暗い舞台の上に少年が一人立ちコホンと一つ咳払いした後
 
真っ暗な客席で蠢く得体の知れない何かに対して話し始めた
 
「幽霊って頭に三角巾してるよね?正式名称知らないけど」
 
真っ暗な客席はただ蠢くだけ、少年の言葉を何一つ理解などしていないように私には思える、しかし少年は馬鹿げた話しを続ける
 
「で、それに対して天使は輪が浮いてるよね?頭の上に
 
 それらに関連性が無いか考えてみたんだよ、そして閃いたんだ!」
 
私は少年の言葉にに「それは単なる馬鹿げた思いつきであって決して天才的な閃きではないだろう」などと思った
 
舞台の上の少年が何かに気付いたようだ、辺りを一旦見回しさっきまでの話しとは全く関係の無い言葉を放つ
 
「誰かヲレ以外に居るのか?今喋ったのは誰だ!?、客席の奴等が喋れるわけないし…」
 
どうやらさっき思った事をうっかり口に出していたようだ、だとしたら大変失礼な事を言ってしまった事になるので出来るだけ礼儀正しく
 
「申し遅れました私この日記のナレーションのへもだると申します、一応Uから出ています以後お見知りおきを」と自己紹介をする
 
「へもだる?お前は何者だ一体何処に隠れている、姿を見せろ!」
 
少年が一歩前に踏み出し劇場全体を見渡す、どうやら彼には私の存在が見えないようだ、ならばそれは好都合
 
私は「気にしないでください、私はしがないナレーション話の腰を折るわけには行きません、さぁどうぞ無視して続けてください」と進言する
 
少年は不服そうな顔をした後確かに話を続ける方が重要と受け取ったようで話しの続きを始める
 
「で、そのヲレが思いつ…いや、閃いた考えとは」
 
少年が話を中断した時も再開した今も客席を埋め尽くしている何かはただ只管蠢くだけだ
 
何故少年が巨大な、もしくは群体のソレに対して馬鹿げた話しをするのか私には全く理解できない
 
「御握り、そしてドーナツだよ」やはり少年の考えとは天才的な閃きなどではなく単に馬鹿げた思いつきだったらしい
 
少年は手を広げ劇場全体を見回した後をその馬鹿げた思いつきの解説を始める
 
「幽霊の三角巾と御握り、天使の輪とドーナツこれ等はまず形状が似ている」
 
少年の言う閃きとは「ただ両方とも食べ物と形が似ているという事だけ」だったらしい
 
「そして幽霊の三角巾と御握りこれ等の関連性は形が似ているだけじゃない、お供え物といえば握り飯、つまり御握りに決まっている!」
 
私は「お供え物は普通生前好きだった食べ物を備える物で御握りはお地蔵様に供える物だろう」と思ったが
 
天使の方はどうこじつけるのか気になるので思わず笑いそうになる口を硬く閉じ少年の話しに耳を傾け
 
る 「そして天使の輪はドーナツ、西洋の墓標の形といえば十字架となるとドーナツを墓標に供える最善の方法とは輪投げだったんだよ!」
 
少年の話は結局収拾が付かなくなったのか余りにも盛り下がって終わった
 
客席の蠢く物は話が盛り下がったのにも終わったのにも無反応だった、少年はガックリと肩を落としため息を付くと舞台から降り扉を開け出て行った
 
明かりが落とされ劇場は完全に真っ暗になる、すると客席の蠢く物はどんどん溶けだし一頻り溶け終わると蒸発して闇に溶けて完全に消えてしまった
 
私は真っ暗で空っぽの劇場で来訪者を待つ、闇の中で姿無く意思だけを持ちただ一人きり
 

過去へ
未来へ
トップへもだる