狂気の万神殿



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・神話設定の原型
 ラヴクラフトが複数の作品の間に共通する設定を用い、また、友人達の間で神々、土地、魔道書、種族、伝説といったアイテムの名を融通しあって『クトゥルー神話』の原型を形づくり始めた時、神々や種族の設定や分類は定まっていなかった。これらはそもそも、一つの神話体系を創作しようとする試みではなく、共通する概念を複数の作品において使用することによって、自分達の作品に深い背景を持たせるためのものであり、また仲間内でのお遊びという要素も強かった。

 ゆえに、作品によって設定はかなり異なってくる。例を挙げれば、ラヴクラフトの『クトゥルーの呼び声(1926)』の記述では、人類が現れるよりはるか昔、地球を〈旧支配者〉という存在が支配していたが、宇宙環境の変化によって活動する力を失い、ルルイエの墓所の中にて大司祭クトゥルーの呪文に護られて眠りについている、という伝説が語られている。しかし、『ダニッチの怪(1928)』では、〈旧支配者〉はルルイエにて眠っているものではなく、ヨグ=ソトースの門を通って還り来る存在である。そして『クトゥルーの呼び声』では〈旧支配者〉の守護者であったクトゥルーは「〈旧支配者〉の縁者なれども漠々として〈旧支配者〉を窺うに」留まる格下の存在となっている。一方、『狂気の山脈にて(1931)』では、クトゥルーの一族は〈古のもの〉や「ユゴスからのもの」同様、超越的存在ではなく宇宙種族の一つとなってしまっている。
 もちろん、作家ごとにも設定は異なってくる。スミスが登場させたツァトゥグアは、蟇のような身体を黒い柔毛に覆われた姿をしており、人と会話を交わす事も出来、また強力な力を持つとは言え、『魔道士エイボン(1932)』では「寝穢い小神」と書かれている。しかしラヴクラフトの作品ではクトゥルーと同様に古代において代表的な神であり、不定形のより異形の存在となっているのである。また、ラヴクラフトとスミスはともに、友人への書簡に邪神の系図を掲載しているが、それらも全くといっていいほどに異なっているものである。

 それでも、設定によって成立するものである以上、ラヴクラフトの作品を中心に、おぼろげながら輪郭は出来てくる。宇宙の中心に位置する痴愚の魔王アザトース。宇宙を支配する究極の存在である盲目暗愚の蕃神たちと、その魂魄にして使者たるニャルラトホテップ。「千の仔を孕みし黒山羊」として多くの人間や怪物より崇拝される母神シュブ=ニグラス―――といった神々が支配する宇宙に、かつてクトゥルーやツァトゥグアといったおぞましくも強大な神々が幡居し、それを崇めあるいは隙間を縫って〈古のもの〉、イースの大いなる種族、ユゴスの甲殻生物、蛇人間といった種族が地球や太陽系を闊歩していた。そうした暗澹たる宇宙において、驕り高ぶる人類は、あまたある知的種族の矮小な一つに過ぎず、その足元には無限の闇黒が口を開けている―――。人類の無力と絶望を、怪奇や超常という形で描き出す神話が、すでにそのおぼろげな輪郭を見せていたのである。


・神話設定・分類の確立
 神話がラヴクラフトやその仲間の内輪を離れて、独特の「神話」としての姿を確立し始めると、設定や分類といったものが強く意識されるようになってきた。
 その最大のものがダーレス風神話であろう。ダーレスは邪神たちを全て〈旧支配者〉としてまとめ、さらに「地水火風」の四つに分類し、それぞれの相関関係を考え出した。さらに、〈旧支配者〉に対立する〈旧神〉という存在を創り出した。設定がより明確な彼の神話はリン・カーターの『クトゥルー神話の神々』にも、中心的な指針として使われている。
 また、クトゥルー神話をTRPG(テーブルトーク・ロールプレイングゲーム)という形態にしたケイオシャム社の『クトゥルフの呼び声』においても神々や怪物たちの設定や分類がなされている。TRPGにおける設定の整理は欠かせず、背景の設定は各ユーザーに任されているものの、宇宙的な存在である「外なる神々」、より人類に理解しやすいながら超越的な「グレート・オールド・ワン(旧支配者)」、神々に仕える存在「奉仕種族」と人間同様独立した生物である「独立種族」などに分類されている。また、ダーレス風神話を導入するため「外なる神々」には「異形の神々(蕃神)」と「旧き神々(旧神)」がある。


