
単行本 短編 エトセトラ 俺の眼にウロコを貼れ リンク HPの表紙
◆斯くしてコワイモノシラズは誕生する◆ 異形コレクション『恐怖症』(光文社)【amazon】【bk1】【eS!】【楽天】
饒舌な男がいる。
男のおしゃべりはだめなんだぞ、なんて昔の話だし、今も昔もだめなのはおしゃべりじゃなくて、聞いていてつまらないしゃべくりだ。
怖気屋(おじけや)。
一方的にまくし立てているのに、独特のテンポが妙に心地よくて、聞き入ってしまう饒舌な男。だが、その男は噺家や話芸が商売の者ではない。
他人の恐怖を感じ取る能力を持つ。それを仕事にしている。それが怖気屋。
それにしても、怖気屋という商売も、うっかりしていると「あるある」と納得してしまって、それを思いつくことが特別なことだと気づかなかったりする。牧野修の小説という雑貨屋は、フツーなふりをしてミョーなものを軒先に並べていたりするので、うかうかしているとミョーなものをフツーだと思って手に入れていたりする。
話芸もそうだ。
牧野修の小説にときどき登場するおしゃべりさんには、いろんなタイプがいるけれど、一人でまくしたてるオヤジ系のしゃべくりは、実は非常に特殊だ。そんなしゃべり方する奴は、そうそう簡単にお目にかかれないはずなのだ。なのに、「いるいる」と頷いてしまう。そんじょそこらにごろごろいる、ちょっと流暢なおしゃべりオヤジとは明らかに違うのだが、なんだか「いるいる」と確信させられている。
あぶないあぶない。
そんじょそこらにはいるはずがない。
だってしゃべっているのは怖気屋なんだから。
そして怖気屋が一人でまくしたてている相手が問題だ。わたし? いや違う。あなたでもないよ、ずうずうしいな。最近増えているという新種が相手だ。
一方的なモノローグがだんだん本来あるべきダイアローグの片割れになっていく。欠けているのがわかってきたとき、全容が見えてくる。全容が見えたときには全容もなにもなくなっている。
生まれるってことはこういうことなのか。
それともコワイモノシラズだからなのか。
なにが。トップに戻る
◆憑依奇譚◆ 〈小説すばる〉2001年8月号(集英社) p.138〜
イラスト: 松原健一
【あらすじ】
十二階建てのマンション。夜明け前、非常階段をのぼる女。
彼女は死にたいと思っていた。死のうと思っていた。結婚を約束しておきながら自分を捨てた男にも、自分の生そのものにも別れを告げたかった。
でも、だめだった。
死ねなかった。
そこに彼は現れた。
少年。身体の真ん中に穴が開いた、全身血まみれの。その少年が彼女に訊いた。
「死ぬ気だったんでしょ?」
彼はそんな彼女に頼みがあった。それもかなりせっぱ詰まった頼みが。
時間が足りなかった。彼は、彼女の同意を得られないまま入り込んだ。
――彼女の中に。
200年の歳月を人の身体を乗り換えながら生き続けてきた憑依者(ポゼッサー)レイと、今、レイが憑依している彼女が同じ意識の中で対話を続ける。レイは何者なのか、なぜレイが逃げているのか、追っているのは誰か……そして最後に行き着いたのは、なぜわたしに憑依したのか。
「でも君は死ぬつもりじゃなかったの?」
彼女はレイに出ていってもらい、自分の身体を取り戻すために、ある提案をする。そしてレイは彼女に言われるまま、彼女の携帯を取り出して呼び出した……あの男を。
【登場人物ほか】 ネタバレになる場合がありますのでご注意を。
彼女 死のうとして死ねずにレイに憑依された女。
憑依者(ポゼッサー)レイ 彼女に憑依した霊体。200年前に憑依者として生まれ変わった。憑依者はエクトプラズムとなって肉体から肉体へと移り住む。レイは最後の憑依者でもある。
科学結社コメンタリオルス 18世紀に組織された、近代科学の啓蒙によって世界を救おうと、地下にもぐって政治的に暗躍した団体。コメンタリオルス(天の運動を説明する仮説の概要)とは、1510年頃にコペルニクスが記した草稿で、出版はされなかったが、後の『天球の回転について』(De Revolutionibus Orbium Caelestium、1543年)につながった。
男 女に別れを告げた男。
→管理人の感想もどきの雑記
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◆逃げゆく物語の話◆ 『2001』日本SF作家クラブ編纂(早川書房) p.415〜
