
「で、ギター弾けるようなったんか?」 教室に入ったとたん、トウジは目を輝かせて聞いてきた。 「そんなぁ、まだ一日しか経ってないんだよ。弾けるわけ無いじゃないか」 「そ、そやな。あぁ、そやそや。昨日始めたんやったな」 そんな事を呟きながら、酔っ払ったように千鳥足で自分の教室へと向かっていくトウジを見て、シンジは何か悪い事したのだろうか?と小さな罪悪感に犯された。 「あんまり気にすんなよ」 そんな矢先、救いの女神のように後ろからケンスケが現れた。 「トウジ、どうしたのかなぁ」 気にするなと言われて突然気にならなくなるわけがない。 「トウジさ、バンドに憧れてるんだ」 「ば、バンドぉ?」 「そ、バンド。だからシンジがギター出来るようになったら、自分も何か楽器でもやろうと思ってるんじゃないかなぁ?」 「僕が出来るようになってから始めたんじゃ、駄目だと思うけどなぁ。どうせなら今から始めて一緒に練習できれば良いのに・・・」 「楽器ってのは高いからな、思いついてすぐって訳には行かないのよ」 「そ、そっかぁ」 楽器は高い。ケンスケの発言を聞いて改めてゲンドウの有り難味に気が付いたシンジだった。 |
「でも、ギターってもっとこう、テレビの砂嵐が混じったような音がして多様な気がするんだけど・・・」 「流石我が息子、良くそこに気が付いた」 ここはゲンドウの部屋。玄関前でシンジを待ち伏せしていたゲンドウによって半ば強引に部屋へと運ばれたシンジは、父の何でもいいから質問してみなさいと言いたげなかおに、取り合えずギターの音についての質問をしてみた。 「ギターだけではあそこまでジャリジャリした音は出ない。ではどうやって出すのか?それはこのエフェクターと言うものを使うのだ!」 そう言ってゲンドウが前に突き出したものは、摘みの付いた鉄の塊だった。 「えふぇくたぁー?」 「そう、簡単に言えば音を変える機械だ。そして、音を変えるのにも色々とあってな。これはギターとは切っても切れない縁と言われる、歪み(ひずみ)系のエフェクターだ」 「歪み・・・?」 「歪みとはさっき言った様なノイズが混じったような音の事だ。大抵の曲は少なからずこの歪み系のエフェクターを使っている」 「へぇ、だからあんな音がするのかぁ〜。知らなかったなぁ」 シンジは心底感心した様子で、ゲンドウが出したエフェクターをじっくり見回した。 「そしてそれは、あまり音を歪ませる事は出来ないが、大抵の曲に使われるオーバードライブだ。その他には、オーバードライブよりも少し強めのクランチ、更に強いディストーション、最も強く歪ませるファズがある」 「へぇ〜、そんなに種類があるんだ」 「更にそれを作った会社によって、それぞれ微妙に音が違うのも選ぶ時には考えた方がいい」 「ファズを使用した場合、しっかりと弾く事が出来ないと何を弾いているのかサッパリ分からなくなってしまうからな」 「では、早速繋いで弾いてみよう」 ゲンドウはそういうと、ギターのジャックから出ているシールドをエフェクターのインプットジャックに突き刺した。そして逆の方についているアウトプットジャックからシールドを伸ばしアンプへと持っていった。 「ちなみに、このコンパクトエフェクターは横繋ぎに何個でもつける事が可能だ。まぁ、そんな事をするのは金持ちぐらいだがな。大抵は色々なエフェクターが一体になったマルチエフェクターを使う。こっちに方がお買い得だ。ただし、微妙な音の調節が出来ないのが難点ではあるな」 「金持ちくらいって、この小さいエフェクターはいくらするの?」 「大体8000円からしかないな。大半は10000円を越すがな」 ゲンドウのそっけない言葉を聞いて、そのエフェクターを丁寧に扱うようになったのは言うまでも無い。 「よし、これで準備完了だ。早速鳴らしてみよう」 ジャーン、とよくテレビの音楽番組や、好きなアーティストのCDから聞こえてくるような音が聞こえてきた。正しく、これがシンジにとってのギターの音その物だった。 「ふっ、私のギターもまだまだ現役だな」 シンジにはよく分からない事を口走り、ジャカジャカと景気よくギターを掻き鳴らした。 「ね、ねぇ、僕にも弾かせてよ」 その音に、思わずシンジも惹かれその弾きたいと言う願望をゲンドウに向かってぶつけてみた。 「ふっ、お前には荷が重い」 何を言っているのかサッパリだったが、弾けないと分かるとシンジは足早にその部屋を後にした。 |
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| その日、シンジが居たのは本屋だった。読んでいるのは勿論、楽器のカタログ。あれ以来ギターを占領して離そうとしないゲンドウに嫌気を差し、自分で購入しようと決めたのだった。 「しかし、、、」 どれも見回しても高い。特にシンジ自身、これが良いと思った物の値段を見ると5万は越えている。とても中学2年の少年がポンと出せる金額ではない。 「父さんは当てにならないし・・・」 ゲンドウの事だ、また訳の分からない事を言ってシンジが自分のギターを買う事を阻止しようとするだろう。 「貯金を下ろすか・・・」 しかし、自分の貯金通帳を握っているのは、母ユイだった。とても簡単に下ろす事は出来そうに無かった。ケンスケの言葉の意味が、漸く分かったような気がする瞬間でもあった。 「お、シンジやないか!」 声をかけたのはトウジだった。その隣にはケンスケの顔も覗けた。 「センセも品定め中でっか?」 「うん。そんな所かな」 「で良いのはあったか?」 「うん、良いのはあるんだけど」 「高い、か?」 「うん・・・」 「最初は2万位のにしたほうが良いぞ。いきなり高いのかって、壊したりしたらショックだからな。全然聞いた事がないようなメーカーのギターは大抵そのくらいの値段で売ってるから」 「そうだね、それが良いかもね。ところで2人は何しにきたの?」 「俺らも品定めさ」 「そや」 そう言うとシンジが持っているのと同じ雑誌を手に取りパラパラと捲り出した。 「ワイはドラムやろおもっとるんや!あれ、体力要りそうやろ。ワイにピッタリや!」 「俺はベース。ベースだけじゃ何にも出来ないけど・・・」 「それって・・・?」 「そ、3人でバンドやろうや!」 「う、うん!」 改めて3馬鹿トリオのアホ見たく固い友情を確かめ合った3人だった。 |
To be
continued.
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