
ルージュ
作・蘭麻
この作品は、我が友、KENさんの参萬HIT記念に捧げます
僕がアスカにプレゼントしようと思ったのは、ちょっとしたお礼のつもりだったんだ。
アスカには大した事じゃないかもしれないけど、僕にとっては、本当に嬉しかったんだ・・・。
「アンタ・・・。授業聞いてなかったでしょう?」
リビングで試験勉強をしている僕の背後から、風呂上りのアスカが、
例によってバスタオル一枚身体に纏っただけでちょっかいを出してきた。
「アスカ! またそんな格好で・・・」
「良いじゃない、だれもいないんだから」
僕は人のうちに入らないのか?
「ほら〜、またそうやって拗ねる! アタシとアンタ以外は誰もいないって言ったのよ!」
「僕だって男だぞ! そんな格好でいられたらどうにかなりそうだよ!」
あっ! アスカのあの目・・・。 ニヤリと笑ってる・・・。
多分心の中で「チャ〜ンス」と言ってる目だ。
僕は身構えた。
絶対アスカは何か企んでるんだ。
でも、次の瞬間、彼女は意外な行動に出た。
「じゃあ着替えてくるね」
そう言って部屋に入っていく。
何か拍子抜け。
でも・・・、気を抜けないことは確かだった。
次にアスカの部屋が開くまで、僕は固まったままだった。
「なによアンタ、 その目は・・・」
いつものタンクトップ姿を予測してた僕は、正直面食らった。
部屋から出てきた彼女の姿は、あまりにも僕の予想を裏切っていたのだから。
「・・・変?」
「・・・そんな事ないよ・・・。 いつもと違うから、つい・・・」
「どう違う?」
勝ち誇った顔は、いつものアスカその人だったけど、その姿は・・・。
白いブラウスに、茶色のフレアのロングスカート。
普段は後ろで束ねた髪も、サイドで一つにまとめて、そのまま流れている。
いつものアスカとはまるで違う格好に見とれていたんだ・・・。
「たまにはこんな姿も良くない?」
「うん、なんだか・・・、大人っぽい」
「そう?」
彼女は少し照れて、そして嬉しそうに笑った。
いつもの高笑いとは違う、素敵な笑い顔だと正直思ってしまう。
「で? どこがわからないの?」
僕の左隣に座り、端末を覗き込んでくる。
アスカのシャンプーの香りを間近で嗅いで、鼓動の高鳴りを感じた。
「さっさと教えなさいよ!」
「は、はい」
少し声も上擦ってしまっていた。
それから暫く、苦手な英語を、優しく、時にはパンチを交えて教えてくれたんだ。
アメリカ国籍を持つアスカにとって見たら、中学生の英語なんて、先生よりも教えるのは簡単なんだろうな・・・。
わかってはいた事だけど、こうして聞いてみると、アスカの発音は外人そのものなんだよね。
おまけに大学まで出ているんだ・・・。
僕なんか子供に見えるのは当たり前なんだろうな・・・。
テストが終わった。
気になる成績はというと、生まれて始めて英語のテストで満点を取った。
習うより慣れろと言うけど、 あれからアスカは日常会話にも英語を交えて話すようになり、自然に耳に残ったようだ。
「センセ、どないしたんや?」
「アスカがさ、教えてくれたんだ・・・」
トウジだけでなく、ケンスケも、委員長も驚いていた。
それはそうだね、僕が一番驚いてるんだから。
だから、アスカにお礼をしたかったんだ。
でも、何をあげれば喜ぶんだろう?
お小遣いもそんなにあるわけじゃないから高いものは買えないし・・・。
相談しようにも、ミサトさんに言ったら冷やかされるだけだし。
トウジやケンスケは初めから除外。
リツコさんも苦手だし・・・。
そうだ、マヤさんに相談しよう!
「へ〜、アスカがね・・・」
「ええ・・・、だから何かお礼したくて・・・」
「何にすればいいかわからないから相談に来たのね?」
「はい、女の子がプレゼントされて喜ぶものって、僕じゃわからなくて。
マヤさんならきっと良いアドバイスしてくれるんじゃないかって思って・・・」
「光栄だわ、シンジ君にそう思ってもらえて。
そうね、私が中学生のときにプレゼントして欲しかった物は・・・」
あごに人差し指をあてて、考えるポーズを作り、小首をかしげている。
そしてその顔がみるみる真っ赤に染まっていく。
何を思い出しているんだろう?
