安部公房


箱男
砂の女
方舟さくら丸
R62号の発明・鉛の卵
他人の顔
無関係な死・時の崖
石の眼
人間そっくり
密会
水中都市 デンドロカカリヤ
カンガルーノート
笑う月
飢餓同盟

箱男 新潮文庫 2000/10/20
ダンボール箱を頭からすっぽりとかぶり、都市を彷徨する箱男は、覗き窓から何を見つめるのだろう。一切の帰属を捨て去り、存在証明を放棄することで彼が求め、そして得たものは?贋箱男との錯綜した関係、看護婦との絶望的な愛。輝かしいイメージの連鎖と目まぐるしく転換する場面。  読者を幻惑する幾つものトリックを仕掛けながら記述されてゆく、実験的精神溢れる書下ろし長編。
K:読んだ事は全くないんだっけ?
としえ:無いね。K君に聞いてぜひとも読んでみたいとは思ってるけど、なかなか読む機会がないし
あと、安部公房だからかなり気合を入れないといけないのかな〜?って思うと、余計読む気が・・・・。やっぱり気合は必要だった?
K:ある意味これが一番気合が必要となる気がするね。初めて安部公房を読む人はかなり辛いと思うね。 でも、一番安部公房らしさを含んでるのはこの本だと思う
としえ:主人公が卑屈なんだ。ず〜っと箱に入ってるの?最後まで?
K:たぶんね。でも、それは難しい質問だね。読んでみればわかるんだけど、なんて言ったらいいのかな・・?まともじゃない。進み方が。 此処が読み難い原因
としえ:読み難いのは安部公房の特徴の一つだよね。なんか自分が難解な文章を読んでる気がしてちょっと知的な気分になれそう・・・。 ともあれ、内容の方はどうなの?面白かった?
K:途中までは文句なし!面白く読めると思う。人がどうして箱男になるのかがわかるよ。ある意味それは恐怖だね
としえ:箱男って一人だけなんでしょ?<人が>ってどう言う意味?その物語の中で箱男は奇異の目で見られてないの?
K:この物語は〜・・。箱男が箱の中で自分について書いてる本なんだよね。あと、この世界の中では箱男は一杯います。 ただ、人々がそれに気づいてないだけ。否、気づかないようにしてるだけ
としえ:わお!なんか深いぞ!
K:面白いと言えば、箱男の作り方が始めに書いてあるんだけど(箱の大きさとか種類とか必需品とか) ここは誰もが興味を引かれるのは否めないね
としえ:作り方!!なんかそう言うところって神経質だよね・・・・。着眼点が普通と違うよ。箱男って世の中の脱落者って事?
K:良い質問だ。<箱男>ってのは家を捨てて箱をかぶって街中に居る・・・・って言っていいのかな〜?? ま、一つ重要なのは浮浪者とは違う!って言うこと
としえ:何かの比喩なのかな?現代における・・・・。それについては考えた?
K:う〜ん・・・。比喩?比喩とかはわからないけど、キワドイ質問だなそれ!
としえ:みんな箱男になりえるの?それって警鐘とか?かな??
K:否、個人的意見として、安部公房は警鐘とかはしてないと思うね。事実として書いているんだと思う。 だから、安部公房を読んでて納得できる人は箱男になるかも
としえ:それってK君が箱男になるって事じゃん。現実離れしてるのに、妙に現実的な話なんだな・・。<社会派>??
K:どうだろう?村上春樹がリアルに精神世界を描くなら、安部公房はリアルに妄想世界を描いてると思う
としえ:上手いこと言うな・・・・・


