
a kiss 中澤×飯田
南国の夜を満たす風と月明かりは、開放的なムードを醸し出す。
(遠くに聞こえるのは圭坊と矢口の声かな・・・・?
そう言えばプールに行くとか話してたなあ。昼間新しい水着買ったとか・・)
「なかざわ〜〜〜飲んでるう??」
コテージで一人缶ビールを傾けていた中澤の背後から、不意に抱きついた者が居る。
肩越しに流れる黒髪。女のコらしい清潔感溢れる匂い。
「圭織。あんた酔っ払ってるんかいな?」
「悪い〜〜〜?」
どうやらスタッフの誰かが面白がって飲ませたらしい。
(やれやれ・・・)
「うふふふふ・・・裕ちゃんってホント細いんだねえ」
飯田は長い腕を絡ませたまま、耳元で話しつづける。
「あんたかて大概細いやろ?」
「でもお、裕ちゃんの場合は凄く色っぽいから、かおり、羨ましいよお」
「ちょ・・耳元で喋るん堪忍してや。そこ弱いねん」
苦笑いする中澤に、飯田は余計に悪ノリしようとする。
「ここ?ふう、ふう〜〜。なんてねえ・・・」
「・・ぁあかんて。怒るで、マジで」
「裕ちゃん、可愛い〜〜〜〜〜!!!」
飯田が体重を乗せて覆い被さって来た為、バランスを崩して安楽椅子から転がり落ちる。
「いたたた・・・。圭織、重いやん。ちょ・・・」
文句を言おうとした中澤の唇が塞がれる。
風の音。サラサラの美しい黒髪の感触。
月明かりの下で見た飯田の幻想的な美しさを中澤はずっと忘れることがないだろう。
写真集の撮影のために訪れた、あの南の島で起きた偶然の出来事。
幻のような、あの時のKISS・・。
長く綺麗な黒髪。整った顔立ち。すらりと伸びた長身。
伸びやかな手足。飯田の外見は同性から見れば理想的な輝きを放っている。
中澤だけでなく、メンバー全員から羨望の眼差しを受けていたのは、当然と言えるかも知れない。
(あの腕や肢を自分の体と絡めて・・・はぁ・・・)
欲望にとりつかれた女の妄想は広がるばかりだ。
「あはは。そんな嬉しそうな顔しちゃって・・・。ほんとスケベっすね。ほら。ここ、どう?」
「ぁああ・・・いい・・・凄くいいです・・ん・・・」
市井が極秘に借りているマンションのバスルーム。
中澤は市井から1週間ぶりの褒美を受け、歓喜の声をあげていた。
一体どこで覚えてくるのか、
ソープ嬢のテクニックのような市井のローションプレイに、中澤は我を忘れて行為を甘受していた。
もう少しで中澤が頂上を迎えようとした時、インターホンのチャイムがそれを遮った。
市井の表情が変わる。
「しまった。忘れてた!」
「・・・ぁあはぁはぁ・・どない・・したん?」
「すぐ身体拭いて出て。はやく!」
(せっかくえええとこやったのに・・・。一体誰やねん)
市井の声に促され、渋々バスルームを出る。
市井は素早く受話器をとり、少し待つようにドアの前の相手に伝えると、
中澤を衣装ケースに隠し、部屋の中をチェックすると、
中澤の靴を靴箱に放りこみ、その女を部屋に招き入れた。
「何やってたのお?かおりが来るの、忘れてたの?」
「ごめん。ごめん。時間間違えて、お風呂入ってたんだ」
(圭織?なんで紗耶香のこのマンション知ってるん?)
紗耶香がここに自分を押しこんだ不自然さと併せ、不安に駆られながら、
中澤は衣装ケースのブラインド越しに、その様子を見つめていた。
他愛のない会話。その間に流れる二人の空気。
ブラインドから覗きこむ二人の様子は、「男と女」のそれだった。
「同性愛」や「主従関係」とは明らかに違い、対等な、「男女の関係」にしか見えない。
中澤は困惑していた。
(どういうことやの?圭織はノンケのはず。それにちゃんとミュージシャンの彼氏もおるやん)
ほどなく二人はベッドの上でキスを繰り返し、行為に移って行った。
中澤は、初めて見る飯田の姿を、固唾を飲んで見守っていた。
(やっぱり、綺麗やなあ・・・。絵になるわ)
市井の飯田に対するそれは、中澤との関係には見られない、愛情の篭った優しさに溢れていた。
中澤は自分の中に嫉妬の感情が湧きあがってくるのを感じていた。
市井が自分との行為を中断して飯田と愉しんでいるということと、
自分が妄想していた飯田との情事を目の前で実際に繰り広げている市井・・・。
(ウチもあんなふうに圭織としたい・・)
火照った体が疼きを思い出させ、中澤は自分の指を動かし始めた。
まるで、フランス映画のラブシーンのように、シーツの海を泳ぐ飯田の身体・・・。
市井が不意に顔を上げると、中澤のほうを見て薄ら笑いを浮かべた。
それはまるで、(どう?羨ましい?)と中澤に問い掛けているように思えた。
(んはあっ・・・。圭織・・・凄い・・乱れ方まで綺麗・・・ああ・・ウチかて・・)
市井の指の動きに合わせて、しなやかな身体を仰け反らせる飯田。
「んっ・・・。紗耶香・・。もう、イキそうだよ・・。いい?イッてもいい?」
「綺麗だよ、圭織。気持ち良くなっていいんだよ。ほら・・・」
市井の指の動きが微妙に変わると、飯田は眉を寄せ、快楽を身体一杯に表現しながら上り詰めて行った。
勿論、飯田を追うように、中澤もまたそれを見ながら果てたのである。
(はぁはぁはぁ・・でも・・。何であの二人が?)
