
何処までも澄み渡る蒼い空…。
雲はあても無く何時までも流れいてた…。
誰も居なくなってしまった世界で生きる二人にとって
景色を眺めることは数少ない唯一の楽しみかもしれない…。
あの何もかもが狂った戦いから解き放たれた二人は、
自然と笑みを零しながらその空を見つめていた。
気持ち良さそうに空を飛ぶ鳥達…
そんな小さな存在を見つめていると自然と元気が湧いてくる…。
普段より涼しくなった風が二人を癒す様に包み込む。
サードインパクトが起こり地球の地軸がもとに戻ったのか?
それを知る手立てなど二人にはまだ何も無かった………。
THE END OF
EVANGELION
絶望から始まるこの世界。
そんな終わりの世界で見つけた
想い
第8話
―自然の脅威―
霧が辺りを支配する…
空は藍色へ…もうすぐ朝が訪れるのだろう…。
何処かで鳥が懐かしさを思い出させる様な鳴き声で
この山全部を可愛らしい声で包み込む…。
「ぐー…ぐー…」
「すー…すー…」
辺りに咲き誇る草花達は朝露の雫を自らに取り込み、
生命の営みを全うしていた…。
そんな中、昨晩ゴミ缶で燃やしていた木々は小さな火がチロチロ…。
今にも消え入りそうだ……。
ザァァァーー…あたかもまだ自分達はあの赤い海に居るのだろうか?
そんな思いを胸に抱き、眠りの世界から眼を覚ます少女…。
「……ふ…ぁ〜〜〜ああ…風の音か…」
欠伸を漏らし、眠そうに外を見つめる…。
風の所為で遠くの山の木は今にも折れそうな勢いだ。
「…ん…?」
気が付くと自分の胸の辺りに重量感を感じる…。
よく見ると昨日風邪をこじらせ、う〜んう〜んと苦しんでいた
少年が自分の胸に背を預け、眠っていた…。
「ふ、シンジったら…グーグー寝て…昨日は相当しんどかったのね」
少女は胸の辺りで眠るシンジを別段不機嫌な表情で見ず、
何となくな表情でこの少年を見つめる。
少し重いが此処は我慢時だ…。
少女は傍らにある木々を一掴み取り、それをゴミ缶へと
ポイッと、投げ入れる……。
チロチロ燃える火でもゴミ缶の中は相当な温度…
暫くするとパチパチッと、音が響き火が燃え上がった…。
「……ん〜…」
寝返りを打つシンジ……。
モゾモゾするシンジにアスカはこそばゆいのか?「ククッ」と、
笑いを漏らしそれに耐える……。
「…ククッ…何よ?こいつ〜…人が優しくしてあげりゃ〜こんな事してぇ」
そんなの不可抗力だ…シンジがもし起きていたらまずこう言うだろう…。
いや起きていたら、そんな言い訳出来ない……。
それにしても寝返りが多い…そろそろ起きるのだろうか?
「……ん…」
「…あ……!?」
寝ぼけているのかシンジはアスカの背中に手を回すと
力無く抱きしめてきた……。
勿論アスカは驚きと恥ずかしさで頭の中は一杯…。
「ヤバイ…これヤバイわよぉ〜…」
どうにかしてシンジを離れさそうとしてアスカはグイグイシンジの
腕を振り解こうとする…。
だが力無く自分を抱きしめているシンジ……
無邪気に自分を抱きしめているシンジ……
考えてみれば別に
Hな事を考えて自分に抱きついてきているのではない…アスカはヤレヤレな表情と恥ずかしそうな表情でシンジから
霧が立ち込める崖の向こうに視線を移した…。
「……さっさと起きなさいよね…」
と、アスカはプラグスーツの手首辺りに付いているモニターを見る…。
時刻は朝五時…やはり昨日寝るのが早かったのだろう…。
そんな事を思いながらもそろそろプラグスーツの電池が切れそうだ…。
アスカは残り僅かな電力をシンジと別れたあの時に
生命維持装置を最小限に抑え、こう言った生活に必要な時計だけの為に
電力を使っていた……。
霧が立ち込める空間は夏でも肌寒い…だが身を寄せ合う二人は
寒さよりも暖かさが勝り、居心地良さそうだ…特にシンジは。
「ん……?…え、まだ夜?」
アスカが風景を眺めていた時、漸く眠りから覚めたシンジは
外が薄暗い事に驚き、間抜けな声で呟いたのだった。
「…ば〜か、もう朝よ。…おはよシンジ」
見上げればアスカの顔がどアップで…。
しかもほっぺた辺りに何やら柔らかい、暖かい物体が…。
更に自分の腕がアスカの背中に…。
自分は一体どう言う寝相で眠っていたのか?
