<2000年2月19日>

台北紀行 〜 故宮博物院(6) 〜

前略 X様

上海虹橋空港でイミグレーションを抜けて出発待ちフロアに出ると、そこには大きな土産物店が有って「いかにも中国」という感じの土産物が所狭しと並べられている。そしてここには台湾や香港の空港では滅多に見られない土産物が大量に置いてある。
それは意外なことに、書画、掛け軸の類である。

中国のお土産と言えば玉器(翡翠の置物など)、茶と並んでベスト3に入るのではないかと思われる書画、掛け軸の類が、資本主義では遥かに先を行く台湾や香港ではあまり空港で目に付かず、大陸中国の空港でばかり目に付くのは、要するに香港や台湾を訪れる人はそんなものを買って帰らないからであろう。

どうしてそんなものを持ち帰らないかというと、思うに、そんな所にお土産として売っている書画、掛け軸は、単なるカラー・コピーをもっともらしく飾ってあるに決まっているからだ。少しは名の有る書家や画家が書いたオリジナルをそんな所に一万円やそこらで売っているわけがない。物価が高い台湾や香港でなら、日本人も容易にその事に気付くはずだ。

しかし中国で買い物をするとなると、どうも事情が異なるらしい。
確かに、大陸中国の物価は非常に安い。きちんとしたホテルの宿泊料金は別として、日本企業の工場が有るような郊外、田舎の町なら、物価は日本の感覚の5分の1から10分の1である。それでも僕が最初に中国に来た6年程前に比べれば随分インフレが進んだものだと感じる。

僕が初めて中国に来た時は、FEC(外貨兌換券。6年前まで中国では人民幣とFECの二種類の貨幣が有り、物価は全て二重価格だった。)の100元(当時のレートで1500円くらい)が1万円札以上の価値を持つように見えたものだったが、今ではカラオケで小姐にチップで100元しか渡さないと「もっと寄越せ」と言われる。もっと「黄色い」小姐なら、今、一晩1000元では足りないかも知れない。

話がそれたが、それ故に中国で1000元(現在のレートで13000円くらい)の値札が付けられている書画ならば、中途半端に長く中国にいる人は、ものすごく高い芸術品と錯覚してしまう事があるのだ。何しろ現在でも中国の人民幣の最高額紙幣は100元(毛沢東の顔が印刷してある赤い紙幣)なのである。

1000元と言えば、中国では日本での10万円に匹敵する価値がある。そう考えてしまう日本人の中には、空港で売られているこれくらいの値段の掛け軸なら、きっと買っても損は無いだろうと思う人もいるのだろう。

実際、僕もこれまで何度か上海に行った時、1度ならず買おうかなと思ったものだが、その度に冷静に考え直して何とか買わずに済んでいる。
ちなみに何を買おうかと思ったかというと、中国の天女の絵である。僕は日本の美人画よりも中国の天女の絵の方が色っぽくて好きなのだった。だからコピーでも良いから気に入った絵があると、ついつい一幅欲しいなぁと思ってしまうのだが、その度に女房の顔を思い出して買わないようにしている。

しかし中国で500元以上のお金を出して書画、掛け軸を買うのなら、鑑定書でも付いていない限り、素人は目の前で書かれたもの以外買ってはいけない。コピーかどうかは、最近の印刷技術の進歩でちょっと見ただけでは見分けるのがなかなか難しいので、これは複製品では無さそうだから大丈夫と思って買うと、痛い目に遭うこと請け合いである。

特に桂林など「山水画の名所」にある観光地の友諠商店に売っている書画、掛け軸の値段はムチャクチャらしい。その辺の自由市場なら300元くらいで買えるコピーの掛け軸が、5000元とかの値段で平気で売られているという。僕が何故それを見て、コピーであるとすぐに判るかというと、その意匠が中国のどこに行っても土産物屋で見ることができる事を知っているからだ。

おそらく中国のどこかで大量生産しているのだろうが、それならば原価は掛け軸としての装飾込みで100元もしないはずだ。当たり前だが、書画を購うには、絵であれば様々な意匠を知っている事と、文章であれば何が書かれているかを知る事が基本中の基本である。自分がよくわからないものを「中国のものだから」と言って、中国人が聞いたら笑いが止まらないような値段で買うのはどうかと思う。

でも、またそれを喜んで買う日本人がいるのだ。僕の知り合いの中国人で桂林の観光ガイドのアルバイトをした事がある日本語の上手な人が言っていたが、本当に日本人の年寄り(もちろん中国大好き)がそういう信じられない値段で、ニセの掛け軸を喜んで買っていくそうだ。
山水画のコピーならまだしも、中国人なら誰でも知っている李白の七言絶句がただ書いてあるだけで、落款も何も無い下手な書の、しかもコピーを何万円も出して買うとは、お人好しにも程がある。
日本人が中国人にナメられるわけである。

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今日は台北故宮博物院の中の土産物店で僕たちが何を買ったかという話を書こうかと思っていたのだが、その前置きが長くなりすぎてしまった。続きはまた明日書こう。

早々

 

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