「浮かぶツラサ 沈むツラサ」
わたしの持っているありったけのツラサを
みんなまとめて束にして
よいしょっと背負って
海に出かけた。
それらを海に投げこんで
いっそ沈めてしまおうと
思ったのだ。
海に向かって
「さらばツラサよ」
そう言い力いっぱい遠く目がけて
投げこんだ。
ところがツラサは沈んでくれなかった。
ただただ海に浮かぶだけ。
浮かんでいるところがほんの少し
濃いブル−になっただけで
海は何にも変わらなかった。
「キミのはどうも軽すぎたようだね」
カモメが笑って飛んでいった。
海の上を漂う
ツラサを見ながら
海に底に沈んでいる
かもしれない
どこかの誰かの
ツラサのことを
考えていた。
ドーナツの真ん中
ボクの前世は
まあるいまあるい
ドーナツの
真ん中だったのです
ボクはいつまでたっても
どこまでいっても
ドーナツの真ん中にしか
なれませんでした
あの頃のボクは
何百いえ何千個の
ドーナツの真ん中で
あり続けてきました
でも結局
どんなドーナツの真ん中に
なったところで
ボクの本質は
なにも変わりませんでした
今でも時々
特にこんな黄昏時に
西の空に向かって飛んでいく
カラスの
あのカラカラに乾いた
鳴き声を耳にすると
ふと
ドーナツの真ん中だった頃の
あの限りなく
虚ろな日々を
思い出してしまうのです
「行方不明のおとうと」へ
雨の降りしきる薄暗い晩に
ジャスコ瓢箪山店の屋上のミカン箱の前で
弟に秘密を打ち明けられた。
「この中に死体を隠してるんや」
「なんで?」
「いきがかりじょう」
「誰の?」
「知らん」
「そう。知らんのん。困ったなあ」
「どないしょう?」
「今すぐここから逃げるんや。
大丈夫。後のことはお姉ちゃんに任せな。
箱の中身はきっとうまく始末しといたる。
さあ早くここから飛び降りな」
そう言い弟の背中を押してやった。
弟は屋上から消えた。
さてと。
ミカン箱を開け、中身をものすごい勢いで食べた。
なんやただのミカンやん。
さてはあいつかつぎよったな。
と思いながら食べた。
食べ進んでいくうちに
弟に何か取り返しのつかないことを
してしまったような気になって
ハッとしたところで
目が覚めた。
ろくな夢じゃなかったが
弟と話すのは
もうずいぶんと久しぶりだった。
今ごろ何処にいるのやら
「黄色4号」
「じゃまするよ。ピヨピヨ」
ヒヨコ隊が来てくれたのだ
ヒヨコ一号、ヒヨコ二号、ヒヨコ三号
みんな元気そうだった
声をそろえてあたしにたずねた。
「黄色4号を知らないかい?ピヨピヨ」
首をかしげてだまっていると
「そうか知らないのか。ピヨピヨ」
ヒヨコ一号、ヒヨコ二号、ヒヨコ三号
みんな元気がなくなった。
「久しぶりだし。ゆっくりしていってよ。タマゴボウロ買っといたんだよ」
なるべく明るくそう言った。
「そうもいかないんだ。ピヨピヨ」
「せっかくなんだけど。ピヨピヨ」
「黄色4号を探さなければ。ピヨピヨ」
「じゃましたな。ピヨピヨ」
ヒヨコ一号、ヒヨコ二号、ヒヨコ三号
行ってしまった。
しんとしたキッチンのテ−ブルの上で
ひとり
タマゴボウロを転がしながら
黄色4号のことを考えていた。
それってもしかして着色料?
確かめようにもヒヨコ隊は
もう
いない
カーブを曲がると
突然
白い花吹雪が
フロントガラスを
吹きつけるように降って来た
でもそれは
花吹雪ではなくて
鳩の白い白い
羽根だったと知ったのは
そこを通過しようとした時だった
横断歩道に横たわって
動かなくなっていた鳩の
白い白い羽根を
むしり取るように
凄じい勢いの
風が吹いていた
鳩が
真っ白い鳩が
真っ赤に染まり
動かなくなっていた
それでも私はブレーキも踏めずに
速度も落とせずに
振り返ることなく
真直ぐ前を向いて
進まなければならなかった
どんよりとした群青色の空は
ぽつりぽつりと点り始めた街の灯に
追いやられていく闇を
飲み込み
いや闇に
飲み込まれ
漆黒の夜そのものに
なっていった
愛というもの
それは
この目で
見ることも
この手で
触れることも
できないけれど
五感以外の
何かで
感じることが
できてしまったりするもの
それでも時々
不安になって
確かめてみたく
なるようだけれど
ほんとうは
確かめる術など
どこにもなくて
だからよけいに
確かめずには
いられなくなるもの
なのかもしれない
私の場合
例えばいつも行くスーパーの
野菜売り場でふと見つけた
あのひとの大好きな
カリフラワーを
何の迷いもなく
ほとんど無意識に
かごに入れてしまってハッとする
そんな瞬間に
ふと
私の中にもあったんだ
と、確かめられたような気になって
うれしくなる時がある。
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