砂の女 新潮文庫 2000/10/20
砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められる。 考えつく限りの方法で脱出を試みる男。家を守るために、男を穴の中にひきとめておこうとする女。 そして、穴の上から男の逃亡を妨害し、二人の生活を眺める部落の人々。ドキュメンタルな手法、サスペンスあふれる展開のなかに人間存在 の象徴的姿を追求した書下ろし長編。20数カ国語に翻訳された名作。
としえ:これは読んだよ!安部公房って面白いんだ〜って思ったもん
K:代表作といって問題は無いと思うね。結構読みやすいかな?ま、箱男に比べれば・・
としえ:十分読みにくかったけど。物語中に出てくる比喩が多くて・・・。しかもその比喩のすごいこと・・!! 体感温度が読んでて上がったよ。暑苦しいんだもん。砂の中が
K:比喩が正確って言うのは安部公房の凄さの一つだね。なんだか、場面が目に浮かぶって言うのはこう言うことだと思う
としえ:この物語の面白さはさ、本文に入る前の一文と主人公の心情の皮肉さを笑ってるところだよね
K:なるほど。あと・・・。面白いと言えば、<女>に対する主人公の態度。リアルだよな〜・・・。 その態度と家の中の蒸し暑さの対応が良い!
としえ:全体にダークな雰囲気がするんだよね〜・・・・。閉ざされた世界がよく表れてると思う
K:砂に埋もれ行く家。その中での男を引きとめようとする女と逃げようとする男のやり取り。 現実では考えられないような世界だけど、完全に頭の中で想像させるところが凄いよね
としえ:あと、村人も重要!意地の悪い村人達!主人公との<女>や村人達とするやり取りは面白いよね。微妙にコメディータッチ
K:<女>の行動が、村人として男を引きとめようとしているのか、それとも女として男を引きとめようとしているのか、 そこも微妙で面白いね
としえ:私は<女>として男を引きとめている部分が強いと思う。しかも結構生々しい・・・・・。 <砂の中>って言う、特異の状況下の中でなくとも、あんな態度をとる女性は一杯いるよ。 追い詰められる男の心境も、実は現実の世界とほとんど変らなかったりして・・・。どうでしょう?K君
K:男の方は現実とは違うと思うけどな〜・・・・


方舟さくら丸 新潮文庫 2000/10/20
地下採石場跡の巨大な洞窟に、核シェルターの設備を造り上げた〈ぼく〉。 「生きのびるための切符」を手に入れた三人の男女と〈ぼく〉との奇妙な共同生活が始まった。 だが、洞窟に侵入者が現れた時、〈ぼく〉の計画は崩れ始める。 その上、便器に片足を吸い込まれ、身動きがとれなくなってしまった〈ぼく〉は―。 核時代の方舟に乗ることができる者は、誰と誰なのか?現代文学の金字塔。
としえ:まだ、途中までしか読んでないけど、十分この主人公<安部公房>っぷりを発揮してるね。 陰険そうで(笑)この主人公は洞穴に自分の住居があって、それを「方舟」って名づけ、 <来る世界の破滅>に向けて一緒に住む資格をもつ「船員」を探してるんでしょ?
K:うん。住居というか、砦と言うか・・・。方舟が主人公<もぐら>(男)にとっては何なのか?ってのが重要だね
としえ:しかし、読み始めて数ページしか経ってないのに、主人公が異常って感じは一杯でてるよ。いつも自分で作った乗船券を持ってるし、 自分の紹介の仕方もちょっと怖い・・・。あと、目次からもその異常さは出てるね
K:そうだね。妙な強がりと言うか、権力者意識と言うか、それは感じるよね。特に<来る世界破滅>に向けての乗船券を 持っているのは自分なんだ。ってとこがね
としえ:<来る世界の破滅>ってのは、彼の勝手な妄想なんでしょ?
K:妄想と言うか、予想と言うか・・・・。そんなことしてる自体、性格よくないよな〜
としえ:きっと幼い頃から、他人からいじめられてたのかな・・・・・・・。それは自己紹介の文章からわかるか・・・
K:それも、被害妄想だったりして
としえ:主人公の求めてる船員ってどんな人達の事を言うの?そして、やっぱり目的はその人達を支配すること??
K:うん。そうだと思うね。主人公は今までの人生を方舟の中で変えたい。それを可能にしてくれる 船員達を望んでるんだと思う。女性でも、男性でも
としえ:普通の人達の輪に入りたかったのかな?小さい子が友達になりたい人達の気を引くためにする行為。みたいな印象を受けるね
K:普通の人達の輪ではないと思う。閉鎖された世界で船長になりたがってる。それが、<ユープケッチャ>を
ある意味崇拝してる所に出てるんだと思う
としえ:<ユープケッチャ>って、手足のない小さな虫のことでしょ?
K:そう。手足がないって言うのは、自分の糞を餌にしてるから、動く必要がないんだ。食べながら糞をしつづけるから 糞はきれいな半円を描いて、<ユープケッチャ>は回転しながら生きてる。それが、別名<時計虫>って呼ばれる所以なんだ。 その、異常なまでに閉鎖された世界が主人公の気を引いたんだと思う
としえ:なんか寂しい人だな・・・・・。っで、本文では一組のカップルに目を付けてたけど、あれはどうなるの?
K:方舟に連れて行くのは、そのカップルと、昆虫屋の3人。主人公はその中で思い通り船長になれるか?が大筋の内容だね


