Cthulhu Monsters(さ行)






サルナスの三神

(不明/ゾ=カラー(ゾ=カラール)、タマッシュ(タマシュ))

特になし

 人類として初めてムナールの地に到来してサルナスの都を築いた、髪の黒い羊飼いの民に崇拝された、ゾ=カラールタマシュロボンの三柱の神々。
 詳しい性質などは不明であり、ケイオシャム社のTRPG『クトゥルフの呼び声(The Call of Cthulhu)』において、大いなるものの一員と設定づけられているのみである。

 太古の昔にサルナスが栄えていた頃には、塔のごとく聳える十七の神殿の広間で、王座の様な象牙の玉座に座し、顎髭を蓄えた優雅な生き写しの像に香が焚かれていた。サルナスの災厄に際し、これらの神々がどうなったかは定かではない。
 羊飼いの民が築いたアイ河のほとりの邑々は『夢の国』にあるという説があるので、これらの神々も『夢の国』の存在であるのかもしれない。 

 H・P・ラヴクラフト『サルナスを襲った災厄(The Doom that Came to Sarnath)』


シャガイの昆虫

(The Insects From Shaggai/シャッガイからの昆虫)

特になし

 惑星シャガイの支配者であった昆虫族。昆虫と言っても外見上の大まかな類似によるもので、光合成によって栄養を補給する、物体を透過できる等、地球上の動物とは全く異なる特性を持っている。

 また、その姿も大きな眼、三つの口、頭部から伸びた宇宙的なリズムを持つ螺旋を描く節のある触角、三角形の鱗粉に覆われた半円形の畝を持つ翅、生白い腹部に折り畳まれた黒光りする触毛に覆われる十本の足といった、地球の昆虫とは異なった特徴を備えている。

 母星シャガイにいた頃、彼らの文明は繁栄を極めていた。アザトースを崇拝する他は仕事をする必要もなかった彼らは、異星へと出かけて奇怪な生物を眺めたり、異星から拉致してきた奴隷を拷問に掛けて楽しむという頽廃的な生活を楽しんでいた。彼らはその傲慢さゆえに、シャガイの地核を喰らい続ける蛆のような巨大な怪物を召喚してしまった事もあったという。

 だが、 シャガイは、突如として宇宙から降ってきた赤い輝く物体によって焼き尽くされてしまう。異変の当時、防禦装置のあったアザトース神殿の内部にいた者達だけが難を逃れ、最も近い惑星ザイクロトルへと神殿と共に空間転移した。
 その後も彼らは安住の地を求め、サゴン、ルギハクスを転々とし、遂にはルギハクスから逐われた三十人ばかりが円錐形のアザトース神殿と共に地球、イギリスのゴーツウッドの森の奥に転移してきた。彼らは人間の脳に入り込み、操作する事によって地球を支配しようと試みているが、その試みは未だ成功していない。

 地球の大気中の成分によって念力移動の能力も封じられた彼らは、ザイクロトルの住民をはじめとする奴隷種族を使役し、アザトースへの崇拝を執り行いつつ、森の奥に犠牲者が迷い込むのを待ち受けている。

 R・キャンベル『妖虫(The Insects From Shaggai)』
 L・カーター『シャガイ(Shaggai)』


シャタク

(Shathak/特になし)

特になし

 スミスが1934年9月10日にバーロウに当てた書簡の中に書かれている存在。
 スミスによると、ヒューペルボリアの主要な系図学者にして著名な預言者、ノムの古文書の中でもっとも曖昧で難解なものを研究しなければならなかったと言う。「Chushax」「Zishaik」とも伝えられているらしい。その出自については極めて曖昧で乏しい部分しか分からないが、ツァトゥグアの妻であるという。

 C・A・スミスのR・H・バーロウに宛て書簡(未邦訳)


シャンタク

(Shantaks/シャンタク鳥)

鱗ある恐怖の鳥、馬頭の翼ある悪夢の生物

 『夢の国』レン高原、インクアノクなどに棲む怪鳥。鱗に覆われた象よりも巨大な体と、馬に似た頭部を持つ。また、ダーレスの『破風の窓』では、蝙蝠を思わせる翼は頭上3フィート(約90p)にも伸び、顔に禿鷹のような嘴がある他は蝙蝠に似ている、と描写している。

