翼を持った少女 BGM:青空 By KEN
僕は、夢を見ることがある。 それは、父さん、母さん・・・僕の大切な人と一緒に笑い合える事。 そんな、当たり前のような事が夢だけど・・・。 僕は、そんな夢を叶えたい。
ミーン、ミーン、ミーン・・・ 蝉の鳴き声が聞こえる。 まだ、夏真っ盛り。 まだ、夏休み。 まだ、僕の隣には誰も・・・いない。 父さんも母さんも・・・大切な人がいない。 僕が、こんなにも望んでいるのに・・・。 だけど、叶わない日常。 夢が、現実になってくれたら、どんなに良い事だろうって思った。 一度で、いいから・・・せめて、父さんや母さんの顔が見てみたかった。 だって、二人は、大切な人達でもあるのだから。 僕は、生まれて物心ついた時から、隣には誰もいなかった。 ただ、孤児院にいたんだ。 そこでは・・・僕にとっては、憂鬱な場所だった。 僕は、そこでは表情を変えず、笑顔も見せず、無表情のままで暮らした。 いつか、僕の事を迎えに来てくれた父さんや母さんに初めて見せたかったから。 心の底では、そんな事叶うはずがない・・・って思っていたけどね。 そして・・・ 僕は、高校生になった。 孤児院からは、もう抜け出した。 僕は、一人暮らしを始めた。 誰にも縛られず、解放感のある暮らし。 少し、憧れていて、少し何となく物足りないと思う暮らし。 自分で決めて自分で実行する事だけだから、誰にも怒られない。 だけど、それが時々、僕には虚しく感じた。 誰も声を掛けてくれなかったから。 学校でも、僕は一人ぼっちだった。 こんな質(たち)だから・・・。 誰も、僕なんかには寄り付かなかった。 ただ、その場にあるだけの存在だった。 どんなに他の人たちに声を掛けようとしても駄目。 だって、恐いから。 だって、きっとみんなは僕を拒絶するのだから。 誰も・・・相手になんてしてくれないのだから。 夏休みになった。 僕は、意味もなく、学校の補習授業へと行った。 別に、勉強が心配なわけじゃない。 これでも何だけど、それなりに一定の成績はとれている。 平凡な成績だから、先生の目にとまるはずがない。 だから、きっと一瞬『君は誰だ?』なんて思ってしまうだろう。 それは、とても悲しい事。 空が青い。 夏だから、それが一層感じた。 そして、僕は空が悲しんでいるように感じた。 可笑しな事かもしれないけど・・・。 僕は、空ってのはとても悲しい物だと感じていた。 昔、孤児院で、絵本を読んだ時。 そう思ったからだ。
空の上には、翼を持った少女がいるんだ。 そして、その少女はいつも悲しいんでいる。 彼女を助けようとしても、彼女は楽しかった思い出だけを思い出している。 そして、その楽しかった思い出を思い出して、また悲しむ。 きっと、もう彼女は楽しい気分になれない事が分かっているからだ。 空が青いのは、その少女が涙を流しているからだ。 その涙が、積もり積もると、雨雲になり・・・。 人を憂鬱にして、そして雨になる。 まるで、泣きじゃくるように。 そして、気分が少し良くなるとまた、晴れ渡る青空。 でも、また悲しい気分になって・・・雨雲になりそして、雨が降る。 永遠に彼女はそれを繰り返しているのだと思う。 それは、永遠に報われない永遠の地獄。 そして、彼女は人間となって時たまこの地に降りてくる。 そして、また彼女は失望するのだ。 楽しい気分にはなれないから。 絵本の最後にはこんな事が書かれていた。 もし翼を持った少女を見かけたら、優しくしてあげて。 そして、楽しい思い出をつくってあげてって。 もし、あなたが苦しい目にあっても、それは、あなたにとっても大切な事だから。 最後に・・・楽しい夏を最後まで送ってあげてって。
