へのこの森


2004/11/9


「きのこ」は「木の子」の意だそうです。


きのこ【菌】〔木の子の意〕湿った所や木の皮などに生える胞子植物。柄と かさが有り、胞子で増える。例、マツタケ・シイタケ。(第5版)



「たけのこ」も語源は文字通り「竹の子」ということでしょう。


たけのこ【筍】 うろこ状の皮に幾重にも おおわれた竹の若芽。食用。[表記]「竹の子」とも書く。(第5版)




では、「へのこ」は?



…という質問をブログに載せておいたところ、サタさんから次のような投稿がありました。(ありがとうございます。誰からもコメントがなかったら、どうしようかと思っていました。) 【R指定】のような気もしますが、そのまま転載します。



サタさんからの投稿2004-11-03 22:03:22)


クイズに答えます。すこし長いですが。

(1) 地名
 沖縄の辺野古、ジュゴンで有名です。

(2) 方言
 十津川では、「屁」そのものを意味するそうです。

(3) お祭り
 山の講まつり 大垣市
  男衆が「御へのこ」を担いで家々を回り、山の女神に供える奇祭。
 豊年祭り(へのこ祭り) 小枚市
  田県神社の祭り、近くの大県神社境内姫宮社の「おそそ祭り」。
 ぼんのこへのこ祭り 甲西町
  松尾神社の奇祭、子供達が「ぼんのこへのこ作右衛門のなすびヤ−イ−!」
  と声を大に練り歩く。

(4) 川柳
 「末摘花」の川柳はおもしろい。
 http://tokdo53.arrd.net/hr-03/suetumuhana/
  気の毒さ へのこばかりに 脈があり
  仰向けに 寝ていて女房に へのこされ …これは新解さんにはない語釈ですね。
  女房に へのこをさせる 不しやう者 …これもそうですね。
  むらさきは へのこにしても 至極也
  ふとどきな 女房へのこを 二本もち …これは2ピーではありません。単なる不倫です。

(5) その他
 北海道秘宝館
 http://www.chowchow.gr.jp/inova/hokkaido/hokaido2.html
 ここのアトラクションの目玉ともいえるへのこ大砲(左の図)。

 このページはおもしろいです。
 http://www.chinawork.co.jp/e-tanaka/tanaka-2.htm

 http://www.makuhari.or.jp/urbanist/1995/95_042.html
  中沢■好きだよね。あと、へのこの話ね。
  杉浦■湯屋のね。
  中沢■踏んじゃったってやつでしょ(笑)。…



 「へのこは何の子か?」と質問したつもりだったのですが、それはさておき、勉強になりました。(やっぱり【R指定】でしたが、今回は学問的(?)な内容のつもりなので、字は消しません。)



 さて、「へのこは何の子か?」ということについて、「塀の子」という説があります。


 昔あるところに、のぞき趣味の男がいて、あるお屋敷を塀の穴からのぞいていた。そのお屋敷には若いお嬢様がいて、全裸で行水をしていた。男はだんだん興奮してきて、露出趣味もあったのであろう、自分の「へのこ」を穴から突き出した。娘がびっくりして、側にいた老女に「あれは何?」とたずねたところ、老女が答えて、「木に生えるのはキノコ、塀に生えるのはヘノコでございます。」 ちゃんちゃん。 (万省堂注:いわゆるひとつの艶笑小話ですが、細部は忘れましたので、適当に作りました。)



 また、かの蜀山人は「屁の子」説を唱えています。


「後門の傍らに在るものなれば屁の子といふか。」(蜀山人『金曽木』)




 また、「変の子」という説もあります。


「変の子」 陰茎。変な子の意(日本言語研究会『語源明解 俗語と隠語』岩木書房、1949)



 「屁の子」と「変の子」のネタ本は、『隠語大辞典』(皓星社)ですが、この本にも品のない川柳が載っていたので、参考までに紹介します。


女房の角はへのこで叩き折り
親よりも栄花をしたり屁の息子
なりも似て一字違いは木の子なり




 以上見てきたとおり、一般に「へのこ」は「さおのようなもの」の意味で使われていますが、新明解国語辞典を引いてみてください。



へのこ(一)「きんたま」の異称。(二)陰茎。(第4版・第5版)
注:初版〜第3版は「へのこ〔俗〕(一)きんたま。(二)陰茎。」となっていた。



 語釈の一番目は「たま」で、「さお」は二番目になっています。(万省堂注:サタさん紹介の『末摘花』には、「合体」の意味もあるようです。)




 『言海』(ちくま学芸文庫版)には、次のように書かれています。


へのこ〔名〕|陰核|(一){陰嚢ノ中ノ核。睾丸(きんたま)。和名抄「陰核、篇乃古」 (二)今、俗ニ、誤テ、陰茎。(万省堂注:原文では「へのこ」の「こ」は「古」をくずした変体仮名)