 蕃神ニャルラトホテップに仕える者の乗騎として使われ、『夢の国』の宇宙空間を飛ぶことも出来るが、制御していないとアザトースの座する暗影へと飛んで行く。なぜか夜鬼を極端に恐れており、見ただけで悲鳴を上げて逃げ去ってしまう。

 インクアノクの薄明の都の宮殿の中央にある大円蓋には、この生物の始祖が飼われている。世話する者の目にも触れないようにするためか、暗闇の中で飼われている始祖は、好奇心を持って大円蓋を眺める者に奇怪な夢を送るという。

 H・P・ラヴクラフト『未知なるカダスを夢に求めて(The Dream Quest of Unknown Kadath)』
 A・W・ダーレス『破風の窓(The Gable Window)』


シュグ・オラン

(Shugoran/シュグラン、シュゴラン、シュー・ゴロン)

死の使い

 マレーシア、クアラルンプール南東のヌグリ・スンビラン州の山に棲むチョ=チョ人部族に、死そのものとして恐れられている怪物。当地のチョ=チョ人が祭祀に用いるローブが米国ニューヨークの自然博物館に展示してあるが、チョ=チョ人を追う、角笛のようなものを下げた黒い巨大な人影が描かれている。
 あるいは、彼らによって暗殺などのために飼われているともいわれる。飼育の方法などは不明だが、クラインの『角笛を持つ黒い影(Black Man With a Horn)』の中には、人間の体内に寄生させて育てる事をほのめかす記述が見受けられる。

 輪郭はおおむね大柄な人間に似ているが、顔からは角笛、または象の鼻を思わせる器官が垂れ下がっており、これを人間の口に押し当てて肺などの内蔵を吸い出す。マレー語で『シュグ』は「嗅ぐ」または「象の鼻」、『オラン(orang)』は「人」を指すらしい。ただし、マレー語の形容詞は名詞の後につくので、『オラン・シュグ』と呼ぶべきなのかも知れない。

 黒い肌は鯰のそれに似ているらしく、脚には水掻きが備わっており、水陸両棲なのかもしれない。また、背中には翼があるというが、空を飛べるのかどうかは不明である(ひれという説もある)。
 象の鼻に似た器官を持つ事から、チャウグナル・ファウグンに関連づけられる事もあるが、実際の所は不明である。

 T・E・D・クライン『角笛を持つ影(Black Man With a Horn)』


シュブ=ニグラス

(Shub=Niggurath/シュブ=ニグラート、シュブ=ニグラース、シュブ=ニググラトフ)

千匹の仔を孕む森の黒山羊、千匹の仔を孕む山羊

 クトゥルー神話において数少ない女神(というよりは恐らくそれに近い概念で捉えられる神)の一柱。

 一説にはアザトースから生み出された闇より生まれた、ヨグ=ソトースとも同格の存在とも、妻とも言われている。ラヴクラフトがJFモートンに宛てた手紙(1933年4月27日)ではヨグ=ソトースとの間にナグイェブを仔としてもうけ、さらにそれぞれの子がクトゥルーツァトゥグアだという。
〈旧支配者〉への礼拝の文句の多くに「イア、シュブ=ニグラス!」という言葉が含まれていることからもかなり重要かつ強大な神格だろうと推測できるが、その割にシュブ=ニグラス自体が登場する作品というのはほとんどないと言ってよい。
 しばしばハスターの妻ともされているが、これはビショップの作品をラヴクラフトが添削した『墳丘の怪(The Mound)』で「名づけられざるものの妻」とされているのを、名状しがたきものハスターと結びつけたためであろう。

