
萌えろ!朝焼け
「ここが東京か〜すっげーな...」
ドスン!!
「いてて...もう、道の真ん中でぼーっとしないでよ!」
「す、すみません!」
「あら、同じ制服じゃない。もしかして同じ学校かな?」
「そ、そーみたい、ですね。」
(この子かなり訛りがきついわね。どこの田舎モノかしら)
「あんた、どこから来たの?」
「ほ、北海道です。」
「ふ〜ん。もしかして、新入生?」
「は、はい...。」
「そうなんだ、実はあたしも!この際だから、一緒に学校行こ!」
「あ、ありがとうございます。実は道が良くわかんなくて...。」
「もう、おんなじ新入生なんだから敬語はやめてよ!あ、あたしさやか。
よろしくね!あんたは?」
「な、なつみ。」
「ふ〜ん、なつみっていうんだ。かわいい名前ジャン!
あ、やばー!もう時間ないよ!走んなきゃ間に合わないよ!急げー!」
「それでは、ただいまより入部テストを行う!
今回、入部希望者が大変多いため、
推薦入学者以外で合格するのは3名とする。
合格者以外はマネージャ希望なら入部を許可する!」
(厳しそうな監督だな〜...あ、さやかちゃんだ。
あの子も入部希望なんだ。一緒に合格できたらいいな〜。)
「こら!ボーっとするな!お前!名前と希望ポジションを言え!」
(あ〜、またやっちゃった!)
「あ、安部なつみです!希望ポジションはピッチャーです!」
「クスクス...」
なつみの訛りに周囲は眉をひそめる。
「おい!何がおかしいんだよ!」
なんとさやかが周りをにらみつけながら言い放った。
不思議と笑い声はぴたりと止んだ。
さやかには、どこか威厳、のようなものがあった。
(すげ−!さやかちゃん、かっこいー!なんか別世界の人って感じ。)
「...それでは、今から10分後にテストを始める!
各自、十分に体をほぐしておくように!」
(ふふふ、体力には自信あるんだもんね!スキーで鍛えたこの足腰!
誰にも負けないぞー!)
10数人の入部希望者の中で、なつみの体力は群を抜いていた。
見た目こそ華奢だったが、瞬発力、持久力、申し分ないものがあった。
(あれーおかしいな。さやかちゃんなんでテストしないんだろう。
もしかしてマネージャー希望なのかな?)
「よーし。それでは合格者を発表する!安部!矢口!後藤!以上!それ以外は解散!」
「すいません!」
「なんだ、きみは不合格だ。」
「でも、入部したいんです。」
「じゃあ、まずマネージャーから始めなさい。自己練習して体力をつけたら、
もう一度テストしてやろう。名前は?」
「保田 圭です。よろしくお願いします。」
「それでは、今年の新入部員は選手7名、マネージャー1名。
それぞれ競い合って技術を磨くこと。
今日のところは、上級生の見学をしているように!」
「へぇ〜、さやかちゃんって推薦にゅうぶだったんだ。すっごいねー!」
「あんた、ばか?
さやかさんって言ったらあの闘争中学の4番打者だよ!
みんな知ってるよ!」
「そ、そうなんだ...。みんな知ってるんだ?」
さやかとなつみ以外の全員が、大きくうなずく。
「もう、やめてよ。おんなじ新入部員なんだから、さやか、でいいよ。」
「そんな〜。もう、さやかさんと同じ学校なんて、嬉しすぎます〜!
あ、わたし、矢口っていいます。まりっぺって呼んでください!」
「わたしは後藤 真希です。よろしくお願いします。」
「もう、かたいよ〜。あたし飯田。飯田佳織。たぶんみんな知ってるとおもうけど、
毒電波中でキャプテンやってたの。よろしくね!」
飯田は朗らかにそう言ったものの、さやかとは目を合わせようとはしない。
「わたし、ルルです。中国から来ました。」
「へーすごいね。留学生なんだ。あたしは信田美帆。よろしく。」
「私は保田圭です。今はマネージャーだけど、がんばって選手になって
みんなと一緒に野球をやりたいです。よろしくお願いします。」
「すごいですよねー。闘争中学のさやかさんと毒電波中学の佳織さんが
おんなじチームだなんて。私も頑張らなきゃ!」
矢口が浮かれ気味に言う。
「あのねえ。この際だからはっきりしとくけど、
あんたには貸しがあるんだから。その辺分かってる?」
飯田がさやかをにらみつける。
一気に緊張感が辺りを包んだ。
飯田はさやかをキッとにらみつけている。
さやかも引かない。無表情で飯田をにらみかえす。
「ケンカはよくないです〜...」矢口が消え入りそうな声でつぶやく。
心配そうに二人をうかがうルル、後藤、保田。
付き合ってらんない、とばかりにあくびする信田。
「あれはあたしの知らないことだ。あたしに言うのは筋違いだ。」
さやかは静かに、しかしはっきりした口調で言った。
「後からでは何とでも言えるわよね。口のうまいこと!」
さらに挑発する飯田。さやかの表情が変わった。
「ちょ、ちょ、ちょーっと!すとーっぷ!
とりあえず、あたしは事情は良くわかんないんだけど、
すんだこと、なんだよね?だったら、今日はクラブ初日だし、
いきなりケンカも良くないから、その話はまた今度にしようよ!ねっ?
あ、あたし、阿部なつみっていいます!よろしく!」
早口でなつみがまくし立てながら、二人の間に割って入った。
「ふふふ、あんた面白いね。それ、どこの言葉?」
信田が笑いながらたずねる。
「どこって、日本の言葉だよー!」
なんかばかにされたような気がして、なつみはムッとした。
「あ、ゴメンゴメン。そうじゃなくて、出身地はどこってこと。」
「北海道!」(なにがおかしいんだろう。このひと。あ、もしかして...)
「あの〜、あたし、訛ってる?」なつみはおそるおそるたずねた。
全員が爆笑した。
「なまってるよ〜!アハハ」信田が笑いながらこたえる。
みんなも笑っている。きゅうになつみは恥ずかしくなった。
「あ、ゴメンゴメン。訛ってるのが可笑しいんじゃないんだ。
なんつーか、あんた、いいキャラしてるよ。」
信田がフォローする。
「あたし、訛ってちゃだめかな?発音直したほうがいい?」
「全然。そのままでいいよ。気にしなくていいって。」
「ぐぅ〜」なつみのお腹が鳴った。
「ぎゃはははもうだめだー!お腹いたいよー」全員再び爆笑した。
なつみも再び赤面した。
「こらー!!1年!!何ふざけとる!私語は慎め!そんな態度では、
この朝焼け高校野球部ではやっていけないぞ!気を引き締めろ!」
全員、一気に静かになった。
しかし、なつみはまだ赤面していた。
(う〜、なんであんなタイミング良くおなかがなるんだよ〜!もうやだー!)
「あなた、イイこだね。」ルルが小声でなつみに話し掛ける。
「もうやだよ〜。」
「ダイジョブ、ダイジョブ。わたしもニホンゴおかしいから。」
「...。」なつみは、励まされたようなバカにされたような、複雑な気持ちになった。
「...よーし。今日はここまで!明日からは1年生が準備と後片付けをすること!解散!」
早朝の町を大きな鞄を持って走るなつみ。とそこへ...
「おーい、もしかしてなっち?」
「あ、さやか。どうしたの?こんな朝早く。」
「日課のロードワーク。なっちは?」
「なっちはね、独り暮らしだから、アルバイトして家賃かせいでんだ。」
「なるほどね。新聞配達か。」
「それにね、中学ん時、いつも片道3時間の山道を通ってたから、
どっちみち朝早く目が覚めちゃうんだ。」
「そうなんだ〜。あ、そうだ。私のロードワーク、なっちと同じ道にする。
毎朝一緒にはしろ!それで一緒に学校いって朝練しようよ!」
「さんせーい!一緒だと走るのも楽しいもんね。」
「うん!」
「さやかってゆーめーじんなんだねー。」
「うーん、自分では良くわかんないなー。」
「あ、そうそう。昨日のあれ、いったい何があったの?かおりんホントに
怒ってたみたいだけれど。」
「ははは、なんでもないよ。たいしたことないって。」
「ふ〜ん。あ、もう学校だ。おしゃべりしてるとすぐだね。」
2人は正門を抜け、校舎を迂回しグラウンドに向かって歩いた。
グラウンド脇の部室に入ろうとして、なつみは窓の中に人影をみつけた。
(あ、監督だ。)
「監督、おはようございまーす!」
「うん?」男は顔を上げた。
「ああ、安部と市井か。おはよう。だけど、おれは監督じゃないぞ。」
「ええ〜?違うんですか?てっきり...」
「ははは。そう言えば名前も言ってなかったな。俺は和田。コーチの和田だ。」
「コーチだったんですか...」
「ところで、おまえらこんな朝早くにどうしたんだ?」
「朝練しようと思って。ね。」
「うん。」
「ほーう、練習熱心だな。そうだ。
実はちょっとお前らに言わなきゃならんことがある。」
「なんですか?」
「実は、お前らの上級生はみんな3年生なんだ。」
「ということは...」さやかが反応した。
「そう。もう彼らは引退だ。つまり、これからの大会は全部おまえら
1年生でやっていくことになる。」
「え!そうなんですか?やったね!さやか!私たちいきなりレギュラーだよ!」
よろこぶなつみとは対照的に、さやかはむしろ表情が硬い。
「どうしたの、さやか。うれしくないの?」
「いや、そうじゃなくて...コーチ、でも1年生に選手は7人しかいません。
メンバーが足りないですよ。」
さやかは指摘した。
「それなら心配ない。監督が今日連れてくるそうだ。」
「ああ、それなら大丈夫ですね。ところで、監督はどんな人なんですか?」
「あ、なっちも気になるー。」
「ははは、俺も知らないんだ。」
「えーどーして?」
「今年から、新監督なんだ。今日、初めて学校にくる。」
「そうなんだー。たのしみー。」
笑顔のなつみとは対照的に、さやかは何か考え込むような表情をしている。
「コーチ、ちょっと聞きたいんですけど、どうして2年生の部員はいないんですか?
