冬至


粉雪が ちろちろと舞うようになりました。

冬のしたくもすっかりすんで 今日は冬至です。 

 

…トチとスギに ゆずジャムをもっていこう…

いつものように背中に かごをせおってでかけました。

 

橋まできたところで トチがむこうから歩いてくるのがみえたので

カシは橋の上で待ちました。

 

「トチとスギにゆずジャムもっていくところだった」

とカシが言うと

「そりゃ ちょうどよかった。オレもカシとスギに会いに行くところだったんだ。」

と、手に持った笛をふりふり トチがいいました。

二人はいっしょにスギのうちへつづく細い山道をのぼっていきました。

 

「せっかく ひさしぶりに イナホシ山で冬至をすごすから

カシやスギに オレの笛をきかせてやろうとおもってな。」

「とくべつの歌があるのかい?冬至のための…」

「いや、そういうのはないさ。でも みんなでゆず茶をのむなら

歌があったほうが いいだろ?」

「うん、そうだ。でも どうしてみんなでゆず茶をのむってわかったんだ?」

「そりゃ オレがおまえをさそって スギのうちへいくからさ。

そうすりゃ おまえかスギかどっちか いや たぶんどっちも ゆずジャムを

もってるはずだろ?じゃ みんなでのむことになるのはきまりだ。」

そういうと トチはカシにむかってにっこりしてみせました。

「なんだよ…。ひとをあてにしてさ…。」

「いや 冬至にゆず茶がなくっちゃはじまらんのに オレはいつも旅して

ばかりで つくってないからな。」

今度はトチはちょっとあたまをかきかきいいました。

「そうじゃないかなとおもって もってきてはいたんだけど。」

カシが そういいながら みやげのつぼをもちあげてみせると

「ほら!そうだろ!やっぱりみんなで今年のゆず茶をのむことになってたのさ。」

トチが とくいそうに言いいます。

「もう…」

カシは ためいきをつきました。

ずいぶんのぼって 道がほそくなってきたので カシがさきになり

あとは二人とも だまって落ち葉を みしみし いわせながら のぼっていきました。

木立がとぎれて いつものように ぽっかりひらけたところにでると

スギが滝のそばに すわって火をおこしていました。

「お。くるころかなとおもっていたよ。はじめて だからね 三人で

冬至の おひさま送るのは。」

スギがいいました。

「今日は あたらしい笛をふいてみるよ。」

トチは 笛をとりだしながらいいました。

「ゆず茶 のみたかったんじゃないのかな…」

カシが小声で ぶつぶついうと

トチはまじめな顔で 「夏至や 冬至には いい歌をおひさまにきかせてやるものさ。」

といいながら 笛のていれをはじめました。

 

カシとスギは 顔をみあわせて 首をふりました。

カシは 火のそばにいるスギのよこにすわりました。

スギは小声で…

「ほめすぎちゃいけないよ。トチはほんとうにじょうずに笛をふくんだが

ほめられると 気をよくして いつまでも ふきつづけるからね。

いつだったか…ひどいめにあったよ。」

カシは トチに気づかれないくらいに 小さく首をふりました。

 

トチはしずかにふきはじめました。

ひゅ〜ひゅ〜ひゅろろ  ひゅ〜ひょろろ

ほそい音でした。風のようにもきこえました。

カシはきいているうちに 夏にみた海をおもいだしていました。

しずかな海にふく風の音のようだと 思いました。

 

さいごは 音が ほそくほそくなって おわりました。

スギの注意もわすれて カシはおもいっきり手をたたいていました。

スギだってやっぱり おもいっきり 手をたたいていました。

「すごい すごい! いい音だったよ。海にふく風のようだった!」

カシが叫ぶと トチは 火のそばに来てすわりました。

「そうか… いい音だって おまえもわかったか。そうか そうか …」

ぶつぶついいながらも トチはうれしそうでした。

 

スギはみんなに ゆず茶をくばりました。

トチも 火のそばによってきました。

…ほめすぎたかな…と カシはおもってみていましたが

トチは笛を きりかぶの上においてすわりました。

 

「この笛 いい音色だろう?

とおい海のむこうから もってきたんだぜ。」

きりかぶの上の 笛を さして トチが言いました。

「カシに リイトをもってきてやるのが おくれたわけは

これなんだ。」と トチははなしを つづけました。

 

「カシをおこらしてしまったあと そうだ おわびにリイトを

もらってきてやろうと 思いついたのさ。

 

朝はやく カシのうちに トチの実をとどけて オレはでかけたんだ。

山ごえすりゃ 早かったんだが 山ごえでもどってきたばかりだったから

今度は 海でも見ながらまわりみちしていこうとおもってな。

にじが浜から ずっと海岸づたいに あるいていった。

 

にじが浜 さくら浜 をすぎて すみな岩をこえたころから

ぽつりぽつりと雨がおちてきて かざまい湾についたときには

けっこうな 雨風になっていた。

湾につくと たいへんなさわぎなんだ。みんな走り回っている。

どうした?ときくと 船がすぐそこで しずみかけているっていうんだ。

雨風っていっても 船が出せないほどの あらしじゃない。

 

この風で 船が難破したのか?

