ゲームと物語の交差点その5 感情移入について


 ゲームブックは、物語とゲームが入り混じったような作りになっている。
 そもそもゲームにはゲームの、物語には物語の面白さがある。そしてそれぞれに大きく異なった特徴が見られる。
 それらから共通点と相違点を明らかにし、うまく組み合わせることができたら、面白いゲームブック(テキストゲーム)ができるかもしれない。
 私は物語やゲームの作成についてのノウハウを持っていないが、少しでもそれらに迫りたいと思っている。私のコラムがゲームブック作りの参考になれば幸いである。


感情移入について

 感情移入とは何か。この言葉は思ったより定義が難しい。
 あえて表現するなら、思い入れの一種ということになるだろう。
 物語とゲームでは感情移入のツボが違う。そこに定義の難しさがある。


・ゲームにおける感情移入

 ゲームにはトークン(ゲームの駒)があるので感情移入には困らない。
 というのもトークンの活躍ぶりがゲームの進行状況をあらわしているといっていいからである。だからトークンが別のトークンを打ち破ったとき、あるいは被害をこうむった時、プレイヤーの心は大きく揺れるだろう。


・物語における感情移入

 物語の場合、読者は主人公に対して最初から感情移入しているわけではない。
 しかし感情移入が成功すれば、読者はストーリーにのめりこみやすくなる。
 読者に感情移入させるコツはいくつか存在する。


・物語における五つの感情移入要素

 私は物語に関する感情移入を五つに分類してみた。
 いまだ研究途中なので、この他にも種類があるかもしれない。


<強迫観念>

 ・ある制限の中でやらなくてはいけないことを提示し、主人公を動かす方法である。
  これはハリウッド映画にも使用されている効果的な方法である。
  カメラの視点が主人公の目線にあるならば、読者に強迫観念が伝染しやすい。

<合理性>

 ・主人公は情報をもとに最善と思われるルートを取るべきである。
  障害物を克服しなければいけないときに、主人公の思考が非合理的だと感情移入は難しい。
  (行動を制限したい時は情報を少なくすればよい)

<行動>

 ・活躍することによって状況が変化する人物には、感情移入が生まれやすい。
  主人公が行動することによって、状況が変化するべきである。
  活躍するだけでなく、葛藤やジレンマに正面からぶつかっていくしぶとさも含まれる。

<資格>

 ・主人公の行動に正当性が備わっている。
  主人公の動機と行動にもっともな理由がある。
  正当性に欠陥があると、<行動>に関する感情移入に支障が生じる。

 ・主人公とその行動に関する社会性について。
  主人公が事件の解決者としてふさわしいと、万人から認められている。
  読者から見ても、主人公は人道から外れていない。
  アンチヒーローであっても、主人公は越えてはならない一線を守るべきである。

 ・理想に忠実である。
  主人公は、時には安全を度外視してまでも理想と行動原理とを貫き通すべきである。
  主人公は目標を持っていなくても、問題意識を持つべきである。
  (理想を提示しても、残念ながら読者からの共感を得られない場合もある)

<設定>

 ・読者が主人公に親しみを持つ、あるいは憧れるような設定である。

 ・主人公が悩みを抱えていると、読者は悩みを共有した気分になる。


・ゲームにおける感情移入要素

 ゲームにおける感情移入は、<強迫観念><合理性><行動>である。
 ゲームには<行動>を操作できるという特色がある。


・感情移入の真価

 物語の作者には、最後はこうしたいというかたちがあると思う。主人公がそのかたちを作るように物語は作られるべきである。
 主人公の行動によって事件が解決するのであれば、<行動><資格>にかかわる感情移入が報われる。
 読者は、感情移入が報われた作品を何回も読み返そうとするだろう。感情移入が報われる作品には、ファンが生まれやすい傾向があるように感じられる。
 感情移入が報われる作品にファンができる。これに多くの売れっ子作家や才能ある編集者はすでに気がついていることなのであろう。


・<行動>と<資格>の関係

 <行動>は物語とゲームに共通の感情移入の要素である。
 <資格>は<行動>の価値を高める働きがある、物語の感情移入の要素である。これは「あなたこそこの行動にふさわしい人物だ」と認められてるようなものだからである。


・ゲーム+<資格>

 ゲームの中に<資格>を入れると、プレイヤーの感情移入はどう変化するか。
 意思決定は、プレイヤーの心の中で大きく意味付けされることになる。
 このゲームにおいてプレイヤーは、ゲームの目標と平行して<資格>を全うする。もし正当な手段で目標が達成できるのなら、多くのプレイヤーは喜んで苦労を買うだろう。
 そしてゲームの最後には、プレイヤーの感情移入が報われることになるだろう。


・<資格>の選択

 物語の中にゲームの操作を取り入れるとどう変化するか。

 以前私は「インタラクティビティに失敗しないコツ(?)」というコラムを書いた。その中で私は、ストーリーの筋道を変えることなく、手段を選択させてはどうかと提案した。例えば仇を倒すという結果はそのままで、決闘するのか、失脚させるのか、無力化してひざまずかせるかという手段を選ばせるというものである。

 今回私は新しいやり方を提案しようと思う。それは物語の中で、主人公の<資格>を選ばせるというものである。
 作者は選択可能なエピソードをいくつも作る。一方読者は主人公にふさわしいと思う選択をすることによって、クライマックスにつながる動機や因縁を主人公に体験させる。
 読者の選択によって、「なぜ主人公は事件の解決者となるのか」という<資格>が変化する。また選択によっては、主人公は複数の<資格>を有することになる。
 読者は通常、感情移入を持つことができてもコントロールはできなかった。感情移入を選択することができる環境を作り出すことは新しい楽しみ方として、読者からも支持されるのではないかと私は期待している。


・まとめ

 感情移入の中で<行動><資格>という要素は、密接な関係にある。
 その二つの感情移入が報われると、ファンが生まれやすい。
 またそれらの長所を生かすことによって、物語ゲーム特有の面白さが生まれる。


・終わりの言葉(というか余談)

 小説や映画など、従来の物語では動機がすでに決まっている。
 動機が選択可能になると、基本のストーリーラインが変わらなくても、主人公が同一であるにもかかわらず多様な切り口で物語を楽しむことができる。これは従来の物語にはない、物語ゲーム特有の表現方法である。
 感情移入は物語とゲームに限ったことではない。
 これから独特の感情移入を持つメディアと物語、あるいはゲームが融合して、新しいメディアが誕生する可能性は大いにある。それが流通されうるものであれば、現在不景気の日本に新たな産業が誕生するかもしれない。

(2002年9月21日)

・追記
 このコラムを書いてからまたいくつか、感情移入の要素を発見したので記す。

<同情>
 ・遠くない未来に、ひどい目にあうことがわかっていること。
  避けたいことからなかなか逃れられない人物。
  努力してもなかなか報われないなど。
  因果応報の法則から、損をしている人を見て芽生える感情。

<母性>
 ・<設定>の一種。
  けなげさ・不器用さなどから生じる摩擦から、守ってあげたいと思わせる感情。

  抱きしめたくなるデザインの一種。物語やゲームに関係のない感情である。

<動機>
 ・動機のない人物に感情移入は芽生えない。
  (松本清張やハリウッド流の脚本より)

(2002年11月22日)

<身代わり>
 ・読者や観客にとって無縁でない出来事に、主人公が直面している。
  主人公の立場になって考えたり、主人公の行動から読者・観客が学習する。

(2002年12月5日)


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