ウデゲの伝説

                                              北方少数民族

  大地創造

 かつて世界は、一個のちっぽけな島があるだけの一面の海でした。そのちっぽけな島に意地悪婆ちゃんが住んでいました。
 でも、その一かたまりの大地の上に天のカモが降り立ち、そこに七年住みました。八年目に老婆はそのカモを追い出しました。そのカモは飛び立つとき脚で土をつかみ、それを大海原にまき散らしました。土が少しまかれたところには小さな島ができ、たくさんの土がまかれたところには列島ができました。

2 二つの太陽

 むかしむかし空には二つの太陽が光っていました。空は大地と重なるほどで、太陽は大地のすぐそばにあり、その当時月はまだ空にありませんでした。木々は背が低かったのに、その頂きはときどき空に触れました。暑くていつも真昼のような明るさでした。暑さのため動物や人間が死にました。夏に生まれた赤ん坊は生き残れませんでした。一面にもやが立ち込め、大地からはたくさんの蒸気が立ちのぼりました。 たくましい一人の男が大きな弓を作り、太陽の一つを射ました。打ち落とされた太陽のあった場所に月ができました。人々は暑さから逃れることができました。空は高くなり、もやが晴れました。

3 二つの太陽と英雄ナミカ

 むかし空には二つの太陽がありました。月はまだ現れていませんでした。暑さは耐えがたく、草は生えませんでした。木々は生えたものの、曲がり背が低く、それらの木々をもやが押さえつけていました。人々ははだしで歩き、石から火を手に入れたものの、木と同じように背が低かったのです。当時、ガンタという男がいて、ガンタにはナミカという息子がいました。ナミカはたいへんたくましく育ち、人々を暑さから救うため、太陽の一つを射落とそうと決めました。ナミカは父親のガンタの忠告に従い、33本の矢を作って一番大きな丘に登り、太陽の一つを弓で射始めました。32本の矢はそばをかすめるだけでしたが、33本目の矢が的に当たりました。射落とされた太陽にあったところに月が現れ、その後、空ともう一つの太陽が高く上り、もやが晴れました。人々は陸地での暮らしが楽になり、人口も増えました。でも、突然、どこからかたくさんの水が押し寄せ、陸地をすべておおってしまいました。ナミカは妹と一番高い丘(キャマ)に駆け上りました。山は二人をかくまいました。水が引いたので、二人は山から下りましたが、そこの人間はすべて死んでしまったことを知りました。二人だけが生き残りました。そこで妹は「二人は夫婦のように暮らさなければいけない。そうしないと人類は絶えてしまうわ。』と兄に言います。兄は、「もしお前が、投げ上げた針の穴に糸を7回通すことができたなら、そうしてもいい。」と言いました。妹はこの難題をこなしました。兄と妹は夫婦になり、二人の間には12人の子供が生まれました。男の子は自分の妹をお嫁にしました。そのようにして、キモンコやキャルンヂガというウデゲの一族が生まれたのです。 

4 三つの太陽
 
 むかし三つの太陽が空に光っていました。そのうちの一つは大きく、両端の二つは小さなものでした。当時、木々は太く、空からは雪の代わりに引き割り麦が降ってきました。湖には水の代わりに油が満ちていました。バタニというたくましい男に息子が生まれました。その赤ん坊は生まれた日からずっと泣いていました。母親はどうしてなだめたらよいのかわかりませんでした。あるとき、この母親はこの男の子の泣き声に耐えられず、前日にこね始めたチェスタの上にこの子を放り出しました。赤ん坊は泣き止みました。このときから、この男の子はいつもチェスタの中で眠りました。老人たちはこのことを知り、習わしを犯さないよう、赤ん坊をチェスタの中に置かないよう、母親に忠告しましたが、母親は老人たちの言うことを聞きませんでした。ある日、空から神の召使い《エンヅリ》が地上に降りて来ました。《エンヅリ》はタブーが犯されているのを知り、そのことを神に告げました。その後、《エンヅリ》はひき割り麦の代わりに雪を、油の代わりに水を地上に送りました。男の子の父親はすべての罪は三つの太陽にあると考え、弓を取り、二つの小さな太陽を射落としましたが、大きな太陽はたちまち高く上ったので、この英雄の矢は大きな太陽に届きませんでした。それ以来、人々の生活は変わりました。人間はけものや鳥や魚の肉を食べるようになり、魚やけものの皮から着物を縫うようになりました。