ベッドの上では、汗ばんだ御互いの身体にキスしながら、じゃれあう二人がいた。
バイセクシャルの中澤と違い、飯田は極めてノーマルだ。
ギタリストの彼と普通の恋愛をし、同性には興味がない。
中澤とのキスの一件は、偶然の事故のようなものだったし、飯田自身あのことは覚えていないようだった。
しかし・・・・、昨夜の市井のマンションでの出来事は、現実のことなのだ。
(紗耶香を同性として見ていないってこと?それなら解る気がする)
アーティストを自負する飯田には、ある種、割り切って「違うこと」のできる部分がある。
今日から1週間、市井からは禁欲を命じられている。勿論、例によって自慰行為も禁止だ。
市井はいつものように、意地悪く自分を挑発してくるだろう。
中澤の飯田に対する妄想は膨らむばかりだ。
(かおり・・・。ウチのことも厭らしい目で見て欲しい)
熱っぽい中澤の視線には気付かず、飯田はいつも通りに接して来る。
「裕ちゃん、どうかした?」
屈託無く笑う飯田が眩しい。届かない想い・・・。
片思いに似た感情に身を焦がしながら、中澤の心と身体は欲求のはけ口を求め、もがき苦しんでいた。
「あんたら・・・それ・・」
「あっ!裕ちゃん!ゴメンナサイ。あっち行って食べるね」
矢口の持っていたバナナを見つめる中澤の頭の中は、全く別の妄想が渦巻いている。
その様子を見てほくそえむ市井の頭の中には、既に宴の計画ができあがっていた。
(ぷぷぷ・・。相変わらず解りやすい女!でも今回は、あたしにしては優し過ぎるかな?)
その日、中澤、市井、飯田の3人は中澤のマンションに集まって「飲み会」をしていた。
一人混じっている男は、以前市井と組んで中澤を罠に填めた広告代理店の男・・・杉本である。
このメンツを考えても、市井が今夜、何かを企んでいるのは間違い無いだろう。
中澤の心中は不安と期待で入り混じり、ついつい飯田にばかり気をとられていた。
勿論、飯田のほうは中澤のことなど眼中にない。
全員がほろ酔い気分になったとき、市井は計画を実行し始めた。彼女が取り出したのは一本のビデオテープ。
「ねえ、面白いテープがあるんだけど、みんなで観ようよ」
「へえ。何ですか?」
杉本がわざとらしく相槌を打つ。
市井は中澤のほうに含みのある笑顔を向けると、そのテープを再生し始めた。
(・・・あ・・・あのテープ、もしかして・・)
中澤の予感は的中した。まさか、こういう使い方をするなんて・・・。
引きつった表情で固まる中澤をよそに、画面の中の彼女は、
下着姿でカメラの前で足を広げて座り、憑かれたような眼差しでこちらを向いている。
「じゃあ、オナニーして見せてよ」
カメラを向け、指示を出しているのは杉本の声である。
「あんた見てもらいたいんだろ?助平な自分をさあ」
「・・はい・・・。あたしはドスケベですぅ」
画面の中澤は早くも指の動きが活発になり、腰をよじり始める。
白い下着は瞬く間にぐっしょりと湿り、薄い茂みがクッキリと透けて見える。
「パンティ脱いでもいいですよ。直接弄りたいでしょう?」
杉本の嘲笑を孕んだ声が、中澤の行為を促す。
「わわ!何っすか?!!これ!これ裕ちゃんだよね?うそ〜〜!!」
待ってましたとばかりに、市井が驚いたような声を上げる。
(ああ・・・紗耶香・・酷い。圭織にこんなん見せるやなんて)
画面を正視できず俯いている中澤の耳に、市井と杉本の嘲る声が響く。
「あははは!!信じられないよお。こんなAVみたいなことしてんだ!ウチのリーダーは」
「いやあ、中澤さんに撮ってくれってせがまれちゃって・・・」
(もう・・・終りやわ・・・。ノーマルな圭織にあんな姿見られて・・・ウチ・・)
その時、飯田が突然勢い良く立ちあがった。
「かおり、帰る!!」
その声は怒りに震えていた。
「何なの?見そこなったよ!こんなくだらない物見せてさ。
あんた達の変態趣味には付き合ってられないよ!もう最悪」
そのまま出て行こうとした飯田の肩を、市井が抑えつける。
「まあ、待ちなよ。悪かったって。ね?」
市井が何やら小声で耳打ちすると、飯田は頬を膨らましたまま、元の場所に座りなおした。
中澤の胸の中は、恥ずかしさと情けなさで潰れてしまいそうだった。
(ウチ、圭織に軽蔑されてる・・・。あんな目でこっちを見てる・・・)
「裕ちゃんて、最低だね。
まあ、そりゃあ、どんなエッチしようが勝手だろうけど、かおりに見せてどうするつもり?
