ、こ、これは…自分は…」
ファルコニアがジッとシュガトを見つめる。
「なあ、シュガト少尉。今、ジオンがジャブローに攻め入ってきたら、君は、ジオン兵と闘えるか?」
「…」
「…少なくとも、君は今、『連邦の兵』だ。戦争が始まれば、主義主張はあっても、敵とは闘わねばならんのだぞ。シュガト、君は相手を倒せるか?」
「…それは、判りません。『その時』になってみないと…」
「おい!シュガト、しっかりしろよ!お前は連邦初のMSパイロット要員なんだぜ?」
シグがバシン!と、シュガトの肩を叩く。
ファルコニアはフーッと溜息をついた。
「ふう。俺も民間出身で、正規な軍属じゃあない。正直言って、俺も戦闘になれば、どうなるもんか…ただな。俺は…ジオンが憎いよ…。」
「何故ですか?」
シュガトとシルフィが声を合わせた。
「ジオンは若い国家だ。連邦は認めていないが…。若い国を作り上げていくのは、希望と夢を持った若者達だ。ジオンはそんな若い生命を煽り立て、戦場に駆り出す。青年達は、国家の煽動に自分の夢をダブらせて、戦場に立たされるのさ。しかし…戦場には何も無いんだ。あるのは、生命の駆け引きと生き残るか、死ぬかだけ。そんな戦場には夢や、希望なんぞは無いのさ…。だから、だから、俺はジオンを憎む。戦争という、愚かしい破壊の中に若者達を引きづりこむ戦争を、ジオンを憎むんだ!」
「ファルコニア…お前…」
シグがいたわる様な視線をファルコニアに投げかける。
「ファルコニア中尉…。では、何故、何故、貴方はMSという、兵器開発をしているのですか…?」
シュガトが悲しそうな瞳でファルコニアを見つめた。
「…流れ、ってのもあるが、俺は、ジオンの『ザク』をこの目で見たんだ。2年前に。初めてジオンの人型を目にした時、俺の心が躍っちまったんだ。ああ、こんなスゲー物が作れるのか、ってな。これは、俺の技術屋としての悲しい性なんだがな。いつか、こんな物を自分で作ってみてぇ!って、本気で思ったんだよ。」
「でも、MSは中尉が憎む戦争の道具じゃないですか…」
「ああ。そうなんだが…。そこまでは、漠然とした夢だった。しかし、俺はそこで、会っちまったんだ…」
「会った…?誰にですか?」
シルフィが聞く。シュガトはジッと押し黙ったままだ。
「ザクのパイロット。ジオンの青年将校だった。」
「…!」
シュガトの顔に驚愕の色が走る。
「ジオンのパイロットは俺達と変わらない、『人間』だった。スペースノイドなんて、言い方しやがるが、俺達と変わらない人間だったのさ。奴は俺と語り合い、ジョークまで飛ばしやがった。そして、最後にこう言ったんだ。『黙って行かせてくれ』とな。」
「…それは、どういう…」
「奴は自分の部下を手に掛けた。しかし、それは、あまりに非情な仕打ちをした部下に対しての粛清だった。部下って奴は丸腰の少年兵をMSの手でくびり殺しやがった…」
「酷い…」
シルフィが思わず視線を外す。
「奴は、そんな部下の行動はジオンの恥だと言って、斬り捨てた。MS同士の闘いだったが…。その後、恥ずかしい部下であっても、殺した罪は贖わなければならない…。それが、ジオンの誇りであり、自分のプライドだと言った。そして…」
「…それで…?」
心なしかシュガトの眼が紅く潤んでいた。
が、その場にいたメンバーはファルコニアの話に聞き入り、気付きはしなかった。
「そして、奴は『黙って行かせろ』といい…MSのコクピットで…」
「…」
「爆死した。」
「!!」
シュガトがギリギリと唇を噛みしめる。
「たかだか、20歳か、そこらの坊ちゃん、坊ちゃんした奴だったんだ。そんな若造の癖に、国家の誇り、なんぞといいやがって…。自分の生命で罪を贖うなどと…。くっ!俺は許せねぇんだよ。そんな風にしちまったジオンが。だから、誓った。ザクを上回るMSを作って、ジオンを潰してやる。そんな風に若い生命を粗末にさせるジオンって奴らを叩き潰し、地獄に送ってやる。そして、地獄で散っていった若い魂に懺悔させてやるのさ…。だから、俺はMSを作るんだ…。」
ファルコニアの静かに燃える様な独白が終わった。
そこには、静寂が生まれる。
そして…
「ファルコニア中尉…。」
シュガトが身体を震わせながら、立ち上がり、深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。」
それだけを言うと、シュガトは食堂から駆け出して行った。
つづく。
episode19:「絶望」
UC0079 01 10
ジャブローは普段と変わらない朝を迎えていた。
無論、軍本部や一部の者はジオンの開戦に対しての対応を取り沙汰していたが、組織下部に位置する人々はさした情報も与えられずに、通常に勤務についていた。
「中尉!」
いつもの様にヨーコがファルコニアを呼び止める。
「ん?どうした?ヨーコ・ヴァレンタイン少尉。」
「だからぁ、ヨーコでいいんですってばぁ。」
「ん。そうか?」
「はぁ〜。」カクンと肩を落すヨーコ。
「ところで、何か用か?」
「あ、いえ、ラボの方へ行くのでしたら、御一緒しようかと…。」
「うん?ああ。」
「ねぇ、ねぇ、ファルコニア中尉。」
「うん?」
「最近、シュガト少尉にあいました?」
「ん?シュガト?昨日、会ったが?」
「何か、様子が変じゃありません?」
「様子?う〜ん。そうか?(ま、昨日は変だったな…)」
そう思ったが、ファルコニアは何も言わずにいた。
「絶対!変ですよ!だって、一昨日の夜なんですけど、突然、私の部屋へ電話してきて…」
「…?」
「これから会ってくれって。」
ファルコニアは内心、クスリと笑った。
(そうか!アイツ、ついに!!)