少し不自然な気がするんですけど。」さやかが尋ねる。
「うむ。それはだな...」
「おまえら、小室監督は知ってるか?」
「知ってる知ってる!なっちでもそれぐらいは知ってるよ。」
「そう、あの有名な小室監督が、数年前までうちの野球部の監督だったんだ。」
「それは知らなかった...」和田とさやかが同時にこけた。
「...そ、それでだな、当時は監督人気もあって、部員数もかなりのものだった。
ちょうどうちの学校が甲子園に出たとき、まさに部員数もピークだった。」
さやかは話の一つ一つにうなずいている。どうやら、だいたい知っているらしい。
「ところがだ。数年前、突然小室監督は古巣のTM学園に戻りたい、と言って、
突然うちの学校を去ってしまったんだ。それからというもの、
入部希望者は極端に減ってしまい、現在の3年生でようやく9人ギリギリ、
2年生の学年では最初は2,3人いたんだがすぐに止めてしまったんだ。」
「小室監督の次は、誰が監督だったんですか?」
さやかはさらに質問する。
「じつは、その年その年の3年生のキャプテンが監督を兼任していたんだ。」
「和田さん監督になったら良かったのに。」なつみが言う。
「いや、俺はただのコーチだ。しかも毎日本校に来れるわけじゃない。
他の学校でもコーチをしているからな。」
「ふーん...」
さやかが何か納得したようにうなずいている。
「あと、やはり監督がいないのも入部者が減った理由でもある。
結構うちの野球部は伝統的に縦の関係が厳しいから、
キャプテンが監督になってしまうと、
ちょっと下のもの達はつらかったようだな。
まあでも、今年からはちゃんとした監督がくる。
理事長に、念入りに頼んでおいたからな。
きっといい監督が来るに違いない。」
「あー、やっと授業終わった!もう監督来てるかな〜。」
教室を出て、校舎の裏のグラウンドへ出たなつみは、奇妙な人物を見つけた。
その人物は校舎に背を向け、グラウンドの中にいた。
髪の毛はほとんど金髪に近い、いわゆる茶髪。ジャケットは、真っ赤の上下。
しかも背中には「愛!」と大きく刺繍がしてある。
靴は白のエナメル。手首には金のアクセサリー。
高校のグラウンドに、その人物のかもし出す違和感は凄まじいものがあった。
「なっち。どうしたの?...うわっ!」
あっけに取られて立ち尽くすなつみの背後から、矢口が話しかけた。
矢口もかなりの衝撃を覚えている。
「みんなー、どうしたの?早くグラウンドに...ゲッ!何あれ...ヤクザ?」
飯田も少なからず驚いている。
なつみが振りかえると、既にルル、信田、保田もそこにいた。
全員呆然としている。誰一人、グラウンドに行こうとはしない。
「なっち。もう監督来てる?」さやかが現れた。
「さやか、あれ...」なつみがグラウンドを指差す。
「うわっ!なにあの人...」さすがのさやかも言葉を失っている。
「なっち、ちょっと話しかけてきなよー」飯田が無責任に言い放つ。
「そ、そーだよ。なっちが最初に来たんだから。」矢口も便乗する。
「そ、そーゆう問題じゃ...!」
ふとまわりを見ると、なつみ以外は数歩後ろに下がっており、
なつみがひとり前に出ていた。
「ちょ、ちょっと!みんなずるいよー!」
「ファイト!なっち!」「がんばれ!あとでおごるからー」「早く早く!」
「...いつもこうだよー。もう、後で絶対にマックおごってもらうからね!」
なつみは覚悟を決めた。
「あのー、すいません。今から野球部の練習なんで、グラウンド使うんですけど...」
なつみは後ろから話しかけた。
その男はゆっくりと振りかえった。
前から見ても、その男は凄まじいインパクトがあった。
真っ赤なジャケットには金色の竜の刺繍があり、顔には超特大サングラス。
そのサングラスのレンズはうす茶色で、フレームは金色。
また、近くに立つとよりいっそうその男の足の短さが見て取れる。
「なんや。人のことジロジロ見てからに。うん?全員おるんかいな。
はよアイサツせんかいな。この世界はアイサツが基本やでぇ。」
「あ、あのー、もしかして...」
「なんや、もしかしてももしかせんでも俺が監督や。」
「えぇーっ!!」
「つんく監督ー!お待ちしてました!コーチの和田です!」
和田が駆け寄る。
和田の言葉によって、全員が、その男が監督である事を把握した。
「なんや和田ちゃん、この娘(こ)らみんなおとなしーなー。
アイサツくらいでけへんかったらあかんで。それぐらい教えといてーな。」
「あ、すいません。ほら!みんな!今日からこの野球部で監督を務められる、
つんくさんだ。さあ、あいさつして!」
「よろしくお願いしまーす...」
「なんや、元気無いなー。これでは先が思いやられるで。
うん?えらい人数少ないなー。和田ちゃん、何でこんな選手少ないねん?」
「あのー、監督が数名連れてこられると聞いていたもので...」
「え?んなわけあるかいな。俺今日はじめてこのガッコー来るねんで。
誰も知らんのに誰も連れて来れるわけあらへんがな。」
「いや、先日電話でそのように...」
「ん?あぁ、こないだの電話、なんや、あれ選手の事ゆうとったんかいな。
女の子が何人、とかゆうから合コンでもするんか、思うて適当にゆうたんや。
ほんでもう電話無いから合コンなくなったんか思ってたんや。」
「なんや、ほならこれで全員かいな。」
「1名(後藤)今日は生理痛で休んでおりますが...。これでは試合は出来ません...。」
「えーっと、何人おるねん...休んでる奴入れて、1、2、...8人か。
なんや、後ひとり入れたらいいだけや。」
「いや、1名はマネージャーでして...」
「かまへんかまへん。何とでも成る。どんな奴でも俺がなんとかする。
ほんで後ひとり入れたらいいねんな。オーディションしたらええがな。」
「いや、実はもう新入部員募集はしてしまったんですよ。」
「うーん、そうか、どないしたらええかな...和田ちゃん、選手するか?」
「ご、ご冗談を...。」
二人のやりとりに、全員呆然としていた。
「やったね!圭ちゃん!一緒に野球できるよ!」
なつみが小声で保田に話しかける。
「うん。ありがと...。」
保田は一応返事したものの、なにか考え込んでいる様子だ。
「どうしたの?圭ちゃん?」
「...あのー、すいません!」突然保田が、つんくと和田に話しかけた。
「何だ、今監督と大事な話をしてるんだ。何かあるなら後にしなさい。」
和田が軽くあしらおうとする。
「いえ、今おっしゃってた、選手が足りない、と言う事なんですけど、」
「これはこちらで考えることだ。君たちが心配しなくていい。」
「まあまあ、とりあえず聞いてみたらええがな。和田ちゃん。自分、名前は?」
「はい、保田圭といいます。実は、わたし中学校のときも野球部だったんですが、
この高校に、その時のチームメイトも来てるんです。
その娘は、わたしよりもすごく
野球が上手なんで、
もし彼女が入ったらチームにとっても良いと思います。」
「ふーん。そうか。ほなら、その娘のこと、自分に任せてええか。」
「はい。絶対にこの野球部に入るよう、頼んできます。」
おとなしい保田が、なぜか強い口調である。
「監督、選手にそのような事を任せても良いのでしょうか...」
和田は不安を隠し切れない。
「かまへんがな。監督が選手を信じれんでどーするんや。
この娘の目を見たらわかるやろ。なんとかなる。」
(この人、見た目は凄いけど、いい人かも...。)なつみは思った。
「よし。ほならメンバーのことは一件落着や。とりあえず、メンバーがそろうまで、
毎日基礎練や。ビシバシいくでー!全員、着替えて来い!」
(やっぱりいい人じゃない!!!)
「圭ちゃん、圭ちゃん、体育の授業、一緒なんだね!」
なつみが保田に話しかける。
「あ、なっち。そうなんだー。」
「私もいるよー!」
「!!まりっぺー、他には野球部の子はいるのかなー?」
「いないみたい。なっちが1組で私が2組、圭ちゃんが3組だから、
これだけだよ。体育は3クラスずつの合同授業だからね。」
「まりっぺってなんでも知ってるんだねー。」
「っていうか、さっき先生が言ってたじゃん。先生の言うことはちゃんと
聞いとかなきゃだめだよ。」
「はーい。」
「もう。返事だけはいいんだから。」
「あ、そうそう。昨日圭ちゃんが言ってた、チームメイトってどんな人?」
「あ、私も気になる。ねえねえ、どんな人なの?」
「実は、この授業一緒なんだ。」
「えっ、どこどこ?」なつみ、矢口があたりを見回す。
「あの、グラウンドの端で3人で座ってる、真ん中の娘だよ。」
「え〜っと...ゲッ!ヤンキーだ...。」矢口は絶句した。
「え〜?どこどこ?」なつみはまだ見つけられずに、キョロキョロしている。
「だから、あそこの金髪で厚化粧の3人組がいるでしょ。その真ん中。」
矢口がなつみにささやく。
「あー、わかった。凄いねー。すごい白い顔。歌舞伎役者みたいだね。ヨォ〜...!」
なつみが歌舞伎の振りまねをする。
「...。」矢口、保田は絶句した。
「...うけると思ったんだけど...。」
「...と、取りあえず圭ちゃん、あの娘ホントに野球できるの?
どう見てもスポーツなんて嫌いな人っぽいんだけど。」
矢口が保田に疑問をぶつける。
「うん...。あの娘、ホントはあんなじゃないんだ。
ちょっと色々あって...。」
「え?色々って、何かあったの?」なつみが聞く。
「それはね、」
「はい!みんな、喋らない!今からグループ分けをします。
テニス、バスケットボール、バレーボール、卓球の中で、
やりたい物を選ぶこと。テニスの人は第一グラウンド、
バスケット、バレーの人は第二グラウンド、卓球の人は体育館へ行きなさい。」
保田が答えようとしたとたん、教師が話し始めた。
「どうする?まりっぺ。」
なつみが矢口に話しかける。
「う〜ん、私たち身長無いからバスケとバレーは止めとこうよ。
卓球とテニス、どっちにする?」
「それじゃあテニスがいい!テニスの方が面白そう!」なつみは即答する。
「圭ちゃん、テニスでもいい?」矢口が聞く。
「うん。いいよ。実はテニス少しやったことあるんだ。」保田が答える。
「あ、そうだ。あの娘何選ぶんだろう。」
なつみが保田の元チームメイトの方を見る。
「...体育館に行くみたい。卓球か。テニスの方が楽しいのに!」
なつみは変なところで負けず嫌いである。
「テニス、バスケット、バレーを選んだ人。先生は体育館にいるので、
先生に用事のある人は体育館に来るように!」
教師がこういったとたん、かの保田の元チームメイトら3人はグラウンドに引き返してきた。
どうやら、最も楽できる物を選んだだけだったようだ。
しかし教師と一緒の場所はゴメンのようだ。
「わー。貸し切りだー!」なつみが声を上げる。
テニスを希望する生徒はなつみらを含め10数名しかいないのだが、
テニスコートは5つもあった。どうやら卓球が1番人気のようだ。
「よーし!それじゃあ3人の中で1番になった人は、
他の2人から今日マックおごってもらえること!」
なつみが勝手に宣言する。
「ちょっとー。なっち、テニス得意なんじゃないのー?」
矢口がなつみに言う。
「ぜーんぜん。やったこと無い。普通にやってもおもしろくないからね。
食べ物かけたらなっちは強いよー!」
なつみは自信満々だ。
「くー!なかなかやるねーまりっぺ!」
「なっちも良くそれだけ走りまわれるね。」
なつみは負けまくっていた。
目が血走っている。
「ちっきしょー!また負けた!ふぅ〜。ちょっと休憩しよ!」
「...なんだよー。まりっぺも圭ちゃんも強いじゃないかー。」
なつみがぼやく。
「ふふふ。実は私もちょっとやったことあるんだ。テニス。」
矢口は得意げに言う。
「なんだよー。そういうことは早く言ってよー。
あっ、そうそう。圭ちゃん。さっきの話。その娘、何があったの?」
なつみが保田に聞く。
「うん。その娘、中澤裕子っていうの。実は幼なじみなんだ。
裕ちゃん、中学の時はすごく熱心に野球やってたんだ。
でも、三年生になる直前に、国会議員の娘が転校してきたの。
その子が野球部に入ったとき、理事長や校長の指図で
その子が主将になっちゃったの。みんな怒ってたけど、
監督に『我慢してくれ...』って頼まれて、しぶしぶ納得したの。
でも裕ちゃんだけは『納得できない!』って言って、
クラブをやめちゃったの。本当は裕ちゃんが主将になるはずだったから、
悔しかったんじゃないかな。」
「なるほどねー。でもその娘、もう野球に興味ないんじゃないの?」
矢口が言う。
「そんなはずない!
小さな頃からあれだけ野球に打ち込んできた裕ちゃんがやめちゃうはずがない!
本当は今すぐにでも野球がしたいはずだよ。」
「あ、その娘あそこにいるよ。」
なつみが指さす。
テニスコートの端に、かの三人組が座り込んで談笑していた。
真面目にテニスをやる気は毛頭無いらしい。
「なんか、かんじわるーい。」
矢口が軽蔑した顔で言う。
なんと三人は、教師がいないのをいいことに、タバコを取り出し火をつけた。
「うわっ!いっけないんだー...」なつみがつぶやく。
その時、保田がその三人に向かって走った!