そんな事を思いながらもシンジは…。
「はわわぁぁっ!!ご、ごめんっ!」
結局こう言う風にアスカに謝り、飛び起きる…。
だがシンジは忘れていた…自分の背後にはあの灼熱のゴミ缶があることに…。
「あっ!バカッ危ないわよっ」
シンジがアスカから一瞬離れた。…が、アスカがそれを上回る様な
動きでシンジの腕を引っ張り自分へと寄せる…。
結果シンジはまたアスカの胸元辺りへ沈没……。
「むがっ!?アスカッ?!」
まさかも何も…一体何をするのっ?!と、言いたげなシンジ。
アスカは少し冷や汗を感じながらも…。
「や、やぁね〜…あんた後ろ見てみなさいよ」
言われてシンジはゆっくり後ろへと振り向く…。
「あ…」
そこにはパチパチと真っ赤な炎が勢いよく燃えていた…。
シンジは目覚めたばかりで何が何だか解からない…否、
解かる事は頭に感じるアスカの胸の感触…だけ…。
「でしょ?あんたリアクションが大袈裟なのよ。…少しは落ち着きなさい」
そんな事を言うアスカも心の中の動揺は隠せない…。
頬が少し朱に染まり、眼も何処か宙を見つめたり見ないだりの繰り返し。
アスカにもたれながら…シンジにもたれられながら…
二人は動く事も出来ずに、暫くボーっと、していた…。
どうやら二人して頭の神経接続がカットされたようだ…。
「……アスカぁ風邪下がったかな?…なんだか熱くてよく解からないよ」
シンジが自分の額に手を添え自分の体温を感じ取ろうとする。が、
あんな事やこんな事で身体全体が火照ってよく解からない…。
「……ぁあ?あ、うん……そうね。よっと」
アスカは自分の胸元にもたれるシンジの額に手を添える…
言うまでもないが、もう寝ぼけても居ないのにこの体勢…。
「……お、シンジ…微熱になったじゃないっ」
「本当?……よかった。……と、何時までもこんな体勢だったら駄目だ」
立ち上がるシンジ…若干の筋肉痛は残るが完全回復のシンジ。
バス停の外に出て、一つ大きく伸びをするとそれ相応に大きな欠伸…。
眼を擦り、辺りの風景を暫く楽しむ……耳をあらゆる場所に気配ると、
何処かで『クゥ――ゥ』と、可愛い鳥の甲高い鳴き声が聞こえる…。
「鳥が可愛く鳴いてる……よ…アスカ」
「ん?そうね。さっきからよ。……なんか神秘的よね〜。
癒し系の音楽みたいっ」
カツンっ…アスカが杖を突きながらシンジの隣に立つ。
「大丈夫?アスカ」
「いたたたたた……足が少し痛い。…でも大丈夫っ」
少し苦痛に歪む顔をすぐに平常時の、何時もの表情に戻る。
シンジはアスカを心配しながらも、顔には出さずに心と素振りで
心配する…。もし、顔に出たらまた怒鳴られるからだ…。
霧がバス停・色々な場所に朝露を作り、
時折ポタポタと雫が零れ落ちる音が聞こえてくる…。
「やっぱまだ朝の五時だからちょっと寒いわねぇ」
片手だけを腰に当て、威張りんぼポーズを取るアスカ。
そんなアスカがキレイでカッコよく見えるもんだからシンジは
少し赤面……。
自分より五体満足じゃないのにめげないアスカ…。
昨日の晩も思ったが本当にアスカは強いな…。と、思うシンジだった。
「…あ、そう言えば…」
シンジが少し歩き出す…。
「ん?どうしたのシンジ?…あ、ちょっと、何処行くのよっ?」
突然歩き出すシンジにアスカは「何だろう」と、言った表情で
杖をカツカツ言わせながらシンジの後をついて行く。
シンジが立ち止まった。……アスカは漸くシンジの隣にやってくると
少し息を荒げながらシンジを見つめた…。
シンジがアスカを見る…。
どうやら先々歩いていた事に気が付いたシンジは
アスカを待っていたのだ…。
そしてアスカが隣に来るとシンジはアスカの前にしゃがみこむ。
「…昨日、階段を見たよね」
「…んしょっと。…そうね。もうちょっとあっちよ。木が邪魔で
こっちから見えないわ」
シンジはアスカに導かれるまま歩いていった。
…枯れ葉が舞う…。
風が凄い音を放ちながら吹いてくる…。
アスカは片手で髪の毛を抑えながら、
もう一つの片手はシンジの首に回されている…。
「…この階段がどうしたの?シンジ」
「うん、この上は何があるのかな?って、思って」
上を見上げれば何処まで続いてるの?っと、
突っ込みを入れたくなるような長さの階段…百段はありそうだ。
その時、階段の頂上を見上げながらもアスカは
木々と木々の間から見える雲の流れが少し気になった。
「気になるなら登ってみたら?」
「うん、多分上にあるのは小さなお寺だろうね…」
言いながらシンジは最初の一段を踏みしめた…。
一歩一歩踏みしめながら思う…何を朝っぱらから探検をしているのだろう。と。
そこは両脇に石の手すりがゴツンと頂上まで伸びている…
少し急な階段にはありがたい代物だ…もし自分が何かの拍子で動き、
それにシンジが驚きよろめいたら真っ先に地上へと落ちるのはこの自分だ。
しかし此処はシンジを信じて、アスカは黙ってシンジが
階段を上る事に邪魔をせず見守っていた……。
でも
「落ちないでよ」
「わ、わかってるよぉ」
長い長い階段を上り、時折灯篭が両脇に存在し
中で小さな豆電球が妖しく光っていた…。
シンジは慎重に階段を上がって行き、やっとの思いで
最後の一段を踏みしめた……。