「で、どうしたんだい?」
突然、関心を向けた様なファルコニアの返事にヨーコはちょっと戸惑った。
「いえ、そのぉ、声が真剣だったんで、逢いました。ラボの屋上で。」
「そりゃ、賢明だ。」
「で、シュガト少尉ったら、突然…」
「と、突然?」
ファルコニアはこの場にシグが居なくて良かったな。などと思った。シグがいれば、叫び出すに違いない。
「直立不動になって…。『ヨーコ少尉!貴方は翼を持っているでありますか!』だって…。どゆこと?」
「はは。シュガトらしいや。で、ヨーコ少尉はなんて答えたんだい?」
「あは、初めて『ヨーコ少尉』って、呼んでくれましたね。えっと、それで、ですね。『翼?飛行機ですか?』って訊ねたんです。」
「うんうん。」
「そしたら、『それは、自分にも判りません、自分は翼を持った人を探しております!』だって…自分が判らないのに、どうして、私が判るのかしら…。」
「シュガトにとっては、それが精一杯なんだろうな。」
「…?精一杯?どうゆう事です?」
「つまりさ、俺も、惚れた、腫れたは良くわからんが、シュガトには「翼」をもった人が必要なんだろ。で、もってヨーコ少尉は「翼」を持っているらしい…と、シュガトは考えた。」
「ふむふむ。」
「だから、さ。「翼」を持ってるヨーコ少尉がシュガトには必要だと言ってるのさ。ま、プロポーズだな。」
「え?ええっ?ええぇぇぇぇぇっ〜!!?」
みるみるヨーコの顔が真赤に染まっていく。
そんなヨーコを見て、ファルコニアはニコリと笑った。
「で、ヨーコ少尉としては、どうなんだい?」
「え?え?いや、でも…。アノ、私…」
更に顔を朱に染めていくヨーコ。
「私…でも…そんな…」
困惑した表情に涙さえ浮かべそうな瞳でヨーコはファルコニアを見つめ、そして、走り去っていった。
突然の挙動にファルコニアは呆気に取られる。
「お、おい!ヨーコ少尉!」
しかし、彼女は振り向きもせずに、走り去っていったのだった。
「失礼します。」
シュガトがファルコニアの部屋を訪れたのは午後になってからだった。
「おう!シュガト少尉!どうした?」
「あ、あの、ファルコニア中尉。そのぉ…」
「ん?」
「ヨーコ少尉から、何か聞いていませんか?」
「あ?何を?」
「何だか、様子が変なんです…」
「え?」
ファルコニアはドキリとした。
(しまった!余計な事、言っちまったかな…)
「へ、変って、どんな風に?」
声が突然裏返るファルコニア。
「いや、そのぉ、先程、私の所へ突然来まして…『少尉のお心は大変ありがたいのですが、私は少尉のお気持ちに沿える様な女ではありません。』と。」
「なに?」
「それから…『シュガト少尉にお願いがあります。ファルコニア中尉以下のチームと共に今すぐジャブローを出てください、と。「銀隼号」と新しい試作機を使えば、生き延びられる…』と。」
「…?何だ?そりゃ?」
「さあ、自分にも何がなんだか…?ファルコニア中尉なら何か知ってるのではないか、と。」
「いや、俺にも心当たりはないが…」
その時だった。
息を弾ませたシルフィがファルコニアの部屋に飛び込んできた。
「中尉!大変です!」
「おいおい!今日は随分、騒がしいな。」
「呑気な事、言ってる場合じゃないですよ!ジオンがコロニー落としを開始しています!」
「は?」
呆気に取られる二人。
「ファルコニア中尉の指摘通り、ジオンは核では無く、スペースコロニーの一つを地球にぶつけるつもりなんです!」
「な、何だとぉ!」
「いま、ジャブローの総司令部より通達がありました。軍上層は既に逃げ出しています!」
「何っ!で、衝突予定は?」
「本日中と言う事です!」
「中尉!逃げましょう!」
シュガトが叫ぶ。
「逃げるって、どこへ?どうやって?」
「ヨーコ少尉の言う通り、「銀隼号」があります!それと試作機!」
「馬鹿な!2機合わせても乗員は4名だ!チーム全員は抜け出せん!それに、他の人間はどうする!そんな真似は俺には出来ん!」
「ファルコニア中尉!ここには自分が残ります!だから、ヨーコ少尉、シルフイ中尉と、シグ中尉を連れて!」
「馬鹿な事、言うな!シュガト!俺は絶対に認めない!」
「ですがっ!」
「ファルコニア中尉!ラボ地下にはシェルターがあります!取り敢えず、そこへ!」
シルフィが叫ぶ。
「地下シェルターか。コロニーが落ちれば役に立つとも思えんが…。よし!シルフィティナス・アリス・コーデリアル中尉はラボ中の人間に通達!シュガト少尉は出きうる限りの人間をシェルターに掻き集めろ!この際だ、正面の警備兵にも通達して、何とか外に出ろ!コロニーの衝突はいつかわからんが、とにかくリミットは1時間とする!」
ファルコニアの指示にシュガトとシルフィは敬礼して飛び出していった。
そして、ファルコニアはテム・レイの元へ走った。
「大尉!テム・レイ大尉!」
「ん?何だね?全く騒々しい…。」
「大尉!急いで退避してください。ジオンがコロニーを地球に落す様です。狙いはココかと!」
「何?コロニーを。連中め、巧い事を考える。」
「大尉!関心している場合ではありません!」
「ん、そうだな。しかし…図面が…」
ファルコニアはテムの態度にいささか、閉口した。