R62号の発明・鉛の卵 新潮文庫 2000/10/20
会社を首にされ、生きたまま自分の「死体」を売ってロボットにされてしまった機械技師が、人間を酷使する機械を発明して 人間に復讐する「R62号の発明」、冬眠器の故障で80万年後に目を覚ました男の行動を通して現代を諷刺した先駆的SF作品「鉛の卵」 、ほか「変形の記録」「人肉食用反対陳情団と三人の紳士たち」など、昭和30年前後の、思想的、方法的冒険にみちた作品12編を収録する。
としえ:短編集だから、感想を述べるのは難しいね・・・。でも、断言できるのは、<面白い短編集だった!>ってこと!
K:安部公房は短編集が上手いってどっかの解説に書いてあったよ。どれが好きだった?
としえ:そうだな〜・・・。<R62号の発明><パニック><盲腸><人肉食用反対陳情団体と三人の紳士たち><鉛の卵> が特に好き。話の内容、進め方ももちろんだけど、なんかそれぞれの話の中に<本人が気がつかないエゴ>が隠されてるんだもん。 特に<人肉食用・・・・>は話し合いにおける、価値観の圧倒的な違いによる決別をユーモラスに書いてるよね。(ある意味皮肉も入ってるけど)
K:<価値観の違い>・・・・・。俺はそんなに価値観の違いを感じなかった。ただの<立場の違い>だと思う。 モノの感じ方は同じ。娘も思う気持も同じなんだと思う。ただ、豚の親子関係に気を使う人間がいないのと同じだと思う。 これを読んだ後、つくづく豚がしゃべらなくて良かったと思うよ
としえ:確かに、そうだね。豚や魚がしゃべったら嫌だよな〜・・。食べれないよな〜・・・。私は<食す><食される> と言う、読み方をしなかったからな。言われてみれば、そんな読み方もあったか。ところで、K君のお気に入りは?
K:<盲腸>!話は将来の飢餓世界の為に人間を草食動物にする実験があって、 ある一人の男が実験台になり、羊の盲腸を移植すると言う内容。どこが好きかって言うと・・・・・・。男の台詞なんだけどね。 これは(羊の盲腸を移植されると言うこと)思想的な問題なんです。って言う台詞だね
としえ:男の性格が変っていくってのも面白いよね。やっぱり、人の意識ってのは小さなことで大きく変るんだね〜。(しみじみ)」
K:しかも、最後の一行!本当の飢餓がなんなのか?ってオチがいいよな〜
としえ:(う〜ん)って思ったね。これって演劇にしても十分余韻を持たせるモノとして、良いと思うよ
K:主人公は俺が演じるね
としえ:K君は安部公房の作品内の登場人物に共感持ってるもんね。似てるのかな?
K:ん・・・・・
としえ:微妙な返答だ・・・。あんまり公言できることじゃないもんね・・。彼らに似てるって・・・・・


