宮部みゆき
淋しい狩人
龍は眠る
魔術はささやく
本所深川ふしぎ草子
かまいたち
ステップファザー・ステップ
長い長い殺人

淋しい狩人 新潮文庫 2001/03/10
東京下町にある田辺書店は店主のイワさんと孫の稔で切り盛りするごくありふれた 古書店である。しかし、この本屋を舞台に様々な事件が繰り広げられる。 平凡なOLが電車の網棚から手にした本に挟まれていた名刺。父親の遺品の中から 出てきた数百冊の同じ本。本をきっかけに起こる謎をイワさんと稔が解いていく。
としえ:良い短編集だと思うよ。いや、絶対良い!
K:短編集なのに、統一感があるの?
としえ:そうそう。この短編集は連作物だから、全作設定は同じなんだ。 イワさんと稔が話ごとに起きる事件(?)を解決していくの。
K:なるほどね。事件ってどんなの?ミステリーなの?
としえ:良い質問だ。宮部みゆきが書いたくらいだから、推理要素は多いよ。事件はちっちゃなモノ。 推理モノとしても充分面白いけど、本書はそれよりも事件の人間模様や、 事件の裏に潜む心理が良いんだな〜。うんうん。良いよ。これ。
K:ほ〜。聞いてみると、なんだかほのぼのした話って感じがするけど。 題名が<淋しい狩人>なんて、これはどう言うことなの?
としえ:<淋しい狩人>ってのは本書に含まれている一編の題名なんだよね。 実のところ、あんまり本書自体とは関係ない・・・・・。 でもね、全部読み終わると、なんとなく<淋しい>感じがするの。 事件に関わる人全て、(主人公二人も含めて)<淋しい>人達なの。
K:そんなの救いが無くない?
としえ:んん〜〜〜・・・。難しいな・・・。悲劇的な話な訳じゃないよ。ほのぼの調だし。 ただ、それぞれの事件のきっかけや、動機が<淋しい>の。
K:何でそんなに気に入ってるの?
としえ:その<淋しさ>かな・・・・。人間って淋しい・・・。と思わせる短編集なの。
K:なるほど。淋しさだけを残す上手さってあるよね。


龍は眠る 新潮文庫 2001/04/30
嵐の晩だった。雑誌記者の高坂昭吾は、車で東京に向かう道すがら、道端で自転車をパンクさせ、 立ち往生していた少年を拾った。何となく不思議なところがあるその少年、稲村慎司は言った。 「僕は超常能力者なんだ」。その言葉を証明するかのように、二人が走行中に遭遇した死亡事故の 真相を語り始めた。それが全ての始まりだったのだ……
としえ:私はこれ、夢中で読んだな〜。で、面白かったから、K君に『これ、面白いよ』って言ったのに・・・
K:付き合う前の頃、黙って読んで、そっちを驚かそうとしたんだけど・・・・・。
としえ:途中で挫折したと。・・・・・面白くなかった?
K:豪雨の場面があったでしょ。あの場面は凄い緊迫してて、かなり好きな雰囲気だったんだ。 で、問題の<超能力>の場面になっちゃうんだよな。
としえ:一応、この作品はミステリーだから、<超能力>が出てきて、<超能力で解決されるミステリー> って考えが出てきちゃったんじゃないの?確かに、超能力は卑怯だけどね、でも、この作品それがメインじゃないよ。
K:でも、『なんだ、こう言うのか。』って思っちゃったんだよね。
としえ:私も最初、ミステリーのつもりで読んだから、この展開には『げ、出た。』って思ったよ。でも、読み進めるうちに その複雑な事件背景、人間関係、物語の展開の早さに一気にラストまで引き込まれちゃった。私が思うこの小説の 面白さはそこにあるんだけどね、世間一般ではこの小説の主題は<異端者の哀しみ>らしいけど。
K:<超能力者>故の迫害ってのは良くあるパターンじゃないかな。『NIGHT HEAD』とかもそうだし。
としえ:あ〜。なるほどね。でも小説内の<異端者>って<超能力者>だけじゃないよ。それぞれが、それぞれの <異端>を抱えて、苦悶があるんだな。でもって、小説ではこのことを前面に出してないの。 メインは事件の解決だから。それが従来の<異端者の哀しみ>を描いた作品とは違うと思う。事件の解決を読み進めながら、 読者はちょとづつ彼らの<哀しみ>を感じていく仕組み。なかなか上手いっしょ。
K:やっぱ最後まで読んだから評価しなきゃいけないって事かね。
としえ:そうだね。でも、私は<超能力>の手助けで最終的に解決するミステリーはこれで読むのは最後にしたいな。 二度は通じない。