「シンジ君、あのね・・・」
もじもじしながら言いにくそうにしてる。
「誰にも言わないでね・・・」
「・・・はい・・・」
「・・・キス・・・」
とたんに赤かった顔が、更にこれ以上ないくらい真っ赤になっていく。
今にも爆発しそうで少し怖くなる。
この人に聞いた僕が悪いんだ・・・。
あきらめて、ネルフを出ようとして、エレベーターに乗り込むと、先客がいた。
「碇くん、何か悩んでる・・・」
綾波に相談してみようかな。
でも、綾波は普通の女の子とはちょっと違うから躊躇ってしまう。
「あのさ・・・、綾波・・・」
「何?碇くん」
「綾波は、人から貰って嬉しいものとかある?」
綾波は暫く考え込んでいたみたいだった。 顔には出さなかったけど・・・。
エレベーターが止まり、ドアが開いた。
僕達はゲートへと歩き始めた。
「弐号機パイロットにあげるのね?」
思わず立ち止まった。
「弐号機パイロットに聞いてみたほうがいいわ・・・」
そう言い残し、すたすたと歩いていく後姿を見ているしかなかった。
なぜ綾波が気づいたか、それはこの際置いておいて。
アスカに聞いてみるのが一番いい方法だと思った。
アスカも普通の中学生とは違う。
綾波も・・・、そして僕も・・・。
アスカが好きなものは、アスカにしかわからないだろうから・・・。
今日は試験休み・・・。
ミサトさんはネルフに行ってる。
勇気を出して聞いてみよう。
「アスカ・・・。 起きてる?」
遠慮がちにドアの向こうへ声をかけた。
「起きてるわよ」
「ちょっと話があるんだけど・・・」
すぐにドアが開き、いつものタンクトップ姿のアスカが姿を見せた。
「何よ? デートのお誘い?」
「・・・近いんだけど・・・」
「ばっ、ばかぁ、冗談よしなさいよ!」
慌ててるアスカに事情を説明した。
「・・・まあ、 アンタらしいけどね・・・」
頭をかきながら複雑な顔をしている。
「わかったわ、じゃあ出かけましょうか」
「一緒に行くの?」
「何よ? 嫌なの?」
「・・・いいえ、ぜんぜん・・・、 とても嬉しいです・・・」
「顔が固い!」
そうして、いかにアスカと一緒にお出かけ出来て嬉しいかを、延々と述べさせられた。
「じゃあ、着替えるわね」
僕は少し嬉しいような、それでいて怖い気持ちが襲ってきた。
それが何なのかわからなかったが・・・。
「リクエストはある?」
「へっ?」
「何て顔するのよ? 着ていく服のリクエストよ!」
「・・・いや・・・別に・・・」
「そんな時はお世辞でも何着てもきれいだからって言うのよ! まったくわかってないんだから!」
また怒られた・・・。
「いいわ、三つの中から選びなさい。 Tシャツにジーンズ。 ワンピース。そして・・・」
「そして?」
「この前着てた、茶色のスカート・・・」
その言葉は魔法のようだった。
途端にあの時のときめきが襲ってきて・・・。
「それがいい!」
自然と答えていた・・・。
アスカとの距離は30センチ。
あそこの人も、さっきすれ違った人もアスカを見ていた。
アスカはぜんぜん気にしてないみたいだけど、あの人たちには僕たちの関係はどう映ってるのかな。
僕達は途中、本屋やCDショップを覘きながら、もしかしたらデートとはこんな風なのかな、と感じていた。
「あっ、シンジ!」
一軒の化粧品屋の前で、アスカが立ち止まる。
「あたしの欲しいもの決まった!」
僕の手を取り、店の中へ入った。
「へへへ、実はね、口紅欲しかったんだ」
帰り道、バスを降りて家への坂道の途中で、内緒話を切り出すように嬉しそうに話し始めた。
「このスカートと髪型ね、結構気に入ってたんだ・・・」
僕の背中を押して、坂の途中の公園へと入っていく。
僕は、まだこのデート(?)を終わらせたくなくて、それに従う。
街が見下ろせるベンチに、二人並んで座る。
「でもさ、ちょっと足りなかったんだよね・・・」
「なにが?」
「これ」
ラップされた包みをあけ、中の口紅を取り出した。
「だからホントは自分で買おうとしてたんだ・・・」
バックから鏡を取り出し、慎重に塗り始める。
その手つきから、ああ、始めて化粧をするんだなということが伺えた。
「だからさ・・・」
「・・・だから?」
「せっかく買ってもらったけど・・・、返すね」
もう使ってるじゃないか・・・。返すって言ったって・・・。
不思議がってる僕に、やれやれといった顔で。
「・・・ばかぁ? ちょっとずつ返すに決まってるじゃない・・・。アンタに・・・」
〜fin〜
あとがき
本編の設定を、一切無視して書きました。
書きながら、結構気に入った一遍なのですが、KENさんの参萬HIT記念に花を添えられたかどうか不安です。
ともかく、KENさん、参萬HITおめでとうございます!