Sep. 03, 2003

読書めも 2003年4月・5月・6月

◇4月の読書◇

「恋する家族」三田誠広 読売新聞社1600
1997-98年新聞連載されたファミリー・コメディ。就職活動中の娘、水上亜紀を中心にその友人達、家族、
それぞれの抱える不安やもやもやみたいなものが描かれるが、この家族、あまりにボーっと浮世離れしてるような・・

「マドンナ」奥田英朗 講談社1400
冴えない部類の中年課長さんが主人公の5編。部下の女性社員に対する秘密の恋心を燃やす課長さん、同期の奔放な課長と
上司に挟まれ四苦八苦する課長さん、営業から総務に異動し革新を志す課長さん、外からきた完璧な女性部長に鬱々とする
課長さん、など。どれも主張が空回りし結局は周囲に屈せざるを得ない課長さん達がユーモラスな目線で描かれており、
こっけいで情けなくすこし哀しいが、その割に後味がよい。「ボス」が好き。

「孫の結婚式」庄野潤三 講談社1700
夫婦の晩年を描くシリーズと併行して発表された短い話や友人、故人の作品紹介、人柄をしのぶ文などを集めたもの。
文末に江國香織さんとの対談があり、江國さんが庄野作品の読者代表でお宅訪問をしてくださっている。

「誘拐の果実」真保裕一 集英社1900
株式譲渡に関する事件の被告人であるバッカスグループ会長の入院する病院の孫娘辻倉恵美(17)が誘拐され
永渕の命が要求される。一方神奈川では大学生工藤巧(19)が誘拐され、身代金にバッカスグループの株が要求される。
両誘拐事件は要求が未達成のまま人質が救出されるが、2人の偽装誘拐の可能性が浮上。世間を騒がせ、警察、マスコミを
躍らせた恐るべき‘悪魔のゲーム’として終結した事件の裏にあるものは?後味良く締めくくるところが真保さんらしい。
個人的には良彰の医師として、家庭人としての葛藤部分に一番共鳴できた。

「半落ち」横山秀夫 講談社1700 
いやー参った。さすがベストセラーになるだけのことはある。
痴呆の妻を殺害したと自首したのは温厚な人柄で知られる現役本部教養課梶警部。犯行後2日間の空白の理由は?
謎を追う捜査一課警視、検事、新聞記者、弁護士、裁判官、そして警務官。それぞれが抱える問題と梶への思いが交錯し、
立場を超え梶を見守る。そしてラストの種明かし。硬くて地味な刑事ものに、このエンディングを用意するなんて、泣かせる。

「QED式の密室」高田嵩史 講談社ノベルス840 QEDシリーズ5
昨年あたり流行った陰陽師にまつわる数々の逸話に全く新しい角度からの解釈が。目からウロコの斬新さ。

◎今月のイチオシ
「麦ふみクーツェ」いしいしんじ 理論社1800
港町の吹奏楽団の打楽器奏者として育ったネコ。彼だけに聞こえる麦ふみの音に導かれ、音楽の世界に踏み出す。
高原の音楽学校、自然の奏でる音楽にあふれる盲学校、そして、バイオリン奏者の下での奇妙な暮らし。
周囲に馴染むことなく、へんてこな人々に囲まれて、いつも世間からはみ出してしまうのっぽのネコ。
そんな彼が迎え入れられる世界は?音楽の楽しさと心踊る冒険が詰まった極上の物語。

「FINE DAYS」本多孝好 祥伝社1600
やばい、最新刊を読んでしまったので、しばらく新作が読めない!既刊「missing」「alone together」「MOMENT」。
どれも本当は背筋が寒くなるようなコワイ設定にも関わらず、本多さんの一定の距離を保ったクールな描き方で、
独特の透明感と愛惜漂う美しい物語に仕上がる。幻想的な物語のうたい文句は“ラブ・ストーリー”、中編4作。

◇5月の読書◇

◎今月の文句無しのイチオシ♪
「プラネタリウムのふたご」いしいしんじ 講談社1900
三方を工場に北を森に囲まれた村の、プラネタリウムに捨てられ投影技師に育てられたふたご。テンペルは旅の
魔術師テオ一座の元天才手品師に、タットルは村の郵便局員、そして投影技師になる。
前「麦ふみクーツエ」と同様に、ゆっくりと読みたい本。この本には、時間をかけてしか体得できない(登場人物らが
長い時間の果てに体感した)大切な事、沢山の出来事が詰まっている。読み終わると、他愛ない小さな出来事、
エピソード一つ一つが、そしてへんてこな登場人物達が、かけがえない大切なものになって、心に住み着いている。
手品もプラネタリウムもひとを幸福な気分にさせるための嘘、この世をほんのわずか明るくするまやかしの技。
だまされることが下手になってしまった大人の心を軽くする、人とつながることの喜びにあふれた物語