魔術はささやく 新潮文庫 2001/04/30
それぞれは社会面のありふれた記事だった。一人めはマンションの屋上から飛び降りた。 二人めは地下鉄に飛び込んだ。そして、三人めはタクシーの前に飛び込んだ。 何人たりとも相互の関連など想像し得べくもなく仕組まれた三つの死。 さらに魔の手は四人めに伸びていた……。だが、逮捕されたタクシー運転手の甥、 守は知らず知らず事件の真相に迫っていたのだった。
としえ:ダメ。ダメです。これ。いかんよ。途中まではメチャクチャ面白かったのに。ラストで終わった。
K:ほ〜。これが<超能力>物のニ度目ってわけか。
としえ:そう言うこと、ま、この場合は<超能力>で謎を解くんじゃないけどね。だってさ〜、あそこまで引っ張って あのトリック(?)は無いでしょう・・・・。
K:これも<異端者の哀しみ>なの?
としえ:ある意味そうだね・・・。宮部みゆきは本当に異端者じゃなくても人の<哀しみ>を描くのは上手いよ。 それに加えて、事件が複雑に絡んできて・・・・ってパターンなんだけど、私は宮部作品に事件がジェットコースター展開 で解決されていく事を求めているから、決して<哀しみ>は私のメインじゃないんだよね。
K:じゃあ、事件の解決が納得いかなかったって訳か。
としえ:うん。凄い緊張感で読ませてくれて、良かったのに・・・・。面白かったからこそ、 『これはずるいでしょ』って思った時の幻滅への落差が激しいんだ。 私のように事件のトリックを中心に読んでいる人には<超卑怯作品>だと思うよ。でも、 彼女の描く<哀しみ>が好きなら、絶対に面白いはず。主題は事件トリックじゃないからね。 主人公の少年がいい味出してます。


本所深川ふしぎ草子 新潮文庫 2001/05/20
近江屋藤兵衛が殺された。下手人は藤兵衛と折り合いの悪かった娘のお美津だという噂が流れたが・・・・。幼い頃お美津に受けた恩義を忘れず、 ほのかな思いを抱きつづけた職人がことの真相を探る「片葉の芦」。お嬢さんの恋愛成就の願掛けに丑三つ参りを命ぜられた奉公人の娘おりんの出あった 怪異の顛末「送り提灯」など深川七不思議を題材に下町人情の世界を描く7編。宮部ワールド時代小説篇。
としえ:生まれて初めて読んだ『時代小説』。時代小説ってみんなこんな感じなのかな〜。
K:時代小説ね〜・・・。どうも興味がないんだよね。
としえ:別に独特な雰囲気があるとは思わなかったよ。普通に読めたけど・・・。まぁ、頭の中で想像する時にどうしても 時代劇ドラマの雰囲気をイメージしちゃうけど。
K:そう。そこなんだよ。時代劇ドラマの絶対懲悪がどうも好きじゃないんだよね。
としえ:・・・・この小説に勧善懲悪の話なんて出てこないよ。K君完全に『悪代官・越後屋』の偏見持ってるね。
K:ああ。持ってるさ。だってそうじゃん。
としえ:それはドラマでしょ。これは違うって、だから、そう言う偏見持った人が読んだら、ちょっと意外に思うんじゃないかな。 実は私もその一人だし。
K:よく読む気になったな。で、内容の方はどうなのさ。
としえ:宮部みゆきの短編って時代物しかなかったんだもん。内容は・・・特に印象に残る話は無いけど、まぁ面白い程度。
K:へ〜・・・。じゃあ、俺読まないかも。
としえ:うん。K君は読まない方がいいかも。だって時代小説ながら、超能力少女が出てきて事件を解決するから。
K:お気に入りの短編はあるの?
としえ:うん。↑に書いてある『送り提灯』だね。最後の余韻の残し方がね・・・・。結局事実はどうなんだろう・・?って感じで良いよ!


かまいたち 新潮文庫 2001/05/20
夜な夜な出没して江戸市中を騒がす正体不明の辻斬り『かまいたち』。人は切っても懐中は狙わないだけに人々の恐怖はいよいよ募っていた。 そんなある晩、町医者の娘おようは辻斬りの現場を目撃してしまう・・・。サスペンス色の強い表題作はじめ、純朴な夫婦に芽生えた欲望を描く 「師走の客」、超能力をテーマにした「迷い鳩」「騒ぐ刀」を収録。宮部ワールドの原点を示す時代小説短編集。
としえ:ん〜。↑の説明どおり宮部ワールドの原点かもね。って、あんまり彼女の作品をたくさん読んだわけじゃないけど。
K:短編で言うとどれなの?辻斬りのやつ?
としえ:『かまいたち』ね。それもあるかな。でも一番顕著なのは、やっぱり『迷い鳩』『騒ぐ刀』じゃないかな。だって超能力で事件を解決するんだもん。
K:超能力で解決ってさ、それって納得できるやつ?
としえ:時代小説ってことで現実味無いし、短編だから読者をひっぱても無いし、最初から超能力で解決しようとしてるから、 裏切られた感じは無いよ。こんなもんじゃない?
K:『かまいたち』ってさ、よく話の題材に使われるよね。外国のドラキュラじゃないけど。日本でかまいたちがウケるのは、 やっぱ刀の文化があったからかな。
としえ:その発想は良くわからないんだけど・・・。だって『かまいたち』だよ。『刀』じゃなくて『カマ』じゃん。
K:・・・・・。
としえ:ちなみにこの作品も『本所深川ふしぎ草紙』同様の感想ね。可も無く不可も無く。


