Chrstmas!

4th

 

By Robee


 

 

 

 翌日、学校は平穏な朝を手にいれた。

 大きな驚愕とともに。

 

 

 「おはよう、ヒカリ」

 「おはよう、洞木さん」

 

 

 「………へ?」

 

 

 シンジとアスカのなんでもない、普通の挨拶に、目が点になるヒカリ。

 よく見ると、教室にいる者すべてがヒカリと同じ状態になっている。

 

 

 「なんなのよぉ………」

 

 その反応が面白くないアスカは顔をしかめる。

 シンジはシンジで、周囲の反応に戸惑っているようである。

 

 

 しかし、周囲がこのような反応を見せるのには訳がある。

 

 この2人が並んで、しかも笑顔で登校してくることなど、いまだかつてなかったことなのである。

 いつも機嫌の悪そうなアスカがまず入ってきて、遅れてシンジが入ってくるという構図ができていた。

 シンジの機嫌は、アスカと同じく悪いときもあれば、申し訳なさそうにしていることもあった。

 シンジの片頬が赤く染まっていたことも多々あった。

 

 さらに、昨日までケンカしていて、口すら聞かない状態だったのだ。

 

 

 だからヒカリをはじめとするクラスの面々が驚くのも、当然のことなのである。

 

 

 「なんか悪いものでも食べたのかも」

 「ネルフの実験で、性格転換したのかも」

 「いや、きっとアスカの影武者よ!!」

 

 口々に勝手な憶測が飛び交う。

 そして、クラスの面々視線がヒカリに集まり始める。

 その視線は語っている。

 

 『事実を確認して来い!!』と。

 

 

 その視線に耐えることの出来なくなったヒカリは、自分の興味も手伝って恐る恐るながらアスカの机に向かう。

 

 

 「どうしたの、アスカ?」

 「ん、なにが?」

 「碇君と並んでくるなんて珍しいじゃない」

 「別になにもないわよ。ただ、ケンカしなかっただけ」

 

 

 それが異常なんだけど………

 

 ヒカリとアスカの会話に耳を傾けていた全員が思ったことだった。

 1人として声に出すことはなかったが。

 

 

 「お〜い、席に着け。HR始めるぞ」

 

 

 そこに丁度よく担任が入ってきたことにより、この話は打ち切られた。

 

 

 

 

 

 昼休み。

 

 

 「はい、アスカ。お弁当」

 

 

 シンジが手作りの弁当を手渡す。

 バイトを始めて、夕食を用意することはなくなったが、それでも朝と昼はシンジが作っている。

 シンジ曰く、「これ位はやらなくちゃ悪いよ」ということらしい。

 アスカが朝に弱いことも大いに関係しているのだが。

 こういったところは、いかにもシンジらしい。

 

 

 その光景を、クラスの面々は固唾を飲んでみていた。

 いつもなら、チャイムと同時に購買へと駆け出す生徒も今日は教室に残って視線を2人に向けている。

 

 この後のアスカの動きを見逃さないために。

 

 

 クラス全員の期待はここまでことごとく裏切られてきた。

 アスカがシンジに難癖をつけ、文句を言うシンジに対し、平手をお見舞いするという光景が毎日午前に1回は必ずあった。

 しかし、名物ともいえるそれが、今日はまだ起こっていない。

 なにより、アスカの難癖自体がまだ起こっていないのだ。

 

 

 したがって、クラス中が『今度こそは!!』という思いで2人を見つめる。

 すでに、アスカ変化の原因を突き止めるという目的は忘却の彼方である。

 だが、クラスの期待に女神は微笑まなかった。

 

 

 「ありがとう、シンジ」

 

 

 アスカが『ありがとう』といった。

 

 その瞬間、クラスに衝撃が走った。

 信じられないといった顔をするものから、「偽者だ偽者だ……」と呟くもの等、様々な反応を見せる。

 なかには、どこで知ったのか、「逃げちゃダメだ」と連呼する者までいた。

 

 

 いままで、アスカが『ありがとう』と言うことはほとんどなかった。

 親友であるヒカリでさえ、聞いた回数を数えられる程だ。

 まして、他のクラスメートに言ったことなど一度もなかった。

 

 

 そんなアスカが『ありがとう』と言ったのだ。

 

 

 驚いたのはシンジも同じだった。

 シンジ自身、アスカに『ありがとう』と言われたのは初めてだった。

 