補習授業も終わり、僕は空を見続けている。 夏の日差しは強くて暑いけど。 僕は、空を見続ける。 もしかしたら、何か変わるかもしれないから。 「きゃぁぁぁ〜〜〜!そこの人どいて〜!」 声が聞こえた。 それも上から。 何でだろう? ここは、海の近くの堤防なのだから。 上から人の声が聞こえるはずがないのに。 ゴッチ〜〜〜ン☆! とても、痛い。 ボーリングの球を僕の頭に垂直に落とされたみたいだった。 原因は、いったい何なのだろう? 「お〜い、生きてる〜?」 つんつん、つんつんつん 僕の頬に何かが触れる。 嫌、突つかれていると言った方が正解かもしれない。 それにしても、僕にぶつかってきた物体は、平気みたいだ。 僕だけ? 「ぁ・・・ぅ・・・っ・・・ぃたぁ・・・」 「えっ!?どうしたのよ?」 「ぃたぁっ・・・」 「い、痛いの?」 「・・・・・・」 僕は、うんうんと頷く。 「ご、ゴメン」 そう言うと、何か温かい感じが僕の頭に感じられた。 それは、人の温もりに似た感じの物。 「・・・あれ?」 「大丈夫?」 僕にぶつかってきたのは、女の子のようだった。 彼女は、奇麗だった。 紅茶色の髪の毛はまるで太陽を現していて、鮮やかな感じがした。 肌が白く、瞳が蒼く、とても奇麗だ。 でも、蒼い瞳が僕を少し嫌な方向に持って行った。 悲しい色の瞳だって。 でも、それが本当にそうなんだって思った気がした。 でも彼女は、とても儚げな感じがした。 「うん・・・大丈夫」 「はぁ、よかった」 「うん」 女の子は胸を撫で下ろす。 「おっかしぃなぁ・・・アタシの翼ちゃんと羽ばたかなかった。どうしてだろう?」 「・・・?」 「あ、いや・・・こっちの話よ」 僕が彼女の事を困惑の表情で見つめたら、すぐに我に返り。 無理に明るく振る舞って、話の話題を変えようとしていた。 「あ、そ、そんな事より、アンタの名前なんて言うの?」 「僕は、シンジ・・・碇・シンジだよ」 彼女は蒼い瞳を輝かせながら、僕に聞いてきた。 まるで、人に会うのがとても楽しみなように。 「そっか。シンジね!」 「うん。・・・君は?」 「アタシは、アスカよ」 「・・・苗字は?」 「電話帳にアタシん家の電番載っているかもしれないから教えない」 「ははは」 「まぁ、それは、冗談として。アスカでいいわ」 「分かった」 彼女は僕に握手を求めた。 笑顔は輝くばかりの笑顔だった。 僕は、彼女と握手をした。 温かだった。 彼女の手が僕の手を包み込むような感じさえも感じさせてくれた。 「シンジは、ここで何してたの?」 「何って、空を見ていた・・・」 「空?」 アスカは、僕の訝しげに見る。 そりゃあ、そうだろうね。 この歳で、空を見続けていたら。 周りのみんなは忙しなく動き続けるのに、僕は止まったまま。 ただ、傍観しているだけなんだ、みんなの事を。 「はは、なんだシンジもそうだったんだ」 「シンジも・・・って君もかい?」 「ええ!何かつまらないから」 僕に眩しいばかりの笑顔を見せる。 その笑顔は、とても奇麗で・・・とても儚かった。 少しでも強い風が吹けば、アスカは消えてしまいそうだった。 何でだろう? 彼女は、強がっている訳じゃないのに、僕はそんな気がしたんだ。 それは、何でかは知らないんだ。 でも、心の奥底では、何かとっかかりを感じていた。 でも、原因は分からない。 なんだか、とても悲しかった。 「シンジは、空を見てどう思う?」 「・・・悲しい」 「えっ?」 「僕は、空を眺めていると悲しいんだ。嫌な事も全て忘れているはずなのに、悲しい」 「・・・そっか」 アスカは、僕の隣に座った。 この絶景の海の見える堤防。 そこで、二人・・・ポツンと座っている。 「嫌な・・・事って何?」 「ん?・・・僕自身の事」 「シンジ・・・自身?」 「そう・・・僕は、一人ぼっちだって事」 「一人・・・ぼっち・・・」 アスカは一人ぼっちと言う言葉に言葉を濁していた。 そして、瞳も元気な光が少し薄らいでいた。 「ア・・・スカ?」 「え、あ、うぅん。それじゃ、アタシそろそろ行くね」 「あ、うん」 「運が良かったらまた会いましょうね」 「うん・・・こんな僕でよかったら」 「うんっ」 アスカはそう言うと、立ち上がり、何処かへ駆けて行った。 