硯   箱    の  ふ   た  


わざとめでたき冊子(そうし)ども、硯の箱のふたにいれてをこせたり

   『更科日記』



尾崎左永子の古今和歌集・新古今和歌集(わたしの古典) / 集英社文庫

この本のおかげで私は和歌好きになりました。「掛詞(かけことば)なんて駄洒落じゃん」とか馬鹿なことを言って

いた私の目を覚まさせてくれたのは、何を隠そうこの本です(笑)。

解説が分かりやすいのも素晴らしいところですが、私はなによりうたの解釈のしかたに惚れました。たとえば、


東雲(しののめ)の別れを惜しみ我ぞまづ鳥よりさきになきはじめつる

うつく (古今・恋三)


といううたを、

「暁の別れが悲しくて、コケコッコと朝を告げて鳴く鶏より前に、私が泣いてしまいますわ」

と訳して、「なんとものんびりのあっけらかんスタイルで、読むたびに笑いを誘われる」と説かれるのですよ。

なにげなーくこのうたを出されたら、私なんかはさめざめと泣く女のうただと受け止めるでしょうが、それをあっさり

くつがえしてみせる解釈のしかたと、「こけこっこ」の擬声語だけで納得させてしまう訳のうまさは、ほんとすごい

です。



萬葉百歌 / 山本健吉・池田弥三郎 / 中公新書

つれづれぐさ・袖振るこころ篇で参考文献としてあげてますが、読みものとしても読みやすいのでこちらにも入れ

ました。萬葉集からいくつかのうたを抜き出して、そのうたについて詳しーく解説してくださってます。

古今集以降のうたになると、わりあいそのまま読んでも馴染めてしまうものが多いですが、萬葉集のうたには民

俗学や歴史学にちかいような独特の背景があると思います。

当時の生活やうたのうたわれた背景についての解説が面白い本です。



色の歴史手帳 日本の伝統色十二ヵ月 / 吉岡幸雄 / PHP研究所

この本は日本の色、特に染色について歳時記風に書かれた本です。その本文もさることながら、実は私が一番

感動したのは、付録として載っている、重ねの色目を再現した写真だったりします。ちなみに、ここでいう重ねの

色目というのは、十二単のグラデーションではなく、一番上に着る衣の表地と裏地の色合わせのことです。

たとえば「桜かさねの直衣(のうし)」というと、表地の白に裏地の紅が透けて、うっすら色づいてみえる、という

やつです。

色見本的に、インクの上で色の取り合わせを示すものはけっこうあるのですが、この「うっすら」具合は実際に布

を重ねて見なければ分からないわけですよ。

で、この本ではその「うっすら」具合が堪能できてしまうのです。ため息ものです。


細かいこと言うと、この「重ね」というのは実際に布を重ねてるのではなく、縦糸と横糸の色が違うのだとか諸説

あるようですが、趣味で楽しむ分には、まあどっちだってかまわないだろうと思います。自分のイメージにぴったり

くれば。

物語の主人公たちがどんな服を着ているかは、古典だろうが現代の小説だろうが、読者のイメージに委ねられて

いると思うわけです。




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