 「どうしたのよ?」

 

 アスカの弁当箱を手に固まっていたシンジは、アスカの声で我に帰る。

 

 「あ、ああ、ゴメン。じゃあ、これ」

 

 しどろもどろになりながら弁当を渡すと、未だ呆然としているトウジとケンスケのもとに走り去っていった。

 

 アスカは駆けて行くシンジを、楽しそうに微笑むだけだった。

 

 

 これを見ていた生徒達がますます混乱に陥ったのはいうまでもない。

 

 

 

 

 放課後。

 

 いつもの学業から解放された後の、清々しい表情を見せる生徒はいなかった。

 皆、一様に疲れた顔を見せている。

 決して午後の授業がいつもより辛かったのではない。

 ある意味では、そうなのかもしれないが。

 

 

 疲労の原因を一手に担う2人はいたってマイペースだった。

 シンジはさっさと荷物を纏めると、アスカに声をかける。

 

 「それじゃ、アスカ。今日も遅くなると思うから」

 「そう、でもあんまり遅くなんじゃないわよ」

 

 アスカの言葉に笑顔を見せ、教室を後にするシンジ。

 対するアスカも昨日までの険しい顔とは違い、とても優しい顔をしていた。

 

 

 状況が状況なら、新婚夫婦の会話とも取れる2人の会話を聞いていたクラスメート達。

 彼らの、教室に残るアスカを見る眼は、昼ごろまでの驚きを隠せないそれとは明らかに違っていた。

 

 

 どこか慈愛に満ちているような、温かなものになっていた。

 

 

 アスカが素直な態度をとる理由、それに気づいたから。

 アスカの、シンジを見る眼に宿る、柔らかい感情に気づいたから。

 自分達もそんなに遠くない過去に、経験したことのある感情に。

 

 

 そのなかでも、ヒカリは特に嬉しそうにしていた。

 ずっと見てきた、それこそ自分のことのように心配していた、親友の恋。

 それがいま大きく前進しようとしているのだ。

 

 

 ヒカリはアスカに近寄り、一言だけいう。

 その一言に、詰めきれないほどの想いを込めて。

 

 「アスカ………よかったわね」

 「うん………」

 

 振り返って、返事をするアスカの表情。

 それは、親友のヒカリでも今まで見た事がないほど柔らかい顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アスカが素直になって、周囲が温かい眼を向けるようになって、数日が過ぎた。

 

 この数日間、アスカは幸せを感じていた。

 素直な言葉や態度が、いままでの自分じゃ信じられないほどに簡単にでてくる。

 素直になったことで、つまらないケンカすることもなく、自己嫌悪に陥ることもない。

 なにより、シンジの前で素直でいられる事が、とても嬉しく、心地よかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神という存在が、本当にあるならば。

 それは決して善良な存在ではないだろう。

 

 ずっと苦しんで、苦しんで、ようやく手に入れた

 小さな少女の小さな幸せさえも

 いとも簡単に壊してしまうのだから………

 完成間近の砂山を、踏み潰すような行為を平気でするのだから………

 

 

 

 

 

 

 幸せの終わる日。

 

 その日もシンジはバイトだった。

 バイトの為、慌てて教室から出て行くシンジを、笑顔で見送ったアスカ。

 

 「さてと………」

 

 シンジが出てから5分ほど経った後、アスカも席を立つ。

 そこへヒカリが声をかけてくる。

 

 「アスカ、帰りましょ?」

 

 おそらく自分が席を立つのを待っていたのだろう。

 そんな親友の心遣いに感謝しつつも、目の前で手を合わせる。

 

 「ゴメン、ヒカリ!きょう寄るとこあるから………」

 「そう………しょうがないわね。それじゃ、また明日ね、アスカ」

 

 散々待たせた挙句、断ったにもかかわらず、文句のひとつも言わずに帰っていくヒカリ。

 自分だったら、きっと不機嫌な顔をして、文句を言ってしまうだろう。

 

 「大人よね………ホント、鈴原にはもったいないわ」

 

 再度、教室のドアの方を見て呟いた。

 

 

 

 

 ヒカリの誘いを断ったアスカは商店街に来ていた。

 どこを見てもクリスマス一色になっている。

 

 そんな中を、ショーウィンドウの展示物を眺めながら歩いている。

 立ち止まっては見入り、また立ち止まっては見入りしている。

 

