「マジカル・駅弁・ツアー」     
      

「うわー、おいしそう」
と、思わずぼくは叫んだ。日曜日の朝、近くに新しくできた『マジカル』というショッピングセンターで今日行われる、駅弁セールのチラシを母ちゃんと見ていた。そこには、数多くのメニューが写真入りでのっていた。
「母ちゃんは、ウニ・イクラ弁当とカニ弁当にしようかな」
「名古屋コーチン鳥弁当もおいしそう」
「ねえ、ヒトシ、ここ見て。オープン記念として、『買った駅弁を食べに行く旅』が3名様に当たるそうよ」
「ということは、名古屋コーチン鳥弁当は、名古屋へ旅行できるんだ」
「これじゃ、弁当で決めるか、旅行先で決めるか迷うわねー」
「明日からは京都へ修学旅行。そして、また旅行に行けるかもしれないね」
「当たってから考えなさい」
 父ちゃんは近くのガソリンスタンドに勤めていて、日曜も仕事。だから、ぼくと母ちゃんで、修学旅行で必要なものを買いに、古くて小さな赤い軽自動車で出かけた。どうも食費にお金がかかって、新しい車は買えない。
 ある友達に「フトシ、母ちゃんと車に乗ってるの見かけたぞ。横から見ると、二人ともうしろのシートに乗ってるみたいだな」と、この前笑って言われたっけ。うまいこと言うな。そう、ぼくは太っているからみんなにフトシと呼ばれている。背も高いから小学生に見られない。太っていることは、恥ずかしいと思わない。おいしいものがあるのに食べない方がおかしい。それに、体が大きいとかなわないと思うのか、けんかをしなくてすむ。でも、本当は健康に悪いので、余分に食べた分を運動しなくちゃいけないんだけど…。
 十五分ほどでショッピングセンターに着き、駐車場に車をとめて建物を見ると、青い空を背に、屋根の上の『マジカル』と書いてある看板と、横へ少しはなれたところに、大きな魔女がかぶるような帽子、その右側に大きなほうき、左側には大きな魔法使いの使うようなつえがあった。広告にもそのイラストがあったっけ。
 中に入り、まずは修学旅行に必要なものを探しながら、ショッピングセンター内を回った。魔女や魔法使いをイメージしていて、壁は黒く、フクロウ、黒猫、ほうき、つえ、魔法使いなどのイラストや置物があちらこちらにあった。
ぼくの場合、たくさんお菓子を買うので、買い物のときはいつも大きなリュックをしょっているんだ。そして、食料品コーナーで急にふくらんだ。買った下着などは母ちゃんが持った。   
 必要なものがそろったので、駅弁売り場へ。そこは人でごった返していて、かなり商品も少なくなっていた。
「オープン記念。旅行の当たり券つき駅弁だよー」
店員さんの声がひびく。そうだ、旅行が当たるんだった。
「湯谷川(ゆやがわ)温泉駅の蜂の子めしは、当たりの紙袋が入っていたら温泉旅行だよ」
 そこまでくわしく言うってことは、この駅弁には当たりが入っているな。蜂の子めしってどんな味だろう。温泉に入りたいなー。そのあと、料理を食べたら幸せだろうな。
 ぼくは、蜂の子めしと、神戸牛ステーキ弁当を買った。神戸にも一度、行ってみたいから。母ちゃんは、家で食べたいと言っていたウニ・イクラ弁当と、カニ弁当。食べ物で選んだな。
おなかもすいてきたので、食べる所を探して歩くと、手品を見せている舞台とたくさんのベンチがあり、そこで食べることにした。
 ドキドキして蜂の子めしの包み紙をあけると、『当たり』と書いた紙袋。
「やったー、温泉旅行だ」
 そして、気分良く食べ始めた。炊き込んだ蜂の子は、色が白く、少し甘くておいしかった。神戸牛ステーキ弁当には、当たりは入ってなかったけど、おいしかった。
 食べ終わると、旅行がはずれた母ちゃんが、袋に書かれた旅行の説明を読みはじめた。
「バッチを着けると旅行が始まるって、書いてあるよ。どういうことかね」
と、不思議そうに言った。袋には、ツアーの時に、よく胸につけるバッチが入っていた。
ほくは、「マジカル・駅弁・ツアー」と文字が入ったそのバッチを、なにげなく服につけてみた。すると、目の前が急に真っ暗になり、強い風が吹いた。そして、見知らぬ駅の中にあるベンチにすわっていた。
 駅弁売りの人が笑顔で近づいてきて、蜂の子めしをぼくに渡して、すぐ行ってしまった。
 今日は日曜日で、明日は京都へ修学旅行だ。とにかく帰らなきゃ…。そうだ、母ちゃんが心配してるから、連絡しないと。
 外に出て、ふくろうの石像のとなりにある公衆電話で、母ちゃんの携帯電話にかけた。