「わっ!待ってよ圭ちゃん!」なつみが後を追う。
「ちょ、ちょっと、2人ともー...」
矢口は関わりたく無さそうだが、しぶしぶついていく。
「裕ちゃん!」保田が三人の前に立つ。
「あ?何だよお前。馴れ馴れしいんだよ!」
右端の娘が保田に向かって言い放つ。
「裕ちゃん!ホントは裕ちゃん、そんな娘じゃない!
早く素直になって!一緒に野球やろうよ!」
保田はめげずに一気にまくし立てた。
「誰が素直じゃないって?」
真ん中の娘がタバコを投げ捨て立ち上がった。
「裕ちゃん!そんなに簡単に夢をあきらめてもいいの!?
いつか言ってくれたじゃない!一緒に甲子園行こうな...って!」
「フッ、忘れたよ。もう私にかまうな。」
「だめ!私知ってる!こないだの野球部新入部員テストの時だって、
裕ちゃん遠くから見てた!」
「...しつこいね...」
中澤は保田の胸ぐらをつかんだ。
「もうほっときなよー圭ちゃん。
どうせもう運動不足で野球なんて出来ないって。」
なつみが言った。
「なに?もう一度言ってみな。野球なんて興味は無いけど、
お前らよりはましだ!」
中澤は逆上した。
「ふーん。じゃあ、私たちより運動神経あるって言うんだね。
それじゃあ試してみる?
テニスで勝った者が負けた者を好きに出来るっていうのはどう?」
なつみはさらに言った。
「フッ、面白いじゃない。それじゃあ今すぐやってやるよ。」
中澤は不敵な笑みを浮かべた。
「あの〜、もしかして、その『私たち』っての中に私も含まれてる?」
矢口が恐る恐るなつみに尋ねる。
「当然じゃない!三人で、力を合わせてガンバロー!」
なつみはなぜかうれしそうに言った。
「なんでこうなるの...」矢口はひとりつぶやいた。
「もしあたし達が負けたら野球部でも将棋部でも、なんでも入部してやるよ。
しかしもし勝ったら、お前ら三人、三年間パシリだからね...。」
中澤は言い放った。
「ちょっと待ってよー!なんであたしまでー!」
矢口は抗議するが誰も聞いていない。
保田:「順番どうする?」
なつみ:「なっちいっちばーん!」
矢口:「それはまずいよ。みすみす相手に一勝あげちゃうだけだよ。」
なつみ:「あ!まりっぺもやる気になったね!って、なんでだよー!
まさかなっちが負けるとでも...」
矢口&保田「負ける」
なつみ:「もーいい!じゃあ、2人で決めたら!」
なつみはふてくされた。
「この勝負、負けるわけにはいかないからね。
圭ちゃん、二人で相手三人片づけちゃおう。圭ちゃんの方がテニスは上手だから、
あとにひかえてて。私が先に行く。」矢口が言う。
「うん。わかった。」
保田が答える。
「なっち三番?フフフ。大将みたいだね。よーし!絶対勝とーね!」
「がんばれー!まりっぺー!」なつみが声援を送る。
最初に出てきたのは中澤ではなく、さっき保田を怒鳴った娘である。
「稲葉ー!負けたら承知しないよー!」中澤が怒鳴る。
二人の実力はほぼ互角であった。稲葉の、身体のバネを利した速いストロークを、
矢口は瞬発力でコートをカバーし一つ一つ返していく。
「ふぅ、なかなかやるねー。あなたの集中力か、私の体力か、
どちらが持つか勝負だよ。」矢口は自分に言い聞かせるように言った。
「なにやってんだ稲葉ー!早く決めちまいな!」中澤の檄が飛ぶ。
「ちょこまかと...。これでどうだ!」
稲葉は渾身の一打を放った。それを追う矢口。
「だめだ!追いつけないよ!」なつみが悲鳴を上げる。
ボールはコートギリギリ...をわずかにそれていった。
「やった!勝った!」喜ぶ矢口。うなだれる稲葉。
「畜生!小湊、さっさと片づけてきな!」
中澤に言われ、おかっぱ頭の娘がコートに入った。
「稲葉の仇を取らせてもらうよ。」小湊は無表情で言った。
矢口は稲葉に勝ったものの、かなりの体力を消費していた。
「はぁ、はぁ、」矢口は息が荒い。
小湊のサーブから二試合目が始まった。
「な、何?あの球は...」なつみが驚嘆の声を上げる。
小湊のサーブは、コートにバウンドした後、大きく跳ねたかのように見えた。
「ボールに回転を与えてるのね...。」保田がつぶやく。
「なっちだったら絶対あんなの打ち返せないよ。」
稲葉との激闘で体力を使い果たしていた矢口に、
小湊のトップスピンを返す力は残されていなかった。
矢口はストレートで敗退した。
「おつかれ!まりっぺ!よくがんばったよ!」なつみが介抱する。
「はぁはぁ、圭ちゃん、あと頼むよ...。」矢口は息も絶え絶えだ。
「まかせといて。」保田は微笑んだ。
「誰が来ても同じ事...。」小湊は無表情でつぶやく。
「それはどうかしら。」保田が言う。
保田のサーブ。
「え?圭ちゃんも...。」なつみは驚きを隠せない。
なんと保田も、トップスピンを放ったのである。
「なにっ...」小湊がうろたえた表情を見せる。
勝負はあっけなく決まった。
保田の勝因は、勝負に賭ける意気込みそのものであった。
「さあ裕ちゃん。もう裕ちゃんだけよ。」保田が微笑みながら言う。
「...。」中澤は無言で立ち上がる。
「すいません...。」小湊が中澤にわびる。
「下がっていな...」中澤はゆっくりとコートに入った。
4試合目。中澤のサーブからスタートである。
『...ビュンッ!』
動けなかった。保田は一歩として動けなかった。
剛球一閃!中澤のサーブのスピードはケタ違いであった。
「圭ちゃん!大丈夫!速いだけ!難しいところには打って来てないよ!」
矢口がアドバイスする。
(速いだけって言っても、それが一番の問題なんだけど...)
保田は冷や汗を流す。
「くっ、しぶとい奴だ!」
中澤の剛腕ストロークを、保田は必死で打ち返していく。
(も、もうダメ...。手がしびれて来ちゃった...)
保田はもう限界だった。
「け、圭ちゃん!」なつみが叫ぶ。
保田はラケットを落としてしまった。
中澤のストロークを打ち返しているうち、握力が無くなってしまったのだ。
さらに中澤のストロークが来る。
「危ない!圭ちゃんよけて!」矢口が悲鳴を上げる。
中澤のストロークは、なんと保田の顔面を直撃した。
保田はコートに倒れ込んだ。
「圭ちゃーん!!」なつみが保田に駆け寄る。
「圭ちゃん!しっかり!」なつみが保田を抱きかかえる。
「ご、め、ん...なっち。棄権して。
私ひとりだけが裕ちゃんの家来ですむよう頼んでみる、か、ら...」
保田は気を失った。
「...。」なつみは保田を抱えたまま中澤をにらみつけた。
「...狙ったんじゃない。傷つけるつもりはなかった。すまない。」
意外にも中澤はわびた。しかしなつみはさらににらみつける。
「わたし、絶対に負けない!圭ちゃんのために、負けない!」
なつみは中澤に言い放った。
いよいよ最終試合。なつみからのサーブである。
(あの保田の後に控えてたやつだ...。油断できない。)
中澤は身構えた。ところが...「なんやそれ!」中澤はコケた。
『ぽわ〜ン』
なつみは下打ちサーブを放った。山なりの打球が中澤を襲う!?
『ぽこン』
(し、しまった!つい油断して棒玉を打ってしまった!これがあいつの狙いか!)
中澤は次に来るであろうスマッシュのため、ダッシュする体勢をとった。
『ぺこン』
(こ、こいつ、ただの下手...?)
中澤は今度は集中してストロークを放った。なつみは追いつけない。
「うーん。なかなかやるねー。」なつみは言った。
...試合は、アッという間に40/0(フォーティラブ)
なつみは追い込まれてしまった。
「うう、なんとかしなきゃ...」なつみは身もだえる。
(フフフ。このままじゃあつまらないね...。)
中澤はあることを思いついた。
なつみが打つ。中澤はそれを打たずに立ちつくす。
当然、なつみの得点である。
「やったー!はいったー!」なつみは素直に喜ぶ。
(フフフ。せいぜい喜んでおきな。)中澤はニヤリとする。
「あの人、なんで返さなかったんだろう...。」矢口は腑に落ちない。
さらに次も、その次の球も、中澤は見送るのみ。
スコアは、40/40のデュースである。
しかしさらに次の球までも中澤は打ち返さない。とうとうマッチポイント。
後一打で、なつみの勝ちである。
さすがになつみもおかしいと感じてきた。
「ちょっとー。真面目にやってる?そんな人に勝っても、なっちうれしくない。」
なつみが言う。
「フフフ。じゃあそろそろ本気でいこうか。」中澤の目が冷たく光った。
『ビュン!』中澤が剛腕ストロークを放つ。
「うわー!」なつみが叫ぶ!
「っと、えいっ!」しかしそう厳しいコースでは無かったため、何とか打ち返す。
さらに中澤のストローク。さっきのストロークとは反対へ打つ。
なつみは走る。
「はぁはぁ、えい!」寸前で追いつくなつみ。
中澤のストロークはさらに逆へ。さらに走るなつみ。
「これは...」矢口が青ざめる。
「あの人、なっちを走らせて楽しんでる。こ、このままじゃあなっち、倒れちゃう!」
矢口は叫ぶ。
「あ、まりっぺ...。私...気を失ってたの?」保田が目を覚ました。
矢口は泣いている。
「うう、圭ちゃん...、なっちが、なっちが、」
「え?なっちがどうしたの?」保田は起きあがる。
「な、なんてこと!」
試合は依然続いていた。
中澤はほぼ定位置で左右にストロークを打ち分け、
なつみが走ってそれを打ち返す。なつみは全身紅潮して、すごい汗である。
「まりっぺ、どれぐらいあれは続いてるの!?」保田が矢口に聞く。
「うぅ、うぅ、もぅ、十分以上もずぅ〜っと...
このままじゃなっち死んじゃうよ...。」矢口は泣きじゃくっている。
「裕ちゃん!もうやめて!もともとなっちとまりっぺは関係ない!
もうやめて!なっちももう降参して!」
保田が叫ぶ。
「いやだーっ!」なつみが走りながら叫ぶ。
「絶対に絶対に、降参なんかしない!
こんな自分から逃げてる人なんかに、まいった言いたくない!」
さらになつみは叫ぶ。
「誰が自分から逃げてるって!?
よーし。絶対に『まいった』って言わせてやる!」
中澤も叫ぶ。
「フフフ。よくがんばるよ。ま、でも時間の問題だね。」
稲葉は微笑みながら言った。
「いや。よく見てみな。あいつ、だんだん動きがコンパクトになってきている。
さらに、打ち返す球も、鋭くなっている。スイングに無駄がなくなってきているんだ。」
小湊は無表情で言った。
「そ、そう言えば...。」稲葉は顔をしかめる。
「中澤さん!そろそろ仕留めましょう!」稲葉は叫んだ。
「いいや!こいつに絶対『まいった』って言わせる!」
中澤は同意しない。なかなかなつみが参ったしないのでいらだっている。
矢口はもう泣きやんでいた。驚いていたのである。
「なっち、すごい...。」
なつみのストロークは、中澤のそれに匹敵するものになっていた。
「ちょうど、裕ちゃんがなっちに特訓したみたいになっちゃったのね。
でも、こんな短い時間ですごい吸収力ね、なっち。」保田が言う。
(なんかわかってきたぞー。よーし!反撃だー!)
