金 子 み す ゞ 詩集

POEM  U KANEKO MISUZU

 繭(マユ)と墓

蠶(カヒコ)は繭に
はいります、
きうくつそうな
あの繭に。

けれど蠶は
うれしかろ、
蝶々になつて
飛べるのよ。

人はお墓へ
はいります、

暗いさみしい
あの墓へ。

そしていい子は
翅(ハネ)が生(ハ)え、
天使になつて
飛べるのよ。
   

U-1

 

 明るい方へ

明るい方へ
明るい方へ。

一つの葉でも
陽の洩るとこへ。

藪かげの草は。

明るい方へ
明るい方へ。

翅は焦げよと
灯のあるとこへ。


夜飛ぶ蟲は。

明るい方へ
明るい方へ。


一分もひろく
日の射すとこへ。

都會に住む子等は。

U-2

 

  蜂と神さま

蜂はお花のなかに、
お花はお庭のなかに、
お庭は土塀のなかに、
土塀は町の中に、
町は日本の中に
日本は世界の中に
世界は神さまの中に。

さうして、さうして、神さまは、
小ちやな蜂の中に。

U-5

 

 女の子

女の子つて
ものは、
木のぼりしない
ものなのよ。

竹馬乗つたら
おてんばで、
打ち独楽(ゴマ)するのは
お馬鹿なの。

私はこいだけ
知ってるの、
だつて一ぺんずつ
叱られたから。

 
 
U-6

 

 夜ふけの空

人と、草木のねむるとき、
空はほんとにいそがしい。

星の光はひとつづつ、
きれいな夢を背(セナ)に負ひ、
みんなのお床へとどけよと、
ちらちらお空をとび交ふし、
露姫さまは明けぬまに、
町の露台(ロダイ)のお花にも、
お山のおくの下葉にも、
殘らず露をくばらうと、
銀のお馬車をいそがせる。

花と子供のねむるとき、
空はほんとにいそがしい。

U-8

 

 芝草

名は芝草といふけれど、
その名をよんだことはない。

それはほんとにつまらない、
みじかいくせに、そこら中、
みちの上まではみ出して、
力いつぱいりきんでも、
とても抜けない、つよい草。

げんげは紅い花が咲く、
すみれは葉までやさしいよ。
かんざし草はかんざしに、
京びななんかは笛になる。

けれどももしか原つぱが、
そんな草たちばかしなら、
あそびつかれたわたし等は、
どこへ腰かけ、どこへ寢よう。

青い、丈夫な、やはらかな、
たのしいねどこよ、芝草よ。

U-9

 

 人なし島

人なし島に流された、
私はあはれなロビンソン。

ひとりぼつちで、砂に居て、
はるかの沖をながめます。

沖は青くて、くすぼつて、
お船に似てる雲もない。

けふもさみしく、あきらめて、
私の岩窟(イワヤ)へかへりましよ。

(おや、誰か知ら、出て來ます、
水着、着た子が三五人。)

百枚飛ばして、ロビンソン、
めでたくお國へ着きました。

(父さんお晝寢さめたころ、
お八つの西瓜の冷えたころ)

うれしい、うれしい、ロビンソン、
さあさ、お家へいそぎましよ。

U-10

 

 朝顔の蔓(ツル)

垣がひくうて
朝顔は、
どこへすがろと
さがしてる。

西も東も
みんなみて、
さがしあぐねて
かんがへる。

それでも
お日さまこひしうて、
けふも一寸
また伸びる。

伸びろ、朝顔、
まつすぐに、
納屋のひさしが
もう近い。

U-11

 

 麥(ムギ)のくろんぼ

麥のくろんぼぬきませう、
金の穗波をかきわけて。

麥のくろんぼぬかなけりや、
ほかの穗麥にうつるから。

麥のくろんぼ焼きませう、
小徑づたひに濱へ出て。

麥になれないくろんぼよ、
せめてけむりは空たかく。

 

U-12

 

 ぬかるみ

この裏まちの
ぬかるみに、
青いお空が
ありました。

とほく、とほく。
うつくしく、
澄んだお空が
ありました。

この裏まちの
ぬかるみは、
深いお空で
ありました。

U-14

 

  お菓子

いたずらに一つかくした
弟のお菓子。
たべるもんかと思つてて、
たべてしまつた、
一つのお菓子。

母さんが二つッていつたら、
どうしよう。

おいてみて
とつてみてまたおいてみて、
それでも弟が来ないから、
たべてしまつた、
二つめのお菓子。

にがいお菓子、
かなしいお菓子。

 
 
U-17

 