小説、あるいは物語を、単なる「読み物」「媒体」よりも少し、ほんの少しでいいから、物よりも自分に近い存在だと思っている人に読んでもらいたい。ハードカバーはもとより、文庫本でもいいから、人間相手のつまらない恋愛なんかよりずっと大切な、運命のような出会いをした物語を、壊れないようにそっと、でも離さないようにぎゅっと胸に抱いたことがある人に読んでもらいたい。物語と、物語を存在だと思う人のために――そんな物語である。
後に、資料として、あらすじや登場人物を書いていますが、もしもまだこの物語を読んでいないのであれば、とにかく予備知識なしにページを開いて、そのままテキストを追ってください。わずか37ページ――そこから立ち上るトップノートに先が気になって仕方がなくなり、ミドルノートに包まれながらこのまま終わらないでほしいのにと先へ進むのが不安になり、ラストノートの消え去るのを自分に浸透した物語と一緒になってじっと見送るような、そんなたくさんの物語たちを代表する物語です。香水は、つける人の体臭と一つになって、その人だけの香りをつくるそうですが、この物語は香水に似ているかもしれません。淡く切ない芳香を、読む方はきっと気に入ってくださるのではないかと思います。
【あらすじ】 まだ読んでない方は読まないでくださいね。
凶悪犯罪が多発する原因はホラーとポルノである、排除せよ。
愚かな多数が支配する世の中に、愚かな新法が創られ、ホラーとポルノの言語人形(ラングドール)は違法として没収・焼却処分されることとなった。
ラングドール蒐集家のもとにいた青年チマミレは、『血塗れ海岸』というホラー小説をテキスティックという素材でヒトガタとした読まれるための人形。彼は、倉庫ではなく蒐集家の自宅にいたため、没収を免れた。一財産をかけて集めた稀覯本、いや稀覯ラングドールをすべて失った蒐集家から、チマミレは出ていくように、逃げて警察の「鼻先を掻き回してやれ」と言われる。
そこから彼という物語は逃げてゆく。仲間の物語たちと出会い逃げてゆく――約束の地を目指して。
【登場人物】 人でないものも入っていますが……
男 有名な言語人形(ラングドール)蒐集家
クラタ 警視庁防犯部倫理課の警部。新法案によって違法となったラングドールの没収にあたっている。
チマミレ 男が古物商からおまけにもらったラングドール。『血塗れの海岸』という、若い女性向けに造られたオリジナル・ホラー・シリーズの一つ。
青年 『悪霊のはらわた』 チマミレと同じシリーズの一つ。公園で市民に取り押さえられる。
クリプトグラフ 『嗜虐女教師』 商店街からチマミレを隠れ家に連れて逃げる。「約束の地」に行く仲間に加えるために。クリプトグラフは、cryptgraph――crypt-pornographだろうか。
コーカ 効果音の絵本。小指が列車の発車音、薬指はライオンの声、中指が救急車のサイレンだったが、すでになくなっている。人差し指はマシンガンの音。
アイス テキスティックに関する発明をした発明家の実験の研究日誌。
JB 溜息のラングドール。
三人の女 みなポルノグラフィー
【登場するもの】
幻素(ファンタジューム) 人に、現実と区別のつかない幻覚を見せる粒子。照射された者だけでなく、その人を観測できる者にも妄想を見せてしまう。
<テキスティック> 幻素を照射してテキスト情報を微粉末に変え、これを熱してできたプラスチック状の成形可能な物質。
シニフィアンス溶剤 通称ブルーデコード。澄んだ青い溶剤。これをテキスティックにかけると、芳香を発してテキストが再構築される。
言語人形(ラングドール) テキスティックで造ったヒトガタ。人型の書物。人間と同じように動く。人間と区別するため、皮膚に毛穴や産毛がない。
約束の地 ラングドールのための図書館。
管理人のまとまりのない感想
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◆ヨブ式◆ <小説non>2000年9月号 (祥伝社) p.284〜299 イラスト:安田みつえ
最初は車だった。
朝、出勤のために車のキーを開けようとしたら開かなかった。悪質ないたずらか?