なつみは決意した。
「えいっ!」なつみは全身の力を込めて打った。
「な、何っ!?」中澤は突然の鋭い球にうろたえた。
『ぽこン』棒玉がなつみの目の前に来る。
「いっただきー!えーい!」
『バシュッ!』なつみのストロークは中澤のわきを駆け抜けた。
「こ、この私が負けたなんて...。」中澤はうなだれる。
「自分を見失ってたんだよ。」なつみが声をかける。
「中澤さん。本当に自分のやりたいこと、やったらいいと思う。
それが野球じゃないなら、それでいいよ。
自分を見失って、嫌な結果にならないようにしなきゃね。」
なつみはさらに続ける。
「...。」中澤は押し黙っている。
「裕ちゃん!」保田が駆け寄る。
「あたし、なんて言ったらいいか...」
保田は涙を流している。
「ありがとう、圭ちゃん。」中澤が言った。
「えっ?」保田は驚く。
「うち、その子が言うとおり、ホントの自分を見失ってた。
すねてただけだった。でも、ホントはわかってた。自分のやりたいこと。
圭ちゃん。うち、もう一回野球やる。一緒にやろう、圭ちゃん。」
中澤は笑顔で保田を抱き寄せた。
「うぅ、うぅ、裕ちゃん...。」
保田は大泣きしている。
「ところで、稲葉、小湊。あんた達も野球部に入るんだよ。」
中澤は言い放った。
「えっ!私たち野球なんてやったこと...」
「つべこべ言うんじゃないよ。今日から練習だからね。」中澤はスゴむ。
「はい...。」二人は渋々同意した。
「...中澤さんっていつも強引だよねー」
「なんか言った?」「い、いえ、何も...」
「フフフ。何とか無事にすんだよ。これも結局なっちのおかげだ!
ありがとう、なっち...あれ?なっち?なっちー!」矢口が叫ぶ。
一気に緊張の糸がゆるんだなつみはコートの真ん中で気を失ってぶっ倒れていた。
「...そりゃあれだけ走ったら倒れるよね...。
今日はなっち、クラブは見学だな。当分筋肉痛で動けないね。」
−−−朝焼け高校野球部、さらに新入部員(三名)を加え、総員十一名となる。−−−
なつみ:「今日も私たち一番乗りだね!」
さやか:「フフフ。そうだね。」
二人は早朝のロードワークを終え、グラウンドにやってきた。
「さやりんって、ポジションどこなの?」
「サードだよ。なっちは?」
「ピッチャー。でも、試合したこと無いんだ。
中学の時、野球部7人しかいなかったからできなかったんだ。
でもねー、チームの誰もなっちの球打てなかったんだよ。」
「ふーん。じゃあ、一回投げてみてよ。あたしがキャッチャ−やったげる。」
「なんだかハズカシー。」
「いいからいいから。早く!」
「よぉーし、いくよー!」
マウンドのなつみは大きく振りかぶって、ホームに座るさやかに向かって投げた!
『がしゃーんっ』
「あちゃー!やっちった...」
なつみの投げた球はさやかの後ろのバックネットに命中(?)した。
「ウフフ。これじゃあ確かに誰も打てないわね。」
「ち、違うって!久しぶりだから緊張しただけ!もう一回!」
なつみは今度は振りかぶらず、セットポジションでさやかに投げた。
『バシッ!』
「いい球投げるじゃん!」
「そうでしょー!ふふふ、君に打てるかな〜?」
「じゃあ、賭けてみる?」
「よーし!じゃあ、負けた者は帰りにマックおごること!」
「なっちってマック好きだね〜。でも、あたしがおごってもらうよ。」
「なっちだって負けない!」
二人は火花を散らす。
なつみはわくわくしていた。久しぶりのピッチング。
しかも良くは知らないものの、さやかは関東では有数の強打者らしい。
なつみは矢口からさんざんさやかの事を聞かされていた。
さやかは中学の時主将をしていて、関東中学野球で優勝したこととか、
走・攻・守三拍子そろった名選手であるとか、勝負強く長打力もあるだとか、
聞きもしないのに矢口はなつみに言って聞かせていた。
(なっちだって、北海道ではナンバーワン(自称)ピッチャーだもんね!負けたくない...!)
なつみは今までにない興奮を覚えていた。
「早く投げてよー。」
「よーし!いくよー!」
第一球。なつみは振りかぶって投げた!
『がしゃーん!』
なつみの投げた球は、さやかの後方のバックネットに突き刺さった。
しかし今回は、見事ストライクゾーンを通過していた。
(なかなかいい球だね...。でも、これなら打てないことはないな。)
一球目、さやかは様子を見た。
「へへへー。まず、ワンストライーク!」なつみはうれしそうに言った。
「なかなかやるねー。」さやかは話を合わせる。
「ウフフ。あと二球だよっ!」
二球目。なつみは一球目より、若干大きく振りかぶって投げた!
(さっきより球に勢いがあるね...。ピッチングフォームも断然バネがきいてる。
でも、次は見送らないよ...。)
「振らないと当たらないよー。♪投げるー人にー、見ーてる人ー♪同じ人なら...」
なつみは歌を歌い始めた。ゴキゲンである。
「タイム」
さやかはバッターボックスを出、二、三度素振りをして再びボックスに入った。
「よし来い!なっち!次で勝負だ!」
「よーし!いくよー!」
なつみは今までで一番大きく振りかぶって、投げた!
『キーーーン』
なつみは振り返った。ボールは、グラウンドの彼方の茂みに吸い込まれていった。
「フフフ。ゴチになりまーす!ダブルチーズバーガーLLセットいっただき!」
さやかは微笑みながら言った。
「...。も、もう一回勝負!今度は、明日のマック賭ける!」
なつみは悔しくてたまらない。
『キーンコーンカーンコーン』
「あ、もう1時間目始まっちゃうよ。はい。終わり!さあ、急いで片づけて行かないと!」
「うぅぅ、放課後、もっかい勝負だよ!逃げちゃダメだよ!」
「はいはい。わかったから急いで!」
「ちっくしょー!」
(でもなっち、三球目、すごい球だったな。正直、ヤバかった。)
さやかは片づけをしながらなっちを見て微笑んだ。
二人がグラウンドを出た後、ひとりの男がグラウンドに現れた。
監督のつんくである。
「おっそろしい球投げよるの〜。」つんくはそう言いながら、
なつみが最初に投げた暴投の当たったバックネットを触った。
バックネットは見事にひん曲がっていた。
「あいつ、使い方次第ではええモノになるの〜。」
つんくはバックネットを触りながら、ニヤついていた。
「キャー!!あ、あなた誰なんですか!本校に無関係の方は、
立ち入らないで下さい!」
年増の女教師が異様な格好のつんくに悲鳴を上げた。
当然である。またしてもつんくはシャ乱Qファッションで、
ひとりでグラウンドのバックネットを触りながらニヤニヤしているのである。
これでは誰が見ても完全に変態である。
「あ、あなた!もしかして最近のクラブの部室から下着ドロが多発してるけれど
あなたが犯人ね〜!」
「い、いや、ちゃいますって。俺は野球部の監督やっちゅーねん!」
「うそおっしゃい!私はこの学校長いけれどあなたなんか見たこと無いわよ!
だいいち、それがスポーツをする格好ですか!」
「私服は俺の勝手やろがい。うわっ!なにすんねん!イテテ...」
女教師はつんくの耳をつかんで、引っ張ってどこかへ連れていこうとする。
「警察に突きだしてやる!」
「ちがうってマジで!痛い痛い痛い!」
...合掌。
放課後。部員達は準備を終え、練習に入ろうとしていた。
程なく監督のつんくが現れ、大声で言った。
「みんな集合!重大な発表をする。」
全員、つんくのまわりに集まった。
「かんとくー、なんで耳がはれてるんですかー?」
飯田が聞く。つんくはあえて答えずに、
「ここ何日間で自分らの力は見せてもらった。
今からレギュラーメンバー、ポジションを発表する。」
ザワザワ...娘達は突然の急!展!開!に驚きを隠せない。
「まずファースト。飯田!」
「キャー!!!!!やったー!!!!!」
必要以上とも思われるハイテンションなリアクションに、全員こけた。
「...ま、まあ落ち着け飯田。後は一気に言うで。
セカンド、矢口。ショート、後藤。サード、市井。」
中澤が悔しそうな顔をした。中澤はサード希望であった。
「レフト、中澤。センター、信田。ライト、稲葉。
安部、ルルの二人は希望通りピッチャーや。保田、小湊はそれぞれ控えや。」
全員、つんくの突然の発表に落ち着かない様子である。
「みんな、なんか気づけへんか?」
つんくが問いかける。
みんなつんくが何を言ってるのかわからない。
とその時、ルルが言った。
「あ!キャチャーがいないヨ!ルルが投げてもダレもとってくれナイよ。」
「あ、ほんとだー。全然気づかなかった。」なつみが言う。
つんくがこけた。
「おまえほんまのんきなやっちゃな〜、安部。まあ、ルルの言うた通り。
このチームには、キャッチャー希望の奴がおらんねや。ということで、
今からキャッチャー希望者をこの中から募集する。
希望者は手を挙げること!」
しばらく、全員お互いの顔を見て、誰が手を挙げるのか様子を見ていた。
と、「ハイッ!」誰かが手を挙げた。みんな声のした方を見た。
なんと、それはさやかであった。
「えー!さやかがキャッチャー?イメージが違ーう。中学の時、
『ホットコーナの魔術師』の異名を持ってたさやかは絶対サードだってー!」
矢口が言う。
「さやかちゃん、そんなあだ名あったの?」なつみがさやかに聞く。
「...まあ、いろいろね。まりっぺ、それは言わないでよ、恥ずかしいから。」
さやかが矢口に言った。
「ふん!得意になってたくせに!」飯田が茶々を入れる。
つんくが場を制する。
「まあまあ。落ち着け。市井、ホンマにやるんか?
今決めたら下手したら三年間ずーっとキャッチャーやってもらうことになるぞ。
ええんか?」
「はい。わかっています。」さやかは答える。
「よっしゃ!ほな、キャッチャーは市井で決まりや。とするとサードがあくな...。
中澤、お前サードいってくれ。とすると、レフトがあく...。
よし!ルルと安部、片方がピッチャーの時もう片方はレフトに入ること!」
なつみとルルが顔を見合わせる。
お互い、ピッチャーの座は譲らない、と言いたげである。
「それじゃあ、今から先発を決めるから、安部、ルル、こっちに来い。あ、市井もな。」
「監督、先発ってどういうことですか?試合でもするんですか?」
さやかが聞く。
「そや。試合や。来週、ここで試合をする。もう、向こうにはオッケーもろとんねや。」
「えっ!試合?」全員が驚きの声をあげる。
なんとコーチの和田も知らなかった様子である。
「ちょ、ちょっと監督、急に試合だなんて、無理ですよ!
それにそういうことはコーチの僕にも言っておいてもらわないと。それにですね...」
和田がつんくにまくし立てるが、つんくはそれをさえぎって、
「まあまあ、ええがな。
ちんたらちんたら基礎練ばっかりもオモロない。試合もやっていかんとな。」
(試合かぁ〜。楽しそうだな〜。先発やりたいな。)
なつみは思った。
「よし。今から先発を決めるテストや。
市井、そこに座れ。じゃあルルから投げてみろ。」
つんくが言った。
「ハイ。」
ルルはマウンドに立った。
そして、ホームに座る市井に向かって投げた。
『バシュッ!』勢いのある音があたりに響く。
「ほ〜う。ええかんじやな。ルル、変化球は投げれるか?」つんくが聞く。
「ハイ。」答えるルル。
さらに投球は続く。
「ふーん。結構球種もっとるな。カーブ、スライダー、シュート、フォーク。
やりよるな〜。コントロールも良い。よし。じゃあ次は安部。投げてみい。」
「は、はい!」なつみは緊張していた。
ルルが投げる変化球に驚いていた。
マウンドに立っても、緊張は解けなかった。
「どないしたんや。早よ投げんかいな。」
「ハ、ハイ、投げます!」
なつみは振りかぶって、投げた!
