帰ってきたの?


K君(まゆきのメル友)(20代男性)



 みなさんはじめまして。今日は僕の唯一の不思議体験をお話しようと思います。
 僕には二つ上の姉がいます。不思議体験というのはこの姉にまつわるお話なのです。
 この姉という人が僕をとても可愛がってくれる人で、僕が中学校に上がる頃までは良くあちこちに連れて回ってくれました。まあ可愛がるといっても内実いろいろあるのですが。
 姉は高校に上がるくらいまでは全然元気だったんですが、その後急に体を壊してしまいました。もともと心臓に欠陥があって、静脈血と動脈血が混じる傾向があったのですが、そこに高校生活のストレスがかかってしまったわけなのです。特に受験を控えた三年のときには毎週のように倒れてしまい、その度に同じ高校に通っていた僕が連れて帰るはめになっていました。
 一学期の期末試験のとき、当然のように姉は倒れてしまいました。しかし僕を気遣って「弟には知らせないで」と言い張ってそのまま病院に担ぎ込まれたそうです。なにも知らない僕は下校時に正門で姉をしばらく待ち、来ないのでてっきり先に帰宅したのだと思い、友人といっしょに自宅に帰りました。そして帰宅して初めて、お手伝いさんから姉が倒れたことを知らされたのです。しかしその時には既に両親が病院に駆けつけていました。僕に留守を守るようにという書き置きがあったので、大した容態ではないのだろうと受け取りました。
 一人で夕食を取り、試験疲れがあったので、その日はかなり早めに寝ました。
 真夜中、といっても零時過ぎくらいでしたか。ひどく喉が渇いたので下でなにか飲もうと思い、ベッドを抜け出しました。階段へ続く廊下を歩き、姉の部屋の近くを通りかかったときです。ふと気配を感じて振り返ると、暗がりに姉が立っているではありませんか。お気に入りのワンピースとカーディガンを羽織って暗がりに立っているのは、確かに姉です。僕は驚いて、「姉さん、もう体はいいの?」と声をかけました。てっきり、姉が病院から戻ってきていたのだと思ったのです。姉はなぜか黙ったまま僕を見ていましたが、やがてにっこり笑ってなにかをいい、姉の部屋の方へさっと消えてしまいました。
 その瞬間に僕は我に返り、すぐに姉の部屋を見に行きました。しかし部屋は真っ暗で、姉が帰ってきた気配はありません。さっき姉が口にした言葉を思い出して、すごく不安が高まりました。姉は確かに「さよなら」といったのです。
 その時、階段を我が家の雑事を引き受けている老人があがってきました。そして僕に両親から電話が入っていると告げました。不安をおぼえながら出てみると、両親は完全に取り乱したまま、とにかく病院に来いといいます。そしてさっきの人の運転で病院に向かった僕が目にしたのは、たくさんの機械につながれてマネキンのようにぐったりしている姉と、その脇で抱き合って取り乱している両親の姿でした。
 姉は、タクシーで病院に担ぎ込まれ、両親が迎えにきた頃までは意識もはっきりして受け答えできていたのですが、それから急激に血圧が低下してしまい、夜の九時くらいには完全に意識不明に陥ってしまっていたそうです。その後、何度か心臓が止まってしまい、その度に電気ショックで生き返らせるという状況が続いたそうです。両親は当然のように僕のことを完全に失念していたらしいです。僕は蝋人形のように真っ白な姉を見ながら、「姉さんはもう助からない、行ってしまう」と思い込み、やはりもうなにも考えられなくなってしまいました。

 ところが、姉は切り抜けました。姉の状況を見た病院は、いちかばちかの手術しかないと、体力的な理由から見送られてきた心臓手術に踏み切ったのです。心臓に人工弁を取りつけ、さらに血が混じらないように構造を作りかえる大掛かりな手術でした。十時間にもおよぶ手術を切り抜けた姉は、その後一週間ほどは死線をさ迷いました。意識も無く、ピクリとも動かない姉は、死体に限りなく近く見えました。
 しかし一週間ほど経って意識を取り戻して以降は、あきれるほど急に回復していったのです。本当に、死体が一日毎に蘇るという感じでした。そして三ヶ月後には元気に退院してしまったのです。これには本当に驚きました。
 さて、姉が意識を取り戻して十日ほど経った頃のことです。学校が夏休みだったので、僕は暇があれば病院で姉と話をしていました。そしてもう姉の頭はしっかりしていると思ったので、あの時の体験を姉に話してみたのです。すると驚くべく事に、姉の方にも対応する体験があったというのが分かったのです。
 あの時姉は、意識が途切れてしばらくして、ふと集中治療室に浮かんでいる自分に気づいたというのです。たくさんの機械が並んで、自分が横たわるベッドの周りにお医者さんや看護婦さんが集まっているのが見えたといいます。そして部屋の隅で抱き合ってベッドの方を見ている両親の姿にも気づいたといいます。姉は自分が死にかかっていることに気づき、同時に弟(つまり僕)はどうしているだろうと心配になったといいます。すると突然視点が変わり、自宅の廊下に立っている自分に気がついたのだそうです。そして廊下の向こうを歩く、僕の後ろ姿にも。すると僕が急に振り向き、姉の方になにかいったそうです。姉は「智君(僕のこと)と会えるのもこれが最後だろうな」と思うと悲しくなりましたが、僕を悲しませまいと笑顔を作り、「今まで楽しかったよ、ありがとう。さようなら」と告げて背を向けたのだそうです。そして再び意識が途切れました。次に目覚めたのは手術後の病室だったそうです。
 僕たちは体験の一致ぶりに驚き、実際に姉の魂だかなんだかが家まで帰ったのだと信じざるを得ませんでした。
 その後、姉は過去を取り戻すかのように元気になり、浪人して入った大学も一年休学して世界旅行に出かけるほどでした。おかげで、今や僕と同じ大学の同学年にいます(笑)。
 去年の冬もなにを思ったかアルゼンチンにまで引っ張り出されてしまいました。あそこはひたすら草原と牛ばかりの国でした。
 ちなみに、姉はこの頃はいろいろ見える人になったようです。


まゆき:礼儀正しい好青年、K君の体験談でした。ふーん、お姉さんとラブラブだったんだね(*^^*)。これはいわゆる臨死体験に近いパターンですよね。それにしても、ようするにお手伝いさんがいて執事の人もいる家に住んでいるのか。

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