他人の顔 新潮文庫 2000/10/20
液体空気の爆発で受けた顔一面の蛭のようなケロイド瘢痕によって自分の顔を喪失してしまった男…… 失われた妻の愛をとりもどすために”他人の顔”をプラスチック製の仮面に仕立てて、妻を誘惑する男の自己回復のあがき…。 特異な着想の中に執拗なまでに精緻な科学的記載をも交えて、”顔”というものに関わって生きている人間という存在の不安定さ、 あいまいさを描く長編。
K:どうです?よかった?
としえ:K君の絶対のお勧め本だったもんね、これは。やっと読んだよ。いや〜。面白かったよ。 話を聞いてた頃は、仮面をかぶった男と、奥さんの話が中心かと思ったけど、仮面を作り、覆るまでの過程が長かった・・
K:そうだね。男の手記形式で書かれてるからね。内容は事故で顔が崩れてしまった男が仮面を作って 奥さんとの関係を復活させようとする話。仮面を覆って他の男になる場面は唸った。あそこの描写に唸った
としえ:いやらしいのは、他人として奥さんに近づいて、奥さんに浮気させようとしてるとことだよな〜。 しかも、言い訳の多いこと・・・・・。言い訳の言い訳までしてるし・・・・
K:それは言わないで下さい・・・・・。だって、俺もそうだから・・・・・
としえ:そうかな〜?ま、いいや
K:顔についてここまで書いた小説は無いよな〜。<顔は他人との通路>だと言う、男の主張は考えさせられたよ
としえ:綺麗言として、<人間に重要なのは性格だ>って意見に猛反論してるよね。<その性格を作るのは顔だ!>って
K:うん。顔の良し悪しは別として、顔の持つ重要性をとことん追求してるね
としえ:でも、結局はそれは男の独りよがりな意見でしかなくて、最後の奥さんの手紙によって、全てがひっくり返るよね
K:そう!奥さんがね〜・・・。いいな〜!男が色々こねくり回してるところへ、奥さんの強烈な一突き!いいな〜!
としえ:一種の恋愛小説だよね
K:うん。安部公房流の恋愛小説だね
としえ:異様な情熱だよね・・・・・・。ダーク。湿っぽい。陰湿
K:もう、言うな。それ以上は言わないでくれ・・・・!!ひどいよ。男に罪は無いよ。いや、あるけどさ・・・。いや、待ってくれ!・・・ うわ!!なんだか男に似てきた・・・!!止めとこぅ、もう・・・
としえ:男の気持がわかるんだね・・・・・
K:わかってよ〜・・・・・。そっちも・・・
としえ:いや、私は奥さんの気持の方がわかります!!
K:・・・・・・


無関係な死・時の崖 新潮文庫 2000/10/20
自分の部屋に見ず知らずの死体を発見した男が、死体を消そうとして逆に死体に追いつめられていく「無関係な死」、 試合中のボクサーの意識の流れを、映画的手法で作品化した「時の崖」、ほかに「誘惑者」「使者」「透視図法」「なわ」「人魚伝」など。 常に前衛的主題と取り組み、未知の小説世界を構築線とする著者が、長編「砂の女」「他人の顔」と平行して書き上げた野心作10編を収録する。
としえ:短編集。短編集って感想書きにくいね・・・。面白かったけど・・。なんか、初期の頃のだからかもしれないけど、 独特の『不条理さ』があまり無い気がする。あっさりと読めたよ
K:確かにオチがしっかりあるのが多いよね。でも、初期の頃だからって言うのは違うと思う。 その前の作品<水中都市・デンドロカカリヤ>は俺が思うに結構、不条理だったよ。大変だったよ、読むの
としえ:そうか・・・。そんなわけではなかったのか・・・。私はこの短編集の中では<時の崖><使者><家>がお気に入り。 <時の崖>は全部独り言って言うのが面白かった、特に時間の経過と共に心情が変化していくんだもん。<使者>は火星人が火星人である為の証明の難しさが面白いし、 <家>はとにかく先祖(おじいちゃん)の描写が滑稽で面白かった。どの話もオチが気持ち良かった
K:俺も<使者>は好きだね。地球人そっくりの火星人がいかに自分が火星人であるか証明するって言う話。 頭がおかしいのか、それとも本物の火星人なのか・・・。この話読んでて、<怪笑小説>(東野圭吾) の『超たぬき理論』を連想させた。否定できない理論の強さって言うか、強引さって言うか。ばかばかしいと同時に恐ろしいよな
としえ:その論理証明の難しさって、本書の<無関係な死>にも共通してるよね。この話では、見知らぬ死体が 自分の部屋に突如置かれているんだけど、警察に届けようにも、そんな不条理な状況を警察が信じてくれるのだろうか?から 死体の処理に頭を悩ます男の話。この話でも、男が自分と、この死体の人物が無関係である事の証明が出来ないと悩むんだよね、 あまりにも無関係すぎて、その証明する方法が無い。う〜ん・・・。死人に口無し
K:なるほど。あと、死体を見た時の男の描写が凄いんだよね。一瞬、時間が凍りつくのと同時に、 自分の首筋も凍りつく。また、その二つが音を立てて動き出す。この描写には唸ったね
としえ:うんうん。安部公房の凄さはその描写力だよね。(個人的に画家”ダリ”を連想させる)どんな不条理世界も可能にしてしまうし、リアルであれば あるほど、彼の描写は鮮明さを増す


