<2000年7月23日>

トラブル対応   

略 X様

今日の朝8時過ぎ、女房を一足先に帰国させる為に空港に行ったら、JAL日本航空のチェックイン・カウンターが異常に混んでいた。夏休みだからかな?と最初思った。この時期は日本からの観光客が多い上に、香港に家族で住んでいる人は妻子だけ帰国させるというパターンが多い。夏休みは香港に住む日本人男性が寂しがる季節である。

ところが単に客が多くて混んでいたワケではなかった。チェックイン・カウンターのモニターの下に「電脳故障」と書かれた張り紙が下がっている。どうもチェックイン・システムが故障したようだ。チェックインの処理そのものを行っていないらしく、列がちっとも動かない。出発ホールで周りを見渡すと、混んでいるのはJALだけらしい。ありゃりゃ、またかよ、って感じだった。この3年くらいの感想だが、JALはチェックインの時のトラブルが多い。

エコノミー・クラスの列に並んでいたら、香港人の係員のおっさんがやって来て英語で「隣のJAAのチェックイン・カウンターに並んで下さい。」と言った。香港空港のチェックイン・カウンターの配列では、エリアHにJALとユナイテッドが向かい合っているのだが、JALのチェックインを待つ人々が多すぎて、列の最後尾がユナイテッドのカウンターまで10メートルの所に迫っていた。JAL成田行きは午前中に2便あるので、これから更にチェックイン客が増え続ける。そこで列を少しでも短くしようとして、おっさんは短い列に並べと言ったのだ。

それでJAAのカウンターの前に移動すると、旅行代理店の日本人らしい人がやって来て日本語で「この列でもチェックインできますが、JAAなので一番後回しにされます。JALのエコノミーのカウンターに並んで下さい。」と自分の担当の客らしい人達に言って回っていた。僕は女房と相談して、もう一度JALのエコノミーの列に列び直した。

そうしたら今度は別の香港人の係員のおっさんがやって来て、「JAAのカウンターの前にならんで下さい。」とまた英語で言った。僕の経験によれば、チェックインでトラブルが有った時は客のゴネ得である。だからいい加減頭に来ていた僕はここぞとばかりに周囲を気にせず大声の広東語で叱りつける。

「さっきこっちの列に並べと言われたんだ!一体どっちの言っている事が正しいんだ?ふざけるな!」

係員のおっさんは少し首をかしげ、「そーりぃ、そーりぃ」と言いながら去っていった。

それにしてもJALの日本人地上員からの説明が全くないのはどうした事だ、と思っていたら、JALの胸証を付けたいかにもベテランそうな日本人のおばちゃんがやって来て、日本人と見るや状況を説明して一々ペコペコと頭を下げていた。おばちゃんは僕たちの所にもやって来てこう言った。
「コンピューターの故障でチェックインがしばらくできません。復旧の見込みは今の所立っておりません。ご迷惑をお掛けして大変申し訳ありません。」

僕は気になっていた事を質問した。
「まぁトラブルは仕方ないですけど、ちゃんと飛行機に乗れるんですか?置いてけぼり食っちゃうなんて事にはならないでしょうね?」
前にマレーシアで置いてけぼりを食ってひどい目に遭った事がある僕が、こういう時に一番気になるのは、とにかく「乗れるかどうか?」である。

「ええ、それはもちろんです。システムが復旧次第チェックインを再開し、全員の御搭乗を確認した上で出発します。それまでどうかここでお待ち下さい。」

さすが長年客相手の商売をやって来たと見えて、こういう時もそつがない。要点を簡潔に説明した上で、本当に申し訳なさそうにお辞儀をし、客からの質問にもうまく答える。こういう人には簡単に突っ込む事ができない。
僕はおばちゃんに「そうですか。わかりました。」と言った。そして女房に電話をかけるよう指示した。成田に女房の両親が迎えに来てくれる事になっていたからである。

また暫くすると、チェックイン・システムは30分後復旧の見込みです、というアナウンスが流れてきた。その時点から30分後に復旧なら、飛行機には小一時間遅れくらいで乗れるね、と女房が言った。だが僕はまるっきり信用しなかった。
「ついさっきおばちゃんが『復旧の見込みが立っていない』って言ってたろ?こういう時は2、3時間かかるぜ、普通。」

どういうシステムのトラブルか知らないが、まさか日本のサーバーの故障ではあるまい。ハードの故障なら日本との通信系の故障だろう。ソフトの故障なら香港側のトランザクション・エラーである確率が高いと見た。これはプログラムのバグを直した上にデータ整合性のチェックをしなければならないから時間がかかる。いずれにせよ、そんな短い時間に完全復旧できるワケがないと思った。

その予想は完全に当たり、30分経ってもシステムは復旧しなかった。列から離れるわけにもいかず、ヒマなのでカートの上に座り込んで今朝の朝日新聞を読んでいたら、「eメール時評」というコラム欄に矢作俊彦が最近あった日航のトラブルを取り上げて「人間はもともとワガママなのだ。ミスもするし反則もする。その前提に立った劇的に新しい社会システムが、求められているというだけのことなのだ。」と書いてあるのを読んで、状況が状況だけに血圧が上がった。

あのなぁ、雪印も「そごう」もそうやけど、これは社会システムの問題やなくて、単にトラブル対応のまずさの問題とちゃうか?社会システムのせいでトラブル対応がでけへんちゅうんなら、それはもう社会システムとは言えんで。社会システムの構築そのものが必要な段階や。会社や組織の中で働いた事の無い人間は、危機管理の概念すら無いのに公にこういう文章を垂れ流して平気なんやろうけど、それはホンマに困るなぁ。

