さよなら日記


6月1日(木)晴

 鈴木、死ね!死んでしまえ!

 どうしてなんだ。俺がおまえに何かしたか?何か恨まれるような事でもしたのか?

 鈴木はいつも俺を見張っている。俺が失敗する時を待っている。俺のささいな失態をめざとく見つけては、待っていましたとばかりに声を大にしてクラス中に俺の恥を広める。それを聞いたクラスメイト達が爆笑するのを、鈴木は満足げに眺めている。いまいち皆へのウケが悪いと鈴木は悔しそうな顔をして、その怒りの矛先は俺に向かう。通りすがりに足を蹴ってきたり、脇腹に肘鉄をくらわせてきたりする。
 きっと、鈴木は俺をネタにクラスメイト達の笑いを取って、それで皆の注目を浴びたいんだな。目立ちたがりの器の小さい人間なんだ。かわいそうな奴だ。
 
 
6月2日(金)晴

 本当に鈴木は頭にくる。バカな人間は相手にしないほうがいいってわかっていてもこう毎日殴られたり悪口を言われたりすると、キレそうになる。
 今日も奴は朝から「臭い!畑中、臭いぞ!」を連発しながら俺の後をついてまわりおかげで他のクラスの連中からまでも笑われてしまった。
 おまえは小学生か!他の奴らも、鈴木の低レベルな嫌がらせ? (嫌がらせなのか?)に大はしゃぎするなんて、まったく子供だ。やってらんない。


6月7日(水)曇

 あいつは頭がおかしい。なんだって俺にしつこく突っかかってくるんだ。俺が嫌いなら放っておいてくれればいいのに。いくら低レベルでくだらない嫌がらせだって、こう毎日続けられると、嫌になってくる。鈴木さえいなければ、毎日がどんなに楽だろう。
 鈴木に、昨日お母さんに買ってもらったばっかりのジャンパーに油絵具をつけられた。くそ!くそ!!



6月9日(金)曇

 鈴木がまたろくでもない事を企んでいる。クラス中を巻き込んで、俺を無視する事にしたらしい。本当に浅はかで幼稚な男だ。


6月12日(月)雨

 中学校の時の親友の高橋君と会う。3冊小説を貸してもらう。
 高橋君は私立の高校に入学したが、まだ2ヶ月しかたっていないのに、もうクラスの中でイジメを受けているそうだ。「中学に戻りたいよ」と涙目になっていた。かわいそうだ。高橋君は、オタクっぽいからイジメの標的になりやすいのだろう。


6月13日(火)雨

 話し掛けても誰も返事をしない。鈴木の差し金だって事はわかっていても、かなり不愉快だ。休み時間、「美術の課題、いつまでだか知ってる?」と隣の席に溜まって喋ってた松沢達に訊ねたら、完全にシカトされた。「おい」と松沢の肩を掴むと、松沢の隣に立っていた林に教科書で横っ面を引っぱたかれた。なんなんだ。相手にするのもバカらしいから、黙ってた。鈴木が「林、その本消毒しといた方がいいぞ」言い松沢達は笑い転げていた。
 今日は修学旅行の班分けをした。嫌な予感が的中して、担任は「好きな人同士で班を組みなさい」と言った。今の状態で俺に声を掛ける奴なんていないのに。俺から誰かに声を掛けて班に入れてもらうなんて恥ずかしい事はできなかったので、皆がわいわいやっている中、一人で席に座っていた。案の定、俺は一人残る形になってしまい人数の少ない班に自動的に組み込まれる事になった。クラスで嫌われているオタクどもの寄せ集めの班だ。最悪だ。奴らはアニメや漫画の話をしては内輪で笑っていたりして気色悪い。


6月17日(土)晴

 鈴木は俺じゃなくて、オタクどもを相手にすればいいのに。
 鈴木も最悪だが、オタクどもも最悪だ。帰りのホームルームで、班ごとに修学旅行の打ち合わせをした。どいつもこいつも気持ち悪い奴らばかりだ。特に、班長の小川だ。妙にわざとらしい喋り方をする。どうもアニメのキャラクタ−のセリフを真似ているらしく、班の奴らは手を叩いて喜んでいた。バカじゃないの。そんなの知らねえよ。聞いているこっちが恥ずかしくなる。まわりから白い目で見られているのがわかっているのかね。奴らは。修学旅行の計画なんてそっちのけで、俺をのけ者にしてくだらない話で盛り上がりやがって。仕方がないから、俺が仕切ってやることにした。オタクどもに任せていたら、とんでもない修学旅行になるに違いないからな。
 取りあえず、今日は修学旅行の自由行動日の初日に回る場所を決めた。オタクどもは特に行きたい場所がないらしく、ほとんど全部俺が決めてやった。


6月23日(金)晴

 ふざけんな!オタク女の小川!
 なんとなく、一人で昼飯を食うのがつまんなかったから、ここ何日かオタクどもと一緒にメシを食っていた。修学旅行で一緒の班だしな。ところが今日、昼休みになったら、小川がやってきて、「今日から私達、他のクラスの友達と食べるから。ごめんね」とか言ってきやがった。なにが、「ごめんね」だ。ふざけるんじゃねえ。別に、こっちから昼飯食うグループにまぜてくれって頼んだわけじゃわけじゃねえんだよ。鈴木の野郎は「あいつらにまで見放されたのか。あぁ、かわいそうだねー」なんて抜かしやがるし。他の奴らも笑ってんじゃねえよ!バァカ!死ね!


