ザリガニを守れ!

ある土曜日、保育園からの帰り道。りょうくんは、真ん中で横に切ったペットボトルを大切に持って、ママと歩いていた。なぜかというと、保育園の「家族と遊ぶ会」でザリガニつりがあり、その時につり上げたザリガニが入っていたから。
先生が休日に、園児の人数分のザリガニを取ってきたのだ。
ママは、ザリガニを指さして、
「かわいそうだから、川へ逃がそうか」
「いや! ぜったいにかう」

りょうくんは、家に着くとすぐパパのところに行き、
「ザリガニの入れ物は?」
「えっ、ザリガニをかうの?」
パパはしゃがんで、ペットボトルの中のザリガニをかくにんしてから、
「どうせ、パパがめんどうをみるんだから」
そうつぶやいて、物置からプラスチックのケースを持ってきた。それは、一年前の旅行で、近くに川が流れる温泉旅館にとまった時、迷い込んで来たカニをつかまえて、それに入れてかっていたのだ。
パパに、ザリガニと井戸の水をケースに入れてもらって、自分の部屋へ持っていこうと歩いていると、
「持っていかないで。くさいから玄関でないとかってはだめよ」
と、ママは怒ったような声で言った。

玄関で、パパとりょうくんはザリガニをかんさつしていた。
「ザリガニって何を食べるのかな?」
「パパが子供のころ、スルメでザリガニをつったぞ」
と、思い出したように言った。
「ママー、スルメ」
りょうくんは叫んだ。ママが、スルメとキッチンバサミを台所から持ってきてくれた。それをパパがこまく切って、りょうくんがザリガニにあたえた。ザリガニには、大きなハサミのついた前足が二つあるが、ほかのほそい足にも小さなハサミがついていて、そのハサミで上手にはさんで持って食べた。
残ったスルメは、ビニール袋に入れて口をしばらずに、げた箱の上においた。

日曜日、りょうくんが庭で石をひろいあつめて遊んでいると、ノラネコがうろうろしていた。しっぽが短く、うすぎたない白と黒のブチネコだ。
おせいぼの包み紙をひっかいてやぶいたり、パパが持って帰ってきた、ハンカチで包んである空のべんとう箱を持ち出して、家の裏においていったりしたのは、きっとあのノラネコにちがいないと、前に家族で話していた。
 ノラネコは、するどい目を光らせてこっちを見た。
「コラー」
と、りょうくんは声を出して追い払った。ネコは逃げ足が速く少し走って、チョッとはなれるともう追いつかないかと思ったのか、ゆっくり歩き出した。りょうくんはバカにされた気がして、もう一度走って追いかけるとまた走り出し、となりとのさかいに並んでうえてある、ホソバの木の下から逃げていった。
また、ネコが戻ってくるといけないので、ずっと玄関の前にいることにした。すると、ママが玄関から出てきた。
「何、ほうき持って立っているの」
「ノラネコが、ザリガニを食べようとねらっているんだ」
しかし、その日はもうあらわれなかった。 

月曜日のママと保育園からの帰り道、りょうくんは、ザリガニを見るのが楽しみで、ついつい歩くスピードが速くなった。
家に近づくと、何かをくわえたあのノラネコが、玄関から飛び出してきた。
「ゴメン、玄関のカギ、かけるの忘れたみたい」
と、言うママの言葉を背に受けて、りょうくんは、
「まてー」
と、追いかけた。逃げ足が速く追いつけない。
あきらめて、急いで玄関へ行き、プラスチックのケースにかけよって見てみると、ザリガニは無事だった。
「良かった、食べられなくて」
りょうくんのむねは、まだドックンドックンしていた。
土間には、スルメを入れてあったビニール袋が、空になって落ちていた。
「あのネコ、スルメをねらってたんだ。スルメがえさだと、またネコに取られるわね」
そう言ってママは考え込んだ。

その日の夜、
「ただいま」
の、声とともに、ガサガサとビニール袋の音がする。パパが何か買って仕事から帰ってきた。
「ハイ、おみやげ」
「わぁー、何?」
「ザリガニのえさ。ママにたのまれて、ホームセンターによって買ってきたんだ」
パパはビニール袋から取り出して、えさの袋に書いてある文字を読み始めた。
「『ザリガニ・ヤドカリ・カニのえさ カルシウム強化配合』と書いてあるぞ」
「『カルシウムなんとか』って何?」
「カルシウムは、ザリガニのこうらを作っているんだ。人間の骨もカルシウムでできているんだぞ」
「ふうーん」
「強化配合は、そのカルシウムがたくさん入っているってことだ」
「それは、ザリガニには大切なもので、たくさん必要なんだ」
「そうか、前にかっていたカニは、病気で死んだのかと思っていたけれど、金魚のえさをやっていたから、カルシウムが足りなくて脱皮するときに死んでしまったんだ。ザリガニも、スルメだけをあたえていたら、また同じことに…」
「ザリガニは、あのノラネコに助けられたのかもしれないわね」
ママがニコッとして言った。
「ザリガニにえさ、あげてくる」
りょうくんは、明るい声でそう言うと、えさを持って玄関の方へと歩き出した。

               おしまい

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