5 魚たちの主 スグジャ・アザニ

 ある時スグジャ・アザニが河へ魚を放つのをやめました。そこで人々はどうして魚がやってこないのかを知るためにスグジャ・アザニのところへ使いを出しました。途中、使いの人々は滝(なむ‐おろに)のそばで夜を明かしました。すると夢の中に魚の主が現れ、木で作った鴨を舳先に取り付けた海船(たむちが)を造り、その舟で自分の家まで来るよう命じました。使いの人々は早起きし、スグジャ・アザニに命じられた舟を造り、その舟で海へ漕ぎ出しました。スグジャ・アザニは人々を喜んで迎えました。そして、人間が傷つけた魚をみんなに見せ、「突かれたり、裂かれたりして傷を負った魚がたびたびやって来て、人間への不満を訴える。今後そういうことはしないように。」と命じました。魚の主は法に従い、魚の群れを放つのを止め、人々をこらしめたのです。さらにスグジャ・アザニは、水の中で魚を傷つけてはいけないことをあらゆる人々に伝えるよう約束させ、訪れた人々を無罪放免しました。

6 河はどのように出来たか

 洪水の後、魚の主スグジャ・アザニは陸地に河を作ることにしました。河を作るため、スグジャ・アザニは海へび(むどぅり)にまたがり、むち(やふた)を手に取り、その海へびを陸地に追い込みました。ムドゥリは海へ注ぐ川を掘りました。川の支流はスグジャ・アザニのむちの跡です。


7 雨はどこから現れるのか

 
冬、ムドゥリはビキン河のあたりにいます。ムドゥリは魚を捕ったりしています。ムドゥリが水を飲むと引き潮になります。夏、この大きな獣は休みを取って空へ上り、そこで眠ります。でも、時々目を覚まし、大きなうなり声を上げます。それを人々は、雷が鳴り、稲光が光り、雨が降っている。」と言うのです。稲光はムドゥリの娘です。ムドゥリが空を飛ぶと強い風が吹き始めます。
 雨《あぐぢ おろ》は雨雲の中に溜まっているそうです。濡れた木の葉を揺すると水滴が落ちるように、ムドゥリが雨雲を揺すると地上に雨滴が落ちてきます。寒い日にアマツバメ《あぐち ほろに》が地上から雨雲へ水滴を運びます。


8 ウザはどうやってあの世《ぶに》を見つけたのか
   
 死ぬとはいったい何なのか、はじめ人間は知りませんでした。人々は年をとると木々になりました。男はポプラに、女は白樺になりました。
 エグヂガとウザという名の二人の兄弟がいました。二人の両親は誰なのか、どの一族の出なのか、誰も知りませんでした。兄のエグヂガは狩りに出かけ、弟のウザはしょっちゅうかまどのそばにいて、串刺しにした肉を火にあぶって焼いていました。そのころはまだ大なべがなかったのです。
 ある日ウザはタイガに出かけ、湖を見つけました。湖のそばでひと休みしていると、水の中から不思議なざわめきが聞こえてきます。じっと目を凝らして水の中を見ると、水の底にたくさんの貝殻がありました。その真ん中に大変美しい貝《きゃふた》を見つけました。《きゃふた》はウザに言いました。
 「ウザ、家に帰ったら、お前の兄さんの眠る場所を掘ってみなさい。この世のほかの世界が見えるまで掘りなさい。それはあの世《ぶに》への入り口なのです。」
 ウザは駆け足で家へ帰り、地下の国が見えるようになるまで掘りました。そこには地上と同じような河があり、湖があり、岡や森がありましたが、照らすものは月の光だけでした。ウザは白樺の皮でその穴を覆い、考えました。兄さんは狩りの名人だから、そのうち獣を全部獲りつくしてしまうだろう。ウザは兄のエグヂガをあの世《ぶに》へ送ることにしました。
 夕方、エグヂガが家へ帰って来ました。エグヂガが一休みしようと白樺のじゅうたんに座りました。するとたちまち《ぶに》へ落ちて行きました。でも、すぐにもどって来て、《ぶに》へ散歩に行くようウザに命じました。
 《ぶに》の戸口で犬が跳びかかってきましたが、老婆がウザを出迎えてくれました。老婆はウザが亡き人の世へ入ることを許し、「お前が初めて魂(たましい)への道を切り開いた。」と言いました。