『ガッシャーン!』ボールはバックネットに当たった。
大暴投である。
「す、すいません!」なつみは目の前が真っ暗になった。
「監督、これじゃあちょっと試合には...」和田がつんくに言う。
つんくは和田には答えず、マウンドのなつみに歩み寄った。
「お前なあ、力入り過ぎや。フォームがなってないで。よっしゃ。
今から俺が見本見せたるから、それをまねして投げてみい。」
つんくはそう言うと、なつみからボールを一つ受け取り、
不思議な舞を踊り始めた。
なつみは呆然とそれを見つめる。
「何ぼーっとしとるんや。はよ真似せんかいな。」
「こ、こうですか...?」なつみは思った。(は、恥ずかしいよー!)
マウンドの二人を見て、娘達は呆然としている。それは和田も然り。
「そうそう。まず左ひじを思いっきりあげる。背筋はピーンとして。
ボール持った右手は地面すれすれまで下げる。そしたら左手を一気に下げる。
その反動で右手を振る。おーおー。そうそう。出来た出来た。
その投げ方で、もっかい投げてみろ。」
「は、はい...。(つんくさん、いったい私に何をさせたいのだろう...)」
なつみは半信半疑であったが、ともかくつんくに言われたとおり、
その不思議な舞で投げてみることにした。
『バシーン!!』
その場にいた全員の耳に、耳鳴りのような衝撃音が響いた。
ボールを受けたさやかは、グラブをはずす。
「いててて...」さやかの手は、若干赤く腫れあがっていた。
「す、スゴイ...」ルルが思わずつぶやく。
「た、球が浮き上がったように見えたで...。」中澤も驚きを隠せない。
しかし、何よりも一番驚いていたのはなつみ自身であった。
(な、なんだ今の...。私じゃないみたい。どうしてなんだろう...?)
「どや。
お前はホントはそれぐらい当たり前に投げれるはずやったのに、
フォームが悪かった。お前はホンマに足腰が強いから、その投げ方が出来るんや。
今日から、その投げ方で練習せえ。」
つんくは微笑みながら言った。
「は、はい。(でも、ちょっと恥ずかしい...。)」
ポジション発表の後、娘達は練習に取り組んだ。
そうしている内にあたりは暗くなってきた。
もう19:00。
「よーしみんな。今日の練習はここまで。来週試合だから、
明日からさらに気合い入れて練習するように。
試合のオーダーは明日からの練習を見て、当日に発表する。
先発も、当日発表にする。それじゃあ解散!」
「ありがとうございましたー!」
「はぁ、今日も終わった!さやかちゃん、帰ろー!」
「あ、なっち、フフフ。ゴチになりまーす!」
「ゲッ!そうだった!ううぅ、また悔しくなってきた...」
「さあ、はーやーくー、なっちー!」
マクドナルド。
なつみ、さやか以外にも、矢口、飯田、保田、後藤が一緒に来ている。
「えー、さやかは今日はなっちのオゴリなの〜?かおりんもおごってー。」
飯田がなつみに話しかける。
「だめだよー。今朝、ちょっとしたゲームをして、そのごほうびなんだからー。」
なつみは答える。
「えー?ゲームって何ー?かおりもやるー。」飯田はくいさがる。
『お連れ様、ご注文をお伺いします。』その時、店員が注文を聞いた。
「ほら、かおりん、注文早く言わないと!」なつみはすかさず言う。
「え?え?え〜っと、かおりは...フィレオフィッシュ!
と...アップルパイ!」
飯田は切り替えが早い(?)。
娘達は食べながら、盛んにおしゃべりしている。
「さやか、なんでキャッチャーやるなんて言い出したのー?
絶対サードの方がいいのに。
関東中学野球決勝戦、9回裏1死満塁、逆転のピンチのときの、
あのライン際のファインプレーからのゲッツー。
闘争中が優勝できたのはアレがあったからだよー。」
矢口が遠い目をしながらさやかに話しかける。
「あ〜あ。また始まったよ。」
飯田は矢口のさやか話が始まるととたんに不機嫌になる。
しかし、誰も飯田には触れない。
なつみがさやかに話しかける。
「さやかちゃん、キャッチャーやったことあるの?」
「ぜーんぜん。」さやかは答える。
「じゃあどうして?」なつみはさらにさやかに聞く。
「フフフ。だって、これから毎日なっちの投げる球を受けてたら
なっちの弱点がわかるし、何回勝負しても勝てるジャン!
そしたら毎日マックがおごってもらえるしね!」
さやかは微笑みながら答えた。
突然飯田が立ち上がった。
「なっち、明日勝負よ。かおりもおごってもらうんだからね。」
飯田の目はマジである。
「ちょ、ちょっと、そんな勝手な...」なつみは狼狽する。
「あたしもおごってもらうー!勝負!なっち。」矢口が言う。
「じゃあ、あたしもー。」なんと後藤までもがなつみに勝負を挑んできた。
「ちょ、ちょっとみんなー、待ってよ、圭ちゃん、みんなに何とか言ってよー。」
なつみは保田に助けを求めた。
保田は笑顔で言った。
「なっち、勝負よ。」
「なんだよもー!もうやだー!」なつみはふてくされてしまった。
(なっち、ゴメンね。ホントは、朝なっちの球を見てたら、なんかわくわくしたんだ。
なっちはスゴイピッチャーになる、って思ったんだ。
それを一番近くで見たかったんだ。)
さやかはそんなことを思いながら、笑顔でなつみを見つめていた。
試合まで後一週間!はたして相手は?
娘達は勝てるのか?
乞うご期待!
ここは朝焼け高校のグラウンド。
いよいよ試合当日の日曜。
娘達は午後からの試合に向け、午前中から練習にはげんでいた。
「こらー!矢口!カバーが遅れてる!練習の意図をちゃんと理解して
やってもらわんとあかんぞ!」
つんくが叫ぶ。
どうやらダブルプレーの練習をしているようである。
一方ベンチ前では、なつみ、ルルの二人が投げ込みを行っている。
『バシーン!』
『バシュッ!』
右腕で速球派のなつみと左腕で技巧派のルル。
二人はまるでタイプがちがう。
「今日も調子いいね、なっち。」なつみの球を受けていたさやかが言う。
「よーしいいぞ、ルル。その調子だ。」ルルの球を受けていた和田が言う。
今日の試合、どちらが先発をするかはまだ告げられてはいない。
二人は態度にはでていないものの、お互いを激しく意識していた。
(絶対絶対、私が先発するんだ!)
(ワタシが先発する!)
「よーし。もう12:00か。取りあえず午前の練習は終わりや。
13:00には向こうが来るから、それまでに軽く昼食を済ませておくように!」
つんくが言った。
「すいませーん!監督。」さやかがつんくに言う。
「なんや、ゆってみ。」つんくが答える。
「あのー、今日の試合の相手はどこなんですか?」
「ふふふ。それは来てのお楽しみや。ナイショ。さあ。休憩や。一時解散!」
娘達はグラウンドから散っていった。和田がつんくに聞く。
「つんくさん、でも本当に今日の相手はどこなんですか?
コーチの僕には教えて下さいよ。」
「しゃーないなー、.....。」つんくが和田に耳打ちする。
「えーっ!!!!!!本当ですか!」和田は超事実発覚!に驚いている。
「フフフ。試合が楽しみやで...。」
つんくはニタリと笑った。
日曜日の学食は、さすがに人が少ない。
他のクラブの生徒もちらほら見かけるが、ほとんど娘達の貸し切りである。
試合前なのに焼き肉定食を食べるさやか。
イカリングを食べる中澤。
おやつばっかりの後藤。
それぞれが思い思いのものを食べながら、
おしゃべりに花を咲かせている。
「今日、ホントに試合あるのかなー。相手はどこですか、って何回聞いても
『それは秘密』って、つんくさん教えてくれないんだもん。」
矢口が言う。
「あ、今のつんくさんにそっくりー。もっかいやってー。」飯田が言う。
「『それは秘密や。』」
矢口がさらに悪ノリする。
しかし誰も笑わない。
「えー今の似てなかった?じゃあもっかいやるよ。『それは秘密や。』」
「まりっぺ、うしろうしろ...。」なつみが小声で言う。
矢口が振り返るとそこにはなんとつんくがいた。
「ゲッ!つ、つんくさん。いつからいらしてたんですか...?」
「ははは。結構似てたで。矢口。
もうそろそろその答えもわかる頃や。
さっき連絡が有って、もう到着するらしいで。」
『ブゥゥゥゥン...』学食の前は駐車場である。
その駐車場に、一台の大型バスが入ってきた。
「来よったで...。」つんくはつぶやく。
バスが食堂の前を横切る。
バスの側面には『TM学園』と書いてある。
「えー!今日の相手って、TM学園なんですかー?」矢口が叫ぶ。
さやかは無言だが、その表情は驚きを隠せない。
予想もしなかった急展開に、娘達を緊張感が包む。
ただひとりを除いては。
「え?てぃーえむがくえん?強いの?」なつみである。
「もう!TM学園っていったら、去年の甲子園のベスト8だよ!」矢口がなつみに言う。
「へーぇ、すごいねー。」そう言いながらもまるで緊張感の無いなつみ。
「よし!休憩も終わりや。TM学園をむかいいれなあかん。全員グラウンドに行くで!」
つんくが叫んだ。
グラウンド。
娘達は一列に並び、つんくはその前に立っている。
TM学園の生徒達がグラウンドに入ってきた。
ひとりの男が先頭に立ち、つんくに挨拶をする。
「どうも。監督代行の久保こーじです。」
「なんや、小室さんは今日来ないんかいな。」つんくが言った。
「いいえ、遅れていらっしゃいます。」久保は答える。
「あ、そうですか。わかりました。じゃあさっそく試合やりましょか。」
「そうですね。今日はよろしく御願いします。お手柔らかに。」
つんくは思った。
(『お手柔らかに』やって?ケッ!いやみ言いやがって。甲子園がなんぼのもんや。
コムロがおらんのも、完璧なめとる。見とけよー!)
「これから、今日のオーダーを発表する。」つんくが言った。
娘達に緊張が走る。
「1番・センター、信田。2番・セカンド・矢口。
3番・ショート、後藤。4番・キャッチャー、市井。
5番・ファースト、飯田。6番・サード、中澤。
7番・レフト、ルル。8番・ピッチャー、安部。9番・ライト、稲葉。以上!」
娘達はそれぞれ一喜一憂している。
中でも、安部、ルルの二人ははっきりと明暗が分かれてしまった。
「.....。」言葉無くうなだれるルル。
その落ち込みようは、娘達もかける言葉がない。
「...、はじめに言っておくが、今日は全員使うで。ルルにも、ピッチャーをやらせる。
それぞれの力を、今日は見せてもらうからな。
気合い入れてやれよ!」
つんくが言った。
そのとたん、ルルの表情に生気がよみがえってきた。
(ゼッタイ、負けないヨ。ナッチ。)ルルは思った。
ルルだけではなく、他の娘達もそれぞれ闘志を燃やしている。
飯田・(なんであたしが4番じゃないのー?絶対さやかには負けない!)
中澤・(あたしがクリーンアップから外されるなんて、屈辱だよ...。)
保田・(なんとか今日頑張って、レギュラーになる!)
「よし。行くで。思いっきりやってこい!」つんくが叫ぶ。
いよいよ試合開始!
先攻はTM学園。娘達は後攻である。
マウンドに立ったなつみは軽い興奮を覚えていた。
(とうとう試合だ〜!わくわくするな〜!)