「図面って、大尉!そんな場合じゃないですよ!」
「だかね、設計図は技術屋にとっては命よりも…」
「命より大切なモノがある訳ないじゃないですか!」
ファルコニアはテムの腕をガシリと掴むと、無理矢理部屋をつれだした。
そして、ラボ地下のシェルターに引き入れた。
「ファルコニア中尉…。コロニーが落ちれば、こんなシェルターなど…」
テムがブツブツと呟く。
「コロニーといってもも、ピンポイントじゃ、ありません!墜落地点がズレれば、生き残れる可能性はありますよ!」
「…。確かにな。君の言う事はもっともだ。」
テムはおとなしく床に座り込んだ。
「おい!ファルコニア!」
シェルター内の暗がりからシグが現れた。
「コロニーだって?」
「おお!シグ、来ていたか!」
「シュガトから話は聞いた。俺の家族も別のシェルターに避難したらしい…ありがとうよ。」
「礼は生き延びてからさ。それより、チームは全員いるのか?」
「シルフィとシュガトはさっき見掛けたが…。ヨーコちゃんをみていない…」
「何?」
「シュガトもシルフィも見掛けていないと言っている…別のシェルターかもな。」
(…おかしいぞ!)
ファルコニアの頭のどこかで、何かがおかしいと感ずる。
(絶対におかしい!ヨーコはシュガトに俺達に逃げろ、と伝言した。それは、シルフィの情報よりも先だ。ということは、ヨーコは事前にコロニー落としを知っていた?だから、逃げろ、と。そして、逃げ出す機体も用意してある。乗員は4名…俺と、シグ、シュガトしシルフィ。ヨーコ本人をカウントしなければ、ピタリだ!まあ、テム大尉もいるが…。つまり…これは…!)
「まずい!彼女は死ぬ気だ!」
地表への出入り口ハッチに駆け出すファルコニア。
シグがキョトンとファルコニアの背中を見る。
「お、おい!ファルコニア!一体どうしたってんだ!死ぬって、誰がだよ!」
シグの叫ぶ声にもファルコニアは振り向かず、地表を目指して駆けていった。
つづく。
episode20:「ヨーコ・ヴァレンタイン」
「…やはり…ここにいたか…」
薄暗い航空機用ハンガーの中に彼女−ヨーコ−は膝を抱えて座り込んでいた。
彼−ファルコニア−が地下シェルターを飛び出した時、彼の脳裏に小さなイメージが映った。
泣きじゃくる小さな少女と巨大な鳥。
何故、それがヨーコを連想させたかはファルコニア自身も判らなかったが、とにかく、ヨーコが「銀隼号」のハンガーにいる事を直感した。
彼は一目散にハンガーを目指して駆け出したのだった。
真赤に腫らせた瞳でヨーコは俯いた顔を上げた。
「…中尉…。遅かったじゃないですか…。もう、手遅れかも…」
そんなヨーコを見つめてファルコニアが呟く。
「ヨーコ・ヴァレンタイン少尉、君は…一体…何者なんだ?」
「ファルコニア中尉。私は…みんなが大好きだった…。みんな、いい人ばかり…。私は切り捨てられても、皆には生き残ってほしかった…。」
「ヨーコ少尉。君は何故、知っていたんだ?」
ファルコニアの問いかけも届いていないかの様に、ヨーコは虚空を見つめる。
「でもね、もう、遅いんです。シュガト少尉に伝言した時に、何故すぐに来てくれなかったの?そうすれば、皆は生き延びられたのに…」
「君を置いてか?」
ハッとヨーコの瞳に焔が宿る。
「私には…。私には生きる価値なんて無いの!もう、耐えられない!」
そして、再び闇を纏う瞳。ヨーコは自らの肩を両の腕で抱きしめた。
「皆の優しさが、暖かさが、私をギュッて包んでくれるの。私を抱きしめてくれるの。
そんな、そんな優しい人達をもう、これ以上、騙し続けては行けない!欺き続けてはいけないの!だから、だから、私は一人で逝きたかった…。皆を見送った後で、自分自身を消してしまいたかった…。」
「ばかな…。ヨーコ少尉。君が誰を騙していたというんだ。」
「私は私を欺き、全てを嘘で包み込むんでいたわ…。私に真実は無い。ここにいる私も、私が私である事も、全ては嘘。全て私が作り上げて来たモノ。真実は一片たりとも無いの。
でもね、ファルコニア中尉。私は貴方達、「チーム」がとっても好きだった。
でも、自分が作り上げた人格が言うの。『そんな、「好き」だって気持ちも、所詮は作り物でしょっ』って。
そんな私に、私自身が疲れた。自分を演じ続けるには私は弱過ぎたんだわ。
そして…もう、私にはただ一つ信じていた生きる希望も失われた。
ただ一つ欲しかった情報という希望も彼によって持ち出され、私は永遠に知る術は無い…。
それに、コロニーが落ちると判っていながら、逃げ出せ無かった私。
私は、私の求めるモノを手に入れる事も出来ずに消えて行くの。
それが、皆を騙し続けてきた私への裁き。でも、それは神の与えし公平な裁きではないわ。そう、私が、私を裁いたの…。
それが、全て嘘だった私の中のたった一つの真実。」
「ヨーコ…ヴァレンタイン…」
虚ろな目で告白する彼女を前にファルコニアはどうする事も出来なかった。
彼女は全てを知っていた。
ジオンの宣戦布告も、コロニー落としも。全ての情報を与えられていて、しかも逃げ出す事の出来ない状況は彼女に多大な精神ストレスを与えていたのだろう。
彼女は自分を『自分で創り出した「偽装人格」』と言っている様だったが、ファルコニアには到底信じる事は出来なかった。