そうきくと 舵をとりそこねて 岩にぶつかって あなが あいたまま 

やっと この湾のみえるところまで たどり着いたらしい。

もう何隻も 助けにむかっているという。

浜では もどってきた船のために 火をおこしたり なべに あまくて熱い

お茶をわかしたり 岩屋にふとんを用意したりしている。

 

で オレも 手伝うことにしたのさ。」

 

「おぼれた人は いなかった?」

カシがきいた。

「ああ。船がしずみかけたのが 運良く 湾の近くだったからな。

びしょぬれでふるえていたけど みんな たすかったよ。」

「トチは どうした?」

また カシがきいた。

「浜のみんなが ふとんや お茶や だんごを 岩屋にはこぶのを

手伝った。それで みんなが 人心地ついたあと

この 竹笛をふいた。」

そういいながら トチは 背中から さっきのとはちがう笛をだした。

「イナホシ山の竹笛。」

さっきまで だまってきいていた スギがひとこといった。

「そうなんだ。オレの自慢の イナホシ山の竹でつくった笛。

けっこう あれこれためして やっと 気に入った竹をみつけてつくったんだからな。

 

たすけられたやつらは ふとんにくるまっている。

浜のやつらは 火のまわりの 砂地に すわっている。

オレは ひとり たってこうして笛をふく。」

 

トチは目をつむり 竹笛を 口にした…。

「それで 笛をふいたら どうなった?」

カシがきいたので トチは ちょっと残念そうに 笛を口からはなして

また 話しはじめました。

 

「いや〜。みんな うっとりしてきいていたよ。中には

涙をうかべている やつもいたなぁ。ねむってしまったやつもいたし…。」

カシがくすっとわらったので トチがカシをにらんだとき

スギが 言った。

「いい歌をきくと だれだって気持ちよく眠くなるもんさ。」

トチはスギを見て にっこりうなずくと カシをもういちど ちらっとにらんでから

また はなしはじめた。

 

「浜のやつらは じぶんの家に かえっていったが

オレは 岩屋に とめてもらうことにした。

まだ ねむれそうになかったから 火のそばにすわって ぼんやりしていたら

ひとりの こおにが 横にすわって 〜さっきの笛よかったです。〜とはなしかけてきた。

 〜私のすんでいるところでも 笛があります。

ぬまにはえている あし という草でつくった笛です。

もっと 高くて細い音なのですが それを思い出してなつかしくなりました。〜

それを きいてオレは その笛をふいてみたくなって

そこに かえるなら連れて行ってくれないか とたのんでみた。

そいつは ほかのこおにたちと 相談して 船にのせてくれることになってな。

二日後の晴れた日に そいつらと船出したってわけだ。

 

そのときには カシのことも リイトのことも すっかりわすれてしまってた。

船に乗って 何日かたったとき おっ!とおもいだしたが…。

まぁ、おきてがみも 書いてきたことだし いいだろうと

あとは 船旅を楽しんできたってわけさ。

思ったより遠くて おそくなったが いいところだった。

ここより ずっとあたたかくて 海は にじが浜よりずっと あおくて。

しばらくして こっちにくる船にのせてもらってかえってきたが

カシにリイトをもってかえってやろうと おもってなきゃ もっとずっといたかったな。」

トチは思い出すように 遠くを見ながら 話しおえました。

 

「イナホシ山よりいいところだったのかい?」

カシがききました。

「いや イナホシ山がやっぱりいちばんさ。かえってきたら ほっとする。

しかし あちこち旅したなかじゃ あの島のあたりは いちばんよかったな。

でも まだまだ 知らないところに いいところはたくさんあるはずだ なぁ スギ?」

トチはカシにこたえながら さいごは スギにむかっていいました。

「うん そうだな。でも イナホシ山がいちばんいい。」

と スギはこたえました。

「そうか… スギもいろいろ旅したっていっていたね。」

カシは ぼそぼそつぶやきました。

 

いつのまにか トチとスギは 西の空にむかってたちあがっていました。

「おい しずむよ。」トチが ふりむきながら カシに声をかけました。

カシもふたりのそばにたち しずむ夕日をみました。

明日からすこしずつ 昼が長くはなるのです。

しかし この イナホシ山は 寒い冬になっていきます。

カシには それがふしぎです。

たいていのことは なんでも おしえてくれるスギも

「なんでだか そういうふうに なっているのだ。」といいます。

どっちにしても 冬至がくれば イナホシ山には 雪がふりはじめます。

明日 うちにもどったら 当分みんなにあえない いや ほとんど外に

でることもできない日々のはじまりです。

 

カシもスギもトチも しばらくのふゆごもりを前に

ひとばん うたったり たべたり はなしたり おおさわぎして すごそうと

おもっていました。

空は うすずみ色になりました。

火のそばで ぶあついわたいれに くるまった三人の影が だんだん 黒くなって

ゆきます。

三人の冬至の夜は こうして ふけてゆきました。


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