朝食は空港で飲茶にしようと思って家で食べてこなかった僕は只でさえ腹が減っていたのに、これで血圧が上がって余計に腹が減った。そこで荷物の番を女房に任せて出発ホールの中の売店を物色し、パンと飲み物を買って来てムシャムシャ食った。女房は昨日の晩遅くまで帰国準備をしていて疲れていたのか、食べ物を受け付けず、豆乳だけ飲んでいた。

飲んで食って一息ついたところで、ようやくチェックインが始まった。既に離陸予定時刻を1時間以上過ぎている。ということは、僕たちはここに3時間以上も釘付けになっていたのだ。やれやれ、疲れたわい。そう思いながらチェックインを済ませ、僕は女房をイミグレーションへの入り口まで見送った。
そうしたら、会社の同僚のAさんがいた。やはり奥さんと子供を日本に帰すので見送りに来たらしい。

Aさんは自分で車を運転して空港まで来ていたので、便乗させて貰って家に帰る事にした。ラッキーである。今日もあのクーラーが効き過ぎていて、座席が硬くて狭くてリクライニングも無い尻が痛くなるシティ・バスの二階建てバスに1時間以上乗って帰るのかと思って気分が重かったので、Aさんが「乗せていってあげましょうか?」と言ってくれたのには助かった。

空港から乗用車に乗って、九龍半島までは時速100キロで20分ほどである。その間単調な片側三車線道路なので、僕とAさんはいろいろ話をした。
JALのトラブルと言うのは、最近本当に頻繁に起きる。特にチェックイン系のシステムだが、機体に異常が無いのにどうしてこうオーバー・ブッキングが頻繁に起きるのか、などについて愚痴を言い合った。

JALと言えば、最近スッチーの質もかなり落ちた感じがする。AさんはJALのスッチーの「美女度」が落ちたと言って嘆いていたが、僕は飛行機でそんなものを期待していない。彼女たちはあくまで客室サービスを提供するのが仕事であるから、サービスの質が良ければそれでいいのだ。美人かどうかがサービスに含まれるという人なら別だが、僕はサービスがきちんとしていれば男のパーサーでも別にかまわない。
そこでAさんにこんな話をした。

前に出張から香港に帰ってきた時、ウィングからイミグレーションに向かうトラムの中でJALのスッチー達が日本語で聞くに耐えない客の悪口を話していたのだ。僕が日本人に見えなかったのかも知れないが、それにしても、制服を着ていても飛行機を降りたら自分たちの仕事が終わったと思っているその無神経さに無性に腹が立った。

飛行機というものは、事故が発生した時、また事故を防ぐ為に、乗客は客室乗務員の指示に絶対服従しなければならない。いわば我々乗客は彼女たちに命を預けているのである。だから飛行機の客室乗務員は常に乗客の信頼を勝ち得る努力を怠ってはならないのだ。僕はJALのこんな女どもに命を預けるのは真っ平御免だとこの時激しく思った。

最近JALは人件費削減の為にパート・タイマーみたいな嘱託社員みたいな立場の客室乗務員を多く雇っているそうだが、値段が下がったからと言ってサービスの質が落ちるようではサービスを提供する民間企業としてお終いである。機内食の質などの物質的問題ではない。あくまでサービスの問題だ。

官僚による様々な有形無形の恣意的規制に守られてできた親方日の丸感覚は、ちょっとやそっとでは改善されない。それがチェックインの時のトラブル対応のまずさや、客室乗務員のプロ根性の無さに如実に現れている。チェックイン・システムにトラブルが有ったのなら、まずいつまでに復旧できるかの正確な見通しと、当面の対応策が現場で客に説明する立場の担当者に詳細に通知されていなければ話にならないと思うが、JALはそんな基本的なトラブル対策もできていない。JALの経営者がサービス業の経営者として無能な証拠である。

そう思っているから、僕もトラブル時には傲慢に言いたい放題言ってゴネる。これまでの経験から考えて、JALにはろくなトラブル対応マニュアルが無いだろうと踏んでいるからである。だからゴネ得なのだ。トラブル対応がきちんとできていれば、トラブルが発生しただけでここまで罵倒しない。今回それなりにきちんと対応できていたのは、日本人地上員のベテランのおばちゃん一人だけであった。しかしそういうおばちゃんに頼るだけでは、属人的に過ぎて組織的で適切な対処はできないだろう。

自由競争こそがサービスを向上させ、プロ根性を育てるのだ。だが最近規制が次々と緩和されているにも関わらず、JALは昔にも増してひどくなった。にも関わらず、僕は出張や帰国時にJALを使う事が多い。出張や社内規定に基づいた帰国は、会社が費用を負担するからである。僕が総務担当なら、JALなんか使わないのだが、僕の勤める会社もJALを使う旅行代理店と昔からの付き合いがあるからしょうがないのだろう。

社会システムの問題というのなら、こういう日本人同士の馴れ合いこそが問題だろう。それとトラブル対応や適切な危機管理ができない大企業が、もっと自然に、周囲にあまり迷惑をかけずに淘汰されるような仕組みを考えなければならない。
これは消極的選択だが、自由競争しか思いつかない。

僕はたった3時間イライラさせられただけでここまで考えた。
大げさな話ではある。

早々

 

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