Cthulhu Atras(か行)






カダス

(Kadath/カダト、コーダト)

土地
異次元or南極大陸or「夢の国」

 凍てつく荒野のカダスは「ネクロノミコン」に記される禁断の地である。その位置には諸説あり、定かになっていない。

「ネクロノミコン」はカダスを中央アジア、レン高原の彼方としているが、モンゴルと次元連続体として重なっているという説もある。

 ラヴクラフトの「狂気の山脈にて」では、南極の狂気の山脈の彼方、ヴィルヘルム二世ランドとクインメリーランドにある、白亜紀初期の大変動によって隆起した、南緯77度、東経70度から南緯70度、東経100度に渡って広がる5万フィート(およそ15,240メートル)の大山脈がカダスであるとされている。かつて南極に栄えた「古のもの」でさえ恐れた、禁断の邪悪な秘密がそこに眠っているという。

 さらに、『夢の国』の北方の荒野に位置する至高の山の頂には、冒涜的なまでに巨大な縞瑪瑙の城としてカダスが存在する。ここには『夢の国』を支配する「大いなるものども」が、蕃神とニャルラトホテップに護られて住んでいる。

 H・P・ラヴクラフト『未知なるカダスを夢に求めて(The Dream Quest of Unknown Kadath)』
            『狂気の山脈にて(At the Mountains of Madness)』


カルコサ

(カーコサ/Carcosa)

古代の邑
都市
ヒヤデス星団

 そもそもはアンブローズ・ビアースの「カルコサの住民」に登場した太古の廃都だったが、チェンバースによって、禁断の戯曲『黄衣の王』に登場する、ハリの湖のほとりにある失われし地とされている。

 ダーレスは、ハリ湖ハスターの眠るヒヤデス星団の暗黒星にあるとしている(「カルコサの住民」では、夜が明けてヒヤデスとアルデバランが地平線上に上る様が描かれている)ので、クトゥルー神話におけるカルコサはその地あると考えていいだろう。
 ビアースやチェンバースの描くカルコサは、地球上にあったと考えても差し支えない地だったが、ヒヤデスに存在するカルコサがどのような都であるのかは不明。

 A・ビアース『カルコサの住民(Inhabitant of Carcosa)』
 R・W・チェンバース『名誉修理者(The Repairer of Reputations)』
 A・W・ダーレス『ハスターの帰還(The Return of Hastur)』


狂気の山脈

(Mountains of Madness/狂気山脈)

特になし
土地
南極大陸

 南極大陸、南緯82度、東経60度から南緯70度、東経115度の地点に掛けて弧を描く巨大な山脈。その標高はヒマラヤ山脈を遥かに凌ぎ、最高峰は34,000フィート(およそ10,363メートル)に達するという。また、レン高原の原型であるとも言われている。

 この山脈の頂上には、広大かつ奇怪な有様の都市の廃虚が眠っている。これは、かつて地球に飛来して地球上の 生命を創り出したといわれる『古のもの』の都市である。 『古のもの』達は太古、南極大陸が温暖であった頃にこの地に最初の陸上都市を築いた。その後、氷河期に至るまでこの地は『古のもの』の拠点であり続けた。
 南極が温暖であったという事だが、南極大陸の一部であるクイーンモードランド地方はかつて南極大陸とは別個の、植物の生い茂る土地だったが地殻変動によって移動し、南極大陸と合体したのであるという。事実、植物の化石化したものである石炭がこの土地から発掘されており、この地に植物が繁茂していたのは、紀元前4000年から1万年前と考えられている(残念ながら狂気の山脈はこの地域に該当しないが)。

 この山脈の北側には、白亜紀初期に起った大変動によって標高5万フィート(およそ15,240メートル)の大山脈が南緯77度、東経70度から南緯70度、東経100度に渡って広がっている。一説によるとこの大山脈が凍てつく荒野のカダス の伝説の元になっているという。いかなるものかは知られていないが、この山脈の彼方には『古のもの』達さえ恐れた禁断の秘密があるといわれている。
 この山脈からは川が流れ出し、都市を抜けて地下洞窟へ流れ込んでいる。『古のもの』達は気候の変動による酷寒を避けるべくこの地下洞窟に都市を築いたが、この新都市はショゴスの反乱によって滅ぼされ、現在ではショゴスの巣窟となっている。