そして、アスカの後ろ姿を見送り、僕はまた空を見上げた。 雲が流れる。 雲と雲の隙間からは青い空。 そして、神々しく光り輝く太陽。 それを、ぼ〜っと見ている。 次の日。 僕は、またこの海の見える堤防にいた。 これが、僕の毎日の日課なのだから。 何をする事でもなく・・・。 ただ、ぼ〜っと座って青空を見上げる。 「あれは・・・?」 何時の間にか、浜辺にはアスカらしき少女がいる事に気がついた。 だけど、一瞬誰か分からなかった。 アスカの背中には、白い翼があると思えてしまったから。 そして、今にも飛び立とうとしそうな感じだった。 でも、よく目を凝らして見ると、そんな事はなかった。 彼女の白い背中が見えただけだった。 「あ、シンジじゃない」 「うん」 僕の気配に気づいたのか、アスカは振り向き僕の方を向いた。 そして、僕だと分かると、ニカッと笑う。 「どうしたの?」 「昨日の続き」 僕がそう言う。 何が続きなのだろう? 空を見続けることが? ただ、ぼ〜っとすることが? 分からない。 「今日も一緒に話さない?」 「いいよ」 僕とアスカはこの日遅くまで話した。 他愛のない話だった。 ただ、学校はどうとかどうとか。 お互いの一人ぼっちっぷりを自慢しあっていた。 そんな事、虚しくなるのにね。 「アタシは、生まれた時から、親の顔なんて知らないのよっ」 「そりゃ、僕もだよ」 それでも、彼女とは、喋り続けた。 いろんな話を。 そして、僕の心の奥底では、彼女を信頼していた。 何ていうか、漫画で言う恋ではなく。 もっと、淡い感情だった。 何時もなら他人を拒んでいたのに、彼女は拒まなかった。 何となく、僕に近い存在だと感じたから。 そして、ある日の事。 僕は・・・いつもとアスカが違う様子と違う事に気づいた。 それは、まだ夏も後半に差し掛かった時だった。 「シンジはさ、一人ぼっちって言ったよね?」 「うん」 「アタシもっ」 「・・・・・・」 「アタシも一人ぼっち」 僕の方を向き、少し悲しげな笑顔を見せる。 何故、笑えるのだろう? 「アタシはね、親の顔なんて知らないし、誰もアタシの傍に寄ってこなかった」 「・・・・・・」 僕と同じだった。 僕と、同じ境遇だった。 「だから、アタシは、空から人を見続けた」 「?」 一瞬、変だった。 空から? どうやったら、空から人を見れるのだろう? 空でも飛ばない限り、そんな事は無理なはずなのに・・・。 「アタシは人じゃないから」 「えっ?」 「アタシは、人じゃないんだ」 そう言うと、僕の目の前に立って。 一瞬アスカの身体が光った。 僕は、目を瞑った。 何が、起きているのかまったく分からなかった。 そして、光が収まっていき。 そして、彼女の姿を早く見たかった。 「翼を持った人。・・・簡単に言えば翼人」 「・・・・・・」 僕の目の前に立っていたのは、翼を持った少女だった。 そして、彼女は静かに空を飛んだ。 「翼人って言っても・・・まぁ、ピンと来ないわね」 「・・・そうだね」 「とにかく、人じゃないのよ」 少し悲しそうな笑顔。 「そっか」 「うん」 でも、僕は彼女が恐いとは感じなかった。 それ以上、可哀想だと感じていた。 「シンジは、逃げないの?」 「・・・別に、アスカはアスカだろ?」 「そうね。初めてだわ、アタシをアタシとして扱ってくれたの」 「そう?」 「うん、何時もはみんなに逃げられた。誰もいなかったのそんな落ち着いたの」 「そっか」 「今回のアタシは特に酷い境遇にいる気がする。でも、それが唯一の救いか」 「今回?」 「アタシ・・・翼人だって不老不死じゃないのよ。地上で生まれるの」 「僕たちと一緒だね」 「うん、でもね、死ぬ時は空で死ぬの。そして、魂は地上に戻り、また何処かの夫婦の赤子の魂となる」 「・・・・・・」 「・・・地上で生まれるのが一緒って言ったけど、厳密に言うと一緒じゃないのよ」 「どう違うの?」 