 人間のみならず、ユゴスからのものなどの種族にも崇拝されているシュブ=ニグラスは、豊饒の神として遥か古代から信仰されているようである。『永劫より(H・P・ラヴクラフト&H・ヒールド)』で古代のムー大陸においてナグイェブ">イェブおよび蛇神イグとともに人類に友好的な存在とされている。
 また、世界各地の信仰や黒魔術にもかかわっており、『アロンソ・タイパーの日記(ウィリアム・ラムレイ)』では「ヴァルプルギスの夜」の魔宴で崇拝され、『呪術師(パパロイ)の指環(ウォルシュ)』ではプリアポスパパ・レグバと比較されるヴードゥー教の祭祀場で崇拝されていた。
『ムーンレンズ(キャンベル)』ではさらに、メンデスの山羊、パン、プロテウス、サテュロス、アスタルテ―アシュタロス、大地母神(マグナ・マーテル)との関連もほのめかされている。『墳丘の怪』のサマコナの手記でもクン・ヤンにおけるシュブ=ニグラス崇拝を「洗練されたアスタルテのようなもの」としている。
 ブロックの『無人の家で発見された手記(Notebook Found in a Deserted House)』はシュブ=ニグラスを扱った作品ではないものの、作中に登場するショゴスが山羊のような蹄をもった樹木のような形態をしていることから、シュブ=ニグラス崇拝とみなされることが多く、ドルイド信仰を巻き込んでいる。

 古代の宗教では、豊穣をもたらす『大地母神』こそが最も重要で根源的な神であるケースが多く、『大地母神』を中心として豊穣を祈願する儀式が行われた。こうした大女神は「神々の母」であり、また、豊穣の象徴として、豊かな多数の乳房を備えたり、妊娠ないしそれを暗示するふくよかな姿で表現されたりした。また、こうした豊穣の象徴としては、多産の性質を持つ山羊のような動物も見られ、その影響とも考えられる角のある男神が副次的な信仰対象とされることもあった。
 ラヴクラフトの作品にしばしば登場する、マーガレット・マレー女史の『西欧における魔女信仰』は、魔女伝説の起源を、ヨーロッパに広範に広がっていた、有角神を崇拝し豊穣を祈る宗教儀礼であったと論じるものである(証拠とされる各地の儀礼の多様さなどから、共通の宗教が存在したという見解は現在では否定されているが)。
 しかし、キリスト教が入ってくるとこうした古代信仰は徐々に忘れ去られ、キリスト教によって悪魔的で淫らな儀式として排撃される事もあった。中世から近代にかけて魔女狩りが始まると、こうした古代儀式のイメージに邪悪な魔女や悪霊の伝説が付加され、悪魔を崇拝する魔女たちが、山羊の悪魔『バフォメット』を崇める饗宴『魔宴(サバト)』のイメージが完成した。
『闇に囁くもの』での邪神崇拝者の集会はまさしくサバトの日にあたり、シュブ=ニグラスの名が唱えられ、『千匹の仔を孕みし』『黒山羊』と呼ばれているのは、こうした悪魔的イメージを付加された豊穣儀式と重ねられていたものだろう。古代オリエントの豊穣の魚神ダゴンに付加された悪魔の顔が『インスマスを覆う影』で20世紀に蘇ったように、シュブ=ニグラスは宇宙的恐怖の仮面をまとって現代に蘇った、貶められた古代ヨーロッパの豊穣神とも言えるのである(魔宴(サバト)のイメージは、『クトゥルーの呼び声』などにも見られる)。前述のように多くの実在の宗教や黒魔術になじみやすいのも、その性質ゆえだろう。

 神話が拡大してゆくにつれ、魔宴(サバト)の神としてのイメージも残ったが、ダーレスやブライアン・ラムレイの作品のように、シュブ=ニグラスは宇宙規模における(無秩序な)生命の概念の象徴とされるようにもなった。

 H・P・ラヴクラフト『闇に囁くもの(The Wisperer in Darkness)』
 H・P・ラヴクラフト&H・ヒールド『永劫より(Out of the Eons)』
 W・ラムレイ『アロンソ・タイパーの日記(The Diary of Alonzo Typer)』
 H・P・ラヴクラフト&Z・B・ビショップ『墳丘の怪(The Mound)』
 D・J・ウォルシュJr『呪術師(パパロイ)の指環(The Ring of Papaloi)』
 J・R・キャンベル『ムーンレンズ(The Moon-Lens)』