優しいからこそ、彼女は今、自分の存在を打ち消したがっているに違い無い…。
「ヨーコ。君は…作り物なんかじゃないさ。シュガトが事故った時に、ベッドの傍らにいた君はなんだ?作り物なのか?君の蒼い空への気持ちも偽物なのかい?ならば、君の後ろにある『銀隼号』も偽物なのかい?」
「…。止めて。中尉。もう。もう、いいの。全ては無に帰すわ。もうすぐ、ここは消えて無くなるの。私もアナタも…。全て消えて無くなる前に懺悔したかっただけ。
でもね…。やっぱり、これだけは真実だわ。「私」はあなた方が好きだった。それは多分、ホント。」
「ヨーコ。俺は、今のヨーコがホントか、嘘か、なんて事は関係ない。今のまんまのヨーコが好きだしな。人は誰でも、人には言えない過去なんてモンを背負ってる。そんな自分が許せねぇって言うなら、自分をヤメチマエバいい!」
「そう、だから、私はココに居る。全てが消え去るわ…。何もかも…。」
「自分をヤメルのは、『死ねばいい』って事じゃないんだぜ。」
「でも、私にはその位しか、出来る方法と手段が無いわ。」
「ちっ!これだから、お子様は…。いいかっ!ヨーコ!良く聞け!テメェが誰を騙した、欺いたなんてのは俺の知った事じゃネェ!だがな、テメェが居ない事で心配する人間が何人居ると思ってんだよ!テメェがここまで、存在し続けてきた来た事が俺達にとっての宝物なんだよ!解るか!?俺の心の中にあるヨーコはテメェが騙せるとか、欺くとか出来るモンじゃねぇんだっ!こんな使い古された言い回しは好きじゃねぇが、ヨーコ、テメェに対するいろんな人間の愛情には嘘も欺瞞もないんだ!その愛情に対しては、お前自身も欺く事は出来ないんだ!ならば、ヨーコ!お前は変わってみせろ!愛情に応えて自分を変えろ!『死』をもって償うにはテメェの罪はまだまだ子供過ぎるんだよ!俺の、シグの、シルフィの、そしてシュガトの愛情を全身で受け止めて、応えて見せろ!それが貴様の贖罪だ!解るか!ヨーコ・ヴァレンタイン!!」
「…」
沈黙する二人。
「…でもね。中尉…」
ヨーコが呟く。
「もう、遅いわ。何もかも消えて無くなるの。ココにコロニーが落ちて来る。全てが消えるわ。私が私を変える前に全てが消えて無くなるのよ…。」
ファルコニアはニッコリと微笑んだ。
「じゃあ、今から変われ。俺が1,2,3で手を叩いたら、それからは新しいヨーコだ。いいな。」
「中尉…」
「1,2,3!」
有無を言わせずポンと、ファルコニアが手を打ち叩いた。
「…」
「ヨーコ…。変われたか…?」
ヨーコの大きな瞳にみるみる大粒の涙が溜められていく。
「…うん。ファルコニア中尉。ヨーコ、変わったよ。新しいヨーコに…。」
「…じゃあ、笑って見せろ。」
「うん。えへへへ…。」
「…それで、いい。」
ヨーコの歪んだながらも、精一杯の笑顔にファルコニアも笑顔で応えた。
「…ねえ、中尉。そっちにいってもいい?」
「…ああ。」
ヨーコはファルコニアの胸に飛び込んだ。そして…
声を上げて泣き出した…。
「中尉!私、死にたく無いっ!まだ、死にたくないよ!」
「やだよ…こんなの。ホントはこんな死に方したくないよ!」
小さな身体を震わせて、彼女は泣き叫んだ。
ファルコニアは自分の胸元が彼女の涙で濡れていくのを感じながらも、自分はただ、こうして彼女の身体を支える事しか出来ない自分に憤っていた…。
つづく。
episode21:「心」
ファルコニアが地下シェルターを飛び出した時、シュガトは最後のラボの人間を誘導していた。
建物に入ろうとした時、ファルコニアが試験場に走っていく姿を捉えていた。
シェルター内では、シグがテムと話している。
「シグ中尉!お話し中、失礼します!ファルコニア中尉を見掛けたの気がするのですが…。」
「おう!シュガト。ファルコニアならヨーコちゃんを探しにいったぜ。」
「えっ?ヨーコ少尉は、まだ、外なのですか?」
「ああ、らしい。ファルコニアもなぁ、気になる事を言っていたんだが…」
「何です?」
「誰だかが…死ぬ気だ!とか。ハハ、まさか、あのヨーコちゃんでもあるめぇ。」
「!!シグ中尉、ココはお任せして宜しいですか!?」
「あ?それは構わないが、どうした?」
「自分も気になる事がありますっ!ヨーコ少尉を探しに行って来ます!」
「…ああ?って、おい!待てよ!どういう事だ?おい!シュガト!」
シュガトもファルコニア同様、シェルターの出口に向かって駆け出した。
「何です?」
シグとシュガトのやり取りにシルフィが怪訝な面持ちで近づいてくる。
「さあ?ファルコニアもシュガトも変なんだよ。」
「変?この状況よりも変な状況とは…、考え難いですが…。」
「ま、それもそうなんだが…な。」
シグはボリボリと頭を掻いた。
シュガトがファルコニアの向かったハンガーに到着した時、薄暗いハンガーの中から、ヨーコとファルコニアの声が聞こえた。
『ヨーコ。君は…作り物なんかじゃないさ。シュガトが事故った時に、ベッドの傍らにいた君はなんだ?作り物なのか?君の蒼い空への気持ちも偽物なのかい?ならば、君の後ろにある『銀隼号』も偽物なのかい?』
(何だ?何を話している?)
