
金 子 み す ゞ 詩集
POEM V-V KANEKO
MISUZU
さみしい王女 V
波の子守唄
|
|
|
|
|
|
|
|
早 春
飛んで來た
毬が、
あとから子供。
浮いてゐる
凧が、
海から汽笛。
飛んで來た
春が、
けふの空 青さ。浮いてゐる
こころ、
遠い月 白さ。
- 明日
街で逢つた- 母さんと子供
- ちらと聞いたは
- 「明日(アシタ)」
- 街の果(ハテ)は
夕燒小燒、
春の近さも- 知れる日。
- なぜか私も
- うれしくなつて
- 思つて來たは
- 「明日」
- あさがほ
- 青いあさがほあつち向いて咲いた、
- 白いあさがほこつち向いて咲いた。
- ひとつの蜂が、
- ふたつの花に。
- ひとつのお日が、
- ふたつの花に。
- 青いあさがほあつち向いてしぼむ、
- 白いあさがほこつち向いてしぼむ。
- それでおしまひ、
- はい、さやうなら。
- しもやけ
しもやけの- すこうしかゆい小春日に、
- お背戸の山茶花咲きました。
- その花折って髪にさし、
- そしてしもやけ見てゐたら、
ふつと、私がお噺の、- 継娘(ママコ)のやうにおもはれて、
- 淺黄に澄んだお空さへ、
- なにかさみしくなりました。
鶴
お宮の池の
丹頂の鶴よ。
おまへが見れば、
世界ぢゆうのものは、
何もかも、網の目が
ついてゐよう。
あんなに晴れたお空にも、
ちひさな私のお顔にも。
お宮の池の
丹頂の鶴が、
網のなかで靜かに
羽(ハ)をうつときに。
一山むかうを
お汽車が行つた。
- 赤い靴
空はきのふもけふも青い、- 路はきのふもけふも白い。
- 溝のふちにも花が咲いた、
- 小(チ)さいはこべの花が咲いた。
- 坊やもべべがかろくなつて、
- 一足、二足、あるき出した。
- 一足踏んでは得意さうに、
- 笑ふ、笑ふ、聲を立てて。
- 買つたばかしの赤い靴で、
- 坊や、あんよ、春が來たよ。
- 暗 夜
暗い廣い原つぱで、- 誰か唱歌をうたつてる。
- 高臺(タカダイ)に並んだ窓の灯の、
- 一つを影が暗くする。
- とほい巨きな都會の空、
- ぼつと砂金をぼかしてる。
- 物干臺にひとり居て、
- 蜜柑たべたべ眺めてる。
- 野茨の花
白い花びら- 刺のなか、
- 「おうお、痛かろ。」
- そよ風が、
- 駈けてたすけに
- 行つたらば、
- ほろり、ほろりと
- 散りました。
- 白い花びら
- 土の上、
- 「おうお、寒かろ。」
- お日さまが、
- そつと、照らして
- ぬくめたら、
- 茶いろになつて
- 枯れました。
- 宵節句
蟲齒がいたい
齒がいたい、- しぼしぼ小雨の
宵節句。- 雪洞(ボンボリ)の灯も
- いつか消え
- 官女も仕丁(シチヤウ)も
ねむつたろ。- 寢ててみえるは
- ほの白い
- 裸人形の
- 足のうら。
- むし齒がいたい
- 齒が痛い、
- 更けてさみしい
- 宵節句。
- 木屑ひろひ
朝鮮人の子、何つむの、- げんげが咲いたの、よもぎなの。
- いやいや、草は枯れてます。
- 朝鮮人の子何うたふ、
- 朝鮮人のお唄なの。
- いやいや、日本の童謠です。
朝鮮人の子、たのしげに、- こぼれ木屑をひろひます。
- 製材裏の廣つぱで。
- 木屑ひろうて、束にして、
- 頭にのせてかへります。
- 小さなお小舎(コヤ)で、母さんと、
- とろとろ赤い火を燃して、
- 父さんの歸りを待つために。
- やせつぽちの木
森の隅つこの木が云うた。- 「きれいな小さい駒鳥さん、
- わたしの枝でも、おあそびな。」
- 高慢ちきな駒鳥は、
- よその小枝で啼いてゐた。
- 「あかい實もない、花もない、
- やせつぽちさん、お前には、
- 森の女王は呼べまいよ。」
- (誰がきいてた、
- 誰か知ら、
- きいてお空へ告げに行た。)
- 高慢ちきな駒鳥が、
- 日ぐれにまた來てたまげたは、
- やせつぽちの木、その梢、
- 黄金の木の實が光つてた。
- (まるい、十五夜お月さま。)
- かくれんぼう
かくれんぼう、かあくれた。- 太郎も、次郎も、かあくれた。
- 裏戸にしよんぼり、鬼ばかり。
- (向日葵まはつた、
- 五分ほどまはつた。)
かくれんぼう、何してる。- ひとりはお背戸の柿の木で、
- 青い柿の實むしつてる。
- ひとりは日ぐれの台所、
- お鍋の湯氣でも眺めてる。
- そして鬼さん、何してる。
- らつぱの音で飛んで出て、
- お馬車へついて行つちやつた。
- 裏戸に立つは桐の木の
- 靜かに、たかい、影ばかり。
|
|
|
|
|
|
|