ショゴス

(Syoggoth/ショッゴス)

原形質の泡の無定型の塊

 悠久の太古に地球を支配していた古のものは、その技術を以って様々な生物を創り出した。その一つがこのショゴスである。
 粘着性の、虹色に輝く無定型の泡の集積物という姿であり、球体になると直径は15フィート(約4.5メートル)程であるが、必要に応じて眼、耳、発音器官、鰓、擬足といった器官を形成する事ができる。低音や高温、水圧にも強く、獲物と見ると襲い掛かって押し潰し、吸い尽くそうとする非常に恐ろしい存在であり、『ネクロノミコン』を著したアブドゥル・アルハザードでさえ、麻薬による夢の中を除いて地球上に存在するとほのめかしてさえもいない。

 当初は知性を持たず、『古のもの』の暗示によって管理され、用途によって形を変えたりしていたが、徐々に暗示によって植え付けられた様々な形態を模倣するようになり、脳を安定化させて知性と意志を得、徐々に扱いにくい存在となっていった。二畳紀の中頃(一億五千年程前)にはほとんど手に負えなくなり、『古のもの』は彼等との戦いに辛勝を収めることによって再び彼らを屈服させた。しかし『古のもの』の居住地だった南極大陸が氷に覆われ、地底の洞窟に居を移した後にショゴスは再び反乱を起こし、結局地底に移り住んだ『古のもの』は滅ぼし尽くされた。

 現在、ショゴスは南極大陸の狂気の山脈にある、『古のもの』の遺跡に潜んでいるが、すでに様々な姿で南極大陸の外に拡散しているようである。
 ルーズフォードの森の地底に潜んでいるものは、200インチ(約5メートル)の山羊のような蹄と、無数の口が葉のように付いたロープか蛇のような腕を備えた、黒い樹木のような怪物の姿(これはシュブ=ニグラスの仔という説もある)をとり、ドルイドや猫の目を持つ亜人間たちに崇拝されている(樹木崇拝とは、実は彼らに対する崇拝だったという訳だったというのである)。ラヴクラフトの『インスマスを覆う影(The Shadow over Innsmouth)』では、海中で深みのものどもに使役されているものがいると仄めかされている。ニューイングランドのメイン州奥地のチェサンクック村に近い、邪教の集会が行われる窖にもショゴスは姿を現す。

 半ば独立した存在となってからもショゴスは完全に家畜という生まれから逃れたわけではない。未だに彼らはかつての主達の言語であった「テケリ・リ! テケリ・リ!」という笛のような音を発し、その動作を模倣した動きをとる。

 H・P・ラヴクラフト『狂気の山脈にて(At the Mountains of Madness)』
           『インスマスを覆う影(The Shadow over Innsmouth)』
           『戸口にあらわれたもの(The Thing on the Doorstep)』
 R・ブロック『無人の家で発見された手記(Notebook Found in a Deserted House)』
 B・ラムレイ『狂気の地底回廊(In the Vault Beneath)』


食屍鬼

(Ghoul/グール)

特になし

 いわゆる食屍鬼。アンデッドとしてのグールではなく生物である。人間に似ていながらも、前かがみになった姿勢や顔つきはどことなく犬めいており、肌は不快なゴムのようなものである。脚には蹄とも鉤爪ともつかないものが備わっていると言うが、これはグールの発祥地であるアラビアの伝説で、グールの脚がロバに似ているという説を踏まえているのかも知れない。

 墓地の近くや地下納骨所、地下鉄の線路などに棲み、屍肉を漁ったり、生きている人間を襲ったり、時には乗客を襲うために地下鉄を転覆させる事もある。
 人間との間に子をもうけることもできるというが、それはむしろ当然かもしれない。恐ろしいことに彼等は元は人間なのである。食屍鬼は時々、人間の子供を攫って、その代わりに自分の子を残してゆく事がある。攫われた子供は屍肉を漁る事や食屍鬼の言葉を学び、徐々に肉体的にも食屍鬼と化してしまう。
 また、普通に育った人間でも、食屍鬼と似た気質を持つ者が食屍鬼と暮らしていると食屍鬼となってしまう事があるようである。ブライアン・マクノートンの『食屍姫メリフィリア』は、『夢の国』かそれに類する幻想世界が舞台と思われるが、死神グラトリエルの腕に抱かれる、食屍鬼の掘り起こす墓地の瘴気にあてられてポーファット氏病にかかる、などによって食屍鬼に変貌するとされている。