TM学園の先頭バッターがバッターボックスに入った。
「誰だろ、あれ。見たこと無い顔だな...。」
セカンドの位置から矢口がつぶやく。
「プレイボール!」主審の声が響く。
さやかを見るなつみ。ほほえむさやか。
(いつも通りでいいんだよ、なっち。思いっきり投げ込んでこいっ!)
なつみは大きく振りかぶって、投げた!
「ば、ばかっ!」
「あ、あほっ!」さやかとつんくが同時に口走った。
なんと、なつみの投げた第一球目は、ド真ん中の棒玉であった。
『キーーーン』
鋭い音が空を切り裂く。
打球はルルの頭上を越えた。
先頭打者、第一球目、ホームランで幕開けである。
さやかがマウンドにすっ飛んでいく。
「なっち、どうしたの?練習の時と全然違うよ?体調悪いの?」
「えへへ、ゴメン...。ちょっとキンチョーしちゃった。
投げ方を一瞬忘れちゃって...。」
さやかはズッこけた。
「な、投げ方を忘れたって...」
「でも、もうだいじょーぶ。なんか、目が覚めた。
次からはバリバリ投げるよー!」
まるで落ち込んでいないなつみに、さやかはあきれながらも安心した。
「全くもう。やるときゃやってよ!なっち」
さやかはそう言うとなつみの背中をミットで『バスン!』と叩いた。
「ゲホッ...、オッケー、まかせといて!」なつみは微笑んだ。
「あいつ大丈夫かいな...?」つんくがベンチでつぶやく。
「ふふふ。今日の試合は大丈夫のようですね。」久保がベンチでつぶやく。
「久保さん!やりましたよ!」先頭バッターがベンチに帰ってきた。
「ああ、良くやった。今日の結果は小室監督にもちゃんと報告するから、しっかりやれよ!」
「はい!私も早くレギュラーになりたいです!でも、あのピッチャーダメですね。」
先頭バッターの娘は笑いながら言った。
「ま、どんなピッチャーでも、自分の力を出し切ること。決して甘く見てはいけない。
そういうピッチャーなら、確実に打つことが大事です。」
久保が微笑みながら言った。
二人目のバッターがバッターボックスに立つ。
「又知らない顔だ。今日はレギュラーは来てないのかな?っと、それよりなっち大丈夫かな?」
矢口はそうつぶやいてマウンドを見る。
なつみは両腕をグルングルン回している。
その顔にこわばりは無い。むしろ落ち着いているように見える。
4、5回腕を回して、なつみはホームを見据えた。
(よーし。次からは打たせないよ!)
なつみは振りかぶって、投げた!
『バシーン!』
「ハハハ...!?」ベンチでコーチらと談笑していた久保は、
グラウンドを振り返った。ボールはさやかのミットに吸い込まれていた。
(来た来たー、これこれ。こうじゃ無くっちゃ!)
左手に軽いしびれのような感覚を覚えながら、さやかは思った。
バッターの娘は、予想もしなかった豪速球に思わずのけぞっていた。
片足は完全にバッターボックスから出ている。
(な、なんなの今の?さっきの球と全然違うじゃない!)
「あのー、今の、ストライクですね?(×5)」さやかが主審に問いかける。
「す、ストライーク!」主審も思わず面食らっていたようである。
「何だ?どうしたんだ?」見ていなかった久保が声をあげる。
「けっこういい球投げますよ、あのピッチャー。多分あの子には打てないと思います。」
久保の後ろから声がした。久保は振り返る。
「な、何?トーコ、本当か?」久保が言った。
「はい。さっきとはまるで別人です。」
トーコ、と呼ばれた娘は落ち着いた口調で答えた。
『バシーン!』「ストライーク!」
二人目のバッターへの、なつみの二球目。またもやボールはミットに吸い込まれた。
バッターはスイングすらしていない。
「むむぅ...。」久保はため息をもらす。
『バシーン!』「ストライーク、アウト!」
バッターはスイングした。が、ボールにはかすりもしなかった。
「こんなところにこんなピッチャーがいるとは...。」久保がつぶやいた。
「本当にいい球ですね。なんだか楽しみです。」
トーコはそういうとゆっくり立ち上がった。
「今日だけとは言ってもせっかくの4番だから、何とかしてきますよ。」
トーコはベンチを出て、ネクストバッターズサークルに入った。
「ストライクアウト!」
なつみは、三番バッターも三球で仕留めた。
なつみは思った。
(この学校が甲子園行ってたんだー。でも、なんかイケそう!ふふ。)
4番バッターが左バッターボックスに立つ。
トーコである。
「あ、トーコだ。いつもは2番なのに、今日は何で4番なんだろう...。」
またもや、矢口がつぶやく。
(取りあえずあなたの球を6球は見ました。当ててみせます!)トーコは思った。
トーコへの1球目、なつみは振りかぶって、投げた!
『バシーン!』「ストライーク!」
(...。バッターボックスで見ると、段違いにスゴイですね...。当てられるかしら...。)
トーコは思った。
「今日は4番なのね。トーコさん。」さやかがトーコに話しかける。
「ええ。今日はちょっとね。」笑顔で答えるトーコ。
「あなたには打てそう?TM学園のレギュラーだし。」さらに話しかけるさやか。
「どうでしょう。頑張ってみるわ。」トーコは笑顔を崩さない。
(ケッ!なんか、その落ち着いた態度が気に入らない!)
さやかは思った。
トーコへの第二球目。
なつみは振りかぶって投げた!
『キンッ、ガシャーン!』
ボールは後ろに低い弾道で飛び、バックネットに当たった。ファウルである。
(だいぶ球がホップするわね。かなりのびる球ね...。)トーコは思った。
「うわっ!」思わずなつみは口走った。
自分の本気の球に、初めてバットが当たったのである。
(あ、当てられた...。よし、次は勝負だ!)なつみは思った。
トーコへの3球目、なつみは振りかぶって、投げた!
『キン』
トーコの打った球は、なつみの頭上を越えた。
が、どんづまりである。やすやすと後藤が落下点に入り、キャッチした。
スリーアウト。
「当てたけど、ダメだったね。ふふ。」さやかがトーコに言う。
「うーん、残念。次は頑張るわ。」落ち着いた口調で言うトーコ。
(ケッ!なんか、そのよゆーかました態度が気に入らない!)さやかは思った。
ベンチに帰りながら、トーコは思った。
(ふう、まだ手がしびれてる...。かなりのピッチャーだわ。
今日の試合、調整試合どころじゃないわ。本気でやらないとやられる!)
1回の表終わって<1−0>。いよいよ娘達の攻撃である。
娘達はグラウンドから、全員ベンチに戻った。
「アホッ!いきなりホームランやないか!」
つんくのげんこつがなつみの頭に飛ぶ。もちろん手加減はしてある。
「いてて、でも、後は押さえましたよー!」なつみも反論する。
「なんや!いいわけするんか!刺激の強いのお望みですかー?」
つんくは容赦なくなつみに詰め寄る。
「い、いやその...、ゴメンナサイ。」なつみはしょぼくれる。
「ははは、冗談冗談。よう後を押さえたな、安部。その調子で行け!」
つんくは笑いながらなつみの頭をなでた。
「もーう!つんくさーん!」なつみはつんくを肘で突いた。
「あいたた...。こ、こら!監督に暴力を振るうな!まあとにかく、お前ら本来の力を出せば、
相手がTM学園でもいい試合が出来る。リラックスして、いつも通りやるだけでええんや。
しかし今んとこ1−0で負けとる。取り戻すぞー!」
「ハイッ!」全員で答える娘達。
「よっしゃ。じゃあ信田、取りあえず思いっきりやれ!
打てへんかっても悔いの無いように、思いっきりやぞ!」
つんくが言う。
「監督、それじゃまるで私が打てないみたいじゃないですか。」信田が切り返す。
「ははは、すまんすまん。よし!打ってこい!信田!」つんくは言い直す。
「わかりました。打ってきます。」信田は微笑んで、バッターボックスに向かった。
次回
「あたし、あんたには絶対負けたくないの!」
「うちの新エース、鈴木あみです。」
「結局、強いもんが勝つ。それだけや...。」
−−−−−−−−−−乞うご期待!−−−−−−−−−−
「小林、練習通りのピッチングが出来れば、十分勝てる相手だ。
しかし油断してはいけない。
練習試合とはいえお前にとっては初試合だから、
気を引き締めて行け。」
久保が言う。
「はい。わかりました。」
小林、と呼ばれた娘が答える。
この娘、小林幸恵は言わば小室の秘蔵っ子であった。
その素質は小室をして「今まで(見て来た中)でトップかも知れない」
と言わしめたほどであった。
だが、小林は不運にも試合に出るタイミングが無く、
その力を発揮する場所には恵まれてはいなかった。
そして、今回の練習試合。
朝焼け高校からの試合の申し出に、
小室が真っ先に考えたのは小林の事であった。
素質は十分ありながらも経験が全くない小林に、自信をつけさせてやろう。
それが、試合を引き受けた最大の理由であった。
マウンドに立った小林は、軽い感慨にふけっていた。
TM学園野球部の入部オーディションを受けた時のこと。
小室によって海外練習を命じられたときのこと。
独りの海外生活の孤独。
突然の帰国命令。
そして今日の試合。
小林にとって全ては目まぐるしく、怒濤の急展開であった。
(とうとう試合だー。相手の事は良くわからないけど、とにかくガンバロウ!)
小林は投球練習を始めた。
振りかぶってキャッチャーめがけて投げる。
『バシュッ!』(ワクワクするな...。)
『バシュッ!』(相手のピッチャー、結構凄かったな...。)
『バシュッ!』(でも、負けたくない...。)
「結構いい球投げるなー。」
バッターボックスに向かいながら、信田はつぶやいた。
右バッターボックスに入り、小林をにらむ信田。
信田をにらみ返す小林。
1球目、小林は振りかぶって投げた!
「ストライーク!」1球目、信田は様子を見た。
(カーブか...。
1球目を変化球で入ってくるということは、ルルに近いタイプかな?
低めのきわどいところに投げてくるなー。
コントロールは良いみたいだな...。)
2球目、小林は振りかぶって投げた!
(同じコース!いや、微妙に低いか?)信田は見逃した。
「ボール」
(危うく振るところだったよ...。)信田は冷や汗をかいた。
(あれを振らないなんて、なかなかのバッターね。)小林は思った。
続いて、小林は振りかぶって投げた!
(ど真ん中だ!もらった!)信田はフルスイングする。
「ストライーク!」信田は空振りしていた。
(フォークか...。ちくしょう、やられたよ...。)悔しがる信田。
(フフフ。追い込んだわ。)小林はほくそ笑む。
小林は振りかぶって、投げた!
ボールは信田の胸元を襲った!(うわっ!)信田はのけぞる。
「ボール」
(ちきしょう危ねーなー!もうちょっとで当たるところだよ!)信田は小林をにらみつける。
(よしよし。次の球で決めるよ。)小林は思った。
小林は振りかぶって、投げた!
(外角低め、ギリギリストライクか?)信田は思案した。
「ボール」
(内角のボール玉で腰を引かせて、外角低めで仕留める。良くあるパターンだね。)
信田は小林を挑発するような目で見据えた。
(あれを見逃せるなんて...。なんて選球眼をしているの?)小林は驚きを隠せない。
「あのバッター、なかなかの選球眼だな...。」久保はつぶやいた。
「さすがや、信田。俺の見込んだ通りや。」つんくがつぶやいた。
信田はチーム内でも随一の運動神経、動体視力を持っていた。
つんくが信田をトップバッターに起用したのは、それが故であった。
「ファアボール!」小林は信田の粘りに根負けした。
(ボール球は絶対に振ってこない、嫌なバッターね...。)小林は思った。
(よーし!美帆ちゃんが塁に出た!何とかつなぐぞー!)矢口は左バッターボックスに入った。
(ちっちゃいな...。ストライクゾーンが狭い...。)小林は思った。
矢口への1球目、小林は振りかぶって投げた!
