不迷(まよわず)




この家の主夫、いや、元主夫・碇シンジは暇だった。


とてつもなく暇だった。


あの忌まわしき戦いから二ヶ月、アスカがシンジにその胸に秘めたる思いを伝える。


数ヵ月後にそれを知ったミサトは加持の所に転がり込み、シンジとアスカの二人暮しが始まった。


それからというもの、アスカは異常な速さで家事を覚え、初めはシンジと分担していた家事も

今ではアスカがすべてやる事になっていた。




「ふぅ・・・・・・。」




シンジは複雑な気持ちだった。自分の負担が減ったとはいえ、正直素直に喜べないのだ。


確かに楽になるのは良い。愛する人に家事をしてもらえるのは嬉しい。

しかし、エヴァにも乗らなくなり、家事もしなくなったシンジは今の自分で本当に良いのかと疑問を持ち始めた。




エヴァに乗らなくなった自分に何の価値がある?




この家で家事をしない自分に何の価値がある?




何処にでもいる普通の中学生の生活を歩みだした自分に何の価値がある?




何もしない平和な日常に住んでいる自分に何の価値がある?




以前、シンジはこのことをトウジとケンスケに相談した事があった。


そのときの彼らの答えは・・・




『惣流だって同じじゃないのか?』




だった。


しかし、シンジのネガティブな思考はそれを簡単に突き破る。




アスカからエヴァを取ったって、アスカにはまだ残るものがいっぱいある。




学歴がある。天才的な頭脳がある。あの容姿がある。




それに引き換え、僕には何がある?




家事だってもうアスカには敵わないし、僕には得意なものは何一つ無い。




シンジが悩んだ原因は結局家事をしていた事で誰かが自分を人間として見てくれたということだった。


でも、その家事すら、もうすることは無い。


そして、さらに恐ろしい思考がシンジの脳裏を走った。




アスカが、離れていく・・・。




現在、アスカは僕と一緒にいる。でも。




繋ぎとめているわけじゃない。このままでは。いつか。きっと離れていく・・・。




何も無い僕に。二度とアスカは振り向いてはくれないだろう。




・・・また僕は一人に戻る。でも、もしかしたら僕を想って人もいるかもしれない。




でも、そんな人は僕は要らない。アスカにいて欲しい。




お願いだよ、僕を・・・置いて・・・行かな・・・い・・・で・・・・・・・・・・・・・・・。







そのうち、シンジは居間で深い眠りに陥った。








夢の中・・・何も無い、空虚な空間。


まともな人間の居る所ではない。本当に、何も無い、完全なる無。


いや、唯一自分だけが居る。何も無いわけじゃない。


・・・・・・・・・孤独がある。


もう誰も自分を見てくれない。僕は一人だ。誰も居ないし何も無い。


でもわかってる・・・これは夢なんだ・・・でも、この空間は僕を示している・・・。


僕と同じで、何も無い。


・・・こんな時、彼女ならどうするだろうか。


いつも明るかった彼女なら・・・どうやってここを切り抜けるだろうか・・・。


このままだと、二度と夢から覚めない気がする・・・。




すると、夢の中に一人の少女が現れた。・・・アスカだ。




『何を悩んでいるの?何を迷ってるの?』




僕には・・・何も無いんだよ。この空間は今の僕自身だ。


もう、誰も僕を見てくれない。本当に、何も無い。




『・・・何も無いなら作ればいい。見てくれないなら見せればいい。』




・・・・・・・・・・・・え?




『アタシならそうする。』




君は・・・本当にアスカなの?




『・・・彼女なら間違いなくそうする。それが僕が今まで見てきた彼女の姿だ。』




そのアスカは何時の間にかシンジの姿になっていた。




『もう君・・・【僕】が悩む事は何も無い。【僕】である君はやりたい事をやればいい。


望んでいたじゃないか。普通の生活を。ようやく手に入れた幸せの切符・・・。


【僕】達が戦って・・・戦い抜いて手に入れた切符・・・今更何を悩む必要がある?』




・・・でも、誰もエヴァにも乗らず、家事もしない僕を見てはくれないよ・・・僕には何も残らない。


普通になんて・・・なりたい・・・。けど僕にはなれない。




『残らないならもう一度作り直せばいい。見てくれる人が居ないなら、その人を捜せばいい。』




捜せない・・・僕には・・・アスカが居てくれれば・・・それで・・・良いんだ。


アスカをずっと傍に置いておきたい。でも僕には何も無い。




『それでいい・・・やりたい事があるじゃないか。』




・・・僕のやりたい事・・・アスカと共に生きたい、普通の人間になりたい・・・。


こんな事でいいの?




『今の君が生きるには十分すぎる希望だよ。さあ、行くんだ。もう分かっただろ?』




君は・・・・・・・・・僕なの?




『・・・【僕】は僕で君も僕・・・』




『一つだけ言おう。・・・君に残っているものは・・・彼女がよく知っている・・・。』




『・・・君が、【僕】が再び煩うことがあれば・・・また会おう。』







目が覚めると、いつもの居間。何時の間にか毛布がかけられている。




「そんな所で寝てるとカゼ引くわよ。」


「ア・・・スカ・・・?」



シンジは、意を決してアスカに聞くことにした。



「ねえアスカ・・・。」


「何よ。」


「僕がエヴァに乗らなくなってから、家事もしなくなったし、

普通の人間としての生活を取り戻しつつあるよね。」


「そうね。」


「・・・でも、エヴァにも乗らない、家事もしない僕に、残ったものはあるのかな?」


「・・・あるわよ。いっぱい。」


「・・・何?」



シンジは息を止めてアスカの答えを待った。


「命と・・・心と・・・優しさね。」


「ははは・・・僕にも・・・在ったんだ。」


「・・・シンジ。」


「何?」


「・・・見つからないなら捜せばいいし、何も無いなら作れば良いわ。

捜して・・・いっぱい捜して・・・シンジを見つけて・・・アタシはここにいるの。」


「そう・・・だね。」




その日からシンジは少し変わった。


出来るだけ、前向きに生きよう決めたから。


前以上に優しくなり、精神面で雄々しくもなった。


『もう、迷わない・・・。』


END




ど〜も、初投稿の特装検事AAです。
今回はうちのHPのキリ番GETされたKENさんにリクエストされて投稿したものです。
テスト挟んだ事もあり、ちょっと(?)遅れてしまいました。
たっぷり期間はあった筈なのにこんなにワケ分からんものを書いてしまって・・・申し訳ないです。
てゆーかLASじゃ無いような気が・・・(==;)
俺の作風じゃねえよコレ(^^;)

ホントーに申し訳ないです。では!(^^;)/


特装検事AAさんから初投稿作品をいただきました
このお話は、そうですね〜多分原作でも思っていた事でしょう
自分が持っていることをすべてなくなってしまったら、
やはりシンくんのように落ち込んでしまうでしょう

すばらしいお話を書いてくれた特装検事AAさんに感想を出しましょう!
感想はこちら!