 それ以来、ウザに続き人々の霊が《ぶに》へ行くようになり、《ぶに》へ行った人々は二度と地上にもどりませんでした。犬がこの世へもどることを許さなかったのです。ウザがあの世への戸口を切り開くまでは人間が生まれるのは珍しいことでしたが、あの世《ぶに》への道が知られるようになってからは、出産が増え、今と同じように頻繁になりました。



9 ウデゲ人とナナイ人はどのように戦ったか

 むかし、サマルガ河にキャルンジガの一族が住んでいました。ある冬、この地に、ナナイ人の商人フリニ・ウザがやってきました。フリニ・ウザは小間物と交換して毛皮の橇(そり)を手に入れました。アムールへもどる途中、キャルンジガの人たちに出会いました。キャルンジガの人たちはフリニとフリニの犬6匹を殺してしまいました。この人たちは誰にもこの悪行を語りませんでした。7匹目の犬が殺されたナナイ人の髪の一房をくわえ、アムールのこのナナイ人の一族のところへ駆けて帰りました。ナナイ人たちは、この犬の飼い主の髪を見て何が起こったのかを知りました。犬の後に従い殺人現場までやってきて、殺したのはウデゲの一族であることを知り、復讐を決意しました。
 夜中、ナナイ人たちはウデゲ人の部落を襲いました。サマルガ河の上流に住んでいたウデゲ人を全滅させ、アムールへもどりました。ウデゲ人はカマンジガ一族のウグヂェガ一人だけが生き残りました。ウグヂェガはそのときタイガへ出かけていたのです。部落へもどるとウデゲ人全員が殺されていました。ウグヂェガはその足跡から、誰が仲間を殺し、どこへ立ち去ったのかを知りました。ウグヂェガは殺された仲間の鉄製の持ち物をすべて集め、矢じりに鋳なおし、仲間の血の恨みを晴らすためアムールへ出かけました。
 ウグヂェガは七年間ナナイ人を殺し続けました。その間、ナナイ人はウグヂェガの居場所をつきとめられませんでした。一方、ウグヂェガは不意打ちを食らわせました。鉄製の矢じりを付けた矢が全部ナナイ人を射抜いたので、ウグヂェガは復讐を終わりにし、サマルガへもどりましたが、呪われた昔の場所には住まないで、ククチ河まで下り、スクパイ河に移りました。
 その後、ウグヂェガは、キャルンジガ一族のウデゲ人がナナイ人の商人を殺し、そのためナナイ人たちがキャルンジガとカマンジガの一族のウデゲ人に復讐したことを知りました。キャルンジガ一族の習わしに従えば、キャルンジガ一族には、ナナイ人の商人の血を流したことだけではなく、ナナイ人がカマンジガ一族の人たちを偶然殺すことになったことにも罪があります。しかし、ウグヂェガはキャルンジガ一族への復習は開始せず、自分の息子たちのために七人の花嫁をくれるようキャルンジガ一族に頼みました。キャルンジガ一族はウグヂェガに七人の娘を与え、それ以来、双方は親戚となりました。その後、キャルンジガ一族の一部はホル河へ去り、他の一部はククチ河へ移住しククチンカと自称するようになりました。