7月4日(火)晴

俺のいったいどこが悪いっていうんだ。「暗い」「気持ち悪い」「デブ」、もしその全部に俺が当てはまるとしても、だからといって、それが殴る蹴るの暴行の理由になるのか?無視の理由になるのか?第一、俺はデブって程太っちゃいない。鶴野や松沢の方が、よっぽど太っているじゃないか。俺は、オタクではないし、意地も悪くない。周りの迷惑になるような事はしていない。なのになんで、皆、俺を嫌うんだ。鈴木のせいだ。鈴木が俺を目の敵にして嫌がらせをしているから、皆が俺を「いじめてもいい奴」だと思ってしまったんだ。鈴木にさえ目をつけられなければ、こんな屈辱的な目に会うこともなかったのに。
 このところ、クラスの奴らは面白がって俺をいじめている。そう、俺はいじめられているんだ。少し前までは「クラスに溶け込めない」だけだったのに。どうして俺がイジメに合うんだ。俺をいじめて何が楽しいんだ。みじめだ。俺より性格の悪い奴も、デブな奴も、バカな奴もいるのに、鈴木のせいで俺だけがいじめられている。


7月5日(水)晴

もう嫌だ。学校に行きたくない。
 足の指を切った。朝、登校して上履きを履いたら、靴のつま先にカッターの刃が刺してあった。親指に刃が突き刺さって、血がいっぱい出た。トイレに行ってハンカチを巻いて、教室に入ると皆が俺を見た。あからさまに俺の足元を見ている奴もいた。誰がやったんだ。鈴木かもしれないし、他の奴かもしれない。誰がやったかはわからないが、クラスの奴らのほとんど全員が知っていたのには違いない。皆、俺にどんな反応を期待しているんだろう。泣いて「もうやめてくれ。許してくれ」って言えば、満足するんだろうか。
 保健室には行かなかった。「靴の中にカッターの刃が入っていて」なんて言ったら俺がいじめられているのがバレてしまうじゃないか。


7月9日(月)曇

学校を休んだ。頭が痛かった。


7月11日(水)晴

体調が良くならないのに、親が学校に行けと言う。嫌なら病院に行けと言う。具合が悪いんだから、放っておけよ。


7月12日(木)晴

今日も学校を休んだ。
 お父さんが部屋に来て、「学校に行け!」と怒鳴った。お母さんは、「具合が悪いなら病院に行きなさい」と言った。お父さんと言い合いになって、売り言葉に買い言葉で病院に行くハメになった。お母さんがついてきた。病院の先生は「疲労でしょう」と言っていたが、「最近何か悩みはあるか?」と余計な事を聞いてきた。「今日はゆっくり休んで、明日は学校に行きましょうね」とお母さんが言った。まるで、俺が学校に行きたくなくてずる休みをしているような扱い方だった。病院の先生もお母さんも。


7月13日(金)晴

学校に行った。担任からは「体調管理をしっかりしろ」と言われただけだった。相変わらず、クラスメイト達は俺を無視したり嫌がらせをしてきたりする。俺が欠席をした事が、奴らを喜ばせたらしい。
 休み時間にトイレに行って戻ってくると、俺の机と椅子が一番後ろの廊下側に移動されていた。それに気が付いたとき、カーッと頭が熱くなったが、顔に出さないように努力して、何事もなかったかのように冷静を装って席に座った。俺が教室に戻ってきて、キョロキョロと自分の席を探している姿はさぞかし滑稽だったんだろうな!
 授業をしに来た教師達は俺の席が移動している事には気が付かなかったようだ。見て見ぬ振りか?


7月16日(月)雨

学校を休んだ。お母さんが「学校で何か嫌な事でもあったの?」と心配そうに訊ねてきた。ない、と答えた。頭が痛いと言って、一日中寝ていた。


7月17日(火)晴

お父さんに殴られた。「心配してやっているのに、なんだその態度は!」と怒鳴られて、張り飛ばされた。本棚にぶつかって、棚が外れた。お母さんは泣いていた。


7月18日(水)晴

もう、死んでしまいたい。
 今日学校に行ったら、鈴木が寄って来て「おまえ、いじめられているから学校に来たくないんだってなぁ」とヘラヘラ笑いながら大声で話し掛けてきた。クラス中、皆が俺を見ていた。どうやら、昨日の夜、うちのお母さんが小川の家に電話して「うちの息子、最近学校で何か悩み事があるのかしら?」と聞いたらしい。何て事をしてくれたんだ。小川も小川で、クラスの奴にベラベラ喋るんじゃねえよ!むかつくんだよ!恥ずかしいったらない。畜生!


7月19日(木)曇

どうしたら今の状況から抜け出せるんだろうか。自殺でもしてやろうか。俺に恥をかかせた奴らの名前を書いて、新聞社にでも送って、派手に飛び降り自殺でもしてやるか。
 それとも、鈴木やクラスの奴らを次々刃物で刺し殺してやろうか。皆がヒーヒー逃げ回るのを追い掛け回して、一人ずつメッタ刺しにしてやろうか。
 朝からこんな妄想ばかりしている。いやにリアルに細部まで想像してしまう。(例えば、俺が自殺して、クラスの奴らがそれを担任から聞かされた時の事とか。きっとみんな最初は黙りこくっていて、その後で「鈴木君が畑中君をいじめていたからじゃない?」って誰かが言い出して、鈴木が「おまえらだっていじめてたじゃんか!」ってあたふたと言い訳するんだよ。鈴木は皆から見捨てられて生贄の羊にされるんだ。「おまえがいじめたから畑中君は自殺してしまったんだ!」って責められて、白い目で見られて、鈴木の親とかも学校や警察に呼ばれて、鈴木の奴はきっと大泣きして謝るんだ)