・神性の分類、体系化とは

 しかし、こうした神話の体系づけが必ずしも神話作品に有益に働くわけではないことは念頭においておくべきだろう。ダーレスの神話作品は多く批判を受けており、「地水火風」というあまりに人間的な分類法や〈旧神〉という人間的道徳に適う神々による宇宙の統治と邪神の追放といった点が災いしていると指摘されているが、神話の体系化そのものが否定的に見られた要素も考えられる。
 また、『クトゥルー神話の神々』などの研究によって「公式設定」に近いものが固まり、広まっているため、後にはその「設定」を延々と作中で紹介する作品や、『クトゥルー神話』にする必然性が皆無なのに設定だけ用いている作品が出る傾向が現れている。さらに、設定を作品のために活かすことなくただ用いた結果、その作品が、神話体系に詳しい人間にしか理解できない点をもつ、間口の狭い作品となってしまう危険もある。

 神話体系と分類は興味の尽きない考察の対象であり、ラヴクラフトの時代から様々に行なわれてきたものである。しかし、分類はあくまで作品の背景や延長として発展してきたものであり、それに捕われるような事になっては本末転倒だろう。作者の作風や背景、作品のテーマや雰囲気を踏まえ、作品との関係を考えながら、柔軟に神話を捉える態度が必要といえるだろう。神話作品を楽しむだけでなく作るならばさらに、既存の設定に束縛されることなく、作品のために神話を使用することを心がけねばならない。行過ぎず質に気をつけながら、ではあるが、新たな設定を創るなども必要かもしれない。ダーレスは、キャンベルに対し、ラヴクラフトの作品に捕われることなく、自分自身の神話を作るように忠告している。





ケイオシャム社のTRPG『クトゥルフの呼び声』における分類



      ┌( 異形の神々 )
外なる神々┤            .
 ┃     └( 旧き神々 )   .
┃                 .
┃                 .
┃  グレート・オールド・ワン .
┃  ┃              .
┃  ┃              .
┃  ┃              .
┃  ┃              .
奉仕種族         独立種族



リン・カーター『クトゥルー神話の神々』における分類


    〈旧支配者〉←―――――――→ 〈旧神〉
┏━━┳━┻┳━━┓           .
『地』  『水』  『火』  『風』  その他       .






外なる神々(Outer God)
クトゥルー神話における最強の存在。全宇宙の法則そのものであり、人類はおろか、〈旧支配者〉すら歯牙にかけない存在である。
『異形の神々』『旧き神々』に分類できると言われている。


異形の神々(Other God、蕃神)
『外なる神々』の内、『旧き神々』よりも異質で恐ろしい性質を持っているもの。クトゥルー神話ではどちらかというと、『異形の神々』と呼ばれるもの方が宇宙の法則に近く、強大な存在であるようだ。ニャルラトホテップを覗き、殆どのものが人類には無関心、あるいは餌としか見なしていない。『異形の神々』が人類に接触するのは、主として人類側の崇拝、召還によるものなのだ。

 アザトース /   アブホース /   ウボ=サスラ
 シュブ=二グラス
 ニャルラトホテップ
 ヒュドラ
 ヨグ=ソトース


旧き神々(Elder God)
『外なる神々』の中で、『異形の神々』とは一線を画していると思われる神性。彼等は、人類に対しては『異形の神々』よりは友好的と考えられているが、人類に比べると余りにも超越的で接触が困難である事には変わりがない。『神々』の超越性を考えると、本当に人類に友好的なのかどうかは疑問である。


