「ただいま・・・」肩の力がガックリと抜けた吏が、扉を重そうに 開く。それにいち早く気づいた湍畝が「お帰りなさい」と言葉を返す。

「その様子だと、例の薬の正体は聞けなかったようですね」
自分の席に座り、机に顎を乗せなだれ込んでいる吏の目の前に、 琥珀色の液体が入ったマグカップがコトリと置かれる。吏がそれを 渋い顔のまま、一口口に含む。

「何や?リーダー。博士にあしらわれたんか?情けないな〜」
どこら辺から聞いていたのか、儘がやれやれというポーズ付きで 横槍を入れてきた。と、その瞬間、儘の体が天井すれすれまでの高さまで浮いた。

「今の俺に冗談は通じん。しばらくそうしてろ」

「リーダー・・・わいが悪かった〜堪忍してや〜〜」 宙で慌てふためく儘。それを見て、「馬鹿・・・」と朔羅が呟く。

「何か〜ご機嫌斜めですねぇ、リーダー」
今までミシンで熱心に作業をしていた葵が、ようやくその手を休め、吏の元へと視線を向ける。どうやら、やっと作品が完成したらしく、手にはレースやフリルのいっぱい付いた服が握られている。

「で、実際何があったの?博士には会えたんでしょ?」と朔羅。

「会えた。会えたが・・・奇妙な先客がいてな・・・」

語りだした吏の周りに、メンバーが集合する。
宙に浮いていた、儘もなんとか輪に入ろうと平泳ぎで前へと、少しずつ宙を泳ぐ。

「奇妙な先客ですか・・・」
「ああ・・・本当に妙な奴だった・・・」

吏はディックのことを思い出し、思わず頭を抱え込む。
そんな吏の様子を見て、よっぽど妙な奴だったんだろうと、一同が納得する。

「なんていう方ですか?」
湍畝が自分の席に座り、手持ちのパソコンをいじくりながら吏に尋ねる。
「確か・・・弟のほうが”立科・ディック・アデルフィア”で、兄の方が”立科・イシュメル・アデルフィア”だったかな」
「兄弟・・・ですか・・・」湍畝の指が軽やかに動く。
「ああ」一同の目が、パソコン画面を映し出す巨大モニターへと 向けられる。

「データには無いようですね」
巨大モニターに「NO DATA」と赤い文字が浮かぶ。

「IFC.Oのデータバンクに載ってないというのは、おかしいですね・・・」
湍畝が再び吏の方へと、視線を戻す。
「ああ・・・気になるな・・・」
「調べますか?」
「ああ。頼む」
「分かりました」

「ところで、その立科って奴、どんな風に妙なん?」

浮かされていることに慣れてしまったのか、儘が空中で胡坐を掻きながら吏に尋ねる。それを見た吏が、指を一つ鳴らす。すると、儘が 空中からすごい勢いで地面へと落ちてきた。
急に落ちたため、儘は受身をとれず思い切り尻餅をつく。

「あ痛たたた・・・何すんねん、リーダー・・・」
「”何すんねん”じゃない。何浮かされ慣れてんだ、お前は。今度違った方法をお前には考えないとだな」
「そなけったいな〜・・・」

電話の呼び出し音が鳴り出したのは、そんな時だった。

「はい。こちら特殊能力部隊・・・はい・・・はい・・・わかりました。・・・どうやら、休暇はここまでだ」電話を切り、吏が重い腰を上げる。
「任務ですか」
「ああ」

「なんや。最近上の連中も人使い、荒くなってるんちゃうか?」
「文句言わない。なんだったら、あんたは来なくてもいいのよ。どうせ足手まといだし」
「なんやて〜?!誰が足手まといや!」
「あら。おサルさんでも”足手まとい”って言葉知ってるの。へぇ〜。以外〜」

「朔羅ちゃん、儘、そろそろやめておいた方がいいよ〜」
葵によって指刺された方向には、今にも噴火寸前の吏の姿があった。


「用意できたか。行くぞ!」
「了解!」

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