 

 ある店の前で、アスカの足がふと止まる。

 そこに展示されていたもの、それは純白のウェディングドレスだった。

 

 「綺麗………」

 

 吸い込まれるように、ドレスに目を奪われるアスカ。

 

 

 自分がこれを着るときのことを想像する。

 その時に自分の隣で微笑んでいてくれる人のことを………

 

 

 その顔を思い浮かべた途端、本来の目的を思い出す。

 

 「いけないいけない。今日は用事があるんだった」

 

 アスカが商店街に来た目的。

 それはシンジへのプレゼントを選ぶためだった。

 

 

 本当なら手作りのセーターなりマフラーなりを編んで贈りたかった。

 しかし、それには時間も経験も全く足りていない。

 そのため、仕方なく既製品を贈ることにした。

 

 「見てなさいよ、来年は絶対に挑戦するんだから」

 

 ふと見えた毛糸屋の方を見て呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 「あ、なかなかいいわね。でも、あっちもいいな」

 

 お目当ての店に着いたアスカは、早速シンジに似合いそうなものを探し始める。

 アスカの入った店は、アンティーク調のアクセサリーショップだった。

 店内にはアスカと同じ目的なのであろう、多くの女性がいた。

 

 

 自分と同じように商品を手に取る女性達を見て、自然に笑みがこぼれる。

 

 

 不思議なものよね………

 まさか、私が普通の女の子と同じようなことをするようになるなんてね………

 その相手がシンジだっていうんだから………

 ホント、あの頃には想像できなかったわ………

 

 

 眼を閉じて、思い出す………

 自分のことしか考えられなかったあの頃のことを………

 だれも他人を構う余裕なんてなかったあの頃のことを………

 傷つけあうことでしか、お互いを主張できなかったあの頃のことを………

 

 

 ゆっくりと眼を開く。

 

 「さて、あいつが泣いて喜ぶようなものでも探しますか!」

 

 

 

 

 

 

 

 アスカは幸せだった………

 好きな人のことを想い、なにかをする………

 こんな他愛もないことが………

 他愛もないことを、自分が出来るということが………

 

 

 

 巡りあわせ………

 

 彼女が碇シンジと出会ったことをこう呼ぶのなら

 これから彼女が見る光景も、巡りあわせというのだろうか………

 

 

 

 

 幸せが終わるとき。

 

 

 「これ………」

 

 アスカが手にしたのは、ネックレスだった。

 トップに2つの流れ星が、寄り添うように付いている。

 

 「うん、これがいい」

 

 2つの星を自分とシンジに重ねたのだろうか。

 男がつけるには、少し可愛い過ぎるそれをプレゼントに決めるアスカ。

 

 

 カウンターにそれを持っていこうと、顔を上げるアスカ。

 

 

 それが蜃気楼が消える合図だった………

 

 

 『幸せ』という名の蜃気楼が消える………

 

 

 なにが悪かったのか………

 ネックレスのあった棚から、ちょうど外がよく見えることだろうか………

 アスカがネックレスを見つけたタイミングだろうか………

 

 

 

 

 「うそ………」

 

 

 アスカは見てしまった………

 幸せを壊してしまう光景を………

 

 

 

 

 

 シンジが女性と並んで歩いている光景を………

 

 

 

 

 

 「なんで………シンジ、なんで………」

 

 

 なんでここにいるの?

 なんでそんなに楽しそうなの?

 

 

 ダレニワライカケテイルノ?

 

 

 

 

 

 

 カタン………

 

 

 アスカの手のなかのネックレスが抜け落ちる………

 流れ星が流れていく………

 幸せを流していく………

 

 

 

 

 空は暗く重く………雪が降りそうだった。

 

 

 

 


 こんにちは、Robeeです。

 NOBさんの後書きにもありますよう、この話の前半部分はyutakaさんの担当でした。

 しかし、yutakaさんがどうしても都合がつかないということで、私が担当することになったことをご了承ください。

 というわけで、私が書いたわけですが………

 う〜ん、ちょっと場面の転換がちょっと強引だったかな。

 そこのところは目を瞑って下さると嬉しいです(^^;;;

 さて、次回は悠蔵さんです。

 大分間隔があいてしまいましたが(実はNOBさんが書き上げてから1週間以上たっています)

 悠蔵さん、続きをよろしくお願いします。

 それでは、この辺で。