鳥山淳子
 『映画の中のマザーグース』
●鳥山淳子
 『映画の中のマザーグース』
 (スクリーン出版、1996)★★★★
 『マザーグース』86編、短詩は全編、長詩は一部を挙げ、映画における引用、パロディを紹介しつつ解説して、映画の深層を掘り起こす。
 たとえば『大統領の陰謀』の原題“All the President's Men”は、塀から落ちる卵の紳士を歌った“Humpty Dumpty”の一行(“And all the king's men”)を下敷きにしている。「大統領の側近がどれだけもみ消し工作をしたところで失脚したニクソンを元にもどせない、というニュアンスをこれだけの引用で鮮やかに描きだしている」
 引用ではなくてもじりだが、細かいことは言うまい。
 あるいは“Three blind mice”、すなわち次の詩。

  Three blind mice,see how they run!
  They all run after the farmer's wife,
  Who cut off their tails with a carving knife,
  Did you ever see such a thing in your life,
  As three blind mice?

 ミッキー・ローク主演の『死にゆく者の祈り』では、悪漢ビリーがこの唄を歌いながら手探りで逃げようとする盲目の少女を追いつめる。

  Three blind mice,three blind mice,
  Don't shut the door on me.
  Oh,it's dark.Blind man's bluff.
  Where are you? My little mouse.

 解説にいわく、「ここでは、盲目の少女を盲目のねずみにたとえている。彼女を怖がらせようと、わざとゆっくりとこの唄を歌っている。この映画も、マザーグースを使って恐怖感を盛り上げている例である」
 本書のねらいは英語教育にあるらしい。訳文のみならず語釈を付すあたりにその気配が濃厚だし、10数編のコラムのうち3編は教科書に引用された『マザーグース』、『マザーグース』の授業での活かし方にふれる。
 たしかに、高校生の英語の教材ないし副読本として好適だ。
 さらに、一般向けの『マザーグース』入門としても読める。詩の歴史的背景にも言及されるし、本文やコラムで日本のわらべ歌と比較されているから、近づきやすい。
 ときには数ページにわたるものの、大部分は見開き2ページの読みやすさも買える。図版豊富だから、眺めるだけでも楽しい。
 しかし、やはり、と思う。『マザーグース』と何らかの関わりのある映画200本以上の資料(巻末に一覧表を付す)を啓蒙書で片づけるのはもったいない。本書から一歩進んで、『マザーグース』から見た本格的な映画論をぜひものしてほしいものだ。願わくば関連する場面の写真も付けて。

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