「前世の悲しい記憶を受け継いでいるの。物心ついた時は、親に別れを告げられたとか」 「・・・・・・」 「背中の羽を切り落とされ、バケモノとして殺された」 「・・・・・・」 「今回のアタシはもっと酷かった。すぐに親に捨てられて、そしていろんな人たちに盥まわしにされた」 「・・・・・・」 「さっきの姿に戻るね」 「うん」 そう言うとアスカの翼はどんどんと小さくなって、またさっきまでのアスカに戻った。 「ねぇ、シンジ。身体の調子おかしいところない?」 「ん?・・・別にないよ」 「そっか、よかった」 「どうして?」 「アタシと関わった人・・・みんなみんな苦しむから」 「大丈夫だよ」 僕は、ゆっくりと笑顔を見せた。 それは、彼女に見せた初めての笑顔だった。 今まで僕は、笑顔を見せなかった。 嫌、出来なかったんだ。 無表情・・・だったんだ。 「ねぇ、シンジ。アタシ・・・抱き着いていいかな?」 「・・・いいよ」 ゆっくり言うと、アスカは僕に抱き着いてきた。 僕は、彼女を優しく包み込んだ。 夏なので、暑かったけど、悪い気分ではなかった。 「ぇぐ・・・ぅぐ・・・」 アスカは泣きじゃくる。 そうか、きっと彼女は絵本の少女なんだ。
空の上には、翼を持った少女がいるんだ。 そして、その少女はいつも悲しいんでいる。 彼女を助けようとしても、彼女は楽しかった思い出だけを思い出している。 そして、その楽しかった思い出を思い出して、また悲しむ。 きっと、もう彼女は楽しい気分になれない事が分かっているからだ。 空が青いのは、その少女が涙を流しているからだ。 その涙が、積もり積もると、雨雲になり・・・。 人を憂鬱にして、そして雨になる。 まるで、泣きじゃくるように。 そして、気分が少し良くなるとまた、晴れ渡る青空。 でも、また悲しい気分になって・・・雨雲になりそして、雨が降る。 永遠に彼女はそれを繰り返しているのだと思う。 それは、永遠に報われない永遠の地獄。 そして、彼女は人間となって時たまこの地に降りてくる。 そして、また彼女は失望するのだ。 楽しい気分にはなれないから。 絵本の最後にはこんな事が書かれていた。 もし翼を持った少女を見かけたら、優しくしてあげて。 そして、楽しい思い出をつくってあげてって。 もし、あなたが苦しい目にあっても、それは、あなたにとっても大切な事だから。 最後に・・・楽しい夏を最後まで送ってあげてって。
「アスカ・・・一緒に夏の終わりを迎えようね」 「うん」 そう言った時、僕は何か身体に痛みを感じた。 なんだろう? 怪我でもしたような痛みじゃなかった。 そう、それは内面的から出る痛みだった。 「つっ・・・」 「シンジっ!?」 「大丈夫だよ、何かちょっとピリッと来ただけだから」 「・・・う、うん」 アスカは、僕が痛みに訴えたことに顔色を変えた。 きっと、アスカの言っていた事はこれなんだ。 『アタシに関わった人は、みんなみんな苦しむ』って。 そして、絵本に書いてあった、『苦しい目』ってのもこれなんだ。 でも、大丈夫だよ。 僕は大丈夫だよ。 たとえ、僕の身体が動かなくなっても、アスカ・・・。 僕は、君と共にいるから。 「アスカ・・・僕の夢を聞いてくれるかい?」 「・・・うん」 「僕の夢は、父さん、母さん・・・僕の大切な人と一緒に笑い合える事」 「・・・・・・」 「父さんと母さんはもういないけど、アスカは僕の大切な人なんだ」 「うん、アタシも」 「だから、笑い合ってくれないかな?」 「うん」 次の日からだった。 僕の身体が悪くなってきたのは。 最初は、左手だった。 そして、次は右手。 そして、今度は左足。 そして、右足。 痺れたような感覚が起きていた。 時たま起きる事なので、常に警戒していた。 両足が痺れた時は、まるで歩けなかった。 その時、僕の隣に居たアスカは、少し悲しそうな顔をした。 