シミュレーションと任天堂


 このコラムは、あびきゃすというホームページで公開したコラムです。対象は家庭用ゲーム機のゲームのファンとなっています。

 このコラムをウォーロック初代編集長、多摩豊に捧げる。

 シミュレーション(模擬試行)とは、ある事象をモデル(模型)を使ってまねてみるということである。ある事象の構成要素とその相互作用を抽象化しモデルをつくる。そしてモデルを操作する。これによって実際の実験より少ない費用と労力で調べることができるのだ。
 シミュレーションを行う目的はいくつか存在する。

(1)環境に対する理解を深め、意思決定や判断をサポートする
(2)構築したシステムが滞りなく機能するか、試行する
(3)システムが外部にどのような影響を与えるか、予測する
(4)システムの理解・訓練・教育

 1〜3番目は、箱庭ゲームに応用されている。箱庭ゲームとは、閉ざされた空間をテーマにしたゲームである。
“シムシティ”は都市の興衰をシミュレートしたゲームである。このゲームをデザインしたウィル・ライトはこの他にも、地球環境をテーマにした“シムアース”などを手がけている。このことから環境ゲームと呼ぶときもある。
 これらのゲームにゴールはない。デザイナーから目標が与えられていないのだ。プレイヤーが箱庭のような、閉ざされた空間に干渉する。ひとつの行動が結果を生み、相互作用から副産物が生まれる。プレイヤーはそこから手ごたえをつかんでいき、ゲームの目標を立てていくのだ。

 任天堂が制作したシムシティは、説明書さえ読んでいれば、適当にやっていても何とかなる。ただし適当に作っただけでは人口が増えない。そこでDr.ライトという、プレイヤーに助言を与えてくれるゲームのキャラクターがプレイヤーにアドバイスを与えるのだ。このキャラクターは、任天堂独自のアイデアで付け加えられたものだそうである。
 このゲームはなかなか好評であった。私はこのゲームが任天堂から発売されたので、売れたのだと思っている。Dr.ライトが何をすべきか、なぜ失敗したのかを教えてくれるようになっているからだ。
 またゲーム自体も、小目標の立て方がうまい。小目標をクリアしていくごとに、だんだんと大都市になっていく。コスティキャンは「シムシティはゲームでない。なぜなら目標がないからだ。」といっているが、なかなかどうしてシムシティはプレイヤーが達成感を味わえるようにできている。

 さて残りの4番目だが、これはゲーム全般にも適用される。何度もゲームをやるうちに、腕が上達して面白くなっていくあの感覚だ。
 この状態がさらに進行すると、コントローラーを握っていなくても頭の中で反復演習しているという状態になっている。ゲームにはまった、とよく表現される。
 反復演習することによって、プレイヤーはモデルを組み立て、最適解・最善手・最大利益を求める方法を考え出そうとする。その方法がたった一つしかなく、さらに簡単に求められるものは簡単に飽きられてしまう。ゲームを長く遊ぶには、アルゴリズムが複雑であるか、複数の最適解の存在、あるいはアンチ最適解の存在によるジレンマ、このうちどれか最低ひとつは欲しいところだ。
 家庭用ゲーム機の話はわからない、という人は、囲碁や将棋を思い浮かべていただきたい。定石・定跡という、上質の戦法が存在し、強くなるためにはこれらを覚えるのが一番であるが、これだけでは勝てないようになっている。こうした戦法が複数存在するところからみても、飽きられにくい要素をもっている。ここが囲碁・将棋のハマりどころとなっている。
 ゲームをやっていて、これ以上の進化が望めないと判断された時に、意欲が減退してゲームに飽きてしまいやすくなる。次回作が販売されるまで飽きないゲームが、良いゲームなのだろう。

 余談だが、ひとつのジャンルの成熟度が増すと、高い難易度が求められることもある。最適解・最大利益のハードルを上げるのだ。ますます熱中を生むが、初心者が参入し難くなる要因にもつながる恐れもある。
 その点、任天堂が作ったゲームは難易度が高くなくても面白いものが多い。任天堂のアクションゲームは、宮本茂の思想が色濃く反映されている。次に紹介する文章は、宮本茂が考えたゲーム論である。彼はドンキーコングを作り、そしてゲームの歴史に残るスーパーマリオブラザーズを作った男である。

>大きな紙の上でテーマとなっていったのは「なぜもう一度
>そのゲームをやる気になるのか?」ということだった。彼
>はさまざまなゲームを自分で試してみておもしろいと思う
>理由は何かという問いに対して数多くの答えを考えた。
>彼は、自分の経験や他人がプレイする様子を思い浮かべな
>がら考え続け、一つの結論に達した。何をするべきかをよ
>くわかっており、かつ、なぜ失敗したかがよくわかってい
>ること。これがプレイヤーが同じゲームを何度も繰り返す
>理由だ。彼はそう考えた。そしてこの「何をするべきかが
>わかっており、なぜ失敗したかもよくわかっている仕掛け」
>をゲームの中に持ち込むことを決めたのである。
>
>「テレビゲームの神々」多摩豊著

 「何をするべきかがわかっており、なぜ失敗したかもよくわかっている仕掛け」を宮本茂は作り出した。それはプレイヤーにモデルを組み立てさせる上で必要な情報である。宮本茂の考え方は、プレイヤーの立場に立ったゲームのシミュレーションである。
 シムシティやシムアースという箱庭ゲームは目標がなく、手段とその結果の因果関係・相互作用が重要視されるという一風変わったゲームだ。任天堂がこの性質を活かしつつ一般人向けに改良したことに、なにやら運命めいたものを私は感じる。
 シミュレーションはインタラクティビティ(双方向機能)と同じく、結果よりも途中経過を重んじる。任天堂はゲームの途中経過を面白くすることによって、シムシティという、目標のないゲームすらヒットさせたのである。宮本茂のDNAが任天堂にとどまる限り、これからも任天堂は面白いゲームを作っていくのであろう。(文中敬称略)

(2002年4月1日)


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