だが、それだけで終わらなかった。今月に入って、車から始まった三沢の災難は、続き、増え、エスカレートし、連続し、三沢の暮らしは災厄そのものと化した。
だが、なぜ? なぜ俺が? どんな理由で?
【登場人物】
三沢 会社員
諭子 三沢の妻
義行 三沢の息子(五歳)
諭子の義父母
◆もっと素早く子猫ちゃん◆ <小説すばる>99年12月号 (集英社) p.274〜 イラスト:藤原ヨウコウ
夜明け前、国道へ車は滑り出す。快楽中枢の異なる女を二人乗せて。快楽に忠実であることでは等しい女二人を乗せて。
『彼女とはいつもどうやっているんだ。』 ホテルで男はタマヨに聞いた。そう聞かれたから、タマヨは言われた通りに、いつも通りにした。ちょっとやりすぎた。そしたら男が死んじゃった。
タマヨは一緒に暮らすカオルコに電話した。カオルコが迎えに来た。カオルコは怒っている。「タマヨのすべてに」
二人を乗せた車は電話ボックスで停まり、ファミリー・レストランで停まり。二人と男を乗せた別の車はホテルで停まり。二人は国道沿いの歩道で男と子供の乗っている車に乗り、その車は山小屋に停まり。
この夜の下にあるものは血と痛み。いるのは己の欲求をごまかさない正直者たち。そして朝、二人と少女を乗せた車が走り出す。前へ。
【登場人物】
タマヨとカオルコ 一緒に暮らす女。カオルコの身体はタマヨが業務用剃刀でつけた傷で一杯。
タマヨを愛人だと思っていた男
テレクラでタマヨと会う約束をした男
ヨシフミ
絵理佳 ヨシフミの継子
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◆終末のマコト◆ 『ホラーアンソロジー ゆきどまり』(祥伝社文庫)所収
研究者らしき白衣の男と、長官と呼ばれる男の目の前には一台のモニター。その中に、一人の女が映っている。心を病んだ光子の日記。画面を隔てて彼女を見つめる男の持つファイル。畳の部屋、血のにおい、深夜の倉庫、刃物で切られる痛み。天井の高い部屋、蛍光灯の光、書類の山、コーヒーのかおり。交互に入れ替わる場面と交錯する事実――別々の記録がニュータウンに起きている異常という点でつながったとき、カメラの向こうから女が呼びかける……。
【登場人物】
白衣の男
長官
吉川光子 人格解離性障害の女
お父さん 光子の父親
お母さん 光子の母親
マコト 光子の隣の部屋に越してきた若夫婦の息子
ヤマグチカツミ 失踪した中学生
【その他】
apport アポート:霊媒によって現れる幻姿 『リーダーズ英和辞典』(研究社)より
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◆ハリガミ◆ 『憑き者』(ASPECT)所収
牧野修さんによる手書きのハリガミと、水玉螢之丞さんによるイラストのコラボレーション。説明不可能。ご自分で見てください。
編者である大多和伴彦さんが書いていらっしゃる「解題」によれば、担当編集者さんは牧野さんの原稿を、私の自宅のFAXへ、このハリガミをいきなり送信してきたのだ。(p.779)と書いていらっしゃいます。この下りもとても面白いので、あわせてどうぞ。
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◆獣日和◆ ◆鳥迷宮◆ ◆葛千夜◆
セッション小説「三人のゴーストハンター」 <小説すばる>2000年2月号より連載中
→一覧
サイコ青年、比嘉薫は、4年前の事故で左目と右腕を失った。そのかわり、今までぼんやりとしか見えていなかった妄想を、はっきりと見ることができるようになった――義眼の左目で。
獣日和では巨大な犬、鳥迷宮では若い女の顔を持つ巨大な鳥が人を襲う。比嘉は、妄想を作りだしている人間の夢の中へ入り込んで、妄想を自分の小箱へと誘う。
このセッション小説には、2つの謎がある。1つは、毎回、それぞれのゴーストハンターが対決する、怪奇な生き物の謎。そしてもう1つは、4年前、洞蛙坊、比嘉、山県、そして国枝や小百合の家族を巻き込んだ大事故がどんなものだったのかという、全体を通じての謎である。第2クールに入ったFile #4でようやく、そもそもなにが謎だったのかがようやくわかったばかりで、原因究明への動きはまだ出ていない。このまま出ないのではないかとだんだん心配になってじれているのは、謎は最後に解決されなければならないという探偵小説一辺倒の頭がみている妄想だろうか。
この他に、比嘉の世界にはもう1つ謎がある。修司という名の少年のことである。事故の後、比嘉を正気と生気につなぎとめたのが修司らしいのだが、いったいこの子はなんやねーん!……と叫んでは、なにか読み落としているのではないかと何度もページを行ったり来たりしているわたしは愚か者でしょうか?