「「…うわ〜」」
同時に「うわ〜」と、言う。……それも仕方が無いだろう…。
そこは綺麗な白い小粒の石が辺りを埋め尽くし雑草も無く、
結構広々とした空間があった…。
「……凄い…こんなお寺見た事無いよ…」
「私も初めて見るけど…なんか神々しいって言う言葉が似合うわね」
寺はお世辞にも凄く綺麗じゃないのだが、それを補うために
地面を覆う白い石……そして灯篭が綺麗に設置され、
本当に神々しかった……。
「あ、お寺の奥に家がある……よね?アスカ」
「…ん〜…あ、ほんと…」
シンジがアスカをおぶさり直すと、また歩き出す…。
お寺の脇を通り抜けシンジ達は古びた一階建ての家の前までやってきた。
一応ガラスも割れておらず、生活感が漂っていた…。
「…この家の人も
LCLになっちゃたのかしら…」「…うん……そうとしか考えられないよ」
シンジは罪悪感を感じながらも生きる糧を探す為にドアノブを捻る…。
流石に湿気が漂っているのか?ドアはギギギッと不気味な音を放ちながら
静かにシンジの力で開かれていった………。
「あっ、
LCL…だ」「……噂をすればなんとやらね。……シンジ…何か使えそうなもの探しましょっ」
アスカが適当に奥にある部屋を指差す…。
二人は昨日、この山を登る時に立ち寄ったデパートで
沢山の人の抜け殻である
LCLをその眼にやきつけてきた。流石に『慣れ』と言うものが出てきていた……。
「……うん。…勝手に家の中を漁ってごめんなさい…」
外から見たときも古びた感じはしていたが、
中に入ってみるともっと古びた雰囲気が漂う…。
「……ギシギシいうわね…」
「……結構昔から建ってたんじゃないかな…?」
そりゃ二人分の重さに、床は悲鳴を上げるだろう……。
薄暗い廊下を歩いていると二人の目に
広い居間が見えてきた…。
「…畳の匂いがする…」
その場の感想を一口に述べるアスカ…。
「…じゃぁさ、アスカ此処で休んで待っててよ。使えるもの探してくる」
背中に乗っけてるアスカを座布団の上に座らせるとシンジは
何処かへ歩いていった……。
「気をつけんのよ」
「はは、大丈夫だよ」
「………」
アスカは思う……シンジも思っているだろう…。
こんな雨風凌げる場所があるんだったら、
昨夜此処で寝泊りしとけりゃよかったと……。
今居る居間は広々としており、
お膳が一つ、テレビが一つ…何処か自分達が帰ろうとしている
ミサトのマンションにダブってしまう……。
「……後何日で帰れるんだろう?」
寝起きの為、身体がダルイ…。
アスカはお膳にバタッとくず折れるとそのまま伸びを
一つ……。
耳を澄ませばシンジが何処かを漁っている音が聞こえる。
時折物凄い音が聞こえてくるがアスカは動じずに、
今の体勢を維持する………。
しかし…
「あ、お風呂だ…」
遠くに居るはずなのにシンジの声が耳元で聞こえる。
アスカはガバッと起き上がると、静かに立ち上がりシンジの居る場所へと向かう。
「あ、アスカ、どうしたの?」
押入れの中を調べていると、背後にアスカの
気配があるものだからシンジは振り返る。
「…お風呂何処?」
…あ、お風呂に入りたいんだ…。と、思いながらもシンジは、
先ほど見つけた脱衣所にアスカを案内していく……。
「…あ、結構綺麗じゃない…」
「そうだよ。このお風呂、ひのきだからね」
アスカは試しにお湯の蛇口を捻る…。
そこからは数十秒後に暖かいお湯が出てきた…。
「ほっ、よかった…。と、言うことで私お風呂入るから」
「え?…あ、うん」
シンジは言われてすぐ脱衣所を出て行く…。
「…あ、シンジっ」
「へ?どうしたのアスカ?」
振り返るとアスカがふつ〜の顔をしながら自分を見つめていた。
「二人で15分ずつ……三十分後にこの家でましょ」
「うん、僕も後で入らせてもらうよ」
と、シンジには驚くほどの速さでお風呂を済ますことを宣言したアスカ。
まぁ、こんな所で泡食って居てもしょうがない…。
シンジはアスカが出てくるまでに何かサイズが合う服とか、怪我した時の為にと、
市販で売られているような薬とか、傷薬を探し出す……。
なんだか人の家へ勝手に入り、そしてずうずうしく戸棚まで
開けたり閉めたり…。
泥棒みたいな事をしながらもシンジは今は居ない住民に
詫びを言いながら色々な所を漁っていった……。
「…これは生きる為に。……許してください」
と、シンジは戸棚の中を漁る……。
戸棚の中は金品とか宝くじの束が入っていたり…。
別に金品と宝くじなどはどうだっていい…。
「薬……薬何処だよ。………あ、風邪薬」
風邪薬は昨日も使ったようにまだ箱1ケースは残っている…。
だがあっても損はしないので取り合えずテーブルにポイっと、
置いておく……。
「風邪薬があるのなら、他の薬もあるはずだ…」
スーー。
と、更に戸棚を調べるシンジ…すると。
「…あ、写真だ……」
たまたま見つけてしまった一枚の写真…。
その写真には此処の人達だろう…家族団らんで明るい日差しの下、
にこやかにカメラへと微笑んでいるではないか…。
「…家族か…。………僕等はこう言う事さえも出来なかった…。
…………はぁ。なんだか虚しくなってくるよ…」
母親が一番下の子供なのだろう。…小さな子供を抱き上げて