「桜宵」バー香菜里屋のシリーズ2 北森鴻 講談社1600
三軒茶屋のビアバー香菜里屋の推理好きなお客らの話を解くマスター工藤のシリーズ5話。
前作はも少し軽い印象だったが、今回は特にゆがんだ感情が動機の、後味の悪い話の印象が読後に残ってしまう。

「QED 竹取物語」QEDシリーズの6で最新刊 高田嵩史 講談社ノベルス840 
笹姫様の手毬歌が残る多摩川上流、斐田村、織部村にかかる橋と事故が多発するカーブで連続して起こる事件。
祟は、竹取物語を紀貫之によって語られ、貴族らに弄ばれた身分の低い女性たち、そしてタタラの人々に対する
畏れをこめた鎮魂の物語と解く。
形だけが残った言い伝えにしばられて、2つの村を越え結ばれる男女を裂こうとした者の姿が浮かび上がる。

「キノの旅 −the Beautihul World−」時雨沢恵一、イラスト:黒星紅白 メディアワークス発行電撃文庫530
“旅の本”の人気投票上位で気になっていた本。少年キノがエルメスという名のモトラド(言葉をしゃべるバイク
みたいなもの)に乗り色んな街を旅する話。何せ電撃、アニメチックなイラストなのでお子ちゃま向けっぽいが、
実は皮肉たっぷりの内容。 「キノの旅」HPアドレスは、http://www.kinonotabi.com/

「ルート225」藤野千夜 理論社1500
ある夕方、公園から別の世界(B)に入り込んでしまった中学生姉弟。Aの世界に戻ったはずが、ちょっと違うA’世界に。
感激するのは、SF的お約束を軽々と無視した予想外の結末。2人は両親のいないA’の世界を、ごくあたりまえに
受け入れてしまう、あっけらかんとしたしぶとさで。自分の居場所がないなんてひきこもるより、なんと健全な軽さ!

「銭湯の女神」星野博美 文芸春秋1524
著者は写真家。(橋口譲二氏に師事)日ごろ思ったこと、香港、ファミレス、銭湯、写真など日常を綴るエッセイ。
組織からはみ出してると言いつつ、私は何が出来ない・何はしない、と少しも自由そうでなく、好きなことしかしない、
と言いつつ著者の本当に好きなことが見えてこないのが悲しい。望んではみ出すなら、もっと軽々と楽しげにして欲しい。

「骨董屋征次郎手控」火坂雅志 実業之日本社1800
幕末、京は夢見坂で骨董屋「遊壺堂」を営む征次郎、若くして六道闇ノ市に参加する目利き。実は加賀金沢藩御買物役
柚木家の跡取だったが、父は猪熊玉堂に騙され切腹。その敵、猪熊玉堂との騙し合い、藩ぐるみの贋作作成に巻き込まれた
幼なじみのあだ討ち活劇に味のある脇役、激動の幕末情勢を背景にした展開の上手さが時代小説家面目躍如。
不変の美に惹かれてしまう性を抱えた征次郎の行く末が気になるところ。

「枯れ蔵」永井するみ 新潮文庫667
夕方の長野から戻る新幹線で読み始め1日で読了。有機米を使用したレトルト食品プロジェクトのリーダー陶部映美、
元恋人、現富山の農業試験所研究員五本木を中心に、農薬の効かない害虫の突然の発生と蔓延に対する消費者、農薬開発者、
指導者、一徹な無農薬栽培者らそれぞれの奮闘。併行し、韓国ツアーコンダクトを最後に自殺した友人の死の真相を追う。
偶然を重ねすぎる傾向がありムリ無理な部分もあるが、発端から息をつかせず畳み掛ける展開はパワー満点、迫力十分。

「エジンバラのタイノシン」長嶋有 文芸春秋1333
「猛スピードで母は」で芥川賞受賞した著者の中編集。淡々とした語りが、心地よく味わいがある。
世間的には少し情けなく大人になりきれない男女達が主人公だが、うらぶれた感じはなく、あぁこういうのってありかも。
高野文子さん装画のボンヤリした感じがぴったり。  公式HP:http://www.n-yu.com/