 「今、俗に、誤って」ということですから、もともとは「たま」の意味が主で、「さお」は誤った使い方だというのです。



 『大言海』を引いてみると、この点について『貞丈雑記』十五「言語之部」の文章が引かれていました。


陰茎ヲまらト云フハ、近世ノ俗語ニハアラズ、古代ヨリノ名也、云云、和名抄ニハ、陰嚢ノ二字ヲ、俗ニ布久利(フグリ)ト記シ、陰核ノ二字ヲバ、俗云篇乃古(ヘノコ)ト記シタリ、陰核ハ、今ノ世ニ云フきんたまノ中ノクリクリ也、ソノクリクリヲ古ハへのこトイヒシ也、然レバ、まらノ事ヲへのこト云ハ称違也。 (万省堂注:「へのこ」の「こ」は「古」をくずした変体仮名。また、漢字は原文では一部旧字。)

陰茎を「まら」と言うのは近世の俗語ではなく、古代よりの名である、云々。『和名抄』には、「陰嚢」の2字を俗に「ふぐり」と記し、「陰核」の2字を俗にいう「へのこ」と記している。「陰核」は今の世に言う金玉の中のくりくりである。そのくりくりを昔は「へのこ」と言ったのである。したがって、「まら」のことを「へのこ」と言うのは、となえちがいである。 (万省堂訳)



 「きんたまの中のくりくり」だそうです。



 では最後に、ついでですので、『日本国語大辞典 第二版』を紹介して終わりにします。


へ‐の‐こ【陰核】〔名〕
(1)睾丸(こうがん)。きんたま。へのこだま。*十巻本和妙抄(934頃)二「陰核 食療経云食蓼及生魚或令陰核疼<陰核 俗云篇乃古>刑徳教云丈夫淫乱割其勢<勢者則陰核也>」 *名語記(1275)七「ふぐりの中のヘノコ、如何。答、へはふえの反。魚の腹の中にまろなる物也」
(2)陰嚢(いんのう)。*大唐西域記長寛元年点(1163)一「竊に自ら勢(ヘノコ)を割き」 *日葡辞書(1603-04)「Fenoco(ヘノコ)<訳>陰嚢」 *咄本・八行整版本昨日は今日の物語(1614-34頃)「扨もつめたい事じゃ。へのこが梅干になるぞ。」
(3)陰茎。*新猿楽記「謂■(ヘノコ)大而如虹梁(万省堂注:■は「門に下」の字) *咄本・醒酔笑(1628)七「われは牛のへのこが四つほしい」 *和爾雅(1688)三「陰茎(ヘノコ)」 *寄笑新聞(1875)<梅亭金鵞>五号「▲(ヘノコ)は惣身の肉の余り」(万省堂注:▲は「尸に吊」の字)
[方言](1)男子の陰部。へねこ (2)女陰。 (3)ふんどし。 (4)主人。ののしっていう語。 (5)男性。へのこやろ〔−野郎〕(万省堂注:出典はすべて省略。)
[語源説](1)フグリの中の子の意。へはフエの反〔名語記〕。 (2)マエノホコ(前之鉾)の義〔日本語源学=林甕臣〕。 (3)ヘノクキ(陰茎)の意か〔俗語考〕 (4)方の児の義〔名言通〕。 (5)ホノコ(陽子)の義。ホはヘノの反〔言元梯〕。 (6)ヲノコ(男子)の転〔神代史の研究=白鳥庫吉〕。
[発音]略。[辞書]略。[表記]略。



 〇語釈について、「合体」の意味は載っていませんでした。

 〇方言について、サタさんの投稿にあった十津川の「屁」の意味は載っていませんでした。

 〇語源説について、「塀の子」「屁の子」「変の子」は全く相手にもされていませんでした。(万省堂注:文中の「反」は反対という意味ではなく、「反切」という字音表示の方法のこと。反切についての説明は面倒なので省略。)




【補足1】 タイトルの「へのこの森」は、「きのこの山」「たけのこの里」のパロディーですが、今回この「へのこの森」を無事くぐりぬけたあなたは、ちょっとした「へのこ通」になっていることでしょう。


【補足2】 サタさんの投稿で紹介のあった「100万人の中国語(http://www.chinawork.co.jp/e-tanaka/tanaka-2.htm)ですが、ここで使われている「へのこ」は「たま」の意味なのか「さお」の意味なのか不明確です。中国語辞典で「卵」を調べたところ、小さい辞書には「睾丸」と書かれていましたが、大きい辞書には「男性の生殖器。睾丸。陰茎。」と書いてありました。


【補足3】 江戸小話「松茸のようなもの」(いろいろなバージョンがあるようですが、こちらのサイトより拝借)

手代、医者行き、聞き合わせる「手前どもの娘御もおかげ快方に向い、食欲も出てまいりました。鱚・長芋のたぐいは食べてもようございますか?」「ああ、もうよろしい。」「松茸のようなものは?」「いやいや、それは大禁物でござる。なりませぬなりませぬ」「イヤ、松茸でございますよ」「ああさようか。松茸ならばようござる。松茸のようなものはなりませぬぞ」



【補足4】 Yahoo!で「へのこ」を検索すると、4万件以上ヒットしますが、ほとんどが「あなたへのことば」とか「復元へのこだわり」とか「君へのこの想い」とか、「篇乃古」と関係ないものばかりです。



 

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