カメラへと手を振っている…。
そして父親は長男だろうか?でもまだまだ小さい子供を
肩車して暑っ苦しい笑顔をしている…。勿論肩車されている
子供は恐々としながらだが、薄っすらと微笑んでいるようにも見える…。
最後に中学生か?それとも高校生くらいの少女がやはり
最高の笑みで笑っていた……。
「……母さんに抱きしめられたのなんて殆ど覚えてない…。
……父さんに肩車してもらった事なんて一度も無い…。
……この女の人はこの子達のお姉さんか………。
ミサトさんは僕等の母さんであり、姉さんでもあったな……」
たった一枚の写真で此処まで自分の心が虚しくなるなんて…。
虚しさ一杯の心がちょっと寂しさを思い出させる…。
本当にもう一度再会を果たしたいミサト…。
最後の一度でもいいからゲンドウと会話らしい会話をしてみたい…。
恐らく無駄な事かもしれないが…。
そして最後に…願わくば………。
「…もうよそう。……もう取り返しが付かないんだ。
今、僕がやらなければいけない事、それはアスカと無事に
家へ帰ることなんだ………」
シンジは心動かされた、たった一枚の写真を丁寧に戸棚へとしまう…。
「…あ、そう言えば写真に女子高生らしき人が居たような…」
言い終わると同時にシンジは何処かにあるであろう階段を探しに
また歩き出すのだった………。
「あーーーー…暖かい…。……足も全然動くようになってきたから
嬉しい限りね。……それにあいつにばかり負担を掛けさせちゃダメだからね」
アスカは頭から暖かいお湯を被りながら、
ダルそうな?それでいてさわやかそうな声でポツリ呟いていた……。
換気にと開けといた窓から空を眺めると所々晴れていたり曇っていたりな
微妙な天気になっていた…。
動きが速い雲……。
これから晴々とした晴天になるのか?
それともどんよりした雲が集まって大雨でも降らすのか?
「……晴れるわよね。多分。……大丈夫。雨は降らない」
アスカはそうあってほしい。と、言いたげな表情でまたポツリ呟くだけ…。
早く住み慣れた。心も身体も落ち着ける場所…自分達の家へと帰りたいが為、
アスカはそんな後先を考えないような事を言ってしまったのか?
頭から伝う雫は身体を癒しながら、そしてまだ歩きなれない足を
刺激し、感覚を取り戻す為に流れていった…。
悲しそうに光を燈す裸電球…。
ギシギシと床がちょっと不気味な悲鳴をあげる中、シンジは
ひっそりと二階に続く階段がある場所へとやってきた…。
「…やっぱりあった。………女の子らしい部屋だなぁ…」
二階の部屋を取りあえず適当に襖を開け、入ったところはなんとも
女の子らしい部屋だった…。
派手でもなく地味でもなく中間辺りを上手い具合に保っている可愛らしい部屋。
「………取りあえずアスカの着替えっ…と…」
これまた適当にタンスを開ける…。
「ぶっ!!し、下着っ!?………ど、どれがいいのかな?」
タンスの中に綺麗にたたまれた下着の山…。
下着を何気に直視しているとなんだか頭がクラッと揺れ出した…。
どれがいいかな?と、言いつつもなんだか自分で下着を選ぶのはちょっと
嫌な感じがする…。
「……て、適当に下着は一杯持っていってアスカ本人に選んでもらおうっと」
そんな事を呟きながらまたタンスを引き出す…。すると今度は服が出てきた。
ほっとするシンジ……。
「…白のワンピース…。あ、これは確かキャミソールってやつだったっけ?」
何だかアスカには白のワンピースを着てほしいと思ってしまったシンジ…。
そして自分の趣味は悪いのか?そうでないのか?
そんな事を考え出すシンジ……。
「……あ、そうか白いワンピース着てたらアスカをおぶること出来ないや…」
ちょっとがっかり。まぁ仕様が無いだろう…。
ソレを着ていてシンジがアスカをおぶさるとパンツが見えてしまうからだ…。
…気を取り直して次々とシンジは下着やら服を手で掴んでいった。
少し重かったりする…。シンジはよろける訳も無く部屋を出て、下の部屋へと
向かっていくのだった………。
やはり少し不気味な廊下…。
今思えばあの旅館より不気味かもしれない…。
急な階段……。
間違いなく一歩踏み外したらそのままの勢いで一階へと直行で行ける。
「…歩きにくいなぁ…」
自分が歩く度にギシギシ足元が変な音を発する…。
下へと続く階段を下っていくと風呂場からシャワーを使う音が聞こえてきた。
シンジはアスカが風呂から上がる前に出来ればこの下着やら服やらを
風呂場へと置いておきたい…。
その方が何と無く平和的だからだ…。
一階の床に足が付く…。
「さて、急ごうかな?」
別に急がなくても此処から風呂場までは10秒でたどり着ける…。
そんなこんなでシンジは風呂場の脱衣所までやってきた…。
「……出来るだけ分かりやすいところに置いといた方がいいね…」
脱衣所を眺めるシンジ…。
すると洗濯籠が二つあるじゃないか…。
適当に片方に下着をポイっと要れ、そしてもう片方に服をポイっと
放り込む……。
これでシンジの役目は終り…。
「さてと…出ようか」
風呂場への扉に背を向け脱衣所から出て行くシンジ…。
ガララ…。
「ふーいいお湯だった…」
出て行こうとするシンジの背後からアスカの声が聞こえる…。