 もちろん、南極には実際にこのような山脈は存在しない。これを説明づけるため、ブライアン・ラムレイは『狂気の地底回廊』の中で、『古のもの』達が地殻変動から都市を護るために、転移装置を用いて都市や山脈を南極から転移させたとしている。これによると、 『古のもの』の都市は現在では大西洋のいずこかの海底に転移しているという(この海底は昔から『古のもの』の勢力圏であり、アトランティスの原型であると示唆されている)。

 H・P・ラヴクラフト『狂気の山脈にて(At the Mountains of Madness)』
 B・ラムレイ『狂気の地底回廊(In the Vault Beneath)』


キングスポート

(Kingsport/特になし)

特になし
都市
アメリカ、マサチューセッツ州

 アーカムの東にある古風な漁村。ラヴクラフトの『魔宴』で詳しく紹介されているが、『魔宴』は夢とも現とも判別し難い物語であり、その真の姿を特定する事はできない。

『魔宴』の主人公が、ユールの日(冬至、クリスマスの原型)の夜に町を訪れて見た所によれば、駒形切妻の屋根を持つ、植民地時代風の家々が、出鱈目に様々な角度や高さで積み重なり分散しており、急な勾配を持つ、迷路のように曲りくねった街路が果てしなく広がっている。
 アーカムから、頂に墓地を備える丘を越えて町に入り、バック・ストリートを抜けてサークル・ストリートに入り、街で唯一、敷石舗装のされた道を進み、グリーン・レーンをマーケットハウスの裏手へと進むと、左手七番目に、1650年以前に完成された、尖り屋根と張り出す二階を備える、一族の家がある。
 町の中心には、目くるめくような丘が聳え、その頂上には教会が聳えている。

『魔宴』では、教会の説教壇の前には地下墓所への入り口があり、さらにその下へ降りると広大な地下洞窟が広がっている。そこにはどろどろした川が流れ、岸には巨大な毒茸が生え、地下から吹き上がる冷たい緑色の炎がそれらを照らしている。かつて南方の蘭の花園から到来したという一族が、ユールの日にここに集い、ユールの儀式を行う。おぞましい儀式には、フルートに似た音を奏でる不定形の肉体を持つものや、バイアクヘーと思しき有翼の生き物が姿をあらわす。
 しかし、夜が明けると町は路面電車や自動車が走り、古めかしい家など五軒に一軒しかない、普通の町に姿を変えているのである。

 このキングスポートには、実在の港町マーブルヘッドというモデルがあり、アーカムをモデルであるセーレムに対応させると、バック・ストリートがエルム・ストリートに、グリーン・レーンがマグフォード・ストリートにあたり、マグフォード・ストリートには、1695年に建てられたボウアン家の家があり、一族の家の描写に酷似している。
 さらに、地下墓所を隠す丘の上の教会は、1714年に建てられたサマー・ストリートの聖ミカエル監督教会がモデルと考えられている。興味深いことに、『魔宴』が執筆された53年後の1976年に、この教会に隠された祭壇があり、しかもその地下に納骨所があったことが判明した。
 ちなみに、この丘の上の教会と地下墓所については、アメリカ人の抱く「故郷、祖国」のイメージ、すなわち丘の頂に建つ教会のイメージのパロディであると言う説もある。

 また、海辺には断崖があり、頂に一軒の館が建っている。霧に包まれるその館からは、住人が行方不明とになった後も時折、音楽が鳴り響き、ノーデンスが眷属を連れて姿を現す事もあるという。

 H・P・ラヴクラフト『魔宴(The Festival)』
           『霧の高みの不思議な家(The Strange High House in the Mist)』


クン・ヤン

(K'n-yan/ク・ヌ・ヤン)

土地
地球内部

 米国オクラホマ州カド郡ビンガー(Binger)村にある、不吉な伝承の残る塚から通路が通じている広大な地下世界。
正確には『クシナイアン(Xinaian)』と発音されるが、アングロサクソン人には『クン・ヤン』と聞こえるらしく、一般に使われる表記はこちらなので、ここでもそう表記する。

 クン・ヤンには多くの種族が存在するが、この世界を支配しているのはツァトの都(この名はかつて隆盛を極めたツァトゥグァ信仰に由来する)に住む、北米原住民(インディアン)によく似た種族である。

