二千一年三月のある日
 

                      
加藤 暖彩

 ワイワイワイ、ガヤガヤガヤ、ワイワイワイ、ガヤガヤガヤ。
 二千一年三月のある日、ある大きな電気屋さんでは、あふれんばかりのお客さんで大にぎわい。開店セールかな、いえいえ違います。今年の四月一日から『家電リサイクル法』というのが始まって、テレビ、冷蔵庫、エアコン、それと洗濯機の四つの電化製品を処分するのに、お金がかかるようになるのです。そのお金を払いたくない人が新しい電化製品を買って、今使っている電化製品を三月中に無料で処分しようとしているのです。
 このにぎわいの取材に、テレビ局もやってきて、店長さんにインタビューしています。
「こんなにたくさんのお客さんが来るのははじめてです。商品が売れて売れて無くなりそうで困っています」
 店長さんはニコニコしてそう言いました。

 家でその放送をリョウくん、パパとママの家族みんなで見ていました。
「電気屋さんがもうかっているんだって」
 パパがテレビを指さして言いました。
「うちの電化製品も買いかえようか」
 ママがそう言えばパパはこわくて反対などできません。
 パパとママは結婚して約十年たち、ママが嫁入り道具として持ってきたテレビ、冷蔵庫、エアコン、おまけに洗濯機も古くなっています。「もったいない」が口ぐせのママも、処分にお金がかかるとなるとじっとしてはいられません。
「ワーイ、ワーイ、今度は、平面のブラウン管だ。友だちの家にあるのといっしょだ」
 リョウくんはそう言って喜びました。冷蔵庫やエアコン、洗濯機も新しくなるのが、なぜか分からないけどリョウくんにはうれしく思えました。
 その日は、電気屋さんの広告を持ち出してきて、あれがいい、これがいいと時間がたつのも忘れて、家族三人で楽しい口ゲンカが続きました。

 その日の夜、リョウくんの夢の中に四つの電化製品が現れました。
「リョウくん」
「なに?」
 リョウくんは電化製品が話しかけてきても不思議に思いませんでした。
「リョウくんともお別れだね。今まで、ごはんを食べるのを忘れてまで、テレビを見てくれてありがとう。テレビゲームも目が赤くなるまでやったね」
テレビがそう言うと続いて冷蔵庫が話しました。
「ジュース、アイスクリーム、そしていろんな飲み物や食べ物を、リョウくんがおいしそうに飲んだり、食べたりしたのをおもいだすなー」
「リョウくんが赤ちゃんの時は、あせもができないように夏の間、ずっとはたらいたな」
と、エアコン。
「リョウくんは布オムツだったから、がんばってはたらいたなー。小学校に入ってからも、よくどろんこになって服をよごして帰ってきたから、はたらきがいがあったよ」
 洗濯機も思い出しながらつづけて話しました。
 そして、4つの電化製品は声をそろえて言いました。
「たくさんの思い出、ありがとう。でも、これからはゴミとしてくだかれて、きたない所でずっとすごさなきゃならないんだ。四月一日までこわれずにがんばれば、また新しいテレビ、新しい冷蔵庫、新しいエアコン、新しい洗濯機として生まれかわれたのに、また、だれかのためにはたらくことができたのに、ざんねんだよ」

 次の日の朝、リョウくんは目をさますといそいでパパとママのところへ行きました。
「パパ、ママ。テレビ、冷蔵庫、エアコン、それと洗濯機、全部こわれるまで使おうよ。今までみんな、ぼくたちのためにがんばってくれたんだから。これから、一生ゴミとしてくらすのはかわいそうだよ。四月一日がすぎれば、新しい電化製品に生まれかわることができるんだよ」
と、心をこめて話しました。
パパは少し考えて、
「よし、わかった。こわれるまで使おう」
と、ニッコリ笑って言いました。
「そう、物は大切に使わなきゃ」
と、ママもえがおで言いました。
「ワーイ、ワーイ」
 リョウくんはそう叫び、飛びはねて喜びました。
「また、いっしょにくらせるよ」
 そう言って4つの電化製品一つ一つにえがおであいさつして回りました。
 リョウくんは、電化製品たちも喜んでいると、たしかに感じました。

 



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