『…。止めて。中尉。もう。もう、いいの。全ては無に帰すわ。もうすぐ、ここは消えて無くなるの。私もアナタも…。全て消えて無くなる前に懺悔したかっただけ。
でもね…。やっぱり、これだけは真実だわ。「私」はあなた方が好きだった。それは多分、ホント。』
『ヨーコ。俺は、今のヨーコがホントか、嘘か、なんて事は関係ない。今のまんまのヨーコが好きだしな。人は誰でも、人には言えない過去なんてモンを背負ってる。そんな自分が許せねぇって言うなら、自分をヤメチマエバいい!』
『そう、だから、私はココに居る。全てが消え去るわ…。何もかも…。』
(どういう事だ?ヨーコ少尉は何を言っている…?)
そして、ファルコニアの怒鳴り声…。
その声を聞いて、シュガトは目眩を感じた。
愛情…本当の自分…嘘の自分…虚偽…理想…そんな言葉がシュガトの頭を駆け巡った。
フッと意識が跳ぶ…
シュガトは意識を失っていた。
「シュガト。」
「シュガト・グレーフィールド」
暗闇で何かが囁いた。
「ん?」
ずっしりと重い頭を持ち上げて、シュガトが起き上がる。
「誰だ?ニードルスか?」
「そうだよ。シュガト。又、会えたね。」
「これは…夢、なんだろ?」
「夢、ではないね。意識の交差さ。」
ゆっくりと薔薇の花弁が開く様に暗闇に光の渦が開いた。
中から現れる一人の青年。
「意識の交差?死んだお前に意識があるのか?」
光の渦を見つめながら、シュガトが訊ねる。
「死んだ…ふふ。そういう表現も正しくもあるが、間違ってもいる。僕は肉体を失っただけ。魂は地球に抱かれているのさ…」
「…もったいつけるな…。ニードルス。何の用だ!俺は今、忙しい!」
「意識の交差に時間の概念はないんだが…まあ、シュガト、君にはまだ理解出来ないらしい…。翼を持った人は見つかったのかい?」
「…ああ。見つけた。ファルコニア・フォーエバーロング中尉殿だ!」
「…そう。ファルコニア。彼は新しい魂の在り方を示してくれる。彼の魂は常に震えている…。そして、泣いているんだ…。」
「あの人が、泣いている…?」
「そう、彼は魂の共感を呼ぶんだよ。自然にね。でも、その事を恐れる人々がいる。争いに魂の共感は必要ないからね…。」
「…それは、何となく解る気がするよ。ニードルス。こんな俺であってもな。」
「今、君の天使の魂が揺れている。天使を救えるのは君さ。彼じゃない。」
「解らない事を…ニードルス!お前は何が言いたい!?」
「君の天使さ。君を癒してくれる人だよ。ファルコニアは共感は呼ぶが、魂を癒してくれる訳ではないからね。癒しは必要だろう?」
「俺は癒しなど、必要とはしていない!俺の根底にあるのは、復讐。ただ、それだけだ。」
「シュガト。復讐は何も生まないんだ。魂の共感も、わかりあう、と言う事も。人間にはそれが必要なんだよ…。彼女は君を包んでくれるよ。慈愛と、優しさで。君の魂を包んでくれる人だ。でもね。シュガト、その魂を救うのは君なんだ。君しか彼女を救えない…。」
「…。ニードルス。お前の言っている意味が解らないよ。」
「そう、頭で理解は出来ない…。でも、「その時」が、きっとくるよ。そして、「その時」がくる事を僕は君の友人として、待っているんだ。そう、友人としてね。」
「ニードルス…」
光の花弁がゆっくりと閉じていく。シュガトは再び暗闇と静寂に包まれた。
シュガトが再び意識を取り戻したのは、ファルコニアの叫び声を聞いてだった。
『自分をヤメルのは、『死ねばいい』って事じゃないんだぜ。』
『でも、私にはその位しか、出来る方法と手段が無いわ。』
『ちっ!これだから、お子様は…。いいかっ!ヨーコ!良く聞け!テメェが誰を騙した、欺いたなんてのは俺の知った事じゃネェ!だがな、テメェが居ない事で心配する人間が何人居ると思ってんだよ!テメェがここまで、存在し続けてきた来た事が俺達にとっての宝物なんだよ!解るか!?俺の心の中にあるヨーコはテメェが騙せるとか、欺くとか出来るモンじゃねぇんだっ!こんな使い古された言い回しは好きじゃねぇが、ヨーコ、テメェに対するいろんな人間の愛情には嘘も欺瞞もないんだ!その愛情に対しては、お前自身も欺く事は出来ないんだ!ならば、ヨーコ!お前は変わってみせろ!愛情に応えて自分を変えろ!『死』をもって償うにはテメェの罪はまだまだ子供過ぎるんだよ!俺の、シグの、シルフィの、そしてシュガトの愛情を全身で受け止めて、応えて見せろ!それが貴様の贖罪だ!解るか!ヨーコ・ヴァレンタイン!!』
シュガトの脳裏に稲妻の様な衝撃が走った。
(…!自分を…止める…。俺の愛情…。俺に…愛情はあるのか?俺には復讐しか無いはずだ…。いや、でも、俺もチームが…好きだ…。ここで出会った人々…。自らの過去を消し、連邦のシュガト・グレーフィールドとして、ジオンへの復讐を誓い、ただ、それだけを目指して俺は生きて来た…ハズ…。
何故だ?何故、今、俺は魂の高揚を感じている?愛情…。愛…。人を想う心…。今の自分は止められる…?今の俺を支えているのは、復讐では…無い…?ならば…それは…?)