石の眼 新潮文庫 2001/03/06
完成近いダム建設地、しかしそのダムは業者と政治家の闇取引による手抜き工事で、満水になれば 決壊は必至であった。不正の露見を恐れ、対策に狂奔する工事関係者たちへの審判の日が来た。 その朝、登場した一人の殺し屋によって、彼らの恐怖の24時間が始まる・・・・。
K:安部公房流のサスペンス。結構面白かったよ
としえ:↑の内容見るとそんな感じだね。恐怖って何?殺し屋とダムの関係がいまいちよくわからないんだけど
K:ほうほう。恐怖の24時間と言っても、金田一みたいなサスペンスじゃないんだよね。 完全に心理戦。あと、殺し屋とダムの手抜き工事は基本的には関係ないよ。殺し屋がやって来ることで 様々な誤解や勘ぐり合いが始まって、かなり複雑になっていくんだ
としえ:へ〜。不条理世界が安部公房の特徴だと思ってるけど、この作品は不条理じゃないみたいだね。 そこのところはどうだった?味は失ってなかった?
K:<箱男>みたいな読んでいて、眩暈のするようなことは無いね。 そう言う意味で、異色な方だと思う。でもね、この物語の中に監査廊(ダムの奥へ続く深く霧立ちこめる階段) は見事に登場人物の心理が立ち込めてるのを表わしてる
としえ:なんか、安部公房と言う作家を求めて読まなくても、読み物として十分面白そうな話だね。 安部公房って言うと、なんか構えて読んじゃうけど、そんな必要はなさそう
K:うん。そう思う。動機も単なるサスペンス的なものじゃなくて、 かなり社会的で、考えさせられるものなんだよね


人間そっくり 新潮文庫 2001/06/10
≪こんにちは火星人≫というラジオ番組の脚本家のところに、自称火星人のおかしな男がやってくる。 始めはバカバカしくて相手にしなかった脚本家だが、言葉巧みに、自分がいかに火星人であるかを熱弁する男にだんだん、引きずりまわされてしまう。 その男は果たして、本当の火星人なのか、それとも自分が火星人と思いこんでる地球人なのか・・・・・
としえ:短編集<無関係な死・時の崖>に収録されている『使者』と同じ内容だね
K:始めは同じ内容だと思ったんだけどね。でも、ただ長くなっただけじゃなくて要素が増えている気がした。だから今思うと、 別作品として考えた方がいいかも
としえ:ふーん。でも、↑の内容説明の、『その男は果たして、本当の火星人なのか、それとも自分が火星人と思いこんでる地球人なのか・・・・・』なんて 『人間そっくり』を読んでない私には『使者』そのままに思えるよ
K:確かに、その部分は同じだと思う。でも、設定が大きく違う。今回、主人公(脚本家)は皮肉にも『こんにちは火星人』 ラジオ番組やってるしね
としえ:どこが皮肉なの?
K:うん。番組での主人公のアイディアというか、冗談に自称火星人の男が、感銘を受けて訪ねてくるんだ。 その、『こんにちは火星人』の着想が実に面白いんだよね
としえ:で、K君の読んだ感想はどうなの
K:かなり面白いと思う。『使者』のアイディアに様々なアイディアがくっついて、新しい作品として見事に生まれ変わった感じ。 やっぱ、主人公と男の立場の入れ替わりが面白い。男の心理作戦が上手すぎる。そこまでやるか
としえ:立場の違いや、その逆転って安部公房作品では良くあるテーマだよね。深刻な描写でユーモアを感じさせるのは安部公房らしいね。 それにしても、先に『人間そっくり』読んじゃうと、『使者』は物足りなくなりそうだね
K:それはあるね。『使者』では、ある意味主人公は誰でも良いんだ。常識を持ち合わせている限り。 だけど、『人間〜』では主人公の個人的状況が深く関わる。そこが実に皮肉と言うか、かわいそうと言うか・・・・ああ、あと<地球病>のアイディアもいい。 <地球病>ってのは火星人が地球でかかる病気ね。これは恐ろしいよ・・・・・・主人公にとって
としえ:へぇ〜・・・どんな病気なの?
K:それは読んでのお楽しみ。テーマとしては、『否定できない理論は本物か?』ってところかな。 でもこれって、小説だけじゃなく現実世界でも問題だよね。今当然と思ってる常識や諸理論だって、ただ矛盾点を指摘できないだけなんだから。 ・・・・たったそれだけなんだよね