 獣じみた存在ではあるが、食屍鬼はやはり魔物の類である。怪力や掘削能力のみならず、C・A・スミスの『名も無き末裔』のように、密閉されていたはずの地下墓所に出没したり、『食屍姫メリフィリア』では、喰らった死体の主の記憶を得て、その生前の姿に変身すらできるとされている。
 ただし、ジョンソンの『地の底深く』に登場する食屍鬼は、光に当てられると衰弱して息絶えるとされており、ラヴクラフトの『未知なるカダスを夢に求めて(The Dream-Quest of Unknown Kadath)』で昼間の地上で活動しているのに比べると、弱点が付加されている。

 また、彼等は現実世界と『夢の国』をつなぐ深淵にも棲んでおり、深淵の地理を知り尽くしている。
『夢の国』においては夜鬼と同盟を結んでいる。赤足のワンプたちと競合になるためか、食屍鬼『夢の国』奥地の墓地を漁る事はないが、『夢の国』の地底にあるガグの国の墓地へはその巨大な亡骸を求めてよく訪れる。

 このように奇怪な食屍鬼だが、人間に特に敵対するというわけではなく、場合によっては友好関係を結ぶことも可能である。彼等は自由を好み、いかなる存在にも仕えていないが、部族や族長といったものは存在するらしい。

 H・P・ラヴクラフト『ピックマンのモデル(Pickman's Model)』
           『未知なるカダスを夢に求めて(The Dream Quest of Unknown Kadath)』
 C・A・スミス『名もなき末裔(The Nameless Offsprings)』
 R・ブロック『嘲嗤う屍食鬼(The Grinning Ghoul)』
 R・B・ジョンソン『地の底深く(Far Below)』
 B・マクノートン『食屍姫メリフィリア(Meryphillia)』


ズィヒュメ

(Zyhume/特になし)

特になし

 スミスがバーロウに宛てた1934年9月10日の書簡に記述される存在。イホウンデーの親だと記述されている。
 両性具有の、動物アルケタイプ(androgyne animal Archetype )だったとされ、「雲のような回転楕円体(楕円を、長軸または短軸を中心に一回転させた形)のヘラジカ」という奇妙な説明をされている。

 C・A・スミスのR・H・バーロウに宛て書簡(未邦訳)


ズーグ

(Zoog/特になし)

特になし

 人間界から『夢の国』へ入る〈深き眠りの門〉のある、〈魔法の森〉に棲みつく小さな褐色の体を持つ生物で、一人前の猫になら捕食されてしまうぐらいの大きさである。

 舌を振るわせる言語を持ち、穴や大木の幹を住処としている。主な食糧は菌類だが、肉も多少食す事もあり、この森に踏み込んだ人間が度々行方不明になる原因であるとも囁かれている。また、月からもたらされた月樹の樹液を発酵させて造った酒もたしなむ。
〈魔法の森〉は二ヶ所で人間界と接し、ズーグはこの接点から余り離れることは出来ないものの、好奇心旺盛な彼等は、時折、人間界を訪れる。話の種を持ち帰るのが目的だが、人間界に混乱や行方不明事件を引き起こす事もしばしばである。

 H・P・ラヴクラフト『未知なるカダスを夢に求めて(The Dream Quest of Unknown Kadath)』


ズヴィルポググーア

(Zvilpogghua/特になし)

