
わびさび
by 蘭麻
絶対おかしいわ!
何でこんな事やらなきゃいけないのよ。
「はぁ〜・・・」
アタシは今日15回目のため息をついた。
「アスカ? 機嫌悪そうね・・・」
ふん! アンタはいいわよね。 そうやって朝からビール飲んでりゃ気分爽快になれるんだから。
「ミサトもおかしいと思うでしょ?」
「何が?」
「古文よ古典文学! こんな言い方してる人、いないじゃない。
何で今更昔の言葉なんて勉強しなきゃいけないのよっ! こんなの専門の学者だけがやればいいのよ。
学校の授業でやるもんじゃないわ!!」
「まあまあ、それは仕方ないわよ。
それを言ったら、数学だって、ぜんぜん必要ない時代なのよ。
でも、いざと言うとき役に立つって事もあるかもよ。
<わび><さび>の心って、アスカには特に知ってもらいたいわ」
たまにはまともな事も言うのね・・・。
ミサトが出かけた後、開いていた教科書をボーっと見てるのにも飽きて、立ち上がる。
ああ、暇だな・・・。 こんな時どうしてシンジったらいないのよ。
もうすぐ夏休みも終わりなのに・・・。
シンジと遊びに行きたいよ〜。
せっかく朝誘ってくれたのに、もったいぶって断らなきゃ良かったな・・・。
「はぁ〜・・・」
そしてアタシは16回目のため息をついた。
「ただいま〜」
あれっ? シンジが帰ってきた。
まだお昼前よね。 鈴原の家に行ったにしては、随分早いお帰りじゃないの?
「お帰り・・・。 早かったのね」
「お昼、一緒に食べようと思って・・・」
何? もしかしてアタシのために帰ってきたの?
「・・・なんで? 鈴原と一緒に食べるんじゃなかったの?」
「ケンスケも来たからさ・・・。トウジはケンスケと一緒だから・・・」
「・・・だから?」
「言わなきゃいけない?」
シンジの目がマジになってる・・・。
どうしよう、聞きたいけど・・・。
「・・・聞きたい・・・」
「ミサトさん、出かけるから、アスカが一人で食事するんじゃないかって思って」
「キッチン汚されるのが心配だったんでしょう?」
「違うよ!」
駄目ね。
これじゃ、いつもと同じ・・・。
「じゃあ、何?」
シンジ、緊張してる。
アタシもドキドキし始めた。
まともにシンジの顔見られないよ・・・。
どうしちゃったんだろう。
「アタシが一人で寂しく食事すると思ってた?」
「だって、アスカ・・・。寂しがり屋だから」
今なんて言ったの?
アタシが寂しがり屋?
そんなこと誰にもいわれたこと無いわよ。
違うわ!
アタシは一人でも大丈夫なのよ。
今までも平気だったんだから。
嘘・・・。
ホントのアタシは一人が怖いの。
シンジの言う通り寂しがり屋。
強がっていただけ。
その事を知ってるのは・・・、あなただけよね。
ねえ、シンジ・・・。
「知ってたの?」
「僕も、アスカと同じだから・・・」
・・・そう、シンジもアタシと同じ・・・。
でもシンジはアタシよりも強いのかもしれない。
アタシは、人に注目されたくて強がってる。
そうして生きてきた・・・。
シンジはどうなの?
それでもあなたはアタシを見てくれてるの?
アタシは自分の事で精一杯なのよ、あなたみたいに人の事まで考えられなかったのよ。
そんなこと考えてたら、涙を流している自分に気づいた。
シンジが慌ててる。
「ありがとう、シンジ」
やっと言えた。
ずっと言いたかった言葉。
「ありがとう・・・、シンジ!」
『歎きつつ ひとりぬる夜の明くる間は
いかに久しきものとかは知る』
さっきまで意味がわからなかった歌。
アタシと重なったの。
これが<わび>と<さび>なの?
「ねえ、シンジ」
「なに?」
「いかに久しきものと知ったのよ」
「何のこと?」
きょとんとしている。
解らないでしょうね。
恥ずかしいからこんな事しか、今は言えないけど。
あっ!
シンジも同じ宿題するんだっけ・・・。
そのうちばれちゃうかな。
そのときはシンジからちゃんと言ってよね。
言わないと・・・。
アタシから言っちゃうから。
〜fin〜