「庭の小さなばら」庄野潤三 講談社1700
生田の丘に住む夫婦の晩年を描くシリーズ8。いつになく賑やか。長女との日光旅行、「八十歳おめでとうの会」
安岡章太郎氏の作品完成祝い、観劇(宝塚、蘭このみ、なつめちゃん)も会を重ね展示会も多数。壁の塗装と門の取り替え、
図書室で長く使用されてきたベッドがソファーに買い換えられ、芸術院のビデオ撮りがある。良く知った家を見ているよう。
長く続く事があり、過ぎて行く事、始まる事があり、逝く人がいて、新たな交流が始まり、なかなかに素敵な老年です。

◇6月の読書◇

「アムステルダムの犬」いしいしんじ 講談社971
アングラ文化に浸るためアムステルダムで犬のパトラッシュと似顔絵描きをした数日間を綴った絵&書道日記。
いしいさんのサービス精神旺盛なエンターテインメントはこういう素地からきているのかと妙に納得。

「雲南の妻」村田喜代子 講談社1700
当たり前の日常から幻想的世界へいざなう村田さんの筆はまさに魔法。ありふれた主婦が貿易会社勤務の夫に従い
中国、雲南で暮した日々。少数民族の有能な通訳、英姫(インジ)。少数民族に残る風習に従い、女同士の結婚をする。
夫と妻とその妻の奇妙な生活。奇妙に熱を帯びた、肉体関係よりももっと親密な濃厚な友愛が夢心地に誘う。

「葉と葉子のふたりごと」岸本葉子+渡辺葉 清流出版1200
OL、中国留学を経てエッセイストの岸本さんとニューヨーク在住の女優、ダンサーにして翻訳家の渡辺葉さんの
生き方に関する往復書簡。2人が馴れ合わず、適度な距離感、礼節をもってやり取りしているのがいい。二人は
時代の象徴でもあった女性の自分探しを身をもって体験した方でもあり、その時期をたいそう真面目に過ごした印象。
葉さんは椎名さんの著作に出るのを断固拒否した、という逸話から、知る前から興味を持っていた人。

「パリ左岸のピアノ工房」T・E・カーハート 村松潔訳 新潮社Crest Books2000
パリに住み着いたジャ−ナリストの「わたし」が通りで見つけた「デフォルジュ・ピアノ店」。その扉の奥、
光の降り注ぐアトリエ。一端受け入れられるとピアノ職人、美しい数々の新旧のピアノ、引き手、教師、子供たち
との出会い、愛しい音楽との再会が待っていた。ピアノを愛するアメリカ人著者の楽しいノンフィクション。

「ファンタジスタ」星野智幸 集英社1700
埼玉辺りの森で暮すホームレス、生きないことを選択した学生達、故国を追われるかのごとく海外に渡った移民の
エピソードが融合した幻想的物語と、フットボールが共通言語のようになった近未来のお話など。
共に幻想的を超えた前衛的な物語で私にはなんとも表現できない・・・今後このような小説が増えていくのだろうか?

「彫刻家の娘」トーベ・ヤンソン、冨原眞弓訳 講談社1262

友達のお勧め本。ムーミンの生みの親ヤンソンさんが、父親の死後、こども時代の思い出記した自伝的小説。
ヘルシンキで、そして夏、島での圧倒的な自然、人気のない湾や一人抜け出した夜の流氷、海、嵐などと、彼女自身が
作り出し現実と渾然となった人物や怪物たちとの暮らしが語られる。彼女の創作が何に支えられていたかの一端を知る。

「風変わりな魚たちへの挽歌」稲葉真弓 河出書房新社1800
そういえば、稲葉さんは初めから、湿度を感じる作家さんだった。本作は1980年代に発表された中編3つ+書き下ろし。
すべてが停滞したような故郷の街で、そこから出ることだけを考えた女と、そこでしか生きられない男。
書き下ろし作品では1980年代の3作にあった閉塞感、やるせなさが消え、主人公は変わって行くものも変わらないものも、
それでいいかなと思えるようになっているのが印象的。年を経るごとに軽々と活きていけるといいなぁ。

「トトの世界」(コミック全4巻) さそうあきら 双葉社各533
いやー、参りました。安易に注文した本でしたが、どえらく重たい話でした。猟奇殺人の犯人の家で、犬といっしょに
大きくなった犬男。かれが唯一好意をしめした高校生まこと。謎の集団に命を狙われながらも、まこと、その両親友人らに
助けられ、言葉を獲得し、人間らしくなっていくトト。しかし、彼の出生にまつわる謎を追う記者が突き止めた驚愕の真実。
トトが背負わされた、底のない悪意。天才書家の浮浪者に、人をひきつける魔香とカリスマ政治家、彫刻など
魅力的なモチーフを散りばめ味覚、触覚、知覚、聴覚、嗅覚と五感と言葉で人間の存在に迫るか。


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