(よせ、ニードルス。これ以上、俺を混乱させるな。俺は復讐の破壊神として、ザビ家への復讐を誓ったはずだ。それだけが、俺が俺である為の存在価値…。ならば、愛は必要無い…。愛情などというものは決断力を鈍らせる感情だ…。が、しかし、何故だ?何故、俺は「愛」を否定しようとすると心が痛むのだ…?)
(誰か、教えてくれないか?俺はこのまま、俺でいて良いのか?復讐という糧の替わりのものを手に入れて良いのか?)
(魂の共感…。魂の救済…。俺の魂を救う者…。助けてくれ…。)
シュガトの脳の中で、心の中で、全ては混沌としている。
全てが否定すべき事実であり、肯定すべき現実…。
愛情・魂という概念を否定する自分と復讐・憎しみという感情を肯定する自分。
その相いれない感情に矛盾を感じる。矛盾だらけの自分。
しかし、ふと、彼の脳裏によぎった言葉。
融合…
全てを受け入れ、全てを肯定し、全てを自分とする。
(そんな…事は…できるのか?そんな事をしてもいいのか…?俺は俺であるための存在価値を他に求める事になる…。それで、いいのか…?)
(いいのさ…。シュガト、それでいい。)
(ニードルス!これが、本来の意識の交差…?今、お前の声がはっきりと聞こえた…。そうか…、ニードルス。お前はそこにいるんだな…。)
(シュガト…。そう、僕はいつも君の側にいる…。)
(俺が、俺である為の存在価値…。それは…。)
(そう、それは…。)
(俺の天使…。ヨーコ。ヨーコ・ヴァレンシュタイン…。)
(君の為に、俺は在り続けたい…。)
つづく。
episode22:「落下」
胸にすがって泣きじゃくるヨーコの艶やかな髪をなでながら、ファルコニアはゆっくりと「銀翼号」の翼の下に腰を降ろした。
(このまま、ここで消えていくのも悪くない…、か。)
(俺は何も出来なかったな…。ニードルス…。ん?)
その時だった。ファルコニアはハンガー入口付近に人の気配を感じた。
(誰だ…?)
そして、内心、ニヤリとしながらも、ヨーコの肩に手をおいた。
「ヨーコ、泣くのは止せ。泣いていても、結果が変わらないのなら、つまらないだけだせ。」
「…中尉…。」
「それより、ヨーコの本当のナイトのお出ましだ。」
「…えっ?」
不思議そうな顔を上げるヨーコにファルコニアはハンガーの入口をしゃくってみせた。
ゆっくりと振り向くヨーコ。
そこには、どこか雰囲気の違うシュガトが立っていた。
「シュガト少尉…」
枯れた声で彼の名を呼ぶ。
自らの名を呼ばれたのを知ってか、知らずか、シュガトはブルっと身体を震わせハンガー中に響きわたる声で叫んだ。
「自分…、俺はヨーコ少尉…ヨーコを守る為に生まれました!連邦でなく、ジオンでもなく、俺は、俺としてヨーコ・ヴァレンタインを守る者として生を受けました!俺が俺である為にあなたと共に歩みたい。あなたを永遠に守る者として生きていきたい。願わくばこの願いを受け止められん事を!」
「シュガト少尉…?」
直立不動で叫ぶシュガトをヨーコは不思議そうに見つめた。
ファルコニアはガハハッと豪快に笑った。
「ははっ!シュガト!ついに言ったな!おい!シュガト!もっと解り易く言ってやれ!」
シュガトが顔を真赤に染めて叫ぶ。
「ヨーコ少尉!君が好きなんだ!俺と一緒に歩いて欲しい!」
「…!!」
大きな瞳をさらに大きく見開くヨーコ。
そんなヨーコにファルコニアが語りかける。
「奥手のシュガトにあそこまでさせたんだ。好きなら、好き。嫌なら嫌とはっきり言ってやれ。それが誠意ってモンだ。生まれ変わったんだろ?もう、自分を殺す事は、ねぇんだぜ?」
「…はいっ!」
ヨーコは屈託の無い笑顔でファルコニアを振り返る。
そして…
「シュガト少尉!私も、私もアナタが大好き!」
駆け出すヨーコ。両手を広げるシュガト。
二人の抱擁を見届ける前にファルコニアは立ち上がり、ハンガーから出ていった…。
「ヤレヤレ…どうやら、俺は死ぬ時も独りだねぇ…」
胸のポケットから煙草を取り出し、火を点ける。
そして、空を見上げるファルコニア。
「ん?そういや、コロニーはいつになったら見えるんだ?」
シグは、シェルターの中で子供をあやしていた。
ラボのシェルターには一般兵の家族が何組か避難してきているらしい。
4〜5歳位の男の子を抱き上げて、あやすシグを見て、シルフィが目を細める。
「シグ中尉。意外に子供好きなんですね。」
「意外にって、どういう意味だよ。俺ぁ、子供の瞳が一番好きだ。子供の目は嘘をつかねぇ。」
