安売りデパート ムシャッキン

 

            加藤 暖彩

 

シー、お静かに、ここは『安売りスーパー ムシャッキン』の入社式です。今から社長さんのあいさつがはじまるようですよ。

背が低く、やせていて天然パーマで、ちょびひげをはやした社長さんがマイクの前に立ちました。

「みなさん、入社おめでとうございます。私が社長です。まずは、わが社の名前の説明をしましょう。バブルと呼ばれた時代に、土地、株、ゴルフの会員権を値上がりするからとすすめられ、銀行でお金を借りて買いました。それらは、値上がりはするけれど、値下がりしないと信じられていたのです。しかし、バブルがはじけて値下がりし、私は大損。借金を返すのにとても苦労しました。そして、借金を返し終わったとき、もう二度と借金をしないようにとスーパーを『安売りスーパー ムシャッキン(無借金)』という名前にしました。それ以来、借金をしない経営をつらぬきとおしています。

社員の中には、この名前はカッコ悪いと言うものがいました。しかし、この名前は、借金をしていないという健全経営で、品物を安く売っているということをアピールしている名前です。

お客さまに喜ばれ、『安売りスーパー ムシャッキン』という名前を、私たちがカッコ良くしていきましょう。

来年には、駅前ビルを建てて、『安売りデパート ムシャッキン』を新たに開店させます。私の夢は、駅前デパートが成功し、お客さまに喜ばれ、利益を上げて、社員みんなにたくさんのボーナスを出すことです。お客さまが喜べば、わが社がもうかるということです。

みなさんもそれぞれの夢に向かって、わが社でいっしょにガンバって働きましょう」

はくしゅの中、一礼して席に戻ると、

「すばらしいスピーチでした」

と、となりにすわっている背の高く、ガッチリとした体格の男が声をかけました。彼はこの会社の専務さん、社長さんよりかんろくがあるので、一緒にいると、時々、社長さんに間違えられます。

 

ここは社長室。小さな部屋に、ソファー、テーブル、机と本棚があります。

社長さんは社長のイスに座り、部屋の中にはピーターと言う名のセントバーナード犬がいました。いつも社長室のすみで寝ていて、運動していないのでブヨブヨと太っています。

社長さんは、ピーターをながめていました。

「ピーター、いつも寝てないでたまには運動しろよ」

と、話しかけましたが、ピーターは耳を少し動かしただけで体はずっと寝たままです。

そこへ、あわてたようすの専務さんが入ってきましたよ。

「社長、大変です。設計会社から駅前ビルの設計でどうしてもお金が足りず、エスカレーターか、エレベーターのどちらか一方しか作れないということです」

「なに…、困った。しかし、借金はできない、『安売りデパート ムシャッキン』だからな。運ぶ人数の少ないエレベーターをあきらめよう」

社長さんは残念そうに窓の外をながめました。

 

数日後。また、社長室にあわてたようすの専務さんが入ってきましたよ。

「社長、大変です。エスカレーターを作るのにも、少しお金が足りないそうです」

「なに…、困った。階段だけではお客さまが来てくれない。そうだ、二分の一にせまくして払うお金を安くしろ、エスカレーターの速さを二倍にすれば同じ人数を運べるじゃないか」

「さすが社長、頭が良い」

「借金はできないのだ、『安売りデパート ムシャッキン』だからな」

 

一年後。『安売りデパート ムシャッキン』がオープン。若者をターゲットにしたデパートは大にぎわい。ようすを見に来た社長さんもニコニコ顔。

 

ところが数年後、近くに同じ若者をターゲットにしたデパートが新しくできてお客さんを取られてしまいました。

「同じ事をやっていてはダメだ。赤ちゃん、子ども、お年寄りと太った人向けのデパートにする」

と、社長さんは言いました。

社長さんの号令で、急いで品ぞろえをかえましたが、お客さんはぜんぜん来ません。

 

社長室で会議が始まりました。社長さん、副社長さん、専務さんの三人がソファーにこしかけています。みんなだまっていて、会議はすすみません。ピーターはあいかわらずねていて、たまにあくびをしています。社長さんは、立ち上がって部屋をうろうろ。

「どうしてお客さまが来ないんだ。何が原因なんだ。どこに問題があるんだ」

と、怒鳴り、ゴミ箱をけりました、ちょうどお茶を持って入ってきた秘書のお姉さんにゴミ箱があたり、

「キャー」

もっていたお茶が専務さんにかかり、

「あちちちちちちー」

暑がる専務さんは副社長さんを突き飛ばし、

「おっとっと」

副社長さんはよろけてピーターのしっぽを踏み、

「キャイーン」

おどろいたピーターは本だなに飛び乗り、本だながたおれて社長さんのつま先の上に落ちました。

「イタイ、イターイ」

そう社長さんは叫びつづけ、救急車に乗って病院へ。

 

次の日の社長室。足の指が折れて、車椅子で出勤した社長さんと副社長さんと専務さんがいました。昨日、とつぜん中止になった会議の続きです。今日も、三人ともだまっていて、会議はすすみません。

「ここで話し合っていても、らちがあかない。今日は、デパートに行く。お客さまが来ない原因を探すのだ」

社長さんはそう言い、デパートに行くことになりました。なぜか、ピーターが社長室から社長さんについて出て、一緒に車に乗り込みました。

「お前が外へ行くなんてめずらしいな。いいことだ」

車の中で社長さんはニコニコ顔です。

 