特になし

 ツァトゥグアシャタクの間に生まれた子孫で、他の者より雄性が強かったようである。

 C・A・スミスはR・H・バーロウに宛てた1934年6月16日の書簡で、両性具有の存在より生まれた子は性別をもつ傾向にあり、クグサクスクルスの子孫であるギズグスフジウルクォイグムンズハーは男性格であるように、生物学的により複雑化に向かう傾向にあるとしている。ズヴィルポググーアギズグスの子であるツァトゥグアやその妻シャタクよりも複雑化していたのだろう。ただし、神々の系譜において複雑化することは、より超越性を失ってゆくことになるようにも思われる。
 ちなみに、ヒューペルボリアの預言者にして学者ノムによると、トゥルー(クトゥルー)は原型たるアザトースに近いらしい。

 ズヴィルポググーアの子であるスファティクルルプは女性格であり、ヴーアミに連れ添ってクニガティン・ザウムを産み出しているという。

 C・A・スミスのR・H・バーロウに宛て書簡


ズシャコン

(Zushakon/特になし)

最後の破滅、劫初の夜の不滅の空虚にして沈黙

 北米西岸、カリフォルニアの地底に存在するという存在。この存在については『イオドの書』に詳しく、その棲処の地上「西の大洋の岸」にすむ褐色の民によってズシャコンと呼ばれているという。この「褐色の民」はカリフォルニアに住んでいたムツネ族(Mutsune tribe、サンフランシスコなどカリフォルニア北部の先住民族であるオーロネ(Ohlone)族の一派であるムツン(Mutsun)族を指すのではないかと推測される)を指す。
『イオドの書』によるとズシャコンは、異界や異星から訪れた旧支配者とは異なる「最後の破滅」「劫初の夜の不滅の空虚にして沈黙」と呼ばれる存在であるという。その名の通りに深淵の闇と永遠の沈黙を好み、生命や陽光とは反する存在であり、大地が死に、生命が消え、星の光が暗くなるときズシャコンは再び立ち上がり、その領域を広げるという。

 だがその時が来る前にも、この存在はしばしば地上へと現れるという。日蝕のときにはこの存在が活性化する条件となり、地上にその力を及ぼすことがあるという。また、「褐色の民」は遥かな地底へと届く鐘の深い音色と古代の呪文によって、ズシャコンを地上へと召喚できるという。
 この鐘は三つを組み合わせて鳴らすことで効果を発揮するもので、ロサンゼルスから百マイルほど離れたサン・ザヴィエル近郊のペニョス山中にあるコヨーテ峡谷の洞窟から発見された。同じ場所からは、18世紀のスペイン人宣教師セラ・フニペロの遺した文書も発掘されている。それによると18世紀のカリフォルニアにおいて、ムツネ族のシャーマンが白人との抗争に際して、生きた乙女を坩堝に入れて鐘を鋳造し、「ズ・チェ・クォン(Zu-Che-Quon)」と呼ぶ魔物を山の地底の棲処から召喚したという。
 セラ・フニペロは、ズシャコンによって「漆黒の闇と冷たい死」がもたらされたと書いている。ズシャコンの力が地上に及ぶと、生物の精神に働きかけはじめ、人間や動物は錯乱すると同時に自分の目を潰したいという衝動に駆られる。本格的に召喚が始まると、寒さが訪れるとともに地震が発生し、さらに太陽の光さえも徐々に陰りはじめ、最終的には周辺一体が暗黒に包まれてしまう。目を潰したいという衝動はさらに強まって、頭の中で明確に暗黒を希求する声となり、自分や周囲の者の目を潰そうとする。

 目を潰したいという衝動に駆られるのは、深淵の闇を好むズシャコンに精神が染められたからと考えられる。ズシャコンの力に影響された人物が、召喚の鐘を鳴らそうとしたこともあり、人間の精神を従えるまでにズシャコンの力は強大なものと推測される。
 なお、召喚に際して周辺が闇に包まれるのは、実際に光が弱まるのか、視覚に何らかの影響が及んで光を感じられなくなってゆくのか、判断しがたいとも考えられる。真相はまさに闇の中というしかないだろう。

 旧支配者とも一線を画しているという、非常に強大かつユニークな存在ではあるが、登場作品である『恐怖の鐘(Bells of Horror)』において、特定の土地と強く結びついている印象があるせいか、あまり汎用的な扱われ方はされていない。