「…」
「トニーの奴も、この位の頃があったっけかな…」
「…?」
「あの頃は楽しかったな…。MSなんて無粋な機械じゃなくて、俺は空を自由に駆け回れた…」
「あの…?シグ中尉?」
「ん?何だ?」
「トニーって誰ですの?」
「ん?ああ。トニーは俺の可愛い息子さ!今年で16になる」
「え?シグ中尉、お子様がいらっしゃるのですか?」
「なんだ?言ってなかったか?」
「…はあ。」
あっさりと認めるシグにシルフィは呆れていた。
(これだから、男って…。何が、ヨーコちゃ〜んよっ!恋をしようぜ〜よっ!全く、男って生き物は…)
その時だった。
シェルター内に放送ノイズが流れた。
「こちら、ジャブロー指令代行のインバット・トランサー大佐である。ジャブロー内の各員につぐ。危機は回避された。繰り返す。危機は回避された。コロニーはジャブローには落下しない。繰り返す、コロニーのジャブローへの落下は回避された。」
この放送を聞いたシェルター内に歓喜の怒号が沸く。
人々は互いに抱き合い、喜びを分かちあった。
シグとシルフィもガッチリと握手を交わす。
シグはシルフィに抱きつこうとしたのだが、すかさず、シルフィが右手を差し出したからだ。
2人はシェルターの分厚い鉛の扉を開け放った。
我先にと外に出ようとする人々を制して、2人が先導の役を努める。
そして、地上の続く最後の扉を開け放つ。
扉を開けた時に2人の目に映ったのは、壁にもたれて眠っているファルコニアであった。
その周りには煙草の吸殻が山積みになっている。
シグとシルフィは顔を見合せ、そして、ファルコニアを揺り起こした。
「ん?よお!シグ!天国でもお前に会えるとはな。って事は地獄か?」
「ってめ!どういう意味だ!そりゃ?」
「ファルコニア中尉。危機は回避されました。コロニーはジャブローへは落ちません。」
「ん?シルフィティナス中尉。それは?」
「詳細は判りませんが、緊急体制は解除されました。」
「!そうか!それは良かった!」
「なあ、ファルコニア。ヨーコちゃんとシュガトがいないんだが…」
「ん?ああ。2人なら…人生最良の日を謳歌しているんじゃないか…?」
ふぁ〜とあくびをしながら、ファルコニアが立ち上がる。
「おいっ!ファルコニア、そりゃ、どういう意味だ?ヨーコちゃんとシュガト…」
「はは。よせよせ、シグ。お察しの通りだよ。もう、俺達の出る幕じゃない。今頃は二人で毛布にくるまってコロニーが落ちてくる瞬間を待っているだろうさ。そっとしといてやんな。」
全てを察し、シグがファルコニアの胸にすがりつく。
「ファルコニア〜。」
「よしよし。シルフィティナス・アリス・コーデリアル中尉にでも慰めて貰うんだな。」
ファルコニアがチラリとシルフィを見る。
が、シルフィはソッポを向いて、こう言った。
「シグ中尉は可愛いお子様がいらっしゃるのですから、無論、その役目は奥様ですわ。私、男の方に興味ありませんもの。」
「げっ?シグ。なんで、シルフィティナス中尉が知っているんだ?」
「え?あ。」
ハッとするシグ。
そして…
「ファルコニア〜。」
つづく。
episode23:「ルウム戦役」
ラボのファルコニアの元にチームが集まっていた。
UC0079 01 11 未明
詳細情報はシルフィが調査に行っている。
シュガトとヨーコはファルコニアの通信によって危機が回避された事を知った。
気恥ずかしそうにしながらも、上気させた顔で二人は一緒にファルコニアのもとを訪れた。
そんな二人を所在なさげにシグがチラチラと見る。
そんな3人を苦笑しながら迎え入れるファルコニア。
ともかく、何も無くて良かった。
4人はそう言って握手した。
そして…
「ファルコニア中尉。詳細が判明しました。」
息を切らせてシルフィが飛び込んでくる。
「おう!御苦労。」
シグが声を掛ける。
「コロニーの落下は?」
ファルコニアが訊ねる。
シュガトとヨーコは二人並んで立ち、皆には見えない位置でお互いの指を愛撫し合っていた。
「はい。詳細情報は…。コロニーは連邦軍の宇宙艦隊の攻撃により小破。破壊には至らなかったものの、若干の姿勢変化。大気圏突入後アラビア上空にて分解…。その後…。オーストラリア、シドニーを直撃!?シドニーは消滅!?」
「何ィ!?」
その場にいた全員が凍りついた。
そして、シュガトはヨーコの指の動きが止まった事に気づいた。
(?ヨーコ…?)