 ノーデンス /  バステト /  ヒュプノス


旧支配者(Great Old One)
『旧支配者』は『外なる神々』に比べれば遥かに矮小であり、ある程度は宇宙の法則に従わねばならないという意味では通常の生物と同じである。とはいえ、通常の生物と比べれば異質で、かつ桁違いに強大な存在である。その知性、精神も人類より遥かに発達している事も充分に考えられるのだ。
『旧支配者』の名の通り、彼らは古の宇宙の支配者であり宇宙を自在に行き来するものから地底に封じられているものまで、その力、形状、由来、性質、大きさは千差万別だが、地球においてはその活動は停止、ないし制限されている状態であり、それゆえに人類は繁栄を続けていられるのである。しかしいつの日か彼らが再び立ち上がる時が来れば(それまでに人類が絶滅しているかもしれないが)、その時地球は再び彼らのものとなるだろう。
『旧支配者』は『外なる神々』に比べれば人類に近く、人類に見返りを与える事も多いため、世界の各地に『旧支配者』を崇拝する者たちがおり(それが人間とは限らないが)、密かに主の復活を願いながら崇拝、人身御供を続けている。

 アトラク=ナクア /   アブホース /   イグ /   イタカ
 ヴォルヴァドス /   ウボ=サスラ /   大いなるもの
 ガタノトーア /   クトゥグァ /   クトゥルー
 サルナスの三神
 チャウグナル・ファウグン /   ツァール /   ツァトゥグァ
 ナス=ホルタース /   ニョグタ
 ハスター /   ボクラグ
 ラーン=テゴス /   ロイガー


奉仕種族(Servitor)
クトゥルー神話には、超常的ながらも『神』と呼ばれる程に強大でなく、また崇拝もされていない存在がいる(とはいえ、人類より遥かに強大、聡明、超越的な事は充分に考えられる)。『奉仕種族』と呼ばれるものはその中で、『神』によって創造された、『神』の力によって変異した者で構成されるなど、『神』との関わりが深く、種族全体が『神』の眷属として働くものを指す。
あるものは『神』の復活を画策し、あるものは『神』への崇拝を続け、あるものは『神』にうかつに触れる者に恐ろしい裁きを与える。
『神』に全てを捧げるか、その力について研究を深めれば、あるいはその『神』に仕える『奉仕種族』の助力を得られるようになるかも知れない。それは例え様もなく危険で、困難な道であろうが。

 クトゥルーの末裔
 シャンタク /   シュグ・オラン /   ショゴス /   砂に棲むもの
 ダゴン /   チョ=チョ人
 バイアクヘー/  深みのもの /   ブラウン=ジェンキン /   炎の生物
 ミリ=ニグリ
 夜鬼


独立種族
(Independent)
『独立種族』とは、人類と同様、地球、他惑星、宇宙空間、異世界などで、進化によって自然発生した種族である。もっとも、その多くは到底、人類の常識にとって『自然』に受け入れられるものではないだろうが…。
性質も、動物同然のものから『神』に近いほど強力なものまで様々だ。異界からの来訪者、遠い別世界の住人、また、人類に先立って地球の上に文明を築き上げた古の存在などもいる。

 イースの大いなる種族 /   古のもの /   イブの住民
 ガースト /   ガグ /   空鬼 /   グノフ=ケー
 シャガイの昆虫 /   食屍鬼 /   ズーグ /   砂に棲むもの
 月の怪物
 蛇人間
 ミ=ゴ /   盲目のもの
 ユゴスからのもの
 ルギフクスの住人 /   レンの住人 /   ロイガー族



旧支配者
(Great Old One)
オーガスト・ダーレスの構成したクトゥルー神話の構図において、〈旧支配者〉は「宇宙の邪悪を体現する存在」と位置付けられている。 「邪悪」というのが余りに人間的な観念というのなら、現在の宇宙の自然な姿に外れた存在という事もできるだろう。彼らは太古の昔に〈旧神〉との戦いに破れ、現在ではそのほとんどが宇宙の外、恒星、地底や水底などに封印されているのだ。
〈旧支配者〉は太古の宇宙においてイースの大いなる種族と共に、創造者である〈旧神〉に対して謀反を起こした。
また、〈旧支配者〉は地水火風の四大元素に分かれており、互いに、特に『地』と『火』、『水』と『風』は激しく対立している。〈旧支配者〉の封印を試みるものは〈旧神〉か、対立する「邪神」の力を借りるというのが定番になっている。
『四大元素』というのは西洋魔術の古典的な考え方に基づくものであり、宇宙や異次元すら舞台とするクトゥルー神話においては余りに矮小な概念と言わざるを得ないが、この説に端を発する邪神間の対立や抗争、それに乗じた『人類VS邪神』という概念は、クトゥルー神話の中に新たな局面を切り開いている。