(よーし!)大きくスイングする矢口。
誰が見ても、明らかにタイミングが合っていない。
(なんなの?このバッター。素人?)小林は思った。
「ストライーク!」空振りである。
ボールを受けたキャッチャーは、すぐさま立ち上がった。
なんと、信田が2塁へスタートを切っていたのである。
だが矢口の空振りスイングが邪魔をして、2塁へのスローイングが遅れた。
信田は悠々セーフである。
(やられた!)悔しがる小林。
(フフフ。予定通り!試合前から、
美帆ちゃんが塁に出たらこうするって二人で決めてたんだもんね。
うまくいった!フフ。)ほくそ笑む矢口。
(もう好きなようにはさせない...。)小林は思った。
小林は振りかぶって、投げた!
(よーし、ここはこうして...。)矢口はバントの構えである。
(やっぱり!そうきたわね!)小林は前にダッシュした。
バントした球を即座にキャッチする為である。
「ストライーク!」ボールはバットには当たらなかった。
(バント失敗?フフ。マヌケなバッターね。)小林はほくそ笑む。
(もうツーストライク。追い込んだわよ。
もうバントは出来ないわね。
ファールでもアウトだからね。)小林は矢口を見下ろす。
(よーし。次がホントの勝負だよ...。)矢口は小林をにらむ。
小林は振りかぶって、投げた!
信田が2塁からスタートを切る!
矢口は突然バントの構えになった!
(なんですって?まさかツーストライクからバントで来るとは!)
小林は予想を裏切られて反応が遅れた。
(なんとしても当てなきゃ!)矢口は球筋を見る。
ボールのコースは外角やや低め。
特別当てにくい事はない。
(よーし!)矢口がバットをのばす。
突然、ボールは沈み始めた。
フォークボールである!
(うわー!聞いてないよー!)
あわてそうになる気持ちを必死に押さえ、矢口は精一杯バットをのばした。
(当たれー!!!)
『キンッ』(当たった!)
打球はサードに転がっていった。
中途半端な当たり方をしたのが功を奏し、
ちょうどセーフティバントのような形になった。
バットを捨て、矢口は1塁に走った。
「サード!!!」小林は叫ぶ。
それと同時に信田は悠々3塁を落とした。
せめて矢口はアウトにしなければならない。
それは決して無理ではない打球である。
「うわっ」なんと、三塁手がボールを落とした。
矢口が1塁に駆け込む。
ノーアウト1、3塁である。
「チッ!何やってるんだ...。」
久保が吐き捨てるように言った。
「さすがのTM学園も、控えの選手はまだまだやなあ。
はよレギュラー出して来いっちゅうねん。」
つんくがつぶやく。
(あのバッターは、最初からスリーバントするつもりで空振りを...?
い、いや、そんなはずはないわ。偶然よ、偶然。とにかく次を押さえなきゃ。)
小林はネクストバッターズサークルに立つ娘を見た。
ネクストバッターズサークルには、長身の娘が立っていた。
その表情からは、やる気があるのかどうか全く読みとれない。
(不気味だわ...。)小林は思った。
後藤がバッターボックスに入った。
後藤の表情にはまるで緊張感が無い。
それは無表情でもなく、無我の境地に達した落ち着き払った表情でもない、
不思議な表情であった。
(全く読めない...。)小林は攻め手に迷った。
(取りあえず外角へ逃げる球{カーブ}で様子を見よう。)
小林は振りかぶって、投げた!
後藤は微動だにしない。
「ストライーク!」
(じゃあ、次は内角へのボール球{ストレート}で誘ってみよう...。)
小林は振りかぶって、投げた!
『カッ』後藤は目を見開いた。
後藤はフルスイングした。
『キンッ!』打球は、小林の真正面に飛んだ。
ピッチャー返しである。
(うわっ!)小林は、間一髪打球を胸元でキャッチした。
(ランナーが飛び出してるはずだわ!早く投げないと!)
そう思った小林だったが、打球の強さゆえに体勢を崩してしまった。
信田、矢口はそれぞれ塁に戻った。
ワンアウト1、3塁である。
「おっしいなー!あと30センチ横にずれてりゃあセンター前ヒットやったのになあ〜。」
つんくが声をあげる。
「でもさすがやなー。あんなくそボール球、後藤にしか打たれへんで。
さすが後藤、直球にはめちゃ強いな。」
感心するつんく。
(やっとワンアウトね。次で何とかダブルプレーを取りたいものだわ。)小林は思った。
左バッターボックスに、さやかが入った。冷たい視線で小林を見据える。
(こ、このバッター、かなりの実力ね...。)
小林は、さやかから何かオーラのようなものを感じ取った。
小林は、さやかに下手な小細工が通用しないであろう事は肌で感じ取っていた。
(あの球しかない...)
さやかへの第一球、小林は振りかぶって、投げた!
球はさやかの内角をえぐる。内角やや低めの直球。
「よっしゃ!もらった!」つんくがベンチで叫ぶ。
並の打者なら打ってもつまるコースだが、さやかにとって内角は絶好球である。
(いただきっ!)さやかはフルスイングする。
「ストライーク!」
ボールはキャッチャーミットに吸い込まれていた。
「なんや、あの球...。あんだけ落ちるとは...。」
つんくがベンチでつぶやく。
1塁ランナーの矢口もため息をもらす。
(さっき私に投げたフォークと全然違う...。
フォークを2種類持ってたのね...。
あれじゃあ、いくら
さやりんでも反応できる落差じゃないな...。)
(フッ。まんまとしてやられたってわけか。なかなかやるね。そう来なくちゃね。)
さやかは空振りさせられたにもかかわらず、なぜか笑顔がこぼれていた。
(久しぶりに楽しめそうだ...。)
さやかは小林を冷たい笑顔で見据えた。
(よし。取りあえず1ストライク。次の球は...)
さやかへの2球目、小林は振りかぶって、投げた!
またも内角への直球。
(ストレートかフォークか、ふたつにひとつ!ここは...!)
さやかはフルスイングした!
「ストライーク!」
球は、落ちなかった。
フォークへヤマをはっていたさやかは空振りである。
「あのピッチャー、根性あるなー。あのコース、下手したらホームランやで。」
つんくは素直に感心した。
「監督!相手ほめてどうするんですか!
もう2ストライク、追い込まれちゃいましたよ!
さすがTM学園、控えのピッチャーも凄いですね...。」オロオロする和田。
「あほ!お前もほめとるやないか!」つんくが和田につっこむ。
(よしよし。そうだ。
ようやくお前らしいピッチングが出来ている。
ランナーを背負って、それを押さえられたらいい経験になる。
内角、外角、攻め手はいくらでもある。
お前にかなり有利な状況だ。)
久保はベンチからマウンドの小林を見つめる。
(ふぅ。追い込まれちゃったよ。さぁて、どうするか...。)
さやかはバッターボックスから出て、素振りをした。
(ストレート、フォーク、内角、外角、どこに来るか...。)
素振りをしながらも、無表情で小林を見据えるさやか。
小林も、無表情でさやかを見ている。
お互い、目線を離さない。
いわゆる、『ガンとばし』状態である。
(よし決めた!)決心がつき、バッターボックスに入るさやか。
(さあ来い!)さやかはバットを構え、小林をにらみつける。
(打たせないよ...)
さやかへの3球目、小林は振りかぶって、投げた!
またしても内角!しかし今回の球はさっきまでとはスピードが違う。
目の覚めるような速球である。
しかも、高めのボール気味の球である。
(た、高め?)
さやかは内角にはヤマをはっていたが、高めの速球には驚きを隠せない。
(ボール?ストライク?どっちだ!?...ええい!)
さやかはスイングした!
『キーン』
打球はセンター方向へ飛んだ。
が、打球音は明らかにつまっている。
(打ち取った!センター浅めのフライ!)小林は確信して振り返った。
「えっ!?」振り返った小林は思わずため息をもらした。
つまっているはずの打球は予想以上に伸びている。
「入るか!?」つんくは思わず立ち上がる。
センターのトーコが必死で追いかけるが、球はグングン伸びる。
「むぅぅ、ギリギリ入ってしまうか...。」久保がうめき声を上げる。
と、その時!
『パシッ!』
なんと、トーコがフェンス際でジャンピングキャッチをした。
トーコはボールをキャッチしたものの、大きくジャンプをしたため、
着地と同時にうずくまった。
「信田!タッチアップや!走れ!」ベンチから叫ぶつんく。
信田はゆうゆうホームを落とした。
<1−1>
「キャー!やったー!えらーい!さやりん!」喜ぶなつみ。
なつみだけでは無い。娘達はそれぞれ喜びの声をあげている。
娘達のベンチは一気に活気づいた。
(まさかああ来るとは...。)
さやかは自分の読みが完全ではなかったことに少し反省をしながら、
バッターボックスからベンチへ歩いていた。
「ねえ、ちょっと。」突然呼び止められて振り返るさやか。
呼び止めたのはネクストバッターズサークルに立つ飯田である。
「なに?どうしたの?」さやかが答える。
「あたし、あんたが4番なんて認めてないから。
今日の試合で、それをはっきりさせる。
あたし、あんたには絶対負けたくないの!」
飯田は一方的にさやかに言い放つと、バッターボックスへ向かった。
(...何なんだ、いったい!)
突然の飯田の一方的な宣言に、返事もできないまま取り残されたさやかは、
軽く地面を蹴り上げこぶしを握りしめた。
(だけど、4番はゆずらない。)
(さすが市井や。読み違いの球であっても内角ならあそこまで持っていきよる。)
べンチに戻ってきたさやかを見つめながら、つんくは思った。
(打ち取ったはずの球だったが、当たり所が良かったようだ...。
取りあえず気持ちを切り替えて臨めばいい。小林。)
マウンドの小林を見つめながら、久保は思った。
(絶対にさやかにだけは負けない!)
飯田は右バッターボックスで闘志を燃やしていた。
(.....。)
小林は無表情で飯田への1球目、振りかぶって投げた!