シュガトがふとヨーコを見る。
彼女は全身を小刻みに震わせていた。
「…ルフィ中尉?シルフィ中尉!?今…、今…なんて?」
「え?何?ヨーコ少尉?」
「今、なんて、言ったんですか?今!」
「コロニーはオーストラリアへ落下。シドニーは消滅。悲しいけれど、これが現実よ…。」
「いや…。嘘。うそよ!そんな…そんな!」
ヨーコは目を見開いてシルフィを見つめる。
「どうしたの?ヨーコ少尉?」
心配そうにシルフィがヨーコの顔を覗き込む。
シュガトも気が気でなく、ヨーコの肩に手を掛けようとした。
が、ヨーコの突然の叫び声にシュガトの手は止まった。
両腕で頭を抱え、うずくまるヨーコ。
そして…
「イヤ、イヤ、イヤァ、イヤァァァァァァー」
「おい?ヨーコ少尉?」
その場に居合わせた全員が突然のヨーコの動揺ぶりに驚いた。
「イヤよ。嘘でしょう?お父さん、お父さん!おとぉさぁぁぁぁーんっ!!」
ヨーコは叫びながら駆け出していった。
シュガトが慌てて、後を追う。
シグとシルフイも後を追おうとしたが、ファルコニアはそれを制した。
首を横にふるファルコニアを見て、シグは黙って頷く。
シルフィは何か言い掛けようとしたが、シグの様子を見て黙り込んだ。
残された3人を重苦しい空気が包んでいた。
ディッシュ連絡機の中で男はしきりに舌打ちを繰り返していた。
「くそっ。ジオンめ、動きが早過ぎる。ペガサス級の進宙式の前に動きおって…」
テーブルに用意された極上のワインをしきりに口に運ぶ。
そう、男の名はランサム。
ランサムはオーストラリアの諜報局員からの情報で、コロニー落としの日時を知ってから、基地視察を兼ねた年末休暇と称して、キャルフォルニアベース近くの軍の保養所にいた。
その間、彼は施設の一角を借り切り、自分の側近だけを置き、他の者は一切寄せつけずにいた。
しばしばランサムの居住ポイント近くから発信される宇宙向けの通信に疑問を持ったキャルフォルニアベースが何度か、足を運んだが、ランサムは一切、取り合わなかった。
時には訪れた兵の所属と名前を聞き、上官の名前を出して、脅かす程であった。
そんなランサムの元にも、コロニー落下がジャブローではなく、シドニーであった報が入り、ランサムはルナツーに上がっていたレビル将軍名でジャブロー帰還を命じられた。
「くっ、しかも、ジャブローではなく、シドニーとは。ジオンめ、計画が粗いにも程があるぞっ。」
独りブツブツと呟くランサムには側近でさえも近づこうとはしなかった。
下手をすれば、得意の膝蹴りを食らう事になる。
しかも、抵抗は許されない…。
「まあ、いい。キャルフォルニアベースの警備情報は全て流した。それに、オデッサもな。ジオンの地球侵攻にこれだけの協力をしてやっているのだ。ギレンもこの私を無下には出来まい…。」
「それにしても、レビルめ。この私を呼びつけるとは。いまいましぃジジィだ。見てろよ。貴様の動きは全てジオンに筒抜けだ…・」
独り口元を吊り上げてニンマリと笑うランサムの眼下にはジャブローの深いジャングルが延々と横たわっていた…。
小さなベッドの上で、男女が座っている。
女は仕切りに嗚咽を上げ、男は女の背中をさすっている。
二人に言葉は無かった。
だが、男は女の気持ちを感じていたし、女は男に全てを打ち明けていた。
もう、言葉はいらなかった。
ただ、互いの温もりを感じあえれば良かった。
女はじっと男を見上げ、男はそっと、手を差し出す。
女は差し出された手を握り、そっと瞳を閉じる。
男はその細い、脆いクリスタルの様な身体を抱き寄せ、唇を重ねる。
それが全ての始まりの様に、二人の身体が重なっていく。
男はそっと、大切なものを扱う様に。
女は男の痛みを分かち合い、悲しみを薄める様に…。
女の嗚咽が徐々に様子を変えていく…。
ジャブローの薄暗い地下基地の水銀灯はやがて重なりあう影だけを照らし出していた…。
UC0079 01 15
コロニー落としによるジャブロー殲滅に失敗したジオンは次なるコロニー落とし計画を立案し、サイド5「ルウム」に攻撃対象を移した。
しかし、連邦の抵抗も激しく、ついにジオンはコロニー奪取をあきらめる他無かった。
人型兵器「モビルスーツ」の圧倒的な戦力をもってしても、連邦の物量の前には、計画の変更を余儀なくされたのである。
が、ランサムの流した情報により、ルナツーより進宙していたレビル艦隊の旗艦「アナンケ」は撃沈、レビル将軍その人も捕らわれ人となった。
この報を聞いて、独りほくそ笑んだのがランサムである。
ランサムは早速、レビルの代行として名乗りを上げ、ジャブローの支配権獲得に乗り出した。
持ち前の狡猾さを存分に生かし、ジャブロー内での影響力を強めていった。
連邦もレビルの捕縛と先のコロニー落としに恐れをなし、いよいよ敗北を認め、ジオンの降伏宣言を受諾しようかというばかりになっていた。
無論、この影にはランサムの暗躍があった。
MS開発の包括者であったレビル捕縛の報はファルコニア達の耳にも入りMS開発部隊にも暗い影を落した。
そんな中でも、ファルコニア達のチームは暗色を振り払うかの様に、気を吐き、健気に振る舞った。
シュガトとシグは派手にテスト機を乗り回し、シルフィは銀隼号で飛び回る。
ヨーコは笑顔を振りまきながら、ラボ中を駆け回った。
「まだ、負けた訳じゃない。」その言葉を合言葉として、チームは一丸となっていた。
そんな時だった。
シグの元にランサムからの出頭命令が届いたのであった。
第2章 完
第3章「宇宙(そら)」へつづく。
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