
「霜の中の顔」ジョン・ベレアーズ、浅羽莢子訳、ハヤカワ文庫FT
この本は、ファンタジーである。
童話的世界によく出現する魔法使いのイメージ。
厳めしく頑固で、魔法使い特有の変な道具をいっぱい持っているそれ。
この本は、地味である。
可愛い女の子(ビキニ・アーマー装備)や、凛々しい騎士の御方も登場しない。
せいぜい出てくるのは、魔法使い、おもちゃの船のアクタエオン号、トロール、奇妙な本、魔法のガラス文鎮、狼、そして敵。
本当に、この作品は地味だろうか?
よく考えると、そんなことはない。むしろ滋味だ。(爆)
内容の薄いファンタジーの五倍は、楽しめると思う。
ある書評では、この本をさして面白くもなさそうに紹介していたが、自分はその当人の小説より八倍は面白いと思った。(数字に根拠ナシ)
自分の感覚が一般よりズレているから、という可能性も高いが(^^;;
この本の売りは何か。
本物の魔法使いを書いている点にある。
リアルな魔法使い像。
古典的イメージを裏切らず、なお且つ迫真をもって描写する、その卓越した技。
オカルティックなことも、きちんと韻を踏んで(原典を踏まえて)使う、丁寧さ。
アイルランドを思わせるような厳しい描写も多々散見されるが、ベレアーズはアメリカの人らしい。
凄い。
そんなことはともかく、このような作品は僅少だと思う。
ただ一点欠点があるとすれば、原書にあったマリリン・フィッチェンの挿絵が挿入されていないところだ。
米田仁士のすっきりほんわかしたカバーイラストも好きだが、こちらも切実に見てみたかった。
洋書も欲しい。無念。
最後に、裏表紙に載っていた売り文句を引用。
この二百ページほどの短いファンタジー小説を、紅茶でも飲みながら心ゆくまで楽しんで欲しい。
「名高き老魔法使いプロスペロは、空気の中にただよっている漠然とした不安を感じとった。
何かが潜んでいる。憎しみに似た悪意のようなものが……。
やがてその重苦しい不安感は、確固たる恐怖に変じた――古びたマント、巨大な蛾や鳥がプロスペロを襲いだしたのだ!
あまつさえ、老魔法使いの家の周囲にはなにかしら不気味な人影がいくつも見え隠れしている。
はたして、こうした怪異は何を意味するのか?
プロスペロは、盟友のロジャー・ベーコンと連れ立って、事件究明に乗り出すが……。
ゴシック・ファンタジィの金字塔、遂に登場。」