 クン・ヤンと地上の間には幾つかの通路が存在し、ビンガー村の西にある塚や、南極のカダスの峰などに通じている(ビンガーの塚からは石の入り口を通って、急な下りの通路を三日ほど進むとクン・ヤンに達する)。
 クン・ヤン人の伝説によると、この通路を通って彼らは外界へ赴き驚異的な文明を築いたが、それが滅亡した事により、外界を恐れて通路を閉ざすか見張りを立てるかした。
 クン・ヤンの天井は放射線の影響と思われるオーロラめいた青い光に照らされ、青い霧に覆われた大地には草木や川が存在する。水蒸気によって雨も発生するのである。

 かつてクン・ヤンには赤く輝くヨトの生物も含めて様々な種族が棲んでいたが、クン・ヤン人がそれら全てを征服した。
 後に大高楼都市ツァトに集中したため、他の地方は荒れ果て、大量の黄金で造られた最大の廃墟ブ・グラア(B'graa)など廃都や寺院が散らばっているだけである。ドホウ・フナ(Dho-Hna)の谷は博物館のような場所外界の人間が想像だにしないようなものが数多く収められている。
 なお、クン・ヤンの他にも赤く輝くヨト、暗黒のンカイなどの地底世界が存在する。

 H・P・ラヴクラフト『闇に囁くもの(The Wisperer in Darkness)』
 H・P・ラヴクラフト&Z・B・ビショップ『墳墓の怪(The Mound)』


月霊山脈

(Mountains of the Moon/特になし)

特になし
土地
ウガンダ、東コンゴの国境地帯

 コンゴとウガンダの間にある山脈。おそらく、二世紀の天文学者クラウディオス・プトレマイオスがナイルの源流として言及した「月の山脈(Lunae Montes)」に由来する名であり、それに比定されるウガンダ西部のルヴェンゾリ山に相当すると考えられる。
 奥地には原住民が忌避する谷があり、そこには赤く金属的に輝く、一時も定まった形に見えない謎の物体<回転流>が存在している。この谷には奇妙な樹木が一列に並んでいるが、それはこの谷にやって来て〈回転流〉の守護者、ムンバに樹に変えられた無謀な探検家達のなれの果て『化木人(Tree-Man)』である。谷に踏み込んだ者にはムンバが忍び寄り、侵入者を捕らえて『化木人』に変えてしまう。

 D・ワンドレイ『足のない男(The Tree-Men of M'bwa)』


ケム

(Khem/特になし)

土地
エジプト

 古代エジプトの自称。「ケム」は古代エジプト語で「黒」を表す単語であり、正確にはエジプトは「黒い土の国」を意味する『ケメト(Kemet)』と呼ばれていた。周囲に広がる赤い砂漠とは対照的に肥沃なナイル流域の土壌に由来する。

 古代エジプト文明は、紀元前3000年を遥かにさかのぼる人類最古の文明発祥地の一つであり、その高度な技術力を示すギザのピラミッドやスフィンクスなどの巨大建造物は現在でもエジプトの象徴として有名である。はるかな古さと、それに相応しいとは信じがたいほどのこれら壮大な遺跡から、さまざまな疑問や神秘・空想を集めてきた。
 人知を超えた旧き強大な存在をテーマとするクトゥルー神話においても、これらの要素からエジプトを取り上げた作品は少なくない。さらに重要な存在であるニャルラトホテップが、そもそもラヴクラフトの夢にエジプトからの預言者として登場していることもクトゥルー神話と古代エジプト文明との結びつきを作った大きな原因だろう。『闇をさまようもの』では、ニャルラトホテップを召喚する魔石“輝くトラペゾヘドロン”がミノアの漁師から「影濃いケムから来た商人に売りわたされ」、暗黒のファラオネフレン=カーに祀られたと書かれており、最後に登場する怪物「闇をさまようもの」を「影のつどう太古のケムで人間の姿をとりさえした、ニャルラトホテップの化身」と呼んでいる。
 また、セベクバステトアヌビスタウエレトなど実際に古代エジプトで崇拝された神々も、神話作品に取り入れられている。

 西洋文明にとって、エジプトは自分たちのルーツであるギリシャ・ローマ文明にも影響を与えた偉大な根源の一つでありながら、アフリカ大陸に属する不可解な異文明でもあった。このエジプトがアフリカにおける要地であることから、近代になると西洋諸国とりわけイギリスが進出してゆき、古代エジプト文明も敬意と恐怖が渾然となった視点で注目を集めていった。クトゥルー神話群をふくむパルプホラーにエジプトが頻出し、また興味と恐怖が入り混じった複雑な描かれ方をするのはそうした事情を映しているといえよう。

