6月3日

実は、僕の家族は、今、母さんと僕だけなんだ。

去年の初夏に、父さんが癌で他界した。父さんの家系は癌で亡くなることが多くてね、父さんも、そのうちの一人だったんだ。せっかく飼った子犬も、大きくなる前に交通事故で轢かれてしまった。僕たちは、もう身寄りもいないし、二人だけだけど、頑張って協力して生きて行こうってなったんだ。

僕は、大学受験はもうお金がかかるから諦めて、今までスペインの田舎町で働いてきた。一生懸命働いて、少しでも母さんに楽させたかったんだ。今年の初めには、凄くパエリヤがおいしいレストランに母さんを連れて行ったりもしたんだよ。

でも、もう駄目なんだ。

この前、体に違和感を覚えて医者に見せに行ったときに、癌だといわれたんだ。しかも、もう治ることはないみたいなんだ。医者に薬による延命を勧められたんだけど、断るつもりなんだ。もう、これ以上お金を使うわけには行かないんだ。母さんに、苦労をかけるわけにはいかないんだ。それを母さんに言ったとき、母さんは泣きながら入院を勧めてきた。でも、もう嫌なんだ。

多分、僕は今年か来年には死んでしまう。平均寿命を考えると、余りに短すぎる一生だった。でも、不思議なことに、恐怖だとか、悔しさだとか、心惜しさとかはないんだ。医者に癌だと言われた時に、正直僕はその事実を信じ切れなかったけども、心のどこかで、「ああ、遂に来たんだ」と思ったんだ。

人生は、長さではなく、その中身が大切だと思うんだ。どれだけ生きていたかではなく、どう生きたかが問われるべきなんだ。僕は、頭も悪くて、ドジで、いつも両親や友達に迷惑ばかりかけてきたけど、それでも毎日悔いがないように過ごして来たと信じているんだ。

死ぬのは怖くない。でも、僕が死ぬのを母さんには見せたくないんだ。自分勝手かもしれない。だけど、僕はもう母さんが泣いている姿なんて見たくないんだ。だから僕は、今日から旅に出ようと思ってる。明け方には出発しよう。



実は、僕には日本人の彼女がいるんだ。彼女は、今日本で一生懸命仕事してる。美人で、こんな僕には似合わない完璧な女性なんだ。僕は、僕は彼女と結婚したいと思っていた。本音を言うと、彼女に会いたいんだ。会って、抱きしめて、髪を撫でてやりたいんだ。でも、会うわけには行かない。会うと、きっと泣いてしまうから。会うと、きっともっと生きていたいと思ってしまうから。会うと、自分の運命を恨んでしまうから。

ははは。よく考えたら未練ばかりな気がしてきたよ。でも、彼女はすぐにもっと良い彼氏ができるから心配ないよ。




 



父さん・・・。母さん・・・。
 


できれば、
 


できれば大学に合格して一生に一度くらい、親孝行したかったなあ。

 


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あでょ