時間は少々さかのぼる。
場所は都内某所。
一台のベンツがある高級料亭の前にとまった。
ベンツの後部座席には男と少女が座っていた。
「着きました。コムロさん。」運転席から声がする。
「オーケー、マーク。さぁ、行こうか。」そう、この男こそがかの小室哲哉である。
「はい。」少女は軽くうなずくとコムロと握っていた手を離し、バッグを手に取った。
「2時には戻るよ。」
小室は運転席のマーク・パンサーに告げると車を降りた。少女も後に続く。
料亭の門から入り口へ歩きながら、小室は少女に耳打ちした。
「今日の人は結構ビッグだから、失礼の無いように。」
「ハイ。わかってます。」少女は答える。
料亭のとある一室。
中年、というには歳を取った、やや太った男が座っていた。
テーブルには様々な高級料理が並べられており、軽く湯気が立っている。
しかし男はそれらの料理には一切箸をつけず、熱燗のみを口にしていた。
不意に障子が開く。
「どうもお待たせしましてすいません。」
「おお、小室さん。よく来て下さいました。ささ、どうぞ。」
中年の男は小室を部屋に招き入れた。
小室と少女は、男の向かい側に座った。
「どうもお久しぶりです、堤さん。」小室が挨拶をする。
そう、この男の名前は堤義明。西部グループの総帥である。
当然プロ野球球団、西武ライオンズのオーナーでもある。
「どうも、小室さん。おや、そちらのお嬢さんが噂の...。」
「はい。うちの新エース、鈴木あみです。」
小室が答える。
「ほぉーう。かわいらしいですなぁ〜。
ちょっとあみちゃん。
ワシのとなりに来て、酒をついでくれんか。」
堤が酒臭い息を発しながら、あみに話しかけた。
「はい。」あみは嫌な顔ひとつせず、むしろ笑顔で堤のとなりに座った。
「おぉ〜う。近くで見るとますます別嬪だね〜。ささ、ついでくれ。」
堤はそう言いながら、小室には見えないように
テーブルの下であみの両足の太ももの間に手を滑り込ませた。
「(!)は、はい...。」
一瞬表情が引きつりそうになるのを必死で押さえ、笑顔で酌をするあみ。
「う〜ん。別嬪についでもらった酒は格別に美味い!」
そう言いながらも堤はあみの太ももをまさぐっている。
「...。」あみは涙が出そうになるのを必死でこらえ、笑顔を作り続けた。
(小室さんに心配をかけたくない。
こんな人にこんな事をされてるなんて、小室さんに知られたくない。)
あみはとにかく笑顔を絶やすまい、と思った。
「あみ、もうこちらに戻りなさい。
あまりそちらに座っていては、堤さんと話がしにくい。さあ。」
小室があみに言った。
「はい。(助かった!)」あみは表情を崩さず、笑顔で立ち上がり小室の脇に戻った。
「ワシは別にかまわないんだけどなぁ。」堤が言う。
「いえいえ。最近はどういった状況ですか?」小室が堤に話しかける。
「そうだな...。」
二人の話は、あみにはあまりよくわからない。
しかし、こういった席はあみは慣れていた。
既に読売グループの総帥、ナベツネとも会食をした。
その時に比べれば、堤のした行為はかわいいものである。
(よくわからないけど、小室さんは私のためにいろんな人に話をしにきてるんだ。)
あみは小室に、全幅の信頼を寄せていた。
そしてそれは、監督と選手、といった関係を越えた感情を持つものであった。
<番外編>
<ナベツネとの会食のエピソード>
『ムギュ!』
「う〜ん、あんたはええかたちのオッパイしとる。200勝は固いな。」
いきなりあみの胸を鷲掴みにしてもっともな口調で語るナベツネ。
これにはあみもさすがに泣き出してしまった。
「なんや。ほめてるんや。何で泣くんや。」
まるで解っていないナベツネ。
「まだまだ精神面は鍛えなあきませんな。ガハハハハ。」
精神面図太すぎのナベツネ。
結局、後でさらに尻も触られた。
「ええかたちのお尻しとる!打者でもいけるな。ガハハハハ!」
ここまで堂々とされると、あみは悲しいと言うより逆にあきれかえってしまった。
だが後で小室に愚痴りまくり、後日1日デートにつき合わせたあみ。
常に多忙の小室を、1日つき合わせてご満悦のあみであった。
小室には、ある噂があった。
『監督の立場を利用して、選手に手を出してる』
あみも、そのうわさを聞いていた。
そのため、TM学園野球部に入ったときにはむしろ小室のことを警戒していた。
しかし、実際内部に入ってみて、それはデマであることが解った。
『小室が手を出しているのではない。選手達が小室に心酔しているのだ。』
寝ることも食べることもいとわない小室の指導。選手達への熱意。
しかし表面上はあくまでもクール。優しさもある。
まさにカリスマとは小室のことである。
しかしあみすらも知らない小室の凄さは、
『お前との関係は秘密だ。チームの士気に関わるから。』
と言っておいて、ほぼ全員と関係していることである。
それぞれの選手に『私だけが小室さんと...』と思わせているのである。
小室が多忙な理由の半分は、それぞれの選手と会っているためなのである。
「何で俺ばっかりが...」
久保はベンチで力無くつぶやいていた。
「あいつのせいだ...。」
久保はある人物の顔を思い浮かべ、しかめっ面をした。
その人物とは、マークパンサー。現在の小室の右腕である。
「昔から俺がNO.2だったのに...。急に横から現れて...。」
独りでつぶやき続ける久保。
グラウンドでは、飯田が歓声をあげていた。
「きゃーーーー!マジで?きゃーーーーーー!やったーーーー!」
飯田は無理矢理なハイテンションで飛び跳ねている。
「き、君、早くグラウンドを回りなさい!」
主審もさすがに見ていられなくなって飯田に話しかける。
なんと、飯田はホームランを放ったのである。
さやかに犠牲フライを打たれて1点を失った小林は、既に平常心を失っていた。
自分が今どこにいるのかも解らないまま投げたボールは、ど真ん中であった。
ホームランを打たれても、表情ひとつ変えず呆然と立ちつくす小林。
もはやどんな素質を持とうとも、それを発揮するのには困難な状態である。
「あいつのせいだ...!」
『ドカッ!』
目の前のイスを殴りつける久保。
<3−1>。朝焼け高校勝ち越し。
この試合、久保には大きなテーマがあった。
控え選手のみで勝つ。しかもそれは自分が発掘した選手達で。
そうして、小室に自分の手腕をアピールしようと考えていたのである。
(小室さん、もう一度僕を運転手にして下さい!)
小室の運転手、それは小室のNO.2を意味する。
小室は信用のおける者だけを身近におく。
まさに、今小室のNO.2はマークパンサーなのである。
(畜生、こんなはずじゃあ...。)いらだつ久保。
ふと、久保は小室のある一言を思い出した。
(『何か不測の事態があればすぐに連絡してくるように。
ん?不測の事態?
そうですね...、予想以上に相手が手強い場合とか、
まさかリードされてしまったとかかな?
まぁ、そんなことはあり得ないでしょうけど。』)
「あ、電話しなきゃあ...。」うつろな目でつぶやく久保。
久保は携帯電話を取り出し、電話をかける。
『ガラッ』
小室、堤、あみの部屋の障子が突然開いた。
そこに立っていたのはマークパンサーであった。
「ご歓談の所を失礼いたします。小室さん。久保さんより電話です。」
「COZYから?」そう言ってマークから携帯電話を受け取る小室。
「......うん。うん。解った。すぐに行く。」
小室は携帯電話をマークに返し、堤の方に向き直った。
「堤さん。ちょっとチームの方に緊急の事態があったようなので、
突然ですが失礼させて下さい。どうもすいません。さあ、あみ。行こうか。」
そう言うと小室は立ち上がり、堤に一礼して、部屋を出た。あみも続く。
ひとり残された堤。
「相変わらず忙しい人だ...。」
車は料亭を出、かなりのスピードで飛ばしている。
「何があったんですか?」小室に聞くあみ。
「今日の練習試合、今のところ負けているらしい。」答える小室。
「.....!keikoさんも安室さんもいてどうして...。」
驚きを隠せないあみ。
「わからない。取りあえず急がないと。」小室は無表情で言った。
「久保さん、お疲れさまでした。TKが来るまで、ここからは私が指揮をとります。」
久保の背後から、声がした。振り返る久保。
「ke、keiko.....」
そこには微笑むkeikoがいた。
「い、いや、ちょっと待ってくれ。これぐらいの点差、これからなんとかして...」
うろたえながら言う久保をkeikoはさえぎって、
「いえ、TKから言われてますので。お疲れさまです。」
「くっ.....。」久保は言葉に詰まった。小室の名を出されてはどうしようもない。
keikoはベンチの前に進み出て、選手達を見回しながら指示する。
「麻美ちゃんはライト。アムロちゃんはサード。朋ちゃんはファースト。
涼子ちゃんはレフト。yuki(trf)さんはセカンド。
hitomiちゃんはショート。私はピッチャーで入ります。さあ、行こう!」
それぞれ、そうそうたる顔ぶれである。それぞれはグラブを持ち、立ち上がる。
『ドスン!』久保に誰かがぶつかった。よろけて倒れ込む久保。
「だ、だれだ...」先ほどの監督ぶりとは一転して、弱々しく言いながら振り返る久保。
「あーごめんなさーいくぼさんいたんだーきづかなかったー」
華原(朋ちゃん)は句読点を使わず、どこを見ているのかわからない目線で言った。
「ふっ、どうせ俺は存在感ないよ!」吐き捨てる久保。
「そんざいかんってなーにー?」華原は久保に聞く。
「.....。」絶句する久保。
「ほら!つまんないこと言ってないで、早くグラウンド行かなきゃ!」
keikoが華原の腕を引っ張る。
「そんざいかんってつまんないのー?」
keikoに引っ張られながらも、うつろな目をしながら華原は続ける。
keikoは無視してファーストまで引っ張っていった。
「とうとう来よったで...。」
ニヤリ、としながらつんくはつぶやいた。
「やっと出てきましたね。」
矢口も反応する。
バッターボックスは中澤。ピッチャーは、小林からkeikoに代わっている。
(どうして鈴木あみを出さないんだろう。ナメてんじゃあないよ...)
keikoをにらみつける中澤。
「矢口、keikoってキャッチャーやったよなあ?何でピッチャーなんやろ。」
つんくが矢口に話しかける。
我が意を得たり!の表情で矢口は語りだした。
「いいえ、つんくさん。keikoは基本的にはキャッチャーですけど、
ピッチャーとしても結構やりますよ。やっぱ鈴木あみがいるからあくまで2番手ですけど。
それに、TM学園にkeiko以上のキャッチャーがいないのが彼女がピッチャーにならない理由です。
鈴木あみがエースになる以前、keikoは少しだけピッチャーやってました。
ほんの3ヶ月ほどですけど。7試合に投げて、負けはありません。
と言っても公式戦ではなくて、あくまでも練習試合ですが。その時の対戦相手は...」
「わかったわかった。もうええもうええ。そうかそうか、わりとヤリよるねんな。」
話し出すと止まらない矢口をつんくは制した。
『キンッ!』
中澤のスイングはボールの下にかすった。ボールは後方に飛んでいく。
ファールである。
(うっ、なんて重い球なんだ...。)
中澤の手には、軽いしびれのような感覚が残っている。
(でも、決して当てられない球じゃないな...。よしっ!)
中澤はバットを短く持った。そしてkeikoをにらみつける。
(ふふふ。良い心がけだね。なかざわさんだっけ?でも、無駄だよ。)
中澤の視線に、ほほえみを返すkeiko。しかしその目は冷たく光っている。
keikoは、サードを守るアムロにウインクをした。アムロもウインクを返す。
「なんや。何しよるンや。」つんくはいぶかしげにつぶやく。
keikoは振りかぶって、投げた!
ボールは、真ん中のやや高め。特にスピードがあるわけではない。
明らかに失投に見える。
(いただき!引きつけて...)
中澤はほくそ笑んだ。
ボールのコースは変化し始める。中澤(左打ち)から見て、外角にそれ始めた。
(.....ん?おっと!変化球か!でも見えてるよ!)
『キンッ!』
中澤は引きつけて打った!流し打ちである。
「出た!裕ちゃんの流し打ち!」保田が声をあげる。
「これはサード越えたね。やるねー裕ちゃん。」なつみも続ける。
しかし、次の瞬間娘達は硬直した。
『パシッ!』「アウト!」
なんと、サードのアムロがボールをキャッチしていた。
レフト前に落ちる寸前のスライディングキャッチである。
アムロはまっすぐレフト方向にスライディングしていた。普通なら届かない位置である。
「さすがレギュラー、一筋縄じゃあいかないみたいね。」
娘達は声のする方を見た。さやかである。さやかは続ける。
「keikoとアムロがサインを送った後、アムロは浅めに守ってた。
多分裕ちゃんもそれを見て流し打ちしようと決めたんだと思う。
でも、keikoが投げたとたん、アムロは後ろに位置を変えた。
それもかなり深く、ほとんど外野の方まで。打つコースを完全に読んでた。
いや、そこに打たされた、と言うべきかもね。」
「むぅ。さすがやな。そうでなかったらオモロない。楽しくなってきたな〜。」
つんくはニヤリとしながらつぶやいた。
「もう!つんくさん!アウトになったのに、何喜んでるんですか?
真面目にして下さい!」飯田がつんくに詰め寄る。
「俺はいつでもまじめやで。強い奴とやらなお前らも強くなれん。
ホントの勝負はこれからや。」飯田の肩をポンポン叩きながら、つんくは言った。