「げっ!シンジっ!!な、なにやってんのよっっっ」
速攻そう言われたシンジは振り返る事無く冷静に言い出した。
心の中では大焦りしていたが…。
「さ、さっき二階で女の子の服を見つけたんだ。…だ、だからほら
アスカの足元に籠あるでしょ?…その中に着替えが入ってるからそれに着替えてよ」
だがやっぱり少し口ごもりながら言う。
「……。…あらほんと。……助かったわシンジ。ありがとう」
背後でアスカがシンジに感謝の言葉をひとつ…。
なんだ…怒らないのか…。と、シンジは思いながらも
背後に居るアスカに意識してしまう…。
このまま後ろに振り向けば…あの時と同じ裸体が眼に映し出されるのだろう…。
アスカはこう言ってくれた…。
あの時のシンジは精神が壊れていたのだ。それだけの辛さを意識がありながらも
耐え続けていた……。それも時間の問題だったが……。
善い事がなんなのか?そして悪い事がなんだったのか?それさえも
あの瞬間は分からなかった…。
欲望に身を委ね…。気が付けば自分は恐ろしい事をしていた…。
泣いた。苦しさに泣いた。人の道を外れた事をしてしまい…。
「…………。アスカは…」
「え?…どうかした?」
シンジは振り返らずに言う…。
「…なんとも思わないの?僕と一緒に居て」
言葉の意味がアスカに染み渡る…。
シンジの心を知ってしまったアスカにはその意味が分かる…。
「…またその話なの?…もぉ、あんたもホントねちねちと過去を振り返るわね」
アスカが呆れ気味にシンジにいう…。
シンジが自分に背を向け、居るにも関わらずアスカは濡れた身体をタオルで
雫をふき取っていく……。
シンジは絶対振り返らないことを知っているからである…。信じているのだ。
「…アスカは怖くないの?あんなことされて」
下着をつけ、何気に服を着ていく…。
「……シンジ、あんたは少なくともあの時、意識はあったけど意思がなかったのよ。
それくらい自分でも分かるでしょ?」
そりゃそうだ…。
シンジにちゃんとした意思があったのならアスカにあんな事をしなかった。
過去の苦しみにシンジは膝を床に力無くつく…。
「……うん。………でも「シンジ…その話は私達の家に帰ってからしましょっ」
アスカが近づいてくる足音が聞こえる…。
あの時の事を考えれば考えるほど虚脱感がシンジを襲う…。
目尻が熱くなってくる…。
「……はぁ…」
「ほら、ため息付かない」
床を見つめていると頭に何かが触れる…。
気が付くとアスカが傍に居るじゃないか…。
素足が見える…。
ビックリしてシンジはアスカを見上げる…。
「へっへぇ〜ん。似合うでしょ」
それは先ほどシンジがアスカに着てほしいな。と、思っていた
白いワンピースではないか…。
そして頭に触れるものがなんであるかにも気がつく…。
アスカの手だ。シンジの頭に添えられていたのはアスカの手だった。
優しく自分の頭を撫でているアスカ…。
ちょっとビックリしてしまったシンジ…。
「………。アスカって、本当にぃ……ぁぁダメだ。お風呂で頭冷やすよ…」
思わず涙を流してしまったシンジ……。
立ち上がると風呂場に向き、アスカに背を向けカッターシャツを脱ぎだす…。
「…まぁ頭冷やすのはいいけど、風邪は引かないでよね」
「………ゎかってる…よ」
シンジがシャツを脱いだ…。
今は恥ずかしいとかそういう感覚は感じないようだ…。
「………まぁ、ゆっくり疲れを癒しなさいよ。…私は居間で休んでるから」
「…うん…」
最後にアスカはシンジの上半身裸になった肩を背後からポンポンと
軽く、そして優しく叩くと脱衣所を出て行った…。
もうアスカの気配も何も感じられないシンジ……。
「……アスカ、優しすぎだよ……」
シンジは風呂場へと姿を消していった。
風が吹き荒れたり、吹き荒れなかったり。そんな音を聞きながらも
考える事はアスカの成長ぶり…。自分なんかとは全然大人な感じがただよっている。
「……僕もウジウジ考えるのはよそう。…ふ、またアスカに怒鳴られるの嫌だからね」
アスカの言うとおりあの時の話は出来るだけ持ち出さずに、
自分達の家に帰ってからじっくり話したいものだ…。
こうしてシンジはきっかり15分後に風呂場から出てきた…。
しかし着替える服が無いので壱中の学生服に着替えるシンジ…。
少し汚れてしまった学生服にシンジは苦笑いと、早く新しい服に着替えたい
思いに駆けられる…。
そして色々な身支度をして行くと結局、更に20分を要してしまった。
「……さてと、行こうか?アスカ…」
「ええ、行きましょう」
空を見上げれば結構な青に包まれているではないか…。
だがその広大に包まれた青の周りにはどんよりとした雲が集まる…。
シンジとアスカはそんなのお構い無しにと旅立つ準備を終え、
今はもう玄関をくぐりあの長い階段を下りるところだった……。
「で、でも…アスカ」
「ん?何よ…」
シンジがアスカの姿を見ていう。
今からおんぶして階段を下りるつもりのシンジは思う…。
「…そのワンピース……し、下が短いね」
「…え?…あ、そうね。…で?」
で?って言われてもなぁ。と、シンジは苦笑いする…。
もしアスカをその姿でおんぶしてしまうと、絶対下着が見えてしまう…。