どのキャラもストーリーも気になるだけに、連載で読むより、本にまとまって(まとまるの? まとめてねっ!)から読む方が、少なくとも謎解きミステリー系の頭の人には、心の平穏を保ちやすいかも。
ついでに希望を言えば、みなさん小百合ちゃんは比較的丁寧に書いてくれるのですが、国枝さんってどんなおじさんなんですか? 謎の究明のために警備保障会社を作った人なのに(最後にどっひゃー、こんな剛気な方だったのねー、となるのだろうか……)。もっと出番をあげてください。うう、気になるんだよぅ……。
【登場人物】
比嘉薫(ひがかおる) ゴーストハンターの1人。右腕と左目をなくしている。
修司 比嘉の部屋に住み、比嘉を「お兄ちゃん」と呼ぶ。
国枝圭吾 国枝特殊警備保障の社長。ビデオレンタルショップ「ミスティック・ゾーン」も経営する。
小百合 ビデオレンタルショップ「ミスティック・ゾーン」の唯一の正社員。国枝特殊警備保障の社員でもある。元オカルト・アイドル。
洞蛙坊(とうあぼう) 国枝特殊警備保障のゴーストハンター。
山県匡彦(やまがたまさひこ) 国枝特殊警備保障のゴーストハンター。
獣日和――
斎藤義二(41) 宇賀多食品工業総務課係長 総務課の資料室で死亡しているのを発見される。
吉島鉄哉 警備員。死亡した斎藤の発見者。
喜多 警備員
悦子 宇賀多食品工業のOL
宮元宏子 宇賀多食品工業のOL。
鳥迷宮――
田所 戸隠総合病院の警備員。
渡辺実菜子 戸隠病院外科病棟の入院患者。交通事故で植物人間状態。
渡辺加津子 実菜子の母親。
宮地、大林、久保田、皆神 外科病棟の入院患者
葛千夜――
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◆インキュバス言語◆ 『エロティシズム12幻想』(エニックス)収録
【感想文リンク】 倉阪鬼一郎さん2000年1月30日の日記、田中啓文さん2000年1月30日の日記、我孫子武丸さん2000年1月15日の日記、ASHさん@ASH's Ashtray 2000年2月20日の日記
【登場人物】 板東くん(インキュバス言語を授かる主人公)、その妻佐代子(二十九歳)、その息子、大槻課長(五十三歳)、天使
はじめに言葉ありき。与えられた言葉で人間はものを認識する。言葉によって見えるものがこんなに違うのか――という高尚な議論も可能なのでしょうが、読んだ人は誰も彼も笑っているようです。安心して笑ってください(あ、でも、性神年齢18歳未満お断りかも……)。
それにしても、潮のように、地鳴りのように押し寄せるこの言葉のリズム。怖いなあ。この作家の頭のなかには、ムーミン谷のおしゃまさんが住んでいるのではないだろうか。いや、おしゃまさんと同じ、虚無を映す大きな瞳をしてはいるが、持っている手回しオルガンは、もっと厚みのある音を出す。おしゃまさんの親戚だろうか。その人は牧野さんの頭のなかにいて、言葉の蛇口が開くと同時に、その特別なオルガンをクルクルクルクル回しているのに違いない。きっとそうだ。
ときに、これがOLが主人公のサキュバス言語だったりしたら、全然違う世界になったんだろうなあ、と思うとまたおかしい。あ、そうか、そもそもそれじゃあジェネシスにはならないから成立しないのか。ははは。