その悲しそうな顔を、僕は安心させるために、微笑んであげた。 夏の終わりまでの辛抱だった。 孤児院で読んだ絵本は、きっと昔アスカの事を大切に想ってた人が書いた本だと思った。 自分は、見捨てたように思えたけど、少しムカついたけど・・・。 僕は、その本を信じた。 夏が過ぎれば・・・きっと。 そうすれば、アスカは人間になれると思った。 そう、思えたんだ。 でも、僕の身体はひましに悪くなっていく。 ついには、僕は自分の部屋から出れなくなってしまった。 仕方なしにアスカは僕の部屋まで来てくれた。 そこで、話していた。 「アタシさ、苗字教えてなかったじゃない?」 「うん、そうだね」 「理由はね・・・ないから。それさえも教えられてなかった。教えたくなかったのかもね 自分は関係のない赤の他人だって思いたかったのかもね」 「・・・・・・」 「シンジが少し羨ましいな」 「どうして?」 「苗字を持っているって事は、何処かの誰かと繋がっているから」 「家系・・・って事?」 「うん」 「でも、知らない人同士だったら、やっぱり他人だよ」 「そっか」 そして、ある日 「アタシ・・・空に帰ろうと思う」 「・・・なんで?」 「シンジが苦しんでいるから」 「駄目・・・だよ」 僕は、アスカに触れようとする。 「駄目っ!・・・シンジ、今度アタシが生まれ変わったらまたこうして会おうね」 「・・・・・・」 「それまでに、アタシ・・・治るから。今度は、普通の女の子として会いたいから」 「馬鹿アスカっ!!」 僕は声を荒げた。 「生まれ変わったら?そんなの何時になるんだよ?僕たちは今生きているんだ。今を信じよう」 「それでも・・・駄目じゃな・・・ぃ」 「そんな事ないよ。お願いすれば、叶うさ」 「お願い?」 「うん、お願い」 「・・・アタシは、もう一人ぼっちは嫌。アタシは、ずっとシンジと一緒にいたい」 「うん、それでいいんだ」 シンジがアタシを受けいれてくれてから数日が経った。 シンジの身体はまだ不調子のまんまだった。 アタシは、空に帰ろうと思った。 「シンジ、ゴメンね約束破って」 「アタシ、耐えられないんだ。シンジが、死んでいくの」 「アタシのせいで死んでいくのは、もう嫌」 「過去に一度だけアタシを大切にしてくれた人も死んじゃったから」 「アタシがその人を拠り所にしちゃったから、死んじゃった」 アタシは、背中の羽を広げ。 そして、空を飛ぼうとした。 「・・・・・・え?」 でも、駄目だった。 翼で飛ぼうとしても、まるで駄目。 飛べなかった。 シンジの病気みたいに、アタシの羽は動かなかった。 羽ばたけなかった。 悲しかった。 シンジを苦しめているから。 空に帰って、シンジの事を考えなければシンジが治ると思った。 だから、帰ろうと思ったのに。 シンジを好きにならなければ良かったと思った。 でも、出来ない。 とても、彼が大切だから。 夏がもうすぐで終わる。 それまで、シンジに頑張ってほしい。 そうすれば、シンジは助かると思ったから。 今まで、アタシと夏の終わりまで過ごしてくれた人がいなかった。 過去に出会ったアタシの大切な人でさえも。 途中で逃げ出した。 そして、アタシは願った。 “シンジと夏の終わりまで過ごさせてくれ”って。 “シンジを助けてくれ”って。 そして、アタシはシンジの傍に寄る。 もう、すっかり身体は衰弱しきっている。 アタシのせいで。 「ゴメンね、シンジ」 アタシは、シンジの手を握る。 握りかえす力はない。 それでも、よかった。 シンジの手は温かかったから。 まだ、生きていたから。 アタシは、シンジにキスをした。 まだ、温かかったから。 まだ、生きていたから。 とても・・・大切な人だから。 そう考えているうちに、アタシは・・・。 身体の力が抜けて行った。 アタシもシンジと同じような身体になっていた。 身体が動かなかった。 きっと、それはシンジと心が繋がっている証。 シンジの苦しみは、アタシの苦しみなんだ。 