 また、現在もっともありふれた家畜の一つである猫は、古代エジプトにおいてリビア原産の山猫がネズミ駆除のために飼育されたものが起源であると言われている。猫はやがて家の守護神として神聖視すらされ、ブバスティスにおけるバステト女神のような猫神の信仰も存在した。
 猫を愛したラヴクラフトがこうした信仰にも注目したであろうことが窺え、『ウルタールの猫』における冒頭部の文章や、古代エジプト文化を思わせる隊商などにそれが表れていると言えるだろう。

 H・P・ラヴクラフト『ウルタールの猫(The Cats of Ulthar )』
           『闇をさまようもの(The Haunter in the Dark)』
 H・P・ラヴクラフト&H・フーディーニ『ファラオと共に幽閉されて(Imprisoned with the Pharaohs)』
 R・ブロック『無貌の神(The Faceless God)』
        『ブバスティスの子ら( The Brood of Bubastis)』
        『セベクの秘密(The Secret of Sebek)』
        『暗黒のファラオの神殿(Fane of the Black Pharaoh)』


コモリオム

(Commoriom/特になし)

大理石と御影石の王冠
都市
ヒューペルボリア

 太古に栄えたヒューペルボリアの王都。山のような外壁、天にも届く純白でなめらかな尖塔が立ち並ぶ、どの邑にもまして富裕、華麗にして厳然たる都だったという。アトランティス海(大西洋と思われる)の岸辺やムー大陸の横たわる海辺(太平洋だろう)からも貢物が献上されており、遥かなレムリアからも蛮族の船が来航する事もあった。ヒューペルボリアの全土、北は最遠陬のムー・トゥーラン半島から、南はツチョ・ヴァルパノミの湿地帯まで、各地から交易商人が訪れていたという。
 コモリオムでは中央の大広場にエイオン材の断頭台が設けられており、処刑には多くの市民が見物に来、首切り役人はその技量に敬意を払われていた。

 この繁栄を極めた都に、雪の島ポラリオンから来た皓白の巫女が、コモリオムの光輝さと広大さが、叢林のまだらな蔓と斑紋ある蛇に明け渡されるとの予言を残したという。その予言が正しかったかどうかは不明だが、コモリオムおよびウズルダロウムの首切り役人長アタマウスの手記によると、ロクアメトロス王の治世、エイグロフ山脈に巣食うヴーアミの盗賊団を率いる、ツァトゥグアとのつながりを持つという怪人クニガティン・ザウムにまつわる凶事によって、コモリオムの都は原形質の怪異が溢れかえり、王を初めとするすべての住民すべてが都から逃れて丸一日歩き続け、南方のウズルダロウムに都を移した。

 数百年後、コモリオムの廃墟は密林に覆われ、いつしか打ち棄てられた財宝の噂が囁かれた。それを求めてコモリオムの廃墟に乗りこんだ盗賊、サタムプラ・ゼイロスとティロウヴ・オムパリオスは廃墟の一角に、ツァトゥグアの小さな神殿、そしてそこに潜む不定形の怪物を発見した。

 C・A・スミス『サタムプラ・ゼイロスの物語(The Tale of Satampra Zeiros)』
        『アタマウスの遺言(The Testament of Athammaus)』


コラジン

(コラツィン/Corazin)

特になし
都市遺跡
イスラエル、ガリラヤ湖北方

 イスラエル、ガリラヤ湖の北にあった都市であり、現在は廃墟となっている。

 新約聖書のマタイ書11章20-24節、ルカ書10章13-15節においてキリストに、悔い改めないとして非難され、罰を予言されている町のひとつである。以後、呪われた町としてのイメージがあるが、ブライアン・ラムレイの『妖蛆の王(Lord of the Worms)』では、1602年に〈反キリスト〉がこの町の遺跡で誕生したことになっている。
〈反キリスト〉は『妖蛆の秘密』に言及される《屍蟲》の妖術を用いて、若者の肉体を奪い続けて生き永らえたが、1946年、最初から6番目の肉体に当たるジュリアン・カーステアズの時にタイタス・クロウに敗れて滅んだ。

 なお、ウィリアム・ラムレイの『アロンソ・タイパーの日記』で、ヴァン・デル・ハイル家の屋敷の付近に住みついた頽廃的な背教者たちの呼び名「コラツィン」も同じ綴りであり、古代の町に由来するのかもしれない。

 B・ラムレイ『妖蛆の王(Lord of the Worms)』
 W・ラムレイ『アロンソ・タイパーの日記(The Diary of Alonzo Typer)』