 私の丘

私の丘よ、さやうなら。
茅花(ツバナ)もぬいた、草笛を、
青い空みて吹きもした、
私の丘の青草よ、
みんな元氣で伸びとくれ。

私ひとりはゐなくても、
みなはまた來てあすぼうし、
ひとりはぐれたよわむしは、
ちやうど私のしたやうに、
わたしの丘と呼びもせう。


けれど、私にやいつまでも、
「私の丘」よ、さやうなら。

U-18

 

 薔薇の根
 
はじめて咲いた薔薇は
紅い大きな薔薇だ。
  土のなかで根が思ふ
  「うれしいな、
  うれしいな。」

二年めにや、三つ、
紅い大きな薔薇だ。
  土のなかで根がおもふ
  「また咲いた、
  また咲いた。」

三年めにや、七つ、
紅い大きな薔薇だ。
  土のなかで根がおもふ
  「はじめのは
  なぜ咲かぬ。」
 
 
U-22

 

 

  

こッつん こッつん
打たれる土は
よい畠になつて
よい麦生むよ。

朝から晩まで
踏まれる土は
よい路になつて
車を通すよ。

打たれぬ土は
踏まれぬ土は
要らない土か。

いえいえそれは
名のない草の
お宿をするよ。

 
U-27

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 闇夜の星

闇夜に迷子の
星ひとつ。

あの子は
女の子でせうか。

私のやうに
ひとりぼつちの、
あの子は
女の子でせうか。

U-28

 

 水すまし

一つ水の輪、一つ消え、
三つまはれどみな消える。

水にななつの輪を描けば、
魔法は泡と消えよもの。

お池の主に囚はれの
今の姿は、水すまし。

きのふもけふも、青い水、
雲は消えずに映るけど、

一つ、二つ、と水の輪は、
一つあとから消えてゆく。

U-35


 杉と杉菜

一本杉はうたふ。
あの山のむかうの
大きな海のなかに、
蝶々のやうな、
白帆を三つ、みたよ。

一本杉はうたふ。
あの山のむかうの
大きな町のなかで、
青銅(カラカネ)の豚が、
水をふくのをみたよ。

一本杉の下で
杉菜がうたふ。
私もいつか、
あんなに伸びて、
遠くの遠くをみようよ。

U-36


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空の山羊追ひ
眼にみえぬ。

山羊は追はれて
ゆふぐれの、
曠野(ヒロノ)のはてを
群れてゆく。

空の山羊追ひ
眼にみえぬ。


山羊が夕日に
染まるころ、
とほくで笛を
ならしてる。

U-39

 

  畠の雨

大根(ダイコ)ばたけの春の雨、
青い葉つぱの上にきて、
小さなこゑで笑ふ雨。

大根畠の晝の雨、
あかい砂地の土にきて、
だまつてさみしくもぐる雨。

U-41

 

 ゆびきり

牧場の果にしづしづと、
赤いお日さま沈みます。

柵にもたれて影ふたつ、
ひとりは町の子、紅いリポン、
ひとりは貧しい牧場の子。

「あしたはきつと、みつけてね、
七つ葉のあるクローバを。」

「そしたら、ぼくに持つてきて、
そんなきれいな噴水(フキアゲ)を。」

「えええ、きつとよ、ゆびきりよ。」
ふたりは指をくみました。

牧場のはての草がくれ、
あかいお日さま、ひとりごと。

「草にかくれて、このままで、
あすは出ないでおきたいな。」

U-46

 

 はだし

土がくろくて、濡れてゐて、
はだしの足がきれいだな。

名まえも知らぬねえさんが、
鼻緒はすげてくれたけど。

U-47

 

 土と草

母さん知らぬ
草の子を、
なん千萬の
草の子を、
土はひとりで
育てます。

草があをあを
茂つたら、
土はかくれて
しまふのに。

U-48

 

 薔薇の町

みどりの小徑(コミチ)、露のみち、
小みちの果は、薔薇の家。

風吹きやゆれる薔薇の家、
ゆれてはかをる薔薇の家。

薔薇の小人はお窓から、
ちひさな、金の翅みせて、
おとなりさんと話してた。

とんとと扉(ドア)をたたいたら、
窓も小人もみな消えて、
風にゆれてる花ばかり。

薔薇いろのあけがたに、
たづねていつた薔薇の町。

その日
わたしは蟻でした。

U-49

 


  夕顔

蝉もなかない
くれがたに、
ひとつ、ひとつ、
ただひとつ、

キリリ、キリリと
ねぢをとく、

みどりのつぼみ
ただひとつ。

おお、神さまはいま
このなかに。
 

U-51

 

 お日さん、雨さん

ほこりのついた
芝草を
雨さん洗つて
くれました。

洗つてぬれた
芝草を
お日さんほして
くれました。

かうして私が
ねころんで
空をみるのに
よいやうに。

U-53

 

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