十五分ぐらいかかって、デパートへと着きました。車から降りると、車イスを専務さんが押し、そのあとを副社長さんとピーターがついていきました。

 車イスなので、エレベーターを探しましたが、あるはずがありません。作ってないのですから。社長さんは怒って言いました。

「エレベーターが無いじゃないか。これでは、車イスに乗った人やベビーカーを押しているお母さんが買い物できないじゃないか。誰がエレベーターをいらないと言った」

「社長です」

ばつが悪い顔をして、

「マツバヅエを持ってこい」

と、言いました。

専務さんが持ってきたマツバヅエで歩いて、エスカレーターへ向かいました。そして、乗ろうとするのですが、スピードが速くて乗れません。

「こんなに速くては、お年寄りやけがをした人は乗れないじゃないか。誰がこんなに速いスピードで動かせと言った」

「社長です」

ばつが悪い顔をして

「今すぐ遅くしろ」

と、言いました。 

スピードを遅くして、やっと、エスカレーターに乗り社長さんは二階に着きました。しかし、社長室からついて来た犬のピーターがいません。

「ピーターはどこだ?」

キュルルルルルー、キュルルルルルー、と音が聞こえてきます。

エスカレーターの下のほうを見てみると、せまくて一番下のところにはさまっています。

「こんなにせまくては太った犬、じゃなかった。太った人や子どもずれの人が乗れないじゃないか。誰がこんなにせまいエスカレーターにしろといった」

「社長です」

「エレベーターと広いエスカレーターを作れ、社長命令だ。しかも、エスカレーターは車イスの人、ベビーカーを押している人、子ども、お年よりや太った人が楽に乗れる特別なやつだ」

 社長さんは、顔を真っ赤にしてそう言いました。

「しかし、借金をしないと作れません」

専務さんにそう言われ、社長さんは目を閉じ、口をへの字にして考えました。

「しょうがない、借金をしてでも作れ」

社長さんは心も体もにつかれたようす。

「ああ、つかれた。あれ、イスが近くにないのか?」

 小さな声で、

「イスを置くなと私は言っていないよな」

「はい、言っていません」

すると、大声で、

「つかれた人が、すぐに座れるように、イスをあらゆるところに置かないとダメじゃないか、早くイスを持ってこい。これでは、お客さんが来ないわけだ」

 

次の日から、専務さんは特別なエスカレーターを作ってもらうため、製造会社を頼んで回り、何とか作ってくれる会社を見つけることができました。

そして、何ヶ月かたち、改装工事を終えたデパートは、車イスの人、ベビーカーを押している人、子ども、お年寄りや太った人でも楽に乗れる特別注文のエスカレーターのおかげで、人にやさしいデパートと評判になり、たくさんのお客さんが来るようになり、もうかりだしました。もちろん、社員みんなの努力とアイデアがあったからこそであります

たくさんのお客さんでこんでいるデパートをながめて、社長さんは専務さんに言いました。

「このデパートがたくさんのお客さまに喜んでもらえてよかった。借金を悪いことだと決め付けてはいけない。良い借金だってあるんだ」

社長さんは、ニコニコしていました。

「社長、わたくし、気になることがあるのですが」

 とつぜん、専務さんが話しかけてきました。

「なんだ?」

「借金をしてしまったので、『安売りデパート ムシャッキン』という名前はおかしいと思うのですが…」

「専務、お前は名前を変えろというのか? 看板を書きかえるだけでもお金がかかる。細かいものまで含めたら、いくらかかるかわからない。おまえはまた借金をしろと言うのか? とにかく私は借金が大キライなんじゃー」

 


「安売りデパート ムシャッキン」のあとがき

 この作品は、ほのぼの童話館創作童話募集に応募しようと書きはじめました(この賞は、童話を書きはじめた頃、ディズニーランドに行き、ホテルに泊まった時、部屋のドアノブにかかっていた産経新聞(家では地元の新聞です)に募集広告が載っていて、この偶然に、「天は我に童話を書けと告げたのだ」と、勝手に解釈したという特別な童話賞です)。

 主催のほのぼのレイクを意識して、ストーリーを考えました。3日ぐらいで最初の下書きが書けました。しかし、原稿用紙4枚分になってしまい、文を短くするとストーリーが変わってしまうので、応募をあきらめました。
 他の賞を調べてみましたが、このストーリーが賞を取れる可能性が少ないと思い作品市場で作品を発表することにしました。
 だいたい、3ヶ月ぐらいで書き上げました。前作の発表からは5ヶ月近くかかりました。

 子どもたちにもバブル時代のことを伝えたいという思いと、後の世で、「当時の童話では、バブル時代のことをこう書かれていました」とテレビ番組で紹介されたいという下心もあり、バブルのことをどうしても書きたかったのです。(こういう何年か経つと古く感じる童話の書き方は良くないと本には書いてあるので、みなさんは書かないほうがいいですよ。)

 犬の名前は、セントバーナード犬で思いついたアニメの「アルプスの少女ハイジ」のペーターを英語読みしたらピーターかな、と勝手に思い名づけました。「キャイーン」と鳴かせたのは「愛知県出身のキャイーンの天野さん頑張って」という気持ちからです。

 この童話が4作品目です。まだまだ勉強が必要ですが、少しずつ書いていきたいと思っています。他の作品をまだ読んでいないと言う方は、ぜひ、読んでいってください。感想を掲示板に書き込んでいただくとしあわせです。

 あとがきまで読んでいただき、ありがとうございました。
   
 ちささんのことばに、何度も勇気付けられ最後まで書くことができました。本当にありがとうございました。
   
                            ちささんのHP
 


                                     加藤 暖彩 (かとう のい)






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