密会 新潮文庫 2001/07/08
ある夏の未明、突然やって来た救急車が妻を連れ去った。男は妻を捜して病院に辿りつくが、 彼の行動は逐一盗聴マイクによって監視されている・・・・・・。二本のペニスを持つ馬人間、女秘書、溶骨症の少女、<仮面女> など 奇怪な人物とのかかわりに困惑する男の姿を通じて、巨大な病院の迷路に息づく絶望的な愛と快楽の光景を描き、 野心的構成で出口のない現代人の地獄を浮き彫りにする
K:いやいや、不条理世界ではない。現実性を保っているから、読みにくくはないと思うよ。 困惑パターンは、確かにいつも通りだけどね。あと、小説の構成が面白い。始めは意味わかり難いけど、 最後まで読んでいけば、解決できるよ
としえ:他の書評ページで、『安部公房流ポルノ小説』なんて言われてたけど、そうなの?
K:うんうん。俺も、かなり安部公房にしては、直に性に繋げているなって思った。でも、ただのポルノじゃないよ
としえ:ふーん。でも、健全な青少年にはお勧めできないって言ってたよね
K:普通のポルノ小説よりはお勧めできるよ
としえ:なんか、凄くダークな印象があるんだけど。これって。覗いちゃいけない世界って言うか・・・・
K:俺が感じたのは、一瞬の隙をついて、妄想の中へと掘り進んでいく・・・・。 覗くっていうのは、いいとこ突いてるね。ただし、今回は、盗聴という、耳を使った覗きだけど。これが神経使うんだ
としえ:・・・・・・・・・いいねぇ・・・・。なんか、そこまで来ちゃうと。アブノーマル路線まっしぐらって感じ。 で、この小説はK君好みだったの?
K:面白かったよ。なんか鋭さがあったし。登場人物も特殊だしね
としえ:全体としては不条理世界?迷路や閉ざされた空間、困惑する男ってもう、大得意パターンじゃん
としえ:<現代人の地獄>だって・・・。凄いテーマだ。で、どうだった?そこらへんは
K:これはね、言いすぎだと思う。俺としては、病院という閉ざされた空間、非日常的な空間について、 焦点が当てられていると思う。なんか、医学生だった安部公房ならではって感じ
としえ:あー。なるほど。身近でありながら、決して実情を知らない場所だからね。妄想の巣だ


水中都市 デンドロカカリヤ 新潮文庫 2001/09/02
ある日突然現われた父親と名のる男が、奇怪な魚に生まれ変わり、それまで何の変哲も無かった街が水中の世界に変ってゆく『水中都市』、 コモン君が見慣れぬ植物になる話『デンドロカカリヤ』、安部短編作品の頂点をなす表題作ニ作に、戯曲「友達」の原形となった『闖入者』や 『餓えた皮膚』など、寓意とユーモアあふれる文体の内に人間存在の不安感を浮かび上がらせた初期短編11篇を収録。
K:それほど不条理ってほどじゃないよ。『箱男』とかに比べたらそうでもないよ
としえ:↑の概要説明がいいね。安部公房の短編の味がよく伝わるよ。私はこの短編集読んでないけど、面白そう
K:ユーモアはあるね。ブラック・ユーモアに近いけど。特に、『水中都市』や『闖入者』では俺も笑ったね
としえ:ギャグじゃなくて、真面目だからこそ、笑えちゃうユーモアだよね、安部公房のユーモアって
K:『水中都市』に出てくる<h野郎>って表現なんか特にそうだね
としえ:いきなり言われても、私は読んでないからわからないよ
K:hってのはプランク定数のことで、物理学をやると、出て来るよ。勉強で覚えたことって言うのはこうやって使うべきなんだって 俺は思ったね。不審な男の細かい肩の揺れを振動数に見立てて、<h(プランク定数)野郎>なんて毒づくところが最高だよ
としえ:あー。なるほどね。知っている人のみ笑えるネタ。確かに、学問ってそう言う面があるよね
K:うんうん。あと他に、『餓えた皮膚』なんてのもお気に入り。とにかく、<レパーゴ(復讐)・A> っていうネーミングには脱帽
としえ:相変わらず、不条理世界のオンパレードって感じだね
としえ:抗体がついたってことか
K:それはあるだろうな。合わない人には厳しいと思うよ
としえ:難しそう。読みにくそう。って敬遠される作家だけど、一度読んじゃうと、面白いと思うけどね
K:俺も読んでて、たまにわかんなくなる作品はいっぱいあるよ。この作品集は野心的って感じがするんだよね。 なんか、安部公房の若い時はこんなんじゃないかな。『餓えた皮膚』や『水中都市』の主人公みたいな奴


