
輝く想いを胸に 第三話:暗雲 by.夢幻の戦士
朝まではあんなに晴れていたのに、夕方からは酷い雷雨。 あまりに急なことだったので、仕方なくシンジはカヲルの診療所で雨宿りする羽目になった。 カヲルとアスカは午後の往診に向かったため、今診療所にはシンジと雲母の二人しか居ない。 何もしてないよりはマシだということで、二人でトランプでもしながら暇を潰す。 短針が6をまわった頃、カヲル達が帰ってきた。 帰り際に降られたため、傘などは持ち合わせていなかったようで、全身ずぶ濡れだ。 「いやー、参ったよ。この時期にしては珍しいよ、こんな大雨は・・・」 「もー、だから言ったじゃないですか! 雲行きが怪しいから傘を持って行きましょう。って!」 二人は診療所の奥に設置されたロッカー・ルームに入っていった(勿論ふたり別々)。 数分後 私服に着替えたカヲルとアスカを交え、夕食前の軽い談笑が始まったのは半過ぎだった。 「おっとそうだった。惣流君、悪いけどワイン倉からワインを一本持ってきてくれないか」 「解りました。一本で良いんですね?」 「ああ。頼むよ」 言い終わるとすぐにカッパを着込んで外へと出ていった。 「大丈夫なのかい? 彼女」 「あら、女はああ見えてもの凄く強いのよ。ご存じ無い?」 と、これは星野女医談。 10分後 「ねぇ、いくらなんでも遅すぎない・・・?」 「確かに遅いね。ここからワイン倉まで、片道3分。もう戻ってきても良いはずなのに・・・」 「途中で何かあったのかしら・・・」 胸騒ぎを憶え、シンジ達はアスカを探した。 しかし、こう云う時の胸騒ぎは得てして当たるモノである。 シンジ達が見たのは、額から血を流して倒れているアスカだった。 「しっかりしろ、惣流君!」 抱き起こしても返事がない。 かなり冷たい。長時間雨にあたっていたせいで体温を奪われたのか 雲母が傷口を調べにかかる。 「STA(bP)のブランチ(bQ)が切れてる。取り敢えず指圧止血したけど、出血が酷いわ。オペ室に運ぶから手伝って!」 「でも担架が・・・」 「カヲル、上着を脱いで」 「「え・・」」 余りにも場違いな声を挙げる二人。 だがシンジの目は真剣だった。 言われるがまま上着を脱ぐカヲル。 それを受け取ったシンジは、服の袖に比較的まっすぐな棒を差し込み始めた。 そこに自分の上着も通して、簡易担架の出来上がり。 「さ、これに乗せて」 懐中電灯を持った雲母を先頭に、診療所へ向かう三人。 オペ室 漸く運びおわり、いざオペを始めようとした矢先、重大な問題が発覚した。 彼女に輸血する血液がない。 「ちょっとそれ、一体全体どういう事よ!」 いきり立つ雲母。 カヲルは的確に、早口に説明する。 「ここにも輸血用血液は完備されている。だが彼女のそれはここにあるどの血液型にも当てはまらないんだ」 「どういう・・・・・・・・まさか・・」 「そう・・・彼女の血液型はAのRHマイナスなんだ」 輸血の場合、A B O ABという一般の血液型の他に、RHというものが存在する。 大抵の人はRHプラス、輸血用血液も大概それだ。 しかし彼女のRHは数万人に一人と言われるマイナス。 もし彼女にRHプラスの血液を輸血したら、すぐさま拒絶反応を起こしてしまう。 「どうしようも・・・・ない」 「・・・・・・・・ッ」 二人が押し黙っているのにたいして、シンジは一言カヲルに向かって 「カヲル、生食ある?」 この言葉が二人の頭に衝撃を与えた。 戦争中、血液が不足して大量の兵士が死んでいった。 そこで、血液の代わりに0.8%濃度の食塩水を代用したという。 それがシンジが言ったんは、つまりは“生理的食塩水”であった。 二人は急いで生食を投与してオペに挑んだ。 幸い傷は脳を護る骨膜には達してはいなかった。もし達していたら、ここの装備では彼女を救うことは出来なかっただろう。 切れた血管そのものを糸で縛り止血。 あとはそのまま縫合。 これは脳外科医の雲母の専門だったので、彼女に一任した。 流石に専門だけ有って早かった。 しかしアスカの意識はまだ戻らない。 無理もない。長い時間冷たい雨にうたれたのだから 体温もかなり下がっていた。雲母の献身的なマッサージが功を奏し、なんとか体温は戻ったが、意識だけは戻らずにいた。 不安そうなカヲルと雲母に、シンジはこう言った。 「人間の生きようとする意志は、何者にも勝るモノなんだよ。だから信じてみよう、惣流 アスカ・ラングレーという女性の命を」 明け方、アスカは意識を回復した。 しかしこれは、これから始まる惨劇のほんの前菜でしか無かった。 ---------------------------------------------------------------------------- ---- 後書き ふー、何とか書けました。 話がややこしいくなってしまいましたが、如何だったでしょうか 次回はいよいよ第一の事件が起こります。 そしてトウジも島にやって来て、ようやくキャストが揃います。 それでは〜〜 bP:浅側頭動脈 bQ:大きな血管から枝分かれした血管。分枝 間違いがありましたら御免なさい。 誤字脱字などがありましたら、ご連絡下さい。以後、注意します
KENの感想 う〜む… 難しめのお話でした… アスカ嬢は死ななくてよかったです。