役人批判の原点

2002/7/15


 新明解国語辞典が公務員に対して妙に手厳しいことについて、武藤康史編 『明解物語』 (三省堂)に、これに関連した興味深い話が書かれてあったので、紹介したいと思います。



 昭和30年、山田忠雄先生が編集主幹となって初めて出された辞書『音訓両引き国漢辞典』が三省堂から出版されました。これは小中学生、高校生向けの学習用辞書だったのですが、新明解の語釈の萌芽と思われるものがいくつかありました。


 例えば、「俗吏根性」「役人根性」について、こんな具合でした。

【俗吏】ゾクリ
 つまらない 小役人。〔属吏のもじり〕
 −根性〔毎日たいした しごとも せず、せきにんの なすりあいや なわばりあらそいをし、人民には いばりちらし、役とくを はかったり、恩給が つく ことばかりを かぞえて 待つというわけで〕役人を ばかにした いいかた。

【役人】ヤクニン
 役所に つとめている こうむいん(公務員)。
 −こんじょう(根性) せきにんを なすりあったり 物を そまつに したり いばったり、わいろを とったりしたがる 役人の 悪い せいしつ。
                      (『明解物語』P55,56より)



 これは、すごいです。

 俗吏根性とは、「毎日たいした仕事もせず、責任のなすりあいや縄張り争いをし、人民には威張りちらし、役得を図ったり、恩給がつくことばかりを数えて待つ」こと。

 役人根性とは、「責任をなすりあったり、物を粗末にしたり、威張ったり、賄賂を取ったりしたがる」こと。


 駄目な公務員の側面をこれほど見事に、これほど簡潔に、これほどストレートに書いた文章を見たことはありません。



 この文章は、当時山田主幹が主張していたという「わかち書き」によって書かれ、また主にひらがなが用いられていることからも子供向けであることが分かりますが、その子供たちに対し、役人は悪いヤツだということを徹底的に教え込もうとしています。



 山田主幹は、「辞書は文明批評だ」(同P268、柴田武先生の証言)とか、「字引というのは、人に教えるためにあるもんだ」(同P284、金田一春彦先生の証言)とか常々言っていたようで、新明解国語辞典のあの独特の語釈も、決して受けねらいなどではなく、山田主幹が本気でそう思って書いていたのです。

 こんなとんでもない辞書、絶対に他には無いです。


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