カンガルー・ノート 新潮文庫 2001/10/28
ある朝突然、<かいわれ大根>が脛に自生していた男。訪れた医院で、麻酔を打たれ意識を失くした彼は、目覚めるとベッドに括り付けられていた。 硫黄温泉行きを医者から宣告された彼を載せ、生命維持装置付きのベッドは、 滑らかに動き出した……。坑道から運河へ、賽の河原から共同病院へ−果てなき冥府巡りの末に彼が辿り着いた先とは? 急逝が惜しまれる国際的作家の最後の長編!
としえ:カンガルーですか。↑の概要とは全然関係なさそうだけど
K:確かに、カンガルー・ノートとは関係無い方に進むけどね。でも、たまにカンガルー的ものについて考えたりしてるけど
としえ:・・・・・・いつもだけどさ、安部公房作品の説明っていまいちわかりにくいね・・・・。脛毛がかいわれ大根だし。 そう言えば、これって最後の長編だね。そこんところはどう?
K:そうだね、最後だからって特大ヒットってわけじゃなかったね。まぁ、偶然これが最後になったかなーって程度。 ところどころに、面白いエッセンスがあるんだけど、話し全体として良く出来てるとは思わなかった
としえ:珍しいね。安部公房にたいしてその意見。エッセンスって小ネタってことかな
K:そんなところ。キーワード的にしか言えないけど、俺が好きだったのは『カンガルー・ノート』『かいわれ大根』 『賽の河原』『ドラキュラの娘』・・・小ネタとしては面白いんだけど、これらの繋がりとしては、いまいち
としえ:連作の短編向きらしいね
K:読んでて短編って気がしないでもないよ。そうそう、それどころじゃないんだ。この作品にはね、ピンクフロイドが出てくるんだよね
としえ:・・・・・・・別に・・・どうでもよさそうだけど・・。もっと安部公房に関する重大なことを言うかと思ったよ
K:横ヤリ入れないでよ。ピンクフロイドについての好みが一緒だったのが嬉しいね。それだけでも、読む価値はあった。 もう、これで言いたいことは無くなったね


笑う月 新潮文庫 2001/12/08
笑う月が追いかけてくる。直径1メートル半ほどの、オレンジ色の満月が、ただふわふわと追いかけてくる。夢のなかで周期的に訪れるこの笑う月は、 ぼくにとって恐怖の極限のイメージなのだ―。交錯するユーモアとイロニー、鋭い洞察。夢という<意識下でつづっている創作ノート>は、 安部文学生成の秘密を明かしてくれる。表題作ほか、著者が生け捕りにした夢のスナップショット17編
としえ:面白いエッセイ集だね。結構読みやすいし
K:そう、なんと言っても、一編一編の短さが魅力だな
としえ:物語としても読めるのがいいね。元ネタってのもあるけど。しっかし変な夢見てるね
K:としえさんの『安部公房はダリのイメージ』はいいところ突いてたんだね。安部公房は普段から夢を記録していたみたいだから
としえ:夢を作品化したってやつね。私は『たとえば、タブの研究』好きだな。夢でありがちな意味不明なモノ、『タブ』について語るの。パズルみたいな推理が面白いよ
K:しかも、論理的なんだよな。あとは、安部公房的ものの見方が多く掲載されているよね
としえ:作品発祥のヒントを書いたって点は『アイディアを探せ(阿刀田高)』と一緒なんだけど、こっちの方が、より読み物としてのストーリー性が強いよ
K:エッセイか短編小説か、区別つきにくいからね
としえ:あとさ、安部公房って凄い真面目な人かと思いきや、色々とんでもないことやってるよ。『ワラゲン考』なんて、笑えるけど医者としては犯罪だよ。『蓄音機』 は・・・・もう、非道・・・・子供時代とはいえ・・・
K:俺はもともと、こいつはかなりのワルだと思ったけどね。ここまでとは思わなかったけど。でも、ある種、期待通りの青年期だけど
としえ:非凡だよ、とにかく。話は変わるけど、『アリスのカメラ』で明かされるルイス・キャロルの趣味はちょっと引くね。『不思議の国のアリス』のイメージ崩れちゃう
K:とにかく、これはお勧めだよ。もう一つのエッセイ集、『死に急ぐ鯨たち』が絶版になったのは残念過ぎるね。さて、どう手に入れるか・・・・