そうやって興奮するの?」
激しく冷たい飯田の口調。蔑んだ目つき。中澤は羞恥心に襲われながら、確かに感じていた。
身体が火照り、中心からトロリと熱いものが湧き出して来る。
(・・もっとウチを罵って欲しい・・)
「バカじゃないの?!!何嬉しそうな顔してんのよ。この変態が」
言葉を浴びせる飯田自身も、己の中から湧きあがる奇妙な感情に戸惑い始めていた。
「何?今度はボロボロ泣いたりして。いつもの強気な中澤裕子はどこなの?!何とか言いなよ」
うずくまる中澤の身体を杉本が愛撫し始める。その光景を見下ろす飯田・・・。
(あたし、どうしたんだろう?何か凄く変な気分だよ・・)
飯田の背後からは市井が腕を絡ませてくる。
杉本の指の動きに中澤の声が呼応する。
画面の中の中澤も絶頂が近づき、二つの声が折り重なって部屋一杯にそれが響き渡る。
「・・圭織・・・ん・・・ぁ・・これが本当のあたしなん・・・」
羞恥と悦びの入り混じった声で、中澤が訴える。
「許せない・・・。こんなの許せないよ。かおりは!」
(裕ちゃん、そんな切ない目で見ないでよ。そんな情けなく女に浸らないでよ!)
市井の愛撫を受ける飯田の声も上ずって行く。
「圭織、もっと言ってあげなよ。罵られるほど感じちゃうみたいだよ。中澤さんは。ぷぷぷ」
耳元で囁く意地悪な市井の言葉に、飯田の中の衝動が、今はっきりと形になりつつあった。
(裕ちゃん・・・。そんなに気持ち良さそうに陶酔しきって・・・ああ、もう!!!)
半裸のまま杉本にいいように弄られ、ヘロヘロの中澤に、強張った表情の飯田が近づいて行く。
「そうだよ。圭織。あんたの思うように、その女にお仕置きしてあげな」
(そうだ。あたしが、裕ちゃんをメチャメチャにしてやるんだ・・・)
飯田の整った口許に笑いが浮かぶ。
「裕ちゃん。今夜はかおりのオモチャになってもらうからね」
ソファに華奢な女を組み敷くと、飯田の中に、今まで味わったことの無かった征服感と欲望が生まれつつあった。
「・・・圭織・・・。嬉しい・・。もっと、ウチを壊して・・」
かつて無い興奮を覚えながら、飯田はゆっくりと舌と指を動かし始めた。
夢にまで見た飯田の愛撫に、中澤はあっけなく頂上を迎え、身体を戦慄かせた。
「もうイッたの?!!!このスケベ女!!」
自分の吐き出す言葉に、更なる興奮を覚え、飯田の動きが加速される。
(この女!この女!この女!!狂わせてやるっ!)
激しい感情と共に、飯田の中に愛しさが湧きあがる。
そして、二人は唇を合わせ、ねっとりと舌を絡ませた。長い、長い・・kiss・・・・。
「・・・ひっ・・はひっ・・・ぁふう・・・」
「裕ちゃん・・・裕ちゃん・・・厭らしいよ」
汗ばんだ体が絡み合う。美しく咲き乱れるふたつの華からは、お互いの喘ぎ声。
中澤は既に何度上り詰めたのか解らなくなっていた。朦朧とした意識を快楽だけが包み込む。
責め続ける飯田の精神もトランス状態にあり、終りのない儀式が延々と行われていた。
(さて、そろそろシメにしますか)
市井は杉本と充分に楽しみ終えると、飯田に声を掛けた。
「圭織、これ使いな」
いつもの飯田なら、差し出されたペニスバンドを嫌悪をもって見ただろう。
しかし、今の飯田は違う。
飯田の頭の中には中澤ときちんと結ばれることしかない。
抵抗無くそれを装着すると、ゆっくりと深く中澤の中に沈めていく。
「ああ・・・裕ちゃんの中に入って行くよ・・・ねえ?気持ちいい?」
「・・ぁふぁああぁ・・うん・・良過ぎるうぅ・・あっ・・」
二人は同時に身体を貫く快楽を共有した。
「んっ・・・凄いっ!!・・ん・・んん」
飯田の動きが激しいものに変わり、互いの息がどんどん荒くなって行く。
長く美しい髪が大きく揺れる。
(裕ちゃん・・・綺麗・・・・凄い・・)
「か・・かおりもぉ・・・気持ちいいっ!んん」
自分の下で細い体をしならせる中澤と同時に絶頂感が被う。
中澤の頭の中は真っ白になり、全身に痺れを感じながら、意識が遠のいて行った。
既に中澤の意識は夢の中を漂っていた。これは現実?幻?遠い記憶のキスが重なる。
甘く切ないキス・・・もう一度。
―――おわり―――