ステップファザー・ステップ 講談社文庫 2001/08/10
中学生の双子の兄弟が住む家に落っこちてきたのは、なんとプロの泥棒だった。 そして、一緒に暮らし始めた3人。まるで父子のような(!?)家庭生活がスタートする。 次々と起こる7つの事件に、ユーモアアフレル人の会話。宮部みゆきがお贈りする、 C・ライス『スイートホーム殺人事件』にも匹敵する大傑作!
としえ:息抜きに丁度良い、平和な連作短編集だね。面白かったよ。
K:ステップファザー・ステップってなかなか面白い題名だね。何か意味あるの?
としえ:ステップファザー=継父って意味なんだって。最後にステップってまた入れることで、 この小説の特徴である明るさを出してるね。
K:なんだそうなのか。連作短編って言ってるからには、一つ一つに事件が含まれてるの?
としえ:うん。ミステリー作家だからちょいとしたオチのある事件がね。
K:ふーん。表紙からしても本当に明るそうな話だね。まぁ、そう言うのもたまにはいいけど。
としえ:赤川次郎作って言われても納得しちゃうかも。宮部みゆきはミステリー作家って思わないほうが 私は楽しめることがわかったよ。
K:そうだね。都で扱った作品でもミステリーって感じはしなかったもんな。
としえ:彼女は人情小説として読んだ方が面白いね。人物描写とかキャラクター設定が上手いし。
K:軽いイメージのわりにはページ数が多いような気がするけど、そこらへんは気にさせないの?
としえ:私もこの厚さには一瞬躊躇したね。でもね、ほとんどが会話で成り立っているから、 実際の文字数は少ないよ。そこらへんも赤川次郎って思ったの。
K:会話で読ませているわけか。
としえ:そういうこと。この小説の一番の魅力は登場人物達の会話の駆け引きなんだよね。


長い長い殺人 光文社文庫 2002/04/29
 金は天下のまわりもの。財布の中で現金は、きれいな金も汚い金も、 みな同じ顔をして収まっている。しかし、財布の気持ちになれば、話は別だ。刑事の財布、強請の財布、死者の財布から犯人の財布まで、 10個の財布が物語る持ち主の行動、現金の動きが、意表をついた重大事件をあぶりだす!
としえ:いやぁー。軽いタイプのミステリー小説かと思いきや、結構読ませてくれたね
K:最初は財布が語るパターンはどうかと思ったけど、進むにつれてそのもどかしさがいい味出してきたね
としえ:そうそう、登場人物の財布がそれぞれ知っていることしか話さないから、断片的なことばかりで、 なっかなか事件の詳細や進行がつかめなくてとまどったよ。でも、会話文ばかりだからサクサク進んだけど
K:うん。スムーズに読めるね。しかも、途中に山を持ってくるとはね。あれでぐっと引き寄せられたよ。 あの段階であれを持ってくるとはね
としえ:いきなりの急展開だったもんねぇ・・・・びっくりしたよ。それから、またちまちまと進むわけだけど、 またもや、意外な展開が待ってるんだよね。あれですよ。小話みたいなやつ
K:小話か。確かに絶妙なところで読者を一度横に振ってるね。上手い。 あと、途中の山がメインの話だったら大したミステリーにはならなかったよ。テクニックだね、作者の
としえ:そうだね。構成が見事だと私も思った。話の順序というか、財布の順序というか・・・。 飽きさせない展開の方法を熟知してる。で、ラストは彼女らしい展開と真相で社会的
K:社会的っていうなら、ラストもそうだけど、俺は財布に語らせるという形式。 確かに今の社会、財布ほど肌身離さず持っているものは無いから。財布が持ち主を表わすんだからね
としえ:うーん。財布で持ち主の特性を表わそうとした着眼点は面白いと思ったけど、それが社会的だとは思わなかったなぁ
K:うん。つまり、財布が語るだけで物語が滞りなく進んでしまうってこと
としえ:あぁ、それほど現在の社会の人々が財布に頼っているというか、密接しているって言いたいのね。あーそれにしても、 宮部みゆき小説内の主人公(男)って哀愁漂ってるね