そりゃ自分に見えてしまうことでは無いが……。
「あ、だからその…アスカをおんぶすると…下着がぁ…見えるよ」
言われてアスカは自分の姿を確認する。
そう言えばワンピースのスカートは膝上辺りまでしかないような……。
「…そう言えば…。………でもあんたには見えないからいいんじゃない?」
アスカは良いかも知れないが…。アスカを背負った時にシンジは
アスカの素肌をじかに触らなければいけない………。
しかし此処で怒らすと時間が勿体無いと思うシンジは決心してアスカの前で
腰を低く下ろしたのであった……。
「……分かったよぉ。…もし変なところ触っても絶対怒らないでね」
「ぷっ。シンジ、じゃぁ久しぶりに抱き上げてよ。ほら旅館でしてくれたみたいに」
おんぶはいいから抱き上げろ。と、言うアスカ。
そう言えばそんな事もしていたなぁ?と、思い出すシンジは
あ、そうだった。と、言わんばかりの表情でアスカと向き合った。
「…うん、そっちの方が全然いいよ。見えもしないし」
安堵するシンジ。そんなシンジをニヤリと見つめるアスカ。
だがアスカは忘れていなかった。
…シンジの胸の前で交差するバッグの存在に…。
「…でもあんた重く無いの?」
「…ん?あ、別に大丈夫だよ。…こんな時だからこそ力付けないと」
ほ〜。っと少しシンジを見直すアスカ。
「へー。じゃ、シンジよろしくね」
「あ、うん。いくよ」
あの時、旅館でもしてもらった通称だっこ。
抱き上げられたアスカはやはりなんだか変な感じがしていた。
新鮮と言ったら新鮮かもしれないが…。やはりちょっと恥ずかしかったりする。
「…いやぁ、久しぶりね。抱き上げてもらうのって」
「そうだね。旅館では結構抱き上げてたようなぁ?」
シンジが階段を降りながら懐かしげに話す。
周囲に気が付けば、一時間前までは点いていた灯篭の光が消えているではないか。
やはりこの灯篭は時間設定がなされており一定時間に達すると点いたり消えたりするのだろう。
そんな事は別にどうだっていい…。
シンジはそう思うとさっさと先に進みたい思いから少し歩くのが早かった。
ザァァァァー…。
階段を降りていくと下から少しきつめの風が二人に吹き付けてきた…。
「…風、きついね。……もうすぐ晴れるのかな?」
シンジが少し不安そうにアスカへと問い掛ける…。
抱き上げられているアスカはそんなシンジの不安を拭い去る為に
笑いながら肯定…。
「ふっ…そりゃそうじゃない。…最近結構雨が降ってたからね。
だからこれからどんどん晴れの日が増えていくはずよ」
吹き荒れる風にアスカの髪の毛がシンジの顔に触れ合っていく…。
家を出て3時間…。もう時刻は朝の9時だった。
アスカは自分の足で歩いていた…。一応杖として使っていた木はもう無い。
密かに忘れてしまったのである。シンジには恥ずかしいので、
適当にカッコイイ言い訳をしといた…。
「…あれから歩いて3時間…。ほんと何も無いわね」
「……うん。アスカは大丈夫?しんどくない?」
やはり心配なシンジは思った事をドシドシとアスカに話していく。
これでもう6度目だ…。アスカもそんなシンジのしつこい気使いに
嫌気がさすことなく笑いで答えていた…。
「…でも本当に何も無いなぁ」
先程分岐点がシンジ達の前に現れていた。
その分岐点で第三東京とは違う道を行っていたら民家やらの集落があったのだろう。
「……空も怪しいまんまなのよねぇ。………でも少し嬉しかったりするのよね」
先程自分は晴れると言い切ったのに少し不安がるアスカ…。
「ん?どうして?……何か嬉しくなるような事ってあったかな?」
シンジが考える素振りをしながら何かを思い出す…。
「はぁ?あんた馬鹿ァ?…今までまともに歩けなかった私が
此処まで歩いているのよ?これって結構凄かったりするものよっ」
アスカがちょっと不機嫌気味にシンジへと罵倒する…。
うっ!?不味い事言ってしまった。そういう顔をするシンジはどうしようか
凄く迷っていた………。
もしもこのシチュエーションでアスカを適当にあしらったら確実に
痛い目にあうだろう…。
確かにそれは絶対避けねばならぬ事態なので此処は…。
「ごめん…」
うっ!?またやってしまったっ!?そんな顔をするシンジ…。
アスカはやれやれと空を見つめ上げる……。
「まぁあんたはあれね。…そろそろその謝り方を治さなきゃ」
「そ、そうだね。………でも本当に空、曇る一方だね…」
空を見上げるシンジ……。
アスカも空を見上げる…。
重々しい雲に覆われた空は今にも雨が降りそうな雰囲気だった。
やはり不安の色は隠せない二人…。
シンジとしては昨日身体中が痛くなるほどの風邪に襲われて、
日も冷たい雨風にさらされたらまた辛い思いをしなければいけない…。
「…アスカ、少し早めに歩ける?」
「……そうね。………ええ、それじゃぁ。って降って来たわよシンジっ!」
歩くや否や突然ポツポツと降り出して来た小粒の雨…。
嫌な予感がシンジの頭によぎる…。
-
ま、また風邪を引いてしまうっ!-「どうしようっ。何処を見渡しても道路道路だっ。…か、傘、傘傘っ」
慌てふためくシンジ。絶対風邪を引きたくないらしい…。
そりゃそうだろう…。好き好んで風邪になる奴が居るだろうか?