『地の精』

ヨグ=ソトースを筆頭とする『地』の神々はツァトゥグァのように地底に潜む神々は勿論、ヨグ=ソトースシュブ=ニグラスニャルラトホテップなど、『異形の神々』に含まれる高位の、しかも重要な神格までも含んでいる。『地』を四大元素の筆頭格としているのか、ラヴクラフトの創った神々を『地』と『水』に大別したのか、とにかく理由は不明である。
『火の精』と対立しており、特にニャルラトホテップクトゥグァの対立は有名。

 イェブ
 シュブ=ニグラス
 ツァトゥグァ
 ニャルラトホテップ /   ナグ /   ニョグタ
 ヨグ=ソトース


『水の精』

『水の精』はその名の通り、水に関わりが深いものを指す。おおむね、クトゥルーとその配下を指している。ハスター率いる『風の精』と激しく対立している。
 リン・カーターの分類と異なっているが、「母なるヒュドラ」は当サイトではダゴンの始祖に含めるため、オトゥームはクトゥルーの眷属である事はほぼ確かと思われるためである。


 オトゥーム /  クトゥルー /  ダゴン


『火の精』

『火の精』に属する『神』クトゥグァしか知られておらず、詳細は不明である。火や熱、あるいはエネルギーに関わる『神々』の呼称であると思われる。
 ニャルラトホテップシュブ=ニグラスなど、『地』の神々と対立しているという。


 クトゥグァ


『風の精』
『風の精』はハスターとその眷属であり、宇宙空間と大気に関わりが深いものと考えられる。ほぼ全てがダーレスの創作によるもので、私見では彼の神話作品の質もだいたいこれらに関するものが良作と思われる。
クトゥルー率いる『水の精』と対立している。

 イタカ /  ツァール /  ハスター /  ロイガー


その他/未分類
『旧神』と『旧支配者』、『四大元素』はほとんどダーレスの設定によるもので、彼の作品に登場しなかったものや彼以降に創造されたもの等、それに含まれない神々が多数存在する。ここでは『クトゥルー神話小事典』で『旧支配者』に分類されたもので、『四大元素』に分類されていないものを掲載した。

 アザトース /   アトラク=ナクア /   アブホース /   イグ /   ウボ=サスラ
 ガタノトーア /   グノフ=ケー
 チャウグナル・ファウグン
 バイアティス /   ヒュドラ
 ラーン=テゴス


旧神
(Elder God)

「宇宙的な善の体現」と呼ばれ、ダーレス神話における、宇宙の創造者にして本来の支配者とされる。
『クトゥルフの呼び声』の『旧き神々』とほぼ同様の分類であるが、その性質もやはり人類を超越していて、一概に『善神』とは言えない様である。ラムジー・キャンベルやリン・カーターの『グリュー・ウォーより来るもの』も、恐らくはこの〈旧神〉と同様の存在であろう。
現在、〈旧神〉達はベテルギウス星に安息を楽しんでおり、〈旧支配者〉の蠢動にもなかなか腰を挙げようとはしない(宇宙的な尺度で言えば、地球ごとき一惑星での蠢動など行動に値しないものなのかも知れないが)。
 リン・カーターは多くの神性を『旧神』に含めているが、本来は主神であるノーデンスとその同類を指すもののようだ。また、地球の実在の宗教で崇拝される神々もこれに含まれるようである。

 イオド /   イホウンデー /   ヴォルヴァドス /   大いなるもの
 コス
 サルナスの三神
 ナス=ホルタース /   ノーデンス
 ヒュプノス /   ボクラグ





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