そして、アタシの目の前は真っ白になった。 そして、僕は願った。 “アスカと夏の終わりまで過ごしたい”って。 “アスカを普通の人にしてくれ”って。 そしたら、僕の目の前が真っ白のなった。 きっと、もう駄目だ・・・と思った。 僕は、夢を見ていた。 身体が動けなくなったので、眠ることしか出来ないから。 だから、眠った。 そして、夢を見るようになった。 空の上にいる夢を。 いつも、いつも・・・僕は、そこで少女を見つける。 翼の生えた少女を。 いつも彼女に話し掛けようとする。 でも、彼女には聞こえない。 悲しい。 気づいてもらえない。 あんなにも彼女は、悲しそうな表情をしているのに。 知っている少女だと思うのに。 でも、誰だ? 君は、誰なんだ? 「アタシの名前・・・忘れちゃった?」 「分からない」 大切な人なのに、思い出せない。 どうして? 「・・・アタシの名前は・・・よシンジ」 「え?」 「・・・」 聞こえなかった。 まるで、彼女の名前の部分に靄がかかったように。 そこだけは、聞き取れなかった。 アタシは、だ〜れもいないから。 アタシは、一人ぼっちだから。 そんな事はないよ。 僕がいる。 まだ、名前が思い出せないけど。 僕はここにいる。 だから、そんな事は言わないで・・・。 ね? ア・・・・・・ス・・・・・・カ そして・・・ 「シンジ〜!行くわよ〜!」 「あ、うん」 僕たちは、生きていた。 何でかは知らないけれど・・・。 僕たちは生きていたんだ。 そして、僕の隣には大切な人が笑っていた。 そう、僕も笑っていた。 大切な人と笑い合っていたんだ。 アスカの事は、どっか遠くから来た一人暮らしの女子高生となっている。 それが出来たのは、僕近所に住んでいたお節介なおばさんが助けてくれたからだ。 名を、惣流・キョウコさんと言う。 僕とアスカが、倒れていた時、ちょうど部屋を通りかかったようだ。 そして、彼女は、 「あらあらまあまあ」 とか言いながら、僕たちを助け、介抱してくれたようだ。 何となく、憶えているんだ。 そして、キョウコさんに暫くお世話になっていた。 身体の調子が戻ってきても、まだ本調子ではなかったから。 とても、優しい人だと思った。 そして、戸籍をちょちょいといじって、この世に惣流・アスカを誕生させたようだ。 そう、アスカはキョウコさんの娘となってこの世に誕生したのだ。 アスカもそれを承諾した。 今、アスカはキョウコさんと一緒に住んでいる。 何とも仲睦まじい親子に見えた。 見ていて嬉しかった。 アスカも表の世界に出て行って欲しかったから。 そして、二人で、笑い合いたいから。
「アスカ・・・春も夏も秋も冬も・・・一緒に生きて行こう。ずっとずっと」 「うん」
Fin 後書き 後半が目茶苦茶。 ゴメンナサイ。 でも、何となくAIRに近づけたかなぁ・・・って思ったんですけど・・・。 気の所為? 感想お待ちしております。 「ゴメンなさいね、アスカ」 私は独り言を呟く。 私の名前は惣流・キョウコ。 そう、私は・・・私は、アスカの母親。 偽者じゃなく、本物の。 アスカが生まれた時、私はあの子を捨ててしまった。 ただ、人と違っていただけで。 親戚を盥まわしにされたのは分かっていた。 でもね、私はただそれを見ているしかなかった。 そして、十数年がたった。 私は、夫とも別れて、一人で静かな海の見える街に住んでいた。 そんな時だ、アスカに似た女の子を見たのは。 一目見て、分かったの。 翼を隠していても。 だから、私はいつもアスカと一緒にいてくれた子を気遣うようになった。 アスカが、何かその子を苦しめる事をするのが耐え難かったから。 でもね、二人はそれを乗り越えたわね。 だから、アスカにはせめてもの償いで・・・普通の人として生きさせようと思った。 それは、私の願い。 アスカには、「キョウコさん」と呼ばれて悲しいけど。 たとえ、嘘の親子を装っていてもね。 私は、構わない。