「もしもし、母ちゃん? ぼく」
「ヒトシ、どこにいるの?」
 駅の建物を見ると、木の板に「湯谷川温泉駅」と書かれていた。
「湯谷川温泉駅で蜂の子めしをもらったとこ。今から電車で家に帰るから、先に帰って修学旅行のしたくをしておいて」
 時刻表を見たら、あと十分で電車が来る。一時間に一本しかないので、ラッキーだ。
 電車に乗ると蜂の子めしを食べながら、修学旅行のことばかり考えた。
 三時間もあれば家に着き、明日の修学旅行に間に合う。そういえば、テレビで京都への旅番組を見てて「京料理を食べたい」と母ちゃんに言ったら、「修学旅行で食べれるから、楽しみにしてなさい」なんて言われたっけ。母ちゃん、買った下着にちゃんと名前、書いてくれたかなー。すると、また目の前が暗くなり、強い風が吹いた。
 気がつくとザーという音とともに、小さな八つの滝が目に入った。とてもきれいだ。マイナスイオンをたっぷり浴びて、気持ちがいい。カメラに向かってポーズをとるお姉さんのとなりに、八滝(やつたき)と書かれた看板があった。そうだ、帰らなきゃ。森から吹いてくる冷たい風の中、汗をかきながら、とても長いじゃりの道を駐車場を探して歩いた。
 駐車場に着き、今から道へ出ようとする車に話し掛けた。やさしい人で、車に乗せてもらい、一番近かい駅で降ろしてもらった。
 また、ここから電話するのか。ぼくは、ふくろうの石像を見つめた。
「もしもし、母ちゃん、ぼくまた旅行に連れ戻されちゃったよ。ねえ、どんなスケジュールになっているか教えて」
「えーっと、短篠城(みじかしのじょう)、電車で湯谷川温泉駅、駅弁で昼食、八滝、神踏岩(かみふみいわ)、温泉旅館で泊まる。次の日、蜂来寺山(ほうらいじさん)、そこで昼食。そして、湯谷川温泉駅から電車で豊橋(とよはし)駅、解散って書いてあるわ」
「ありがとう」
 今度は三十分待って電車に乗った。また連れ戻されないか心配しながら、窓の外をながめていると、目の前が暗くなり、強い風が吹いた。
 神踏岩と看板に書いてある。母ちゃんに教えてもらったスケジュールどおりだ。岩山の頂上で少し平らになっていた。人が集まっているところへ行ってみると、そこにピーナッツの形をしたくぼみと、それより小さな丸いくぼみが五つとなりにあり、まるで足跡のようだ。せっかくなので少し見て、また、駐車場をめざした。がけのせまい道、鉄柱についているくさりを手でしっかり握りしめながら、ゆっくり降りた。こういう場所では、リュックが良く似合うなー。手さげバッグじゃなくて良かった。そうだ電車に乗るとまた連れ戻されるから、今度はバスに乗って帰ろう。
また、やさしい人に出会えて、車でバス停まで送ってもらった。バスの中ではひまなので、リュックの中のお菓子を食べた。しかし、今度も目の前が暗くなり、強い風が吹いた。そして、リュックを抱えたまま温泉旅館のロビーのイスに座っていた。
 温泉旅館の露天風呂に入浴。今日は、たくさん汗をかいたので、とても気持ちがいい。そのあと、浴衣(ゆかた)に着替え、陣羽織(じんばおり)をはおった。そして夕食、たくさんのごちそうを味わい、幸せな時間を過ごした。
 もう修学旅行はあきらめた。いくら家に帰ろうとしても、また旅行に連れ戻される。明日は蜂来寺山へ登ろう。そうだ、そのことを母ちゃんに電話しなきゃ。部屋に置いてある電話の受話器を手にした。
「もしもし、ぼく。明日の…」
「ヒトシ、『バッチをはずせば、家に帰れる』って、お店の人に電話で聞いたの。すぐはずして!」
 あわてて受話器を置いて、ハンガーにかけてある服からバッチをはずすと、目の前が暗くなり、強い風が吹いた。
受話器を持った母ちゃんが目の前にいた。そして、手に持っていたバッチは消えていた。
「ヒトシ! よかったねー、無事に帰って来れて。これで修学旅行もいけるね」
「どうしよう、リュックも服も全部置いてきちゃったよ」
 財布も旅館に忘れたジーパンのポケットの中。急いで貯金箱からお金を出した。すると、父ちゃんの車の音。グッドタイミング、帰って来た。ぼくは家の外へと走り出た。
「おっ、ヒトシ、帰って来れたのか。なんだー、浴衣なんか着て」
「急いでコンビニへ連れてって」
 ぼくは、父ちゃんの車に乗せてもらい、コンビニへと向かった。修学旅行に持っていく、お菓子を買うために。

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