「…シンジっ私のも!」
シンジが重そうなカバンから折り畳み傘を二つ取り出す…。
それをアスカに手渡し、続けてそれを勢いよく開ける…。が。
「ぬあっ!ちょっと馬鹿シンジっ!傘が壊れちゃったじゃないのっ!!!」
やはり百円で売られてそうな折り畳み傘など激しい風にさらされたら
一発でお陀仏である…。
「………最悪だ。…僕のも壊れた」
ドンドンと勢いをつけてくる雨がシンジの身体を、アスカの身体を
濡らしていった…。
白の学生服…。そして白のワンピース……。
「……げっ!シンジっ!あんた透けてるじゃないのっ!?」
言う終わると自分の身体も透けている事に気がついてしまうアスカ。
「……ちくしょー私も透けてるじゃないっ!」
なんでこんな時に白のワンピなどを着てしまったのだろうか?
そう思うアスカは悔しそうだ…。盗んだものとはいえ結構気に入っていたり…。
「アスカなんかまだいいじゃないか。僕なんて着替え………無いんだよ?」
はっ!となって昨日体調が最悪だったシンジに気がつくアスカ…。
自分の身体はもう大丈夫。と、思っているので心配の矛先をシンジに向ける…。
「シンジっ、あんた大丈夫なのっ?」
「いや、寒いけどまだ大丈夫だよ。……それより先に進もう」
ひとつ頷くとアスカは歩きだす…。
彼女の歩く様にシンジはアスカの身体を心配する…。
そんな思いからか?シンジはアスカの背を優しく押して歩くのだった…。
風が強く吹き荒れる…。
滝の様な雨に驚きを通り越す二人…。
何と言う自然の脅威…。
「あ〜雨が眼に入って痛いっ」
ついつい怒鳴ってしまったシンジ…。
それ程雨は激しさを増すだけだった…。
「レインコートくらい持ってくるべきだったわっ!」
今更言い足掻いても仕様が無い…。
眼に雨が入ることにも気にせずアスカは空を見上げるだけだった…。
「いたたたっ」
シンジ痛がる。
「……夕立みたいなのだったらいいんだけど……」
激しき雨の音にかき消されるくらいの呟きでアスカはヤな顔をしていた。
ゴォォォォオオ!!と、吹き荒れる風…。
耳障りな音にシンジは耳を塞ぎたくなるくらいの衝動に駆られる…。
「……身体が重い…!どうにかならないの?この風…」
真っ暗な闇に包まれる辺りは何処か…。と、いうまでもなく不気味だ…。
シンジはどんなにアスカの身体が透けていようとも、もう全然
気にならなかった……。この雨の激しさがそうさせていた…。
「はっくしょっんっっ!!」
「…………!!」
くしゃみをするシンジ…。
そんなシンジにアスカは過剰な驚きと心配の念で
心の中は溢れかえっていた…。
「……だ、大丈夫…?シンジ…」
最悪な事を想像してしまいアスカは不安で一杯だった。
もしまた風邪を引いてしまい、雨を凌げる場所がなかったら、
シンジは最悪肺炎に襲われるかもしれない…。
「…ぐずっ。あぁ。雨で鼻水がぁ……」
シンジもアスカの態度を悟り、馬鹿な呟き声で言う…。
正直まだ何も身体に違和感は無かった…。
「……ウソはダメよ……!」
低い声で喋るアスカ…。
雨がうるさいはずなのに何故か小さい声で、低い声で話す
アスカの声が異様に大きく聞こえた……。
「…大丈夫だよ。まだ…てっ、どうしたの?アスカ」
アスカがシンジの額に手を添えてきた…。
雨に濡れているのだから額は冷えてくるというのに…。
「身体が冷えてくるわね…。……くっ、どうしてこう平穏に暮らせる
私達にこうも難関が訪れるのよ?」
悔しそうに呟くアスカ…。もう苦しみはごめんらしい…。
「アスカ。僕はまだ大丈夫だから。…それより僕は、アスカの方が心配だよ」
「……どっちもどっちね…。分かったわ。ゆっくり慎重に先へ進むわよっ」
シンジの手をぐっと握り、歩き出すアスカ…。
少し保守的になっているような…。
シンジは握られた手を強く握り、互いを支えあい歩いていった……。
「シンジ…。やばくなってきたらすぐ言うのよ…」
「うん。……アスカも足が痛くなってきたら言ってよ」
こうやってお互いを守りながら歩くのは初めてかも知れない…。
雨に激しく打ち付けられながらも心の中で静かに考えていたシンジ…。
時にシンジは泥水で足を取られて転びそうなアスカを
持てる全ての力で自分の手と同じ大きさの手を支えてやる…。
そして自分が転びそうになった時はアスカに支えられた…。
普通では考えられないくらいの雨量に二人は驚く事さえも忘れ、
互いを守りあって先へと進んでいった…。
「…風が凄いっ。台風並ねっ」
「…そうだねっ」
吹き荒れる風は夏とは思わせないほどの冷たさで、
体験した事も無い冬の凍えそうな冷たさの風に
シンジは自分の身体が少し心配だった……。
そう思いながらもやはりアスカの身体が一番心配だったりもする…。
長い年月を経て大きく長く育った木は、脆い部分から
風にもぎ取られてやがて地に落ちていった…。
「…あんな小さな木でも勢いつけて落ちてきたら危ないな」
頭上にも注意を払いながらシンジは歩を進める…。
枯葉もバラバラと風に流され、空いている片方の腕で顔を
ガードしなければピシピシとぶつかっていく…。
歩けど歩けど道と木々ばかりだったが、雨が降り出してから15分後、
二人は遠くに何か小さな石造りの建物を発見……。
「…何か建ってるわね…」
「……公衆トイレ…か。……傍に車があるっ」
流石に車と公衆トイレがあるのならどっちに入る?と、
聞かれたら二人は迷わず車に乗り込むだろう…。
しかし無人の車には必ずしも鍵が掛かっているはず…。
「…アスカ。一気にあの場所へ行くよっ」
「ええっ!て、あれっ!」
突然カクンと力無く地に膝を付くアスカ…。
手を繋ぎながら走り出そうとしていたシンジは
突然アスカが手を引くものだから、咄嗟に背後に居る
アスカの方へ視線を移した…。
「ア、アスカ?…まさかまた足が?!」
「……そ、そうみたい。…ごめんなさい…」
シンジは地に膝を付くアスカに近寄ると何も言わずに
アスカを抱き上げるのだった……。
「す、すまないわね。……シンジ」
「い、いいよ。今は一刻を争うからね。………」
此処数日間はシンジに抱き上げられてきたアスカだったが、
今日ほど恥ずかしさを感じる日は無かった…。
何故だろう?と、心の内で考えても答えは見つからない…。
先程までシンジを心配していたアスカだったが、
立場が逆になってしまった……。
それからなのだろうか?恥ずかしくなってしまうのは?