 H・カットナー『恐怖の鐘(Bells of Horror)』


ズストゥルゼームグニ

(Zstylzhemgni/特になし)

特になし

 スミスがバーロウに宛てた書簡に付された系図に掲載されている存在。イクナグンニスススズが分裂によって産み出した子であり、女性格であったという。
 クグサクスクルスの子ギズグスとの間にツァトゥグアを産み出した。

 C・A・スミスのR・H・バーロウに宛て書簡


砂に棲むもの

(Sand Dwellers/特になし)

特になし

 米国南西部の砂漠地帯に潜み棲んでいるらしい種族。形は人間に似ているが、コアラを歪めたような、目と耳の異常に大きい肌の荒れた顔をしている。痩せ衰えており、(あばら)が浮き出ている。

 クトゥルーの末裔と思われる、ゼリー状の体と触腕とを持つ怪物とともに、砂漠の洞窟に棲んでいる。

 H・P・ラヴクラフト&A・W・ダーレス『破風の窓(The Gable Window)』


スファティクルルプ

(Sfaticllp/特になし)

特になし

 C・A・スミスがR・H・バーロウに宛てた書簡に付された系図に掲載されている存在。
 ズヴィルポググーアの子で、女性格を持っていたらしくヴーアミに連れ添ってクニガティン・ザウムを産み出したらしい。

 C・A・スミスのR・H・バーロウに宛て書簡


セベク

(Sebek/特になし)

ナイル川の豊穣の神

 バステトと同じく、古代エジプトで実際に信仰されていた神。ギリシャ語では「スコス(Suchos)」と呼ばれる。
 エジプトのモエリス湖(現在のカルーン湖)周辺のファイユーム地方で崇拝されていた神である。ナイルワニを化身とする神であり、鰐の頭を持つ男性として描かれ、太陽円盤と二本の羽と角がついた冠をかぶり、右手に杖、左手にアンク(輪頭十字)を持っている。聖地であるモエリス湖畔の町シェディトは、ギリシャ語ではクロコディロポリス(鰐の町)と呼ばれた。それ以外にもエジプト各地で信仰され、聖獣として葬られた鰐のミイラが発見されている。
 ナイルワニは危険な肉食動物であり、砂漠の荒ぶる神セトと同一視されることもあった。一方で、ナイル川を象徴する豊穣の神でもあり、豊穣神オシリスやその息子ホルスに与する信仰も存在する。戦いの女神であり、一説によれば水の女神でもあるネイトの息子であり、原初の混沌の水ヌンから現れたとする神話もある。
 エジプト中王国時代にモエリス湖一帯の開発が進み、地方神であったセベクが重要な存在となったと見られており、第十三王朝の時代には「セベクホテップ」という名を持つ王が六人も立っている。

 ルートヴィッヒ・プリンの記した『妖蛆の秘密』の「サラセン人の儀式」の章によると、セベクの神官達は、豊饒神としてのセベクが、永遠の生の源を守護し、自分たちが復活する時までの守護を与えてくれると信じ、永生を願って若い乙女を生け贄として鰐の棲む池に落として鰐に引き裂かせたという。
 上記のセベク崇拝をモデルに、暗黒の秘儀として怪奇小説の題材としての脚色を加えたものであろう。

 現在ではセベクを奉ずるものは知られていないが、セベクはいまだ存在しており、確かに己の信徒のミイラを護り、それを侵す者に死を与えるという。

 R・ブロック『セベクの秘密(The Secret of Sebek)』


ゾ=カラール

(Zo-kalar/ゾ=カラー)


 タマシュロボンと共に、サルナスの都を築いた髪の黒い羊飼いの民に崇拝された、サルナスの三神の一柱。

 他の神々同様、詳しい性質も姿も記されていないが、ケイオシャム社のTRPG『クトゥルフの呼び声(The Call of Cthulhu)』においては死と誕生を司る神とされている。

 H・P・ラヴクラフト『サルナスを襲った災厄(The Doom that Came to Sarnath)』