
いたちごっこ
2003/11/2
新明解の「いたちごっこ」がスゴイという噂は聞いていたのですが、あらためて見てみると確かにすごかったので、紹介します。
まず、初版・第2版の「いたちごっこ」はたった4行、語釈も2つでした。
| いたち【鼬】 【いたちごっこ】(一)ふたりが互いに手の甲をつねって、その手を重ねてゆく遊び。(二)両者が同じように非建設的なことをやりあうだけで、少しも発展性がないこと。(初版・第2版) |
語釈(一)の「ふたりが互いに手の甲をつねって、その手を重ねてゆく遊び。」は初耳ですが、あまり楽しそうではありません。(若い女の子とやったら楽しいかも。)
次に、第3版では語釈(二)に用例が一つ追加されました。
| いたち【鼬】 【いたちごっこ】(一)ふたりが互いに手の甲をつねって、その手を重ねてゆく遊び。(二)両者が同じように非建設的なことをやりあうだけで、少しも発展性がないこと。「−に終わる」(第3版) |
「いたちごっこに終わる」という用例が追加されています。わざわざ追加するほどのものでもないような気がしますが、それはさておき、普通だと「いたちごっこ」程度の言葉にこれ以上の発展があると誰も思わないでしょう。
ところが「いたちごっこ」は第4版で大爆発します。
| いたち【鼬】 【いたちごっこ】〔江戸時代後期にはやった子供の遊戯【=向かい合った二人が「鼬ごっこ鼠(ネズミ)ごっこ」と唱えながら相手の甲をつまんで順次に重ね行くことを際限無く繰り返した事】に基づく〕 (一)(A)互いに相手の上に出ようとして、実りの無いことの言い合いを繰り返すこと。 (B)たわいが無くて実りの無い問答を果てし無く繰り返すこと。 (二)(A)相反する関連に在る両者が、交互に優位に立つことを果てし無く繰り返すこと。「夏になると雑草との―が始まる」(B)相反する立場に在る両者が互いに優位に立とうとして果てし無い競争を繰り返すこと。「全国的に生息地として有名になると、かえってマニアが集まるという、保護と濫獲の―が続いています」(C)相対する一方が他方に熱い心を傾ければ傾けるほど、他方は心を段階的に かたくなに閉じてしまうことを飽きずに繰り返すこと。 (三)元来治まっておるべき両者の関連が調和を欠き、事有るごとにエスカレートして対抗を繰り返すこと。 (四)(A)一つのマイナスの状態が他のマイナスの状態を引き起こすという悪循環。「各地のローカル線が歩んできた道は、客離れ→便数減→新たな客離れ、という―」(B)甲がAという方策を案出すれば、乙はその上を越すBを考案する。甲はそれに対してaを案出し、乙はbをもって対抗するというぐあいに、止めど無く競争を繰り返すこと。(C)管理者側の行政的・機械的規制と、それに反撥(ハンパツ)して息抜き・自由の天地を求める側との間に繰り返される、不断の抗争。 (五)当局が取締りを強化すれば相手はその裏をかいたりさらに新たな抜け道をくふうしたりするというように、被取締り者の行動を封ずる当局の試みがなんら根本的な解決にはなっていないために、現在の好ましくない対立が止めど無く繰り返されること。(第4版) |
実に28行にわたって、「いたちごっこ」 の意味が綴られます。第4版発行にあたって、かなり「いたちごっこ」の研究がなされたようです。
しかし、これほど詳しく「いたちごっこ」を解説する必要があるのでしょうか。
そもそも、読むのがなかなか面倒です。そして苦労して読んでも、一読しただけではなんだかよくわかりません。 というか、どれも同じようなことを書いているような気がして、違いがわかりません。
こういう批判を受けてか、第5版。
| いたち【鼬】 【いたちごっこ】〔江戸時代後期にはやった子供の遊戯【=向かい合った二人が「鼬ごっこ鼠(ネズミ)ごっこ」と唱えながら相手の甲をつまんで順次に重ね行くことを際限無く繰り返した事】に基づく〕 (一)互いに相手の上に出ようとして、実りの無い論争を(果てしなく)繰り返すこと。 (二)(A)相反する関連に在る両者が、交互に優位に立つことを果てし無く繰り返すこと。「夏になると雑草との―が始まる」 (二)利害などの相反する立場に在る両者が互いに優位に立とうとして果てし無い競争を繰り返すこと。〔具体的には、管理者側の行政的・機械的規制と、それに反撥(ハンパツ)して息抜き・自由の天地を求める側との間に繰り返される、不断の抗争や、当局が取締りを強化すれば相手は その裏をかいたり さらに新たな抜け道をくふうしたり するというように、被取締り者の行動を封ずる当局の試みがなんら根本的な解決にはなっていないために、現在の好ましくない対立が止めど無く繰り返されることなどを指す〕「全国的に生息地として有名になると、かえってマニアが集まるという、保護と濫獲の―が続いています」 (三)相対する一方が他方に熱い心を傾ければ傾けるほど、他方は心を段階的に かたくなに閉じてしまうことを飽きずに繰り返すこと。 (四)一つのマイナスの状態が他のマイナスの状態を引き起こすという悪循環。「各地のローカル線が歩んできた道は、客離れ→便数減→新たな客離れ、という―」(第5版) |
23行に減少しています。新明解の語釈は、版が新しくなるにしたがって拡大していくものとばかり思っていたのに、そうでないものもあるんですね。
読んでお分かりのように、内容的にもかなり見直しがなされています。同じようなものは統合・整理され、不要なものは削除されています。うまくリストラに成功した例だと思います。
もっとも、そもそも第4版が無茶苦茶すぎたような気もします。第4版発行当時はいわゆるバブル時代の絶頂期。辞書の語釈にもバブルの雰囲気が及んでいたのでしょうか。