「……あ、雨が口の中に入っちゃうわね」
「…う、うん。喋ってるから自然に飲み込んでしまいそうだよ」
シンジはシンジで、何も言わずに抱き上げたのはダメだったかも知れない。
と、心の中で思うことだけだった…。
そうこうしているうちにようやく車がある場所へと
やってきたシンジ………。
「か、鍵は開いているのかな?…………ウソだ」
「へ?まさか開いていたの?」
ガチャリ。と、雨にかき消されてしまいそうな程の音で
車のドアは開いた…。
小さな驚きを振り払い、シンジは助手席にアスカを座らせるのだった…。
そしてシンジは考えてしまった…。何故か考えてしまった…。
僕って何処に乗ればいいのかな?と…。
一応車は4ドアの普通乗用車だ…。
シンジは後ろに乗ってもよかったが、何故か不自然なので
運転席へと乗り込んでしまった…。
「はぁぁー…助かった。……うわっ、雷まで…」
シンジが車に乗り込んだ途端、空に閃光が走っていった…。
「……シンジっ。安心するのはまだ早いわよっ」
「え?なんで?」
アスカはシンジが担いでいたカバンから真新しいタオルを取り出していた。
そんな光景を見せ付けられて思い出した…。
そうシンジの身体もアスカの身体も雨でびしょ濡れになっていたのだ…。
「…脱ぎなさい」
ビクッ!と身体を震わすシンジ…。
アスカが険しい顔でしかも心配そうな声でシンジにそう言うのだ…。
「……え?脱ぐのは…ちょっとぉ…」
「ちょっと、あんた自分が今どうなってるのか分かるの?
分かるのなら脱ぎなさい。…大丈夫、私はあっち見てるから…」
そんな何処と無く優しい声で言われたらシンジも言う事を聞くしかない…。
「……分かったよ。で、でもアスカも身体、拭きなよ」
何処かスケベっぽく聞こえる自分の声……。
シンジは顔を真っ赤にしながらアスカへと背を向ける。
身体に張り付いた学生服が鬱陶しい……。
ズボンも足に張り付いて脱ぎにくかった……。
数分後……。
脱ぎ散らかした互いの服が後部座席にベチャッと無様に置かれていた。
二人共下着姿…。なんとも神妙な雰囲気が漂う中、シンジは
アスカに何も話せず、アスカはシンジを見れずにただただ時間だけが
経って行った…。
外では猛然と大雨が降りしきっていた…。
突風で車が揺れるほどの風も結構怖かったり……。
「…………」
「…………」
シンジが毛布に包まったアスカの姿を見つめる…。
疲労の所為で着替える事さえも出来なかったシンジ…。
足がまた不自由になってしまったアスカももう着替える気は無い…。
何故こうも予告無しで足が不自由になったりするのだろうか?
「…………」
アスカは眼を閉じていた……。
シンジに見つめられているというのに…。
そんなアスカを暫く見つめているシンジはミラーに映る自分の顔に気が付いた…。
疲れ切った表情…。まだ僅かに濡れている髪の毛……。
気分が悪くなってくる感じがした……。
「…………」
今はただ疲労を無視し、シンジはアスカの寝顔を見つめていたかった。
そうしていると疲れから解放されそうな…。そんな感じで…。
おやすみ。心の中でアスカへと囁くとシンジは
何気にアスカの頭を撫でてしまった…。
そうとは知らず眠るアスカ…。
一瞬幸せそうに見えたのはシンジの気の所為か…?
こうして自然の脅威から身を守る事が出来た二人に
休息の時が訪れる…………。
つづく
何も感じなかった明け方…。
風は穏やかに、そして雲は静かに流れる……。
太陽が見え隠れする空を眺めながら二人はまた
長い旅路へと戻るのだろう…。
もう大丈夫…。空は見る見る内に晴れ渡り、
七色の端が掛かっていた…。
虹の橋の下、二人は一気に懐かしの我が家へと旅立っていく………。