金 子 み す ゞ 詩集

POEM T KANEKO MISUZU

美しい町

  障子


お部屋の障子は、ビルディング。


しろいきれいな石づくり、
空まで届く十ニ階。
お部屋のかずは、四十八。

一つの部屋に蝿がゐて、
あとのお部屋はみんな空。

四十七間の部屋部屋へ、
誰がはいつてくるのやら。

ひとつひらいたあの窓を、
どんな子供がのぞくやら。

―― 窓はいつだか、すねたとき、
    指でわたしがあけた窓。

ひとり日永にながめてりや、
そこから見える青空が、
ちらりと影になりました。

T-1

 

  お魚

海の魚はかはいさう。

お米は人につくられる、
牛は牧場でかわれてる、
鯉もお池で麩(フ)を貰(モラ)ふ。

けれども海のお魚は
なんにも世話にならないし 
いたづら一つしないのに 
かうして私に食べられる。

ほんとに魚はかはいさう。 

T-2

 

  

私は雲に
なりたいな。

ふわりふわりと
青空の
果(ハテ)から果を
みんなみて、
夜はお月さんと
鬼ごつこ。

それも飽きたら
雨になり
雷さんを
供につれ、
おうちの池へ
とびおりる。

T-3

 

 芝居小屋

むしろで拵(コサ)へた
芝居小屋、
芝居はきのふ
終へました。

のぼりのたつてた
あたりでは、
仔牛(コウシ)が草を
たべてゐる。
 
むしろで拵へた
芝居小屋、
夕日は海へ
沈みます。
 
むしろの小屋の
屋根の上、
かもめが赤く
そまつてる。

T-4

 

 八百屋のお鳩

おや鳩子ばと
お鳩が三羽
八百屋の軒(ノキ)で
クックと啼(ナ)いた。

茄子(ナス)はむらさき
キャベツはみどり
いちごの赤も
つやつやぬれて。

なあにを買はうぞ
しィろいお鳩
八百屋の軒で
クックと啼(ナ)いた。

T-5

 

  空のあちら

空のあちらに何がある

入道雲もしらないし
お日さまさへ、知らぬこと。

空のあちらにあるものは
山と、海とが話したり、
人がからすに代(ナ)りかはる
不思議な、魔法の世界です

T-6

 

  打出(ウチデ)の小槌(コヅチ)

打出の小槌を貰(モラ)ったら
私は何を出しませう。

羊羹(ヨウカン)、カステラ、甘納豆
姉さんとおんなじ腕時計
まだまだそれより眞白(マッシロ)な
唄の上手な鸚鵡(アウム)を出して、
赤い帽子(シャッポ)の小人(コビト)を出して
毎日踊り(オドリ)を見ませうか。

いいえ、それよりお話の
一寸法師がしたやうに
背丈(セタケ)を出して一ぺんに
大人になれたらうれしいな。

T-8

 

  雀のおやど

――おはなしのうたの五――

雀のお宿に春が来て、
お屋根の草も伸びました。

舌を切られた子雀は、
ものの言へない小雀は、
たもと重ねて、うつむいて、
ほろりほろりと泣いてます。

父さん雀はかはいそで、
お花見振袖購(カ)ひました。

母さん雀もかはいそで、
お花見お團子(ダンゴ)こさへます。

それでも、やつぱり子雀は、
ほろりほろりと泣いてます。

T-14

 

 月日貝

西のお空は
あかね色。
あかいお日さま
海のなか。

東のお空
真珠いろ、
まるい、黄色い
お月さま。

日ぐれに落ちた
お日さまと、
夜あけに沈む
お月さま、
逢うたは深い
海の底。

ある日
漁夫(レフシ)にひろはれた、
赤とうす黄の
月日貝。

T-15

 

  まつりの頃

山車(クルマ)の小屋が建ちました、
濱にも、氷屋できました。

お背戸の桃が赤くなり、
蓮田の蛙もうれしさう。

試験もきのふですみました。
うすいリボンも購(カ)ひました。

もうお祭りがくるばかり、
もうお祭りがくるばかり。

T-16


 雀のかあさん

子どもが
子雀
つかまへた。

その子の
かあさん
笑つてた。

雀の
かあさん
それみてた。

お屋根で
鳴かずに
それ見てた。

T-17

 

 小さなうたがひ

あたしひとりが
叱られた。
女のくせにつて
しかられた。

兄さんばつかし
ほんの子で、
あたしはどつかの
親なし子。

ほんのおうちは
どこか知ら。

 

T-20

 

  夕顔

お空の星が
夕顔に、
さびしかないの、と
ききました。

お乳のいろの
夕顔は、
さびしかないわ、と
いひました。

お空の星は
それつきり、
すましてキラキラ
ひかります。

さびしくなつた
夕顔は、
だんだん下を
むきました。

T-22


 箱のお家 

箱のお家が出來ました。

もう石?の箱でもないし、
お菓子箱でもありません。
それは私のお家です。

表に白い石の門、
裏にはきれいな花畠、
お部屋はみんなで十一間
とてもきれいなお家です。

そして私はそこに住む、
小さなかはいいお嬢さま。

きれいなお家がこはされて
かさねた箱になつたとき、
私は、古びた、かたむいた、
お部屋の柱を拭いてます。


T-23

 

   さかむけ

なめても、吸つても、まだ痛む
紅さし指のさかむけよ。

おもひ出す、
おもひ出す、
いつだかねえやにきいたこと。

「指にさかむけできる子は、
親のいふこときかぬ子よ。」

おとつひ、すねて泣いたつけ、
きのふも、お使ひしなかつた。

母さんにあやまりや、
なほらうか。

 

T-25


 げんげ畑

ちらほら花も
咲いてゐる、
げんげ畑が
犁(ス)かれます。

やさしい瞳(メ)をした
黒牛に
曳かれて犁(スキ)が
うごくとき、
花も葉つぱも
つぎつぎに、
黒い重たい
土の下。

空ぢや雲雀(ヒバリ)が
ないてるに、
げんげ畑は
犁(ス)かれます。

T-27

 

  瀬戸の雨

ふつたり、やんだり、小ぬか雨、
行つたり、来たり、わたし舟。

瀬戸で出會つた、潮同志、
「あなたは向うへゆきますか
わたしはこつち、さやうなら」

なかはくるくる、渦を巻く。
行つたり、来たり、わたし舟、
ふつたり、やんだり、小ぬか雨。

T-28

 

 内海外海

内海さらさら
外海どうど、

内海砂原、
外海石原。

内海こみどり
外海藍いろ、

内海いぢわる
外海おこりんぼ、

内海女の子
外海男の子。

瀬戸ぢやけんくわの
渦が巻く。

T-29

TO HOME

 海の子ども

海の子どもみィつけた、
大きな岩の上に。
になの子供みィつけた、
海の子どものなかに。

海のこどもかはいいな、
になのこどもかはいいな。

T-30

 

 麥藁(ムギワラ)編む子の唄

私の編んでる麥藁は、
どんなお帽子になるか知ら。

紺青(コンジヤウ)いろに染められて、
あかいリボンを附けられて、
遠い都のかざりまど、
明るい電燈(デンキ)に照らされて、
やがてかはいいおかつぱの、
嬢(ヂヨツ)ちやんのおつむにかぶられる・・・・・・。

私もついてゆきたいな。

T-31

TO HOME

 もくせい

もくせいのにほひが
庭いっぱい

表の風が、
御門のとこで、
はいろか、やめよか、
相談してた。
   

T-32

 

 睫毛(マツゲ)の虹

ふいても、ふいても
湧いてくる、
涙のなかで
おもふこと。

―― あたしはきつと
    もらい兒(コ)よ――

まつげのはしの
うつくしい、
虹を見い見い
おもふこと。

―― けふのお八つは、
   なにか知ら――

T-33

 

  はつ秋

涼しい夕風ふいて来た。

田舎にゐればいまごろは、
海の夕やけ、遠くみて、
黒牛ひいてかへるころ、

水色お空をなきながら、
千羽がらすもかへるころ。

畠の茄子は刈られたか、
稻のお花も咲くころか。

さびしい、さびしい、この町よ。
家と、ほこりと、空ばかり。

T-36

 

 こほろぎ

こほろぎの
脚が片つぽ
もげました。

追つかけた
たまは叱つて
やつたけど、

しらじらと
秋の日ざしは
こともなく、

こほろぎの
脚は片つぽ
もげてます。

 
T-37

 

   砂の王國

私はいま
砂のお國(クニ)の王様です。

お山と、谷と、野原と、川を
思ふ通りに變(カ)へてゆきます。

お伽噺の王様だって
自分のお國のお山や川を、
こんなに變へはしないでせう。

私はいま
ほんとにえらい王様です。

T-39

 

  草原

霧の草原
はだしでゆけば
足があをあを染まるよな。
草のにほひもうつるよな。

草になるまで
あるいてゆけば、
私のおかほはうつくしい、
お花になつて、咲くだらう。

T-41

 

 光る髪

沈む、沈むよ、
濱にでてみれば、
赤い大きな
夕日の毬が。

光る、光るよ、
金色の絲が、
入り日みてゐる
光(ミッ)ちやんの髪が。

かがろ、かがろよ、
眞赤(マッカ)な毬を、
金の小絲で
麻の葉にかがろ。

T-44

 

  紋附き(モンツキ)

しづかな、秋のくれがたが
きれいな紋つき、着てました。

白い御紋は、お月さま
藍(アイ)をぼかした、水いろの
裾(スソ)の模様は、紺の山
海はきらきら、銀砂子(ギンスナゴ)。

紺のお山にちらちらと
散つた灯りは、刺繍(ヌヒ)でせう。

どこへお嫁にいくのやら
しづかな秋のくれがたが
きれいな紋つき着てました。 
  

T-46

 

 噴水の亀

お宮の池の噴水は
水を噴かなくなりました。

水を噴かない亀の子は
空をみあげてさびしさう。

濁つた池の水の上
落葉がそつと散りました。

 

T-47

 

 美しい町

ふと思ひだす、あの町の、
川のほとりの、赤い屋根、

さうして、青い大川の、
水の上には、白い帆が、
しづかに、しづかに動いてた。

さうして、川岸(カシ)の草の上、
若い繪描きの小父さんが、
ぼんやり、水をみつめてた。

さうして、私は何してた。
思ひ出せぬとおもつたら、
それは、たれかに借りてゐた、
御本の挿繪でありました。

 

T-50

 

 魔法の杖

おもちや屋さん、
おひるねよ。
春の日永のお堀ばた。

ここの柳の葉かげから、
私が杖を一つ振りや、
店のおもちやはみな活きて、
ゴムのお鳩は、とび立つし、
張子の虎はうなり出す・・・・・・。

おもちや屋さん、
さうしたら、
どんなお顔をするか知ら。

 

T-51

 

  一軒屋の時計

お日さま、お空のまんなかだ、
のろまの時計がおくれたよ、
ちよつくら、お日さんに合はせましよ。

田舎の一軒屋のお時計は、
いちんち欠伸とゐねむりだ。

 

T-52

 

 博多人形

こほろぎが
ないてゐる、
夜ふけの街の
芥箱に。

ひとつ明るい
かざり窓、
青い灯に、
博多人形の
泣きぼくろ。

こほろぎが
ないてゐる、
街の夜ふけの
芥箱に。

 

T-53

 

 忙しい空

今夜はお空がいそがしい、
雲がどんどと駈けてゆく。

半かけお月さんとぶつかつて、
それでも知らずに駈けてゆく。

子雲がうろうろ、邪魔つけだ、
あとから大雲、おつかける。

半かけお月さんも雲のなか、
すりぬけ、すりぬけ、駈けてゆく。

今夜はお空がいそがしい、
ほんとに、ほんとに、忙しい。

 

T-54

 

 秋日和

お天氣、お天氣、
川辺の梢で、
もずきち高啼く。

乾いた、乾いた、
刈田の刈稻、
榎の掛稻。

續くよ、續くよ、
むかうの街道を
稻積んだ車が。

お天氣、お天氣、
啼け啼けもずきち、
底なしお空で。

 

T-55

 

 燈籠ながし

昨夜(ユウベ)流した
燈籠は、
ゆれて流れて
どこへ行た。

西へ、西へと
かぎりなく、
海とお空の
さかひまで。

ああ、けふの、
西のおそらの
あかいこと。

 

T-56

 

  郵便局の椿

あかい椿がさいてゐた、
郵便局がなつかしい。

いつもすがつて雲を見た、
黒い御門がなつかしい。

ちひさな白い前かけに、
赤い椿をひろつては、
郵便さんに笑はれた、
いつかのあの日がなつかしい。

あかい椿は伐られたし、
黒い御門もこはされて、

ペンキの匂ふあたらしい、
郵便局がたちました。  
 

T-57


 手帳

靜かな朝の砂濱で
小さな手帳をひろつた
緋需子の表紙、金の文字
あけてみたれどまだ白い

たれが落して行つたやら
波にきいても波ざんざ
渚に足のあともない
きつと今朝がた飛んでゐた
南へかへるつばくろが
旅の日記をつけるとて
買うて落したものでせう。

T-58

 


 
つばな

つゥばな、つばな、
白い、白いつばな。

夕日の土手で、
つばなを抜けば、
ぬいちやいやいや、
かぶりをふるよ。

つゥばな、つばな、
白い、白いつばな。

日ぐれの風に、
飛ばそよ、飛